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異世界でもふっと婚活  作者: NAGI
第三章 聖領編
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湖水竜とのおしゃべり

この世界で竜と出会うのは、これで二度目だ。それも、最初に出会ったのが破天荒なお姉系?の火竜ルウちゃんだっため、今回はさして気負わずに済んだ。

しかも、図々しくもお願いまでしてしまった。

「あのう。遅ればせながら自己紹介させてもらえますか?私、ナツキって言います。

二年前、地球から転移してきたばかりなので、こちらのことをよく分かっていないと思います。色々と失礼があったら謝ります」

湖水竜の背中に乗りながら、謝るもなにもないが、言わないよりはましだろう。

《ふん。そなたらが図々しいのは昔からだ。いちいち気にしてなどおれるか》

「それはそのう。スーシア様のことでしょうか?」

《あれはもちろんそうだが、その娘のレーヴェナータも輪にかけてうるさかった。我に湖水を守る竜となるよう、言ってきた。厚かましいにもほどがある!》

おお。どうやら、お冠のようだ。

私は、湖水竜の背に揺られながら、水の中を流れるように進んでいた。川の上から見れば、流れの急な濁流にしか見えなかったが、こうして水の中を泳いでいると(実際には乗っかっているだけだが)、どこまでも澄んだ透明な水だと分かる。

《まあ、なんだ。キーラは心根の優しい娘であったが…》

ご先祖様のこと?とは言え、とんでもなく昔過ぎて子孫だって自覚は無きに乏しい。

《そなたの魂と似ておるな》

それ、アオもそう言っていたね。私はキーラの生まれ代わりだって。

《妖精が…、そうか。あやつらは無垢な魂ゆえ、紛うことのない真実を見透せるのだ》

「それじゃ、あなたも無垢な魂の持ち主ってことになるの?」

《ば、馬鹿ものが!我ほど高次の存在となれば、全てお見通しなのだ!》

白目(サファイアみたいな青で白目はないのだが)を剥いて、怒りだした。

ちょ、暴れないで。固定具もなにも無しで背中に乗ってるんだから、放り出されちゃうよ!

《心配せずとも魔法でそなたの体を覆ってあるゆえ、安心せよ!》

あ、それはどうも。お気遣いいただきまして。

その後しばらく、双方とも無言であった。私は竜の背に乗ると言う、初体験のイベントと川の中の景色に見惚れていたので喋らなくても平気だったのだが、湖水竜はそうではなかったようだ。

《して、そなたらは何をしにこちらへと参ったのだ?やはり、永珠の実欲しさか?》

うん?永珠の実とは?あー、そうだ。思い出した。

「それはついで。私達には別の目的があったの」

《永珠の実がついでだと?あれを欲して、どれだけの愚か者がこの地下迷宮に挑んだと思っておるのだ》

「もちろん手に入れられたらとは思うわよ。今、聖領で治療院を建設中だから」

《治療院とは何だ?》

お、食いついてきたね?それじゃ、お話しましょうか。

「治癒魔法の使い手って昔から少数だったでしょう?スーシア様みたいな稀代の使い手となると、それこそ一時代に一人現れるかどうかと言うくらいの」

《うむ。あれは神の愛し子と呼ぶに相応しい者であった》

そうなの?スケールでかいな。

「まあ、それは今も変わっていないの。だから、病気や怪我で苦しんでいる人がいても十分な治療が受けられないのが、残念ながら現状」

一部のお金持ちや特権階級が優先されるのは、どこでも一緒だ。

「だから、すべての人に平等に治療が受けられる施設を作ることにしたの」

数少ない治癒魔法の使い手を闇雲に集めるだけではなく、薬を用いて治療する。それは地球の病院に近い。

「それで優秀な薬師を捜しに南領…、南領って分かる?」

《無論だ。我は創造時からここにいるのだぞ?この世界で知らぬことはない》

そうなの?引きこもりじゃなく?

「その南領でね、玄鳥の一族って優秀な薬師を招聘することに成功してね。彼は、洞窟の外で待ってるのだけど。

その彼が言うには永珠の実はスーシア様以外には扱えないって、それは本当なの?」

《扱いがひどく難しいのは本当だ。だが、あれ以外に扱えないことはない。他にも扱うことの出来る者はいたからな》

ん?じゃあ、どうして幻の薬草みたいになっているのだろう?

《おそらくだが、あの実が生息するのは我の棲み家以外になく、我はそのう…。誰でも良いから、棲み家に招いたりせぬ。故に手に入れるのが困難だと…そうした噂がたったのではないかと思う》

ええ!そんな理由?まさかの湖水竜様の人間嫌いが原因?

《我だって誰かれ構わず排除してきた訳ではない!世の中には、さもしい考えの者が多すぎるのだ!》

それについてはぐうの音も出ない。地球では科学が進歩し、暮らし向きが良くなったのと反比例するかのように人の心が貧しくなった。むろん、私だって人のことは言えないが。

人に親切にする思いやりの心なんかが、失われていったような気がする。もちろん、一部の人間だと思いたい。

人間の本質は、どれだけ裕福になってもさらに求め続けるし、「貧すれば鈍する」ではないが、貧しさは心までも貧しくしてしまう。

「ごめんなさい。あなたが人を厭うのは、それこそ、人が悪いのにね」

《べ、別に!全てを嫌っている訳ではない。スーシア…、あれは我が生涯において、一番の友であった。とうの昔に死んでしまったがな》

うん。そうだね。彼女もまた、そんな人の浅ましさから命を落とした。再び、そうした犠牲を出さないよう、彼女の子供達、レーヴェナータとキーラによって、この世界が創造されたのだ。

《他にも面白い人間はいたぞ?ホルンと言う名の冒険者もそうだ。あれとの付き合いは面白おかしかった》

あ、そうそう。肝心なことを言い忘れていた。

「ホルンの騎獣を覚えている?猫形騎獣の…」

《ああ…。ニャーニャーと小うるさいのがいたな。あれは主が死んでなお、霊体となって存在していたが。久しくみておらん。…少し前から冒険者の来訪が途絶えておってな》

口調がどことなく寂しそうに聞こえると言ったら、怒るだろうか。でも、そう感じたのだ。

「ニーニャもここに来ているのよ。あなたの言う、冒険者が来なくなったのには理由があるの。

あなたへと続く道を知る者が後進に伝えることなく、亡くなってしまって来れなくなったからよ」

《何!それは本当か!我に会いたくなくなったからではないのか!》

勢い込んで言う。その後で、あ、しまったと言う顔をした。竜の表情は解りづらいのだが、はっきりそうと分かった。

きっと待っていたんだ。友達だったスーシアが亡くなって、一人になった彼、寂しい湖水竜の懐に飛び込んできたのが冒険者ホルンと騎獣のニーニャだ。

昔話と同様に彼らは友となったのだ。

「私は、あなたへと続く道を捜しに来たの。理由は、湖の水量が減った原因があなたにあるんじゃないかと思って」

《我は定期的に眠ったり、起きたりの生活をしている。眠りについている間は水量が減るらしいが、大騒ぎするほどのことはあるまいに》

そうだったんだ。あれ?そのことをヒルダさんが知らないってことあるのかなあ?もしかして、私の知らないうちにまた彼女の思惑通りに踊らされていたのか?

うーん。帰ったら聞いてみよう。

「それに今いる冒険者達もあなたと交流を再開したいって思っているようよ?」

《ふ、ふん。勝手にするがいい。我は道を閉ざしてなどおらん》

青い竜の鱗がほのかに赤く染まっているように見えるのは、私の目の錯覚だろうか。

ううん。たぶん、そうじゃないだろう。

全く解りやすいのか、そうじゃないのか。私の周りには素直じゃないのが多すぎるよ。全く。


湖水竜が川の上へと浮かび上がる。と同時に私を覆っていただろう水を弾く防壁も消失した。

「…っは」

呼吸が楽に出来る。やはり水の中という事で、息は出来ても心の有り様が違うらしい。

湖水竜がすうっと陸へと近づき、私に降りるように促した。

《この先にそなたの望みの者がいる。我はここまでだ》

ここで初めて、私は湖水竜を真正面から見ることが出来た。全身を覆う鱗の色は青だ。青と言っても硬質を帯びたメタリックブルーのような青。瞳も同じく、こちらはやや薄めの色合いである。そう、澄んだ水の青さだ。

大きな鎌首をもたげる、その姿は巨大な蛇のようにも見える。ルウちゃんとはまた異なる趣の竜である。

「そう言えば、あなたの名前を聞いていなかったわね。良かったら、教えてもらえるかしら?」

真の名前が嫌なら、愛称でも構わない。ルウちゃみたいにね。まあ、彼をちゃん付けするのは勇気が必要だが。

《我のことはと水漣とでも呼ぶがいい》

水漣?薔薇姫と通じる名前だ。水のさざ波か。凄く、らしい。

あ!ところで、ちょっと聞いておきたいのだけど。

「外へ繋がる道まで案内してもらえるのかしら?」

私には泳いで川を遡るなんて無理だ。

《心配せずともそのつもりだ》

ほっと胸を撫で下ろす。

「それじゃ、少しだけ待っていてくれる?」

《ああ》

そう言って、とぷんと川の中へと潜った。姿は見えなくなったが、尾の先がチラチラと見え隠れしているので、そこにいるのだと分かる。

私は歩き出した。水漣の言葉が正しければ、この先にヴァンがいるはずだ。それを確かめるために私は行く。

少し歩くと、大きく開けた場所へと出た。明るい。そこには魔法具のランプが壁に吊り下げられているし、焚き火の痕など人の生活しているような痕跡がそこかしこに見える。

ここはどういった場所なんだろうか?ほのかに照らされた洞窟の中を見渡していると奥の方から人影が現れた。

「ナツキ?いや、ナツキ様ですか?」

心底、驚いたようにこちらを見るヴァンの姿があった。

胸の内を熱い塊が込み上げる。

あれから、たった一日しか経っていないと言うのに、凄く長い間離れていたような気がする。

私がここにいるのが信じられないと言う風に長い狼の口を呆けたように開いたきり、立ち尽くしている。

「ヴァン…」

かすれた呼び掛けにヴァンがピクリと総身を揺らした。

彼の無事な姿を見て、私だってどうしたらいいのか分からないのだ。だって、一時とは言え、本当に死んでしまったと思ったのだ。

「どうやってここに?セーラン…、ラベルも一緒ですか?」

「ううん。私、一人だけよ」

私は軽く首を振る。

「何だって?あいつらは何をやってるんだ。ナツキ様を一人にするなんて!俺がいない時くらい、まともに守ることも出来ないのか!」

違う。二人はちゃんとやってるよ。私がドジを踏んでしまっただけ。不可抗力ではあったが。

「すいません!あなたを守るのが我ら守護騎士の役目なのに…」

守護騎士だから?、護衛対象だから?、そんなものは関係ない。彼が私を守りたいと思ってくれているのと同じくらい、私も彼を大切に思っているのだ。

それなのに全然分かっていない。

「言いたいことはそれだけ?」

ちょっとだけ語調を強める。

すると、ヴァンは困ったように私を見下ろした。

「ご心配をおかけして申し訳ありません」

耳としっぽが下がる。不安なのか、ふさふさとした尾の先が少しだけ、ゆらゆらと揺れている。

そうだよ。ほんっとうに!心配したんだから。

「あの…、怒っているんですか?」

もちろん、私は怒っているよ。

じとっと上目遣いでヴァンを睨み付ける。そんな私の態度を勘違いしたものか、今度は平謝りに謝りだした。

「すいません!俺がヘマをしたせいでご迷惑をお掛けしました」

うん。やっぱり、わかってない。

「迷惑なんかじゃないってば!ヴァン!私が言いたいのは、私達は家族だってこと!

心配させたら、ごめんなさい。助けてもらったら、ありがとう。それでいいんだよ、家族なんだから助け合って当然なんだよ?」

「は…、家族って…」

「ヒルダさんがお母さん。セーランがお兄ちゃんでラベルが弟。アリーサは…、お姉ちゃんだな。それで、トールとソールは親戚のおじさん!」

ヴァンは私のお父さんポジだからね!

「お、俺がお父さん…」

何とも複雑そうな顔で考え込まれてしまった。

あ、ごめん。私の方が本来、年上なんだよね?じゃあ、一家の長男ってことで!


何となく微妙な空気感をものともせず、うっそりと大男が間延びした声と調子でやって来た。

「あれあれ〜。女の子だあ〜。どうやってここまで来たの?」

頭部に二本の大きな角が生えている。立派な鹿の角だ。

この人が双子のお父さん?

「イサークさん、ですよね?双子のお父さんの?」

「おや?君も子供達を知っているの?嬉しいな〜」

うん。凄く、双子のお父さんっぽい。

「二人とも近くまで来てますよ?私はちょっと、皆からはぐれてしまって。でも、大丈夫です!」

「え〜。大丈夫じゃないよ〜。ここがどこかも分からないんでしょ?」

「そりゃ、どこかは分かりませんけど、水漣…、湖水竜が案内してくれるそうなんで!」

「は、はい〜?」

「はあ?」

二人の種族の異なる獣人が揃いも揃って訳が分からんって顔をしている。

まあ、そうだろな。竜の道先案内人なんて、どこを捜してもみつからないはずだ。


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