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異世界でもふっと婚活  作者: NAGI
第三章 聖領編
123/210

ニーニャと一緒に

ニーニャだよって、そんないい笑顔で言われても。

私の困惑などお構いなしで、ニーニャは続けて言った。

《お願いなの!湖水竜を探して》

「ええと…。もちろん、そのつもりよ?私達はそのためにここに来たんだから。でも、少しだけ事情が変わったの」

《なに?ニーニャにお手伝い出来る?》

こてりと首を傾げる姿にキュンとする。こんな大変な状況だというのに。

「仲間の一人がね。あそこにある洞窟の中で崖から落ちて行方不明になったの」

《?》

「私の大切な人。守護騎士…って分かる?」

《知ってるよ。聖女様をお守りするんだよね!》

「ええ、そう。その内の一人、獣人なんだけど。湖水竜と一緒に、その人を捜したいと思っているの」

《獣人って、ワンコのこと?》

いや、まあ。狼だから犬族の一派ではあるけど。ワンコって―。

《ワンコならニーニャ知ってるよ。イサークと一緒!》

「イサーク?誰?」

《イサークはねえ。大角鹿?獣人なの。ニーニャの仲間!冒険者だよ!》

「仲間って…。ちょっと、待って。冒険者って。あなた、もしかして幽霊、なの?昔話に出てくる冒険者ホルンの騎獣だった?」

《そうなの!そうなの!》

分かってもらって嬉しい!って気持ちを、しっぽをブンブンと振って最大限に表現する。

「「ね!ね!今、イサークって言った?」」

そこへいきなり、双子のロキとロナが乱入してきた。

「「確かに言ったよね?」」

えーと。言ったような?

「イサークって僕達のお父さんなんだよ?」

「死んだことにされてたの〜」

ああ!そうだったね。奥さんから死んだと思えと言われた、気の毒なお父さん…。

「あなたが知っているのは大角鹿の獣人なの?」

《そうなの。ロキとロナ、双子のお父さん!》

「そうだって!お父さんで間違いないって。あ…。それじゃ一緒にいるワンコって、まさか、ヴァン?」

《んー?ヴァン?か、どうか分からないけど、黒いワンコだよ》

ああ!神様!ありがとうございます。

ヴァンが生きてた!

「皆、聞いて!ヴァンは生きているって!」

私の大声を聞きつけた仲間達が何事かと近寄って来た。

「ヴァンは無事なんだよね?ニーニャ!」

《うん。足をくじいたみたいだけど、元気だよ。魔獣の肉が不味いって文句、言ってた》

「ご飯もちゃんと食べてるって!」

ね!と、ニーニャに確認する。

「無事なんだって!良かった!」

私は喜びを分かち合おうと皆の顔を見渡すが、全員が微妙な表情を浮かべていた。

「ちょっと!あんた達、何で喜ばないの?」

「え?それはそのう…」

何故か、トールが矢面に立たされる。仲間内では一番の年長者だけど。

周囲から、言えと強要されている。

「えーと、ショックのあまり、幻聴…、幻覚を見ているってことありませんか?」

そんな訳あるかー!!!

マジで怒るよ、ホント!

私のお怒りを一身に浴びたトールが嫁?に慰められている。ふん!

「それじゃあ、ここにニーニャと言う騎獣の霊がいるのですね?」

いまだに半信半疑といった様子のアリーサが尋ねた。

「そうよ。あ、セイラ!皆にも見えるように出来る?」

《無理ー。セイラと繋がってないもん》

あのペチンはセイラと視覚を共有するために行ったものなのだそうだ。ニーニャが見えるようになったのは助かるのだが、他にも色々と見えるようになったのが少々難点だ。

世の中には見えないほうが幸せってことがあるよね!

「それでね。ニーニャがヴァンのいる所まで案内してくれるって!」

濁流を泳いで降る訳にも行かないので騎獣での移動となる。そして、幾つかの条件もつけられた。

《あの場所には誰でも入れないの。湖水竜様に害意のない人だけ、入れるの》

「私達、湖水竜に害意なんかないよ?」

《うーん。でも…》

チラチラとカイル率いる守護騎士の数名を盗み見るような仕草を繰り返す。

「あー…」

私は納得した。ヴァンに危害を加えたのは一人だったけれど、他にも問題のありそうな守護騎士が残っている。動物の勘?だろうか、ニーニャには危険人物として写っているのだろう。

「私の選んだ人だけを連れて行くよ。それなら大丈夫?」

《ニアーン》

大きな口を開け返事をしてから、こしこしと足で顔をこする。

か、かわっ!私は思わず、両手で口を押さえた。

やっぱり、かわいいは最強だね!


まとめ役であるカイルに詳細を説明し、ニーニャとともに洞窟内へ入る人員を選別させてもらう。仲間の一人が失態を犯したことで、とばっちりを恐れた数名は承知せざるを得なかったようだ。代わりにやって来た騎士は統率がとれた者ばかりで残った問題児の監視を命じられた。

彼らは何もしていないので、表立ってどうこうすることは出来ない。だからこそ、騎士団からは公正な人員が送り込まれてきたのだそうだ。それで辻褄合わせをするらしい。

ヒルダさんが言っていた「身内が一番厄介」と言うのは、こう言うことなのだろう。

再度、洞窟に潜る面々が決定した。

私、セーランとラベル。カイルと部下二人、そして、クレイさんとエリーと双子の合計九人だ。

双子を連れて行くのは賛否両論あったが、最終的には許可した。

「お父さんの気配は僕達が一番分かるから〜」

「ねー。最初にぶん殴る〜」

あれ?おかしなフレーズが聞こえたよ?

「まあ、何だ。俺とエリーでこいつらを分乗させるから、足手まといにはなるまいよ」

クレイさんがそう請け合ったので、冒険者枠と言うことで。

さて、私が今回、騎乗するのはカナンである。

ヴァンが帰ってこないことを知るや、勝手に飛び出して行こうとして、こちらも大変だった。暴れて手が付けられないのを薬で眠らせた。ちなみにソールが問答無用でカナンを魔法で眠らせ、薬を盛ったらしい。

目覚めた時にはニーニャによって無事であると知らされ、本人(本騎)も俄然やる気だ。

「ピイエエエエエ!ピエエ!」

うるさい。

洞窟の中を流れる濁流を騎獣に乗って下り、ヴァンのいる最下層まで潜るのだ。

ニーニャによるとそこが湖水へと続く、支流となっているのだそうだ。実際、イサークと言う名の双子のお父さんは湖水に出られたのだが、いかんせん泳げなかった。

まあ、鹿だしね。仕方ない。ダジャレじゃないよ!


崖への分岐点までは騎獣を伴って歩く。前回同様、魔獣が次々と現れたのだが、こちらは騎獣達があっと言う間に駆逐した。

「前回も騎獣を連れて行ったら、良かったんじゃない?」

率直に意見してみる。だって、瞬殺だったんだよ?魔獣達の方が気の毒なくらいだった。

「洞窟の中の戦いは宙を飛ぶ騎獣には適しておりません。今回は洞窟の幅が広いのでそう思われるでしょうが、乱戦となったら人に衝突する事故が起こったり、危険なのです」

カイルに理路整然と説明された。

困った騎士達を除外した、今回のメンバーは思った以上にやり易い。カイルら守護騎士の面々も気さくに話しかけてきて、私達は順調に進んで行った。

洞窟内の拠点と分岐点を過ぎ、ヴァンの落ちた崖へと到着する。

「では、ここからは騎獣に乗ってまいりましょう。ナツキ様は皆から決してはぐれないようにご注意下さい」

「はい」

もちろん!このメンバーで最も戦闘力もサバイバル能力も低い私が一人になるなんてありえない。

しっかりついて行くよ!

「ニーニャもよろしくね」

霊体となったニーニャが振り返る。

《ニアー!》

うんうん。かわいいよ。

見えない皆のためにニーニャの頭にはエリーの精霊がちょこなんと乗っかっている。ちなみにセイラは腐っても薔薇姫様なので私の鞄の中で待機だ。

光を帯びる魔法を纏っており、見えない皆の道標がわりとなっていた。

「行くぞ!」

羽や翼のある騎獣達が一斉に羽を広げ、背中に主を乗せ、崖下へと降下を始める。

ふおおおぉ。結構、ハードだね。ジェットコースターを降下しているようだ。

今回は一人乗りなので自身で空気の壁を纏う。でも、意外にもカナンが気を遣ってくれているらしく彼女の魔法でカバーされているようで大分楽だ。

「ありがとう。私の分も風避けしてくれてるの?」

「ピエ!」

ふんって感じで私をチラ見してきた。

うん、何となく理解したよ。ヴァンを見つけるのが先決で、そのための案内係であるニーニャと意志疎通出来る私を仕方なく守ってる、ってことだね?

はあ、とため息一つ。カナンと仲良くなるまでの道のりは遠いよ。

ザアアっと凄い勢いで流れる濁流が見えた。

「よし。ここからは川の流れに沿って飛ぶこととなる。各自、濁流にのまれないよう気を付けるのはもちろんだが、魔獣の出現にも注意を怠るな!」

「は!」

濁流に沿って飛ぶだけ…、そう思っていたのはどうやら甘い考えであったようだ。魔獣でも空を飛ぶものもいる。大して強くはないが、蝙蝠の魔獣の大群やら羽虫と呼んだらいいのか、ムカデに羽が生えたのやら、その都度、蹴散らしていかねばならない。

私は蝙蝠魔獣が出現した際、思わずエリーを見たら、

「私は蝙蝠姫じゃない!」

って怒られた。

えー、蝙蝠を従えてるんじゃないの?使えないな…。

そうこうしているうちに濁流の流れがどんどん小さくなっていった。と同時に空間も狭まってきた。

先が見えず、一度立ち止まる。

「ニーニャ、ここをまっすくで間違いないの?」

《ニア、ニアー》

「だ、そうです」

「いや。分かりませんが」

あ、そうだったね。

「この先、狭くはなるけど騎獣で通れないことはないそうです。魔獣も出なくなるので安全だよって言ってます」

ニアしか言ってないって?それはそうだ。私は、猫語?を理解しているのではなくて精神的に意志疎通しているのだ。

「魔獣が出ないのなら…」

カイルは熟考の末、進むことに決めた。どのみち、ここ以外道はない。あとは川の中を泳いで進むくらいしか。

これだけ狭いと動きが取れないし、逃げるのも大変だろうから考え込むのも無理はない。

「一列に進むしかない。殿は頼めるか?」

セーランに尋ねる。

「構いません」

いざとなれば、自身で飛ぶことも出来るので適任だ。

そうして私達は狭い隘路を騎獣に乗って進むこととなった。始めは順調に進んでいたのだ。

それがこんなことになるなんて…。

突然の出来事だった。一列に並んで飛んでいた私達に向かって川の流れの中からにゅっと幾つもの触手が伸びてきた。騎士や冒険者の面々は咄嗟のことだが、綺麗に交わしていく。カナンも避けるのだが、いかんせん、背中にお荷物を乗せている。いつもより動きが鈍い。

イカなのか、タコなのか。判別はつかなかったが、そのうちの一つが真っ直ぐに私の体をめがけて伸び、胴体へと巻き付いた。

ひっと悲鳴を上げて、私の体が川の流れのなかへと引き込まれた。

「ナツキ様!」

皆の呼ぶ声が遠くに聞こえた。


川の中でも空気の壁は有効だったようだ。水に濡れることはなかったが、口から空気の泡が漏れた。途端、肺の中が苦しくなった。溺れるってこういう事かと納得する。ヤバイ、空気が吸えない!

ゴボボボボ。

死ぬ!と感じた瞬間、私の体が光に包まれた。守護の腕輪による守護魔法が発現したようだ。とりあえず、呼吸は出来る。

けれど、私の体に巻きついた触手は消えない。大きな吸盤を持った、それが私の体を這い回った。

気持ち悪い!消えてしまえ!激しい感情が沸き起こる。

そこで、私の中で眠る魔法の力が発現した。

以前にもあったように危機的状況に遭遇すると発露する光魔法だ。私の闇を祓う力が爆発した。

すると、襲ってきた何かは触手もろとも本体が消滅したのが辛うじて見えたのだが、私の状況に変化はない。守護の力で守られているとは言え、身動きがとれないのだ。

流されるまま、思いっきり濁流の中で溺れているのには変わりはない。

マジで!マジで死んじゃうから!

犬かきのように必死にもがいてみるも、流れが速すぎて徒労に終わる。

とここで、私を更なる難関が襲った。

滝だ!気が付いたときには落下中であった。きりもみ状でダイブ。

ひいいいいいい!

もはやここまで!と死を覚悟する。いや、駄目だ!私は何もやっていない。

地球で過労死寸前の私をレーヴェンハルトへ転移させてくれたヒルダさんに、これという恩返しをまだしていない。

新しい家族となった仲間達、それから、日常のお世話をしてくれる神殿の神官達。彼らとお別れするのは嫌だ。養護院や職業訓練所、それに治療院だって中途半端なままだ。

死ねない!まだ、死ぬわけにはいかない!

私はありったけの想いを込めて祈った。


誰か、助けて!お願い、私に力を貸して!


それは祈りであった。と同時に世界中に響くような願いの渦でもあった。

この時の私はそうとは気付いていなかったのだが。

そして、それは一番身近にいた、彼へと届けられた。

フワリと水の中で私の体が持ち上げられた。青光りする巨体がすぐ下を泳いでいた。

苦しくない!助かった!

魔法で守られていると感じ、それを行っているのが自分の下を泳いでいる者であると言うことも理解した。

私は水の中だと言うのに、その背中に正座に座り直した。

「あの。あなたが湖水竜なの?」

そっと呼びかける。

彼、多分、彼だろう。至極、迷惑そうにこう言った。

《うるさい。スーシアの娘はどうしてこうもかしましい者ばかりなのか》

えー!私、そんなにうるさくした覚えはないんだけどな。けど、一応謝っておこう。

「うるさくしてすいません。ついでにヴァンの居場所まで連れて行って下さい」

ハアアアと大仰なため息をつかれた。

《ヴァンなる者が誰かは知らぬが、私の領域に入り込んだ馬鹿者の所まで連れて行ってやろう。騒がしいのは御免だ》

すいません。ご迷惑をおかけします。











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