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異世界でもふっと婚活  作者: NAGI
第三章 聖領編
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治療院開業しました!

春にはしばし遠いが、聖領では雪解けの季節を迎えた。朝晩はまだ冷えるが、日中はポカポカと暖かい日が続く。

そんなある日、治療院がめでたく開業の日を迎えた。主賓として神殿の巫女である私を迎え(まあ、設立者でもあるのだが)、盛大なセレモニーが開かれた。

テープカットって言うの?、あーゆーのをやらされた。両隣には聖領の副議長(執務面のトップ)や主だった出資者なんかが居並ぶ。ニコニコ顔のおじさん達に囲まれ、私も巫女様スマイルを終始絶やさないように努めた。

セレモニーには楽団の演奏やら、聖領でも選りすぐりの美女達(コンパニオンみたいなもん?)が集められ、花を添える。

「こちらの治療院は、神殿の巫女姫であられらるナツキ様が発案され、聖領議会の支援の元、設立されました。

また、設立にあたって商会の皆様から多大なご支援を頂き…」

云々、司会進行のおじさんによる治療院について説明が続く。

長いんだよねー。病院が開業しただけなのに、一大イベントと化している。治療院の周辺は、患者さんが散歩出来るように広場を設けてあり、そこに出店まで開いている。

肉が焼ける、香ばしい香りがする。お腹空いたな…。

「…こうして開業の日を迎えることが出来たのも、ここにいらっしゃる皆様方のご支援の賜物です!」

まだ、続くの?長いな。

そうした中、広場に居並ぶ関係者や集まった人達の頭上に大きな影がさした。

おや?曇ったのかと空を見上げれば、空中に派手に着飾った騎獣の群れが悠々と飛んでいた。

聖領に騎獣はいれど、あまり目にすることのない一般市民の間から歓声が沸き起こった。

「わあっ!猫ー!」

「本当だ!猫形騎獣だ!」

特に子供達が大盛り上がりだ。

円を描くように飛行する、彼らからフワリフワリと花が舞い落ちてきた。

どうやら騎乗者が花びらを降らせているようだ。

わあっと、またもや歓声が上がる。雪解けを迎えたとは言え、肌寒い、この季節。まだ、通りには花は咲いていない。

ヒラヒラと舞い落ちてきた花を手にとって見れば、どうやら南国の花のようだ。

「南領の新領主様から、花の贈り物だぜ!」

騎獣から身を乗りだし、大声で叫ぶ人物は…。

「クレイ?」

煉獄の…と異名を持つ、聖領における冒険者ギルドマスターであるクレイが仲間とともに南国の花を降らせている。

そして、その仕掛人は、この度めでたくも南領の新領主となったリヒトさんらしい。

「そーら!受けとれー!」

子供達はもちろん、大人達も珍しい花を喜んで拾っている。

「凄い…、パフォーマンスだねえ」

司会の男性は聞いてないらしく、あたふたとしている。

「ど、どうやら、南領の領主様からの贈り物のようで…いやはや」

あ、でも退屈な説明が中断されたのはグッジョブ!!

そこへ新たな一団が現れる。

ウサギ…、いや、兎系獣人達がそれぞれバスケットを提げ、広場の皆に飴を配り出した。

色とりどりのカラフルなキャンディバーだ。

「ええ?くれるの?」

「子供達に東領の領主レキ様からの贈り物ですう」

はふうって!トールじゃん!

何なの、この大勢のうさちゃんずは。

三十人はいるんじゃない?

「あ、ナツキ様ー!」

ポテポテとトールが歩み寄って来る。しっかり、子供達に飴を配りながら。

「はい、どうぞ!ナツキ様には特別に特大サイズですよ!」

いい笑顔で大人の顔程もある飴を渡された。

「あ、ありがとう」

「いいえ!喜んでいただけて、良かったですう」

ピコピコと尾っぽが上下する。

ち、触りたい。

「ところで、あの人達はどこから連れて来たの?こんなにウサちゃん…、兎系獣人ばかり、よく集められたね?」

「ああ!みんな、私の一族ですよ」

は、はああ?

「僕の兄弟や従兄弟達です」

そう言えば、兎は多産だったね。

「このためにわざわざ?」

「はい!お祝いを贈りたいが何がいいのかと悩まれていたレキ様に叔父上が、かわいい贈り物にしてはと提案されたそうです。

色々な案が出たそうですが、最終的に獣人を集めて、彼らから東領でも人気の飴を配っては?と言うことになったそうです。

ナツキ様は兎系獣人がことの他、お好きだと私が言っていたのを覚えていたらしくて」

いや、好きだけどね?あんた、変な風に言ってないでしょうね?知らず知らず、ジト目になる。

「ウチは聖領とも近いですし。すぐに人数も集められますからね。そうした手配を叔父上がお祖父様に頼んだそうです」

ね!嬉しいですよね!って全開の笑顔で聞かれて、誰が否と答えられる?

へえ、そんな趣味がって言う、周囲の視線が痛い。

トール、あんた…。嬉しいけどさ。もっと、オブラートに包んで欲しかった。

上からも下(地上)からも、東と南の領主からの贈り物に市民の皆さんは大喜びだ。

「ここ、病院だよね?テーマパークとかじゃないよね?」

わいわい、ガヤガヤと浮かれて、騒ぎまくる人々で治療院の周辺は夕方近くまでひしめき合っていたと言う。

私は精神的に疲れたので、早めに帰ることにしたので又聞きだが。

いやまあ、皆、喜んでくれたようだし。まあ、いいか。

一夜明け、周辺の騒ぎは一段落していた。有志のボランティアの方々で周囲は掃き清められ、治療院本来の落ち着いた雰囲気を取り戻す。病院や怪我を治療するための病院だからね。どんちゃん騒ぎは必要ない。

本日から実際の診療を開始する。実際に病気の人もいれば、物見高い見物がてらの人達もいて(この人達は丁重にお引き取りいただいた)、まずまずの滑り出しのようだ。

一応、責任者として様子を見にきた私に気軽に声をかけてきた人物がいた。

「お!おはようさんっす!」

軽いな…。警備を担当するのは、冒険者ギルドの若手達だ。

「おはようございます、でしょ?」

「あ、そっか。おはようございます!」

てへっと頭に手をやりながら、挨拶をし直したのは駆け出しの冒険者だ。いわゆるぺーぺー。

一人で冒険者はやれないし、パーティメンバーも集まらない、または足りない若手達。

そんな彼らに職を与えたのだ。警護を生業にする傭兵は需要が別にあるし、獣人も利用するのだ。腕っぷしに自信がある冒険者が警備員となるのはうってつけだろう。

「あなた達の手に余るような人はいた?」

「全っ然すー。病気でもないのに見物しにきた輩を追い出す程度っすね」

ふうん。暇な人がいるものだ。

「まあ、頑張って。あと、口の聞き方!セルマさんに言いつけるわよ?」

「そ、それだけはご勘弁を〜」

彼らを採用するにあたって、一通りマナーと言うか、礼儀作法を指南したのは職業訓練所所長であるセルマさんだ。

正式な仕事ではない。ボランティアである。ほんの短い研修にも関わらず、彼らから鬼と恐れられている…らしい。

「私だからいいけど、お偉いさんの中にはうるさい人もいるからね。気を付けなさいよ」

「はいっすー!」

いや、だから…。もう一回、研修をやり直した方がいいのかも?

要、懸案だね。

「あなた相手だから、なおのこと悪いのですよ?」

おっとー、伏兵が。アリーサがお冠のようだ。

「まあ、いいじゃない。私はギルドの雰囲気、好きだよ?」

「まったく、ナツキ様ときたら」

「ギニャ!」

まるで相づちをうつかのように、アウルムが鳴いた。

冬の間、さんざん教育された結果、アウルムも外歩きに同行が許されるようになった。

ただし、首には暴走防止の首輪が巻かれている。これは何かの拍子に騎獣が暴走した場合、即、首を絞めることで動きを止めることが出来ると言うものだ。

もちろん、安全面には考慮してある。柔道で云うところの、締めて落とすと言う感じだろうか。

アウルムも一、二度落とされると、学習したようで問題行動を起こさなくなった。きちんと合格点がもらえたら、外してもらえる。頑張れ!

「どーう?問題ない?」

薬師が詰める部署へと顔を出す。

「あ、おはようございます!」

こちらはキチンとしているね。若手でも薬師を志す人達だ。人の命や健康を預かるという点では、医者と変わりはない。

「まだ、それほど患者は来ませんから、問題ないですよ」

仏頂面のソールが返答を返す。

「なによ、その顔。問題ありまくりじゃない?」

「あー…、これは」

「所長の仏頂面は患者さんに対してじゃないですよ」

ふん?どう言うこと?

「医療院と研究所。つまり、我々薬師との連携が思った以上に難しくて」

元々、レーヴェンハルトでは治癒魔法使いである医者は医者として、薬師は薬師として独立した関係である。もちろん、協力し合うことは多々ある。

「患者一人とってみても、その後の治療の方針に違いがあるって言うか。難しくて」

ここでは治療費が払えない貧しい患者も平等に診察する。そうした患者に医者の治療後、薬師がさらに手をかける必要はない…、と言うのが医者の大半らしい。

治してもらったのだから、あとは自分で健康管理しなさいって、そう言うことらしい。

彼らに他意はない。治療院の趣旨に賛同した医者以外、幾ら医者としての腕があろうとも断ったからだ。

この治療院の根幹は、玄鳥の一族の無償の精神にある。いや、そうしていきたいと思っている。

「うーん。治療はお医者さんの領分だけど、薬師だってそうだよねー」

薬師は看護士としての一面もあるので、患者さんにより寄りそう立場にある。

ここでもすりあわせは必要か。しかし、治療院は始まったばかりである。ゆっくりと双方が歩み寄れれば、それに越したことはない。

「焦らずにいこうよ」

「は…、そうですね」

ソールの眉間のシワが少し緩んだ。ソールは薬師らの責任者で指導者で、研究所の所長の肩書もある。

色んな肩書のある私同様、大変なのだ。

「仕事が終わったら、トールに甘えたらいいよ」

「なっ!」

真っ赤になった。

新婚ホヤホヤでもあるまいし、初だなあとニマニマしていると、

「あなたも早く、番となる方を見つけられることですね!」

そう言って、反撃された。

かわいくない。かわいくないよー!


その日の午後、治療院の状況について報告がてら、ヒルダさんの執務室に顔を出したら、とんでもないことを耳にした。

「あら、ふふふ。昨日は恋の鞘当てで大変だったそうですわね?」

はあ?何のことですか?

「まあ、とぼけて!東と南の領主からの贈り物合戦があったそうじゃありませんの!」

あー、あれね。

「治療院開設祝いですよね?それが何で恋の鞘当てなんですか?」

私は心底、不思議がる。

「え?冗談ですわよね?」

椅子から腰を浮かせ、マジマジと見つめられる。

「?」

とりあえず、はてなマークを顔全体に浮かべて見せた。

「なるほと…。そこからですか」

ヒルダさんが額に手をあてた。

一人で納得しないで説明してください!

そこでヒルダさんが側近達を下がらせた。

「いいですか?今回、南領からは南国に咲く貴重な花を、東領からは特産品の飴を無償で提供していただきました」

ふんふん。ありがたいことです。

「何故だと思いますか?」

「えーと。親交のある神殿の巫女が新しい事業を起こした、そのお祝い…」

「違います!」

え?違うの?

「全く違う訳ではないですけど、根本からずれています。お祝いをと言う気持ちはもちろん、両人ともありますでしょう」

だよね、だよね?

「けれど、今回のそれはお二人による、自分はこれだけのことが出来ますよと言う、アピールなのです」

アピール?はて?

「南国の花の輸送に幾らかかるとお思い?しかも、聖領の冒険者を雇い、往復させる費用も全て負担しているのですよ?」

そう言えば、そうだ。花を降らせたのは、クレイさん達冒険者ギルドの面々だ。

「理解出来たようですね」

はい。理解しました。

「同様に飴一つにどれだけかかるか、ご存知ですわよね?」

「えーと、砂糖は貴重だから、結構な金額ですよね?」

飴玉一つでも平民には高価な代物だ。子供達が大喜びしたのも頷ける。

キャンディバーなんて、見たことなかったんじゃないかな?私には超特大サイズだったし。

「トールの親族とは言え、東領からここまでの道のりを移動してきたのです。かなりの出費でしょう」

南国の花の受け渡しは南領との境界線付近で行われ、軽いためそのまま騎獣で運んだとのこと。

しかし、飴細工はそうはいかない。振動により壊れたりすることも考えて、慎重に運ぶ必要がある。

三十人近い獣人と飴の輸送に馬車が何十台も用意されたそうだ。

「これだけ派手なパフォーマンスとそれに関わるコストを用意するだけの財力、権力とも言い換えられますが、その両方を聖領の民に見せつけたのです。

一体、なんのためでしょうね?」

顎の下に両手を組んで、上目使いにこちらを見上げる。

「そ、それはそのう。何でですかね?」

「あなたへのアピール、即ち、求婚が目的に決まっているではありませんか!」

ええ!マジですか?




















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