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異世界でもふっと婚活  作者: NAGI
第三章 聖領編
119/210

魔獣と遭遇する

いっぺん、ちょっと落ち着こうか。興奮しているのは分かるけど、きちんと説明してちょうだい。

「これが落ち着いていられますか!」

ぎっとばかりに睨み付ける。

え?私、何もしてないよね?

「いいですか?よく聞いてください。永珠の実とは、この世界の創造主であられるレーヴェナータ様とキーラ様、お二方のお母上にして稀代の癒し手と称せられたスーシア様が用いられた万能薬の元なのです」

へー、そうなんだ。

「玄鳥の一族に伝わる秘薬みたいなものね?」

「違いますっ!ぜんっぜん、それこそ比べ物になりません!」

えー、あなた達が大事に守ってきた薬でしょう?

「もちろん、私共の秘薬は大変な効力を発揮します。素材が素材でありますし、簡単には作れません」

まあね。火竜の鱗を原材料にするから、すぐに作れるものじゃないよね。

「そうです。それに玄鳥の一族の秘薬は、癒しの効果を劇的に上げる役割を担っていて、スーシア様の用いられるものとは用途が違うのです」

治療そのものではなく、治療を助けるのが玄鳥の一族の秘薬なのだと言う。

「また、スーシア様によって作られたのは一般的な薬と言うよりもむしろ霊薬です。最上級の薬なのです。

その扱いは非常に難しいため、当時でも、かのスーシア様にしか処方出来なかったそうです。そして、永珠の実の群生地は未だに謎に包まれ、スーシア様の死とともに失われた…、そう語り継がれていました」

ふうん。稀代の癒し手であるスーシアさんだからこそ、扱えたと言うことか。

「…」

んん?ソーラがプルプルし始める。

「その手掛かりが見つかったのですよ!」

こらこら。興奮しないで。

「ああ!それじゃ、さっきの話に出てた花が永珠の実かも知れないってこと?」

ポンとかしわ手を打つ。

「そうです!やっと事態がのみこめたようですね」

「やったじゃない!世紀の大発見かも!」

だって、スーシャさんと共に失われた霊薬なんでしょう?

ねえ!と同意を求めようと、クレイさんを見ると、

「ん?そうなのか?俺はそんな花のことは知らんぞ」

「僕も〜」

「あたしも〜」

冒険者が三人が三人とも無感心を決め込んでいる。

ちょっとー、少しは関心をもとうよ。ソールが涙目になっちゃってるから。

あ。トールが慰めにかかる。

「ひどいです。貴重な霊薬が見つかるかも知れないと言うのに」

ソールが甘えたようにトールに不満を言う。

「その気持ち、よーく分かります」

そう言って、チラと私を見る。

「私だって長年の研究成果を語っても、興味のない人にはとことん知らんぷりされますからね」

そう言って、よしよしと背中を撫でる。

あ、ああ。そう言えば、そんなこともあったような…?けど、随分と昔の話じゃないかな。出会った頃くらい?

「トールだけです。私のことを理解してくれるのは」

ふかふかの体毛に頬を埋めるソール。

「私だってそうですよ?」

はあ?そこ!今、いちゃつくとこじゃないよね?

世紀の大発見はどうなった。

「何はともあれ、湖水竜を見つけることが先決です」

二人の世界へと突入したソールが、とろんとした目でそう言う。

「ま、そりゃそうだけど…」

夫夫の甘々加減に辟易しながら、不承不承頷いた。

「全ては明日以降の探索次第と言うことで」

こら、トール!勝手にまとめないで!

「あ、それでいーんじゃないか」

「意義なし〜」

「そんな感じで〜」

クレイさんのかいた胡座に、左右からだらりと寝そべった双子達。そして、そんな彼らに挟まれ、真ん中で耳をほじくっているおじさん…。

本当に彼らに案内を頼んで大丈夫なのかと、私は少なからず不安になるのであった。


とうとう洞窟に入る日が来た。人選は前日に行われ、冒険者全員とカイル率いる神殿騎士四名、そして、私と私の守護騎士達だ。

後方支援部隊である、アリーサとトール、ソールはお留守番である。そして、警備のため神殿騎士を数名残した。

余談ではあるが、永珠の花かも知れない薬草の存在を知って、ソールが同行を申し出たが却下された。戦力外なためだ。

こと、治療に関してはエリーが担当する。精霊魔法は治癒に特化しており、凄く役に立つらしい。

頼もしい限りだ。残念な性格をしているのが、たまに傷である。

それにもう一人、というか一匹。

「マニャはお利口さんだねえ!」

クルルルルと喉を鳴らすのは猫型騎獣のマニャ。ギルドの騎獣である。茶色と黒の混じった三毛でふさふさの長毛種である。

何でも冒険者ギルドにいる猫型の騎獣には代々◯◯ニャと名前を付ける決まりがあるらしい。

「ホルンの愛騎ニーニャの血筋だからな」

凄い昔から続く血統なのだそうだ。とは言え、雑種なので色々と混じっている。三毛猫だの長毛だの。

けど、なんと言ってもかわいい!それに尽きる。

「ニニニニニ」

喉をくすぐると、そんな甘え声をもらす。

はー、癒されるわ〜。

「あまり構わないでちょうだい!仕事に支障をきたすから」

エリーがそう言って、私から取り上げる。

「ケチねー。自分はかわいいものばっかり側に置いてるくせに」

「なっ!」

だってそうでしょ?妖精のフロウに猫型騎獣のマニャ。

「マニャは賢いからな。昨日、ミグと通った道筋は全て把握している」

「ニイ」

クレイさんの言葉に嬉しそうに返す。

かわいい上に賢いなんて凄いね!私も猫型騎獣が欲しくなった。まあ、駄目だろうけど。

神殿内は清潔がモットー。自由気ままに猫が闊歩していい場所ではない。騎獣なんてもっと駄目だろう。

それでも中堅以上の神官となれば、個室が与えられるので個人的に飼うことは許される。

実際に飼っている人もいるらしいが、私は見たことがない。部屋から出さないからだ。

まあ、癒されたくなったら騎士棟のある敷地内の獣舎に行けば、もふりたい放題だから、かまわないんだけどね。

それでも、こうして間近で猫型に会うのは初めてだ。猫型を騎獣にしている人が、騎士もそうだが町でもそう見掛けないからだ。

反面、ギルドで扱う騎獣は昔から猫型が多いらしい。犬型は早いし強い。追跡や狩りに秀でており、人気で戦士職やら商隊の護衛やらで需要が高く、高値で取引されている。

対して猫型は一般家庭で飼うには扱いが大変だし、お金もかかる。それでも綺麗な毛並みの子は金持ちの箔付けで飼われているが、雑種は見向きもされない。

そんな子達をギルドではあえて引き取って、騎獣として育てるのだそうだ。

ニーニャの血筋はそんな子達の中でも別格。リーダー的な存在なのだ。

「あたしの頭のなかでも地図はばっちり把握しているけど、足りない部分を補ってくれる頼りになる子だよ」

マニャは誰の騎獣と言う訳ではない。騎獣達のリーダーで、貸し借り出来る。

「いつもあたしが乗ってるんじゃ気の毒だしね。時々、こうして乗せてもらっているのよ」

あー。でしょうね。筋肉隆々のミグ姉さんがの体はいかにも重量級だもの。下手したらクレイさんが華奢に見えるくらいだ。

「ま、あたしには店があるし。騎獣は必要ないからね」

今回、わざわざ冒険者として復帰してくれたことに感謝を述べる。言ってなかったからね。

「お店があるのに探索を手伝ってくれてありがとう。でも、何で引き受ける気になったの?」

私は不思議に思って聞いてみた。冒険者は引退したと聞いていたのに。

「あぁ。何故かって、そりゃ…」

困ったように鼻の横をかいた。

あれ?聞いちゃいけなかったとか?

「あんたを…」

「え?」

「あんたを見てたら、昔の仲間を思い出しちゃって…、さ。それで、たまになら冒険してもいいかなって思ってね」

昔の仲間?冒険者で言うパーティーってやつ?

「へえ?そうなんだ。でも、お仲間さんを誘わなくていいの?折角、冒険者に復帰したのに」

「…ああ。あいつらは平和な場所でのんびり過ごしてるからね。わざわざ、寝た子を起こす必要はないんだよ。

いつか、また一緒に冒険する日が来るまでお互いに好きにするって約束したから」

「ふうん、いいね」

そこでヴァンに呼ばれたので、私は返事をしてから向かった。

そんな私の後ろ姿をミグ姉さんが複雑な色を宿した目で見送るのにも気付かずに。

「へえ…」

クレイがニヤニヤとこちらを眺めているのが勘にさわる。

「何だよ」

「いや、お優しいこってと思って」

ミグがクレイの腹に肘鉄を食らわせる。手加減していても、屈強な筋肉の持ち主であるミグの肘鉄は威力が半端ない。

「おいっ!もうちっと加減しろ。お前は馬鹿力だって言う自覚がないのか!」

「ふん!」

そっぽを向いたミグの横で大袈裟にクレイが腹をさする。

「全く、俺じゃなけりゃ悶絶してるとこだ」

うるさい。馬鹿は放っておくに限る。

「…ホント、柄じゃないよ」

ミグは駆けて行く、ナツキの背中にかつての仲間達の姿を重ねる。ひねくれている反面、真正直で、そして、どこまでも優しかった仲間の笑顔を思い出す。

もはや、この世界のどこにもいない。とこしえの安寧の世界へと旅立って行った大切な友。

「全然、似ていないんだけどね」

ポツリとこぼした。

「巫女様って柄じゃねえよな。あの子は」

まだ、いたのか。ギロリとクレイを睨み付ける。

「夢を見させてくれるっていうか。そんな気になる。俺達みたいな冒険者でも、ここにいてもいいんだ。必要とされてるんだって思っちまう」

冒険者は半端もの、はぐれもの寄せ集めだ。だからこそ、仲間を大事にするし、結束も固い。

けれどやはり、寄せ集めの集団だから、綻びが出来れば、あっけなく崩れてしまう。

「いや、違うな。居心地がいいんだ。あの子の側は」

「あんた…。随分と年が離れてるよ?」

意地悪な気分になって、ちょっとだけからかってやった。

「馬鹿やろ。そんなんじゃねえ。ま、もし、俺に娘がいたら、あんなだったかなって思ってよ」

ミグはクレイの過去を知らない。あたしだって、クレイがギルド長だから話しただけで、他の仲間にはおいそれと過去を話したりしない。

もしかしたら、クレイにはナツキくらいの年の娘がいる、いや、いたのかも知れない。

詮索するつもりはないけれど。

「何にしろ、面白そうだと思ったから、今回の話に乗っただけ。あんただって、そうだろ?」

湖水竜は冒険者の友。もちろん、その安否は気がかりだ。けれど、警鐘を鳴らすだけで自らが危険をおかしてまで探索をするつもりなどなかった。

「ま、成り行きよ」

「ふん。そう言うことにしといてやるよ」


実際に洞窟に入ってみた感想。案外、普通。今のところ、魔獣に出くわさないでいる。結構な距離を歩いた気はするのだけど。

「この辺はまだ浅いからね。魔獣はもっと奥の方にいる」

とは、ミグ姐さん。

「ちゃんといるよ〜」

「小さいのがゴロゴロと〜」

大人数の移動であることと騎獣もいるので、小さい魔獣は隠れているそうだ。

「大きいのがいる〜」

「ね。いるね〜」

ん?どう言うこと?と、尋ねるまでもなかった。そいつは目の前に現れた。

ミミズの化け物、いや、長虫か。体長二メートルくらい、ぬらぬらとした体表に牙がびっしりと生え揃った丸い口。そこからだらだらとヨダレを垂れ流していた。

はい。私達、そいつの獲物決定!

うねうねと体をくねらせたそいつは一匹ではなかった。数えるのも面倒なくらい、いた。

ひゃ、百匹くらい?

ど、どどどどどーするの?

《焔 爆》

低い詠唱の声が響く。

すると洞窟内で突然、大爆発が起こった。

ダ、ダイナマイト!違う、クレイさんの炎魔法だ。

続いて爆発が吹き荒れるかと身構えた。が、来ない。セーランが風魔法で風の流れを押さえ込み、流したからだ。

ついでに護衛騎士達が防御の結界を張っていた。

「どうよ!」

クレイさんが得意そうに振り向く。目の前に群れていたミミズもどきが爆散していた。

おえ。ちょっと、ちぎれたモロモロが残ってるんですけど。

それなのにどうよ!って…。こんな洞窟内で爆発なんて起こしたら、洞窟が崩れて大変な事態を引き起こしていたかも知れないのに子供みたいに笑っている。

「ふざけるな!何の相談もせず、洞窟内で大規模な爆発を起こすなど、貴様正気か!」

案の定、カイルにどやしつけられていた。さもありなん。

「怪我はないか?」

私を体で庇うようにして立っていたヴァンが心配そうに見下ろしていた。

「大丈夫。びっくりしたけど」

ホント、びっくりだわ。クレイさんの《煉獄の…》って二つ名はこう言う意味かと納得。

「冒険者は火力制限を考えないのか?」

ヴァンもイライラとした表情でクレイさんを遠くから眺める。当の本人はカイルに説教され続けていた。

「あー。悪かったね。あの馬鹿、あれで色々とやらかしてて」

「炎魔法は制御が難しい。おいそれと使っていいものではないぞ?」

「だよね?」

ヴァンの指摘にミグ姉さんも困ったように同意する。

「まあ、助かったのは助かったが」

お堅い騎士達ならば、一匹ごと確実に退治していただろう。一瞬で炎で消し去るなど、冒険者だから出来るとも言える。

そう言う意味でも正反対な立ち位置であった。

「火力の制限もある程度出来ているようだし、この先も使えないこともないが…」

考え込むような呟きに、

「だよな!」

と、ひょっとクレイさんがカイルの背から顔を覗かせる。

こら!お説教はきちんと受けなさい!

ああ、もう。また、怒らせた。


















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