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異世界でもふっと婚活  作者: NAGI
第三章 聖領編
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心配かけてごめんなさい

聖領騎士団は、この世界で最強を誇る。そして、その騎士団長ともなれば、言わずもがな。

そんな人にわざわざお出でいただいた挙げ句、何でもありませんでした〜なんて…、とてもじゃないけど、私からは言えない。

それなのにヴァンもカイルも膝をついたまま、地面を見つめ、決してこちらを見ようとはしない。

「…それで、どう言うことなのでしょうか?」

三十センチ以上はゆうに背が高い相手から見下ろされ、私は内心、ひいいと叫ぶ。

「おいおい、こんな嬢ちゃんをオッサンが驚かすもんじゃないぜ?」

「…クレイ。お前が口を挟むことではない」

苦虫を噛み潰したような表情でクレイさんを睨み付ける。

「非公式だが、今回は俺も当事者だ。口出しする権利がある」

騎士団長とクレイさんが真正面から対峙し合う。二人とも同じくらい、上背がありがっしりしているので並ぶとまるで大きな壁が出来たようだ。そんな二人の間に私は否応なく、挟まれた格好である。

誰か助けて〜。

「あの、あの」

私はなけなしの勇気を振り絞る。

「何ですか?」

「ああん?どうした、嬢ちゃん?」

二人して上から覗き込むのはやめて!

「これには色々と事情がありまして…。詳しいお話は場所を変えてさせてもらいたいのですが…。

それに洞窟内に残っている仲間を呼び戻さないといけないし」

「ふむ。そうですか。おい」

「はっ!」

騎士団の従兵だろうか、若い人が駆け寄って来た。

「洞窟内にいる者を呼び戻すよう、伝えろ」

「了解しました」

「それなら、私の部下に命じて下さい。ここのことはよく理解していますので」

カイルがそう進言する。

「そうだな。では、そのように」

「はっ」

たたっと駆けて行く後ろ姿を騎士団長が柔らかな視線で追っている。

あれ?知り合いなのかな?

「さて、それではお聞かせ願えますか?」

ああああ!私にもほんの少しでいいから、優しさプリーズ!

場所を変え、ここは私の天幕の中だ。事情を知る二人にも同席してもらった。クレイさんはさっさと退場したが。まあ、彼は部外者なので仕方ない。けど、二人は別だ。

ふふ。逃げようとしたって逃がさないわよ?

「…なるほど。湖水竜と好を通じたと?」

そうなんですよ〜、仲良くなっちゃいました!

「これが永珠の実です!」

ドドーンと伝説級の薬草を披露する。

「なんと…、これがスーシア様の…」

生粋の守護騎士の家系に生まれた騎士団長だもの。レーヴェナータのお母上も、もちろん崇拝している。

「まるで宝石ですな」

渋い二枚目顔で感嘆の息を吐く。

「分かりました。ヒルダ様にはご無事であったと早速報告いたします。あなた様もご一緒に帰還されますか?」

精鋭を一個師団率いて来てくれた騎士団長には丁重にお断り申し上げた。

「いえ。こちらで少々やり残したこともありますし、騎士団長はお先にどうぞ」

「そうですか…。では、兵を率いて戻らせていただきます」

どうぞ、どうぞ!こんな所まで来てくれただけでもう十分です。ホント、これ以上生き恥はかきたくありませんので。

騎士団長が席を立つと、カイルとヴァンの二人がさっと敬礼した。

「気を抜かず、最後まで無事に神殿までお連れ申し上げろ」

「「はっ!」」

直立不動だ。この二人でも騎士団長は怖いんだね。

「ああ。それから、巫女様は今度から私のことはセルゲイとお呼び下さい」

天幕を出る前に立ち止まると、そう私に告げてきた。

「えーと。分かりました。わざわざ来てくれてありがとう。セルゲイ」

そう言うと、ふっと唇の端を吊り上げ、去って行く。

はわわわ!格好いい!騎士団長ってば、寡黙でしかめっ面なので怖いイメージしかなかったが、渋い美中年なのだ。

ときめく!ときめくよー!

密かにドキドキしていると視線を感じた。

ヴァンのこの上なく不機嫌そうな目と、カイルのどこか面白がっている目だ。

な、何よ。あんた達、変な目で見ないでよね!私にはトキメキ成分が不足しているんだから、これくらいいいじゃない!


案の定、永珠の実を見たソールは狂喜乱舞し、挙げ句の果ては鼻血を大量に吹き出してぶっ倒れた。

つくづく残念な美人さんだね。まあ、旦那に手厚く介抱されているようだから、放っておこう。

さて、それよりも双子とお父さんの感動の再会だ。三年ぶり?らしい。もはや死んだものと思っていた父親が生きていたのだ。きっと涙の再会となるだろう。

え?ちょっと待って。あなた達、何で魔法で攻撃しているの?

火球や氷の矢って、当たったら死ぬよ?

「も〜。三年も帰って来ないってどゆこと〜」

「どゆこと〜」

笑顔で攻撃魔法を繰り出している。

「ごめん!こめんよ〜!これには色々と訳があって〜」

必死に子供達からの攻撃から逃げ回っている。

あ、しっぽに火が…。

「わあああ!僕の大事なしっぽがー!!!」

「あはは、みっともない〜」

「あはは、同意〜」

誰か、助けてあげて!あ、タルボさんが救助に向かった模様。

焼け焦げた尾を擦りながら、イサークが子供達に謝った。

「本当にごめんよ。駄目なお父さんだよね」

尾の先が焼け焦げて黒く変色しているのが、笑っちゃいけないのに笑える。クク。

「これからはなるべく、一緒にいるからね。許して下さい」

と言って土下座した。

対する双子達は明後日の方角を向いている。

「こら!お前ら、寂しかったのは分からんでもないが、いい加減にしろ!」

クレイさんが、ぐわしっと双子の頭を掴んでイサークの方へと向ける。

「長いこと留守にして悪かった」

大きな体で上目遣いに子供達を伺う。

「…う」

「うわー!」

双子が父親へと飛び付いた。

「うん、うん。ごめん、ごめんよ」

父親の首に抱きついて、わんわんと泣きじゃくる。

やっぱり、寂しかったんだね。良かった、良かった。一時はとんだ再会となったと思ったが。

「まあ、これくらいで済んで良かったな!けど、嫁さんはこうはいかないぜ?」

「だなあ。あいつ、旦那が帰った来たらギッタギタにしてやるって飲む度に言ってるもんな〜」

大人二人の言葉を背に受け、イサークの背中がびくっとなった。

「あ、あの〜。僕、別の採集に行って来ようかな〜」

「駄目〜!」

「駄目なの〜」

双子にがっちりとホールドされる。

「一緒に帰るの〜!」

「離さない〜」

かわいい子供達にしがみつかれ、逃亡は阻止された。

「…僕、命があるかしら」

ボソッと呟くのが聞こえたが、頑張って!夫婦のことは夫婦で解決してね!

洞窟内に残っていた留守番組と合流し、私達は帰途につく。戦利品は湖水竜との出会いと永珠の実だ。

「おい、本当にいいのか?」

幾つかの永珠の実をクレイさんに分けてあげると、ものすごく恐縮されてしまった。

「ギルドでも研究してもらえれば、より多く活用できるんじゃない?投資だよ」

永珠の実一つで一財産と言われるくらいの貴重な薬草だ。けれど、クレイさん達が悪用したり、私利私欲で用いたりするはすがない。

「今度出来る治療院の附属機関に研究所を設ける予定なの。ソールが主任だよ?」

「え?私が?」

寝耳に水ってやつだ。実は今決めたのだから、当然だけど。

「折角、貴重な薬草が手に入ったのだから、研究は必要でしょ。玄鳥の一族にも声をかけて、興味のある人を雇ってもいいよ」

「もちろん!研究好きな奴は大勢います。しかし、よろしいのですか?」

「構わないって。ギルドでもいい人材がいれば、雇用するけど、どう?」

「どうってなあ!」

「なあ、そりゃ大助かりだが」

冒険者ギルドに預けられた子が全て冒険者に向いている訳ではない。なかには勉強することが好きな子や研究に重きを置く、変わり者だっているのだ。

「役に立てばいいが、雑用として使ってくれてもいいぞ?」

「その辺りはソールと要相談だね」

治療院の将来への形が着々と固まっていく。平等な治療と病気や怪我に対する研究。

ゆくゆくは医者を育てる機関、そう医学部を立ち上げたっていい。夢は広がる。

「とりあえず私達の家に帰ろう」

そう、それぞれの家。神殿と冒険者ギルドへと。


神殿に到着した私は直ちにヒルダさんの元へと強制移送された。それこそ強奪されるような形で。

ヴァン達が生ぬるい笑みでそれを見送っている。

いやあああ!助けてー!

執務室において、私は執務机に両手を組んでこちらを半眼で見つめてくるヒルダさんと二人きりにされた。

アリーサとピアレットは早々に部屋から脱兎のごとく逃亡していた。頼りにならない側近だよ!

「あ、あのう。ただいま帰りました」

「…」

「今回はご心配をおかけしたようで、私もまさか全世界に聞こえているとは思いもよらず…、ははは」

ヒルダさんの視線が厳しさを増す。笑ってごまかせ作戦は失敗に終わる。

それにしても絶世の美女が怒るとこんなにも怖いのか。私は冷や汗をかきつつ、お怒りを静めるよう努力する。

「ご、ごめんなさい。心配させましたよね?あ、でもでも!大丈夫だったんです。

絶体絶命かと思いきや、なんとですね。湖水竜が助けに来てくれて助かりました」

絶体絶命って言葉にヒルダさんの眉が反応し、ピクリと持ち上がった。

「危ない目に会いましたけど、こうして無事に帰還しました!ホント、湖水竜さまさまです!これもご先祖様のお陰ですね!」

スーシア様とレーヴェナータ、そして、キーラ。この三人には感謝しかない。

「だから…、えーと」

お怒りオーラ全開の相手に私は為す術がない。

「本当にごめんなさい」

頭を下げる。

「…あなたは自分がどんな存在か理解していないようですね?」

「ええと。キーラの子孫を残す?みたいな」

「違いますっ!」

バァンと手で執務机を叩きつけるようにして、立ち上がる。

うひいっ!私はぎゅっと目を閉じ、身を縮めた。

次の瞬間、ふわりと暖かくて柔らかなものに包まれた。私の体がヒルダさんによってきつく抱き締められていた。

「助けてと言われても、わたくしには助けられないのですよ?わたくしは万能ではありません!どんなに救いたいと思っても、出来ない無力をあなたは知っているの!」

その体は小刻みに震えていた。

ああ、そうか。ヒルダさんは旦那さんと子供さんが亡くなった時のことを思い出したのだな。

きっと救いたかったに違いない。でも、出来なくて。悲しくて悔しくて。

心が張り裂けそうになって。それでもヒルダさんは神殿長としての務めを怠りはしなかった。

世界を見守り、調和を司る。大切な役目を。

私はヒルダさんの背に腕をまわす。しなやかで華奢な体だ。重い役目を担うには細すぎる。

「絶対に死んだりしませんって私には言えません。私は神様じゃないから」

抱き締めた体がピクンと震えた。

「でも、生きている限り、私はここに帰ってきます。ヒルダさんのいる、ここが私の家だから。だから、待っていて下さい。

この先も、もしかしたら、心配をかけるかも知れない。でも、必ず帰ってきます」

だから、待っていて。お母さん…と、小さく囁いた。

ぎゅううと抱き締める力がいや増す。

「もう!あなたったら、駄目な子ほどかわいいってホントね!」

駄目な子って…。何気にひどい。

ヒルダさんが私の頬を両手で包み込む。

「わたくしは待つことしか出来ないけれど、ここで待ってますから、ちゃんと帰ってくるんですよ?」

涙で濡れているけれど、綺麗な笑顔だ。

「はい」

私も笑顔で誓う。

私達はまた一歩、本物の家族に近づいた気がした。


それから、 私は湖水竜、水漣の報告をした。

「眠りについている時には湖の水が減るとのことでしたけど、ご存知なかったんですか?」

「まあ!そうでしたの?」

笑って誤魔化された。いいけどね。

「それで、これです!永珠の実を頂いてきました!」

「お手柄ですね。この実で助かる病人が増えることでしょう。一時は手に入れることが困難となって、大変でしたから」

オフレコではあるが、神殿には永珠の実を用いた万能薬が存在するのだそうだ。これは神殿長と一部の神官しか知らない。

「これまでどうやって調達していたんですか?まさか、冒険者ギルド?」

うふふとヒルダさんが笑う。

あー、なるほどな。そうやってずっと、神殿と冒険者ギルドは繋がっていたんだね。

「治療院の附属機関として研究所を立ち上げるつもりです。そこで永珠の実を用いた薬をもっと一般にも用いることが出来るように研究してもらうつもりです」

「まあ、この実の使用を広げるとおっしゃるの?」

そう。これまで伝説とされてきた永珠の実は限られた人間にしか使用が許されなかった。

「妖精によって管理されることによって安定した供給がされるようになれば、秘匿する必要はなくなりますよね?」

「まあ、そうでしょうね」

「いいものは広めましょう。それで皆が幸せになれる。そんな世界を目指しましょう」

我ながら青くさいことを言ってるなって思う。けど、二度目の人生を、それもこんな異世界で与えられた奇跡を存分に謳歌しようと思う。

もし失敗しても、また挑戦すればいいのだ。











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