ケモミミはいいね
こちらの世界に転移されてから、一月近く経った。暦などあちらとほぼ似ているせいか、私の順応性が半端ない。
最初、気が付かなかったのだが私達は意志疎通が出来ている。言語が勝手に変換されているのだ。
ホント、不思議だね。もう、驚かないよ?
「おぉ。豚が空を飛んでいる」
驚いた、マジ驚いた。豚って飛べるんだね。
空を一列に編隊を組んで、白い翼を持つピンクや黒などの豚達がのんびりと空中を飛び回っていた。
「普通の豚は飛びませんよ?あれらは魔力を持ち、進化した豚なのです」
そうなのだ。こちらでは動物も魔力を持つ個体がいる。私を乗せて神殿まで飛んだ、大きな鷹も同様で騎獣と呼ばれ、普通の鷹と違って大きさもさることながら、魔法を使う。
そうそう、狼男ならぬ獣人の彼とはすぐに再会した。神殿を警護する騎士の一人だったのだ。
「あら!あなた」
神殿の外を出て周囲を散策していると、偶然出会ったのだ。
「お久しぶりでございます」
地面に片膝を付き、敬礼された。
「えっと、ヴァンだっけ?」
「はい」
名前を覚えてもらっていたのが嬉しかったのか、狼の耳がピピピと嬉しそうに動く。
むむ。なんか、かわいいぞ。
「あの時、お礼も言わないでごめんなさい。迎えに来てくれて、私をここまで連れて来てくれて本当にありがとう」
丁寧に頭を下げると、ヴァンが慌てたように私が謝罪するのを止める。
「どうぞ、頭をおあげください。私はあなた様の騎士として当然のことをしたまでです」
そう、彼は神殿の騎士。神官は女性ばかりだけれど、その警護には各領から選抜されてきた選りすぐりのエリート達があたる。物凄い倍率の高い、日本で言ったら東大合格とかに近い。
「そうは言っても、お礼を言うのは当然のことだし。私は、人にお礼も言えないような人間になりたくないわ」
それを聞いたヴァンが困ったようにように耳を伏せた。
ホント、わんこ耳は感情豊かだね!
幼い頃、両親がまだ生きていた時分に私はコロコロ丸い柴犬系の雑種を飼っていた。名前はマル。
まんまだろって当時の私にツッコミをいれたい。あの子は本当に表情豊かでかわいかったな。
私が施設に入って、それきりになってしまった。近所に住んでいた優しいおじさんに貰われていったとで聞かされ、安心したけれど最後の家族とも永遠にお別れなのだと涙をぐっと堪えたのも遠い記憶だ。
「散策ですか?私どもが護衛いたしましょうか?」
ヴァンの背後で控えていた、少年のような年頃の男性から声を掛けられる。あくまで感じだけどね。獣人の年齢は判別しづらいのだ。
彼もまた、騎士の一人で焦げ茶色の犬系獣人だ。
「いいえ。神殿の周りを歩いて見るだけですから必要ないわ」
と答えると、しょんぼりと耳とシッポが垂れる。
かわいい。こっちの子の方がマルに似てるな。
「いずれ外を見てみようと思っています。その時はお願いしますね」
かわいそうなのでそう言うと、
「はい!お供いたします。私はラベルと申します。以後、お見知りおき下さい!」
元気よく、お返事された。神殿の騎士なのだから相当優秀なのだろうが、かわいいのは仕方ない。
「ヴァンも、よろしくね」
「は!」
と、これまた堅苦しい。
最初に会った時との違いは、多分、公私を明確に区別しているからだろう。あの時は自分のことを俺と言ってたしね。
あと一人、ぱっと見、ほとんど人と変わらない姿の綺麗な金髪の巻き毛と茶色の目をした男性に目を遣る。
「翼人のセーランと申します。お目通りがかない光栄に存じます」
私の疑問を察したのか、そう言った。
翼人?鳥系の獣人と言うところか。フワフワした巻き毛が鳥の羽毛に見えなくもない。羽毛布団はホントフワフワだよね!
「では、あなたもよろしくね」
「はい」
うーん、クールな美人さんだ。ホント、この世界の美形度が高すぎる。私の容姿が普通なので尚更だ。決して不細工とかじゃないよ。普通よ、普通。自分で言って虚しくなる。
とにかく、普通の容姿(こだわるね!)の私だけれど、この世界における最重要人物(VIP)なのは流石に理解してきた。警護されるのは当たり前のことらしいのだから、人員は選びたい。
嫌いな人に一日中付きまとわれるのは、ホント勘弁して欲しい。その点、ヴァンには全てをさらけ出したという過去もあって(いや、今でも恥ずかしいよ?)、気兼ねがいらないだろうと単純に思っただけで深い意味はない。あとの二人は行きがかり上に過ぎない。
彼らと別れ、アリーサと二人きりになると、普段は自分から話し掛けたりしない彼女が珍しく話し掛けてきた。
「少々、軽率なおふるまいでございました」
へ?なんのこと?
「特定の騎士を選んだことです。騎士達は各領から選抜され、神殿においては領地や出自など関係ないとされておりますが、実際は違います。
各々が自領に有利となるように行動するよう言い含められてきているのです。特定の騎士を置くと言うことは、その騎士が属する領地が優先されると捉えられても仕方ないのです」
「そんな気ないよ!」
「はい。私はそうは思いません。ナツキ様は贔屓などしないお方。私はお側にお仕えしておりますから、存じておりますが、まわりはそうは思っていないということです」
「はあ、色々と難しいのね」
「けれど、先程の選択はあながち間違いではありません」
ん?どういうこと?
「騎士長のヴァン様は西領、ラベル様は東領。セーラン様は南領のお方。一つの領地に片寄ってはおりませんから」
「え。でも、北領の人がいないから、駄目だよね?」
「‥私が北領出身ですので」
「そうだったの?」
「はい。けれど、私のことはどうぞお捨ておき下さい。騎士の方々とは違って、私は北の地には何一つ思い入れなどごさいませんから」
普段から感情を制限されているのではないかと思うほど、アリーサには表情がない。だが、この時一瞬だったけれど嫌悪がよぎったのを私は見過ごさなかった。
気にはなるけど、自分からは踏み込みたくない。私が問えば答えてくれるだろうけど、それって命令だからね。
「そっか。なら均等になって良かったね」
「は?はい‥」
アリーサは戸惑った風だが、私は気にしない。
だって私はアリーサもさっきの三人も気に入ったから。決して、ケモミミや美人さんに心奪われたからではないと固く宣言するよ!ちょっとだけ、ぐらついただけだから!
やっとケモミミ出せました。けど、まだモフっと部分が圧倒的にたりない。気長に待って下さい。