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異世界でもふっと婚活  作者: NAGI
第三章 聖領編
112/210

冒険者ギルドへ行こう

寒い冬がやって来た。神殿のある敷地内は、ヒルダさんの魔力に守られているので、雪が積もることはないが、周囲は薄っすらと雪化粧に覆われている。

「はあ〜、冷えると思ったら雪かあ」

窓から外を眺める。とても開け放とうと言う気にはならない。

「昨夜遅くから降り始めたようですよ?私も今朝起きて教えてもらったのですけど」

神殿では交替で夜間のお務めがある。火急の要件に対応するためと神殿内の見回りを兼ねる。

神殿の外は騎士が巡回する。城壁で守られているが、神殿に侵入する不埒ものが全くいない訳ではない。

ヒルダさんの熱狂的な信者とか、自分の行動を制御出来ない輩はいつの世にもいるものだ。

「あ、そう言えば。かねてから、お尋ねであった冒険者が帰って来たようですよ」

「え?ホントに?じゃあ、今日にでも会いに行ってみようか?」

「そうですね…。あの者をこちらに呼び出すのは、いささか都合が悪うございますし」

そう、『煉獄の』とか言う、二つ名を持った冒険者が聖領に帰って来たのだ。

「クレイでしたね?シセン殿からお礼を言って欲しいと頼まれた者の名前は」

「そうそう。会うのが楽しみだねえ」

「そのような…。たかが賞金稼ぎでございますよ?」

アリーサが露骨な嫌悪を示す。

冒険者は聖領、ううん、神殿の神官から殊に嫌われている。理由は依頼を受けて暗殺を請け負う輩や、許可なく遺跡を暴いて宝物を持ち去る輩など犯罪者が少なからずいるからだ。

もちろん、全員がそんな非道を行っている訳がない。大抵が正当な依頼を受けて、魔獣を討伐したり、薬草の採集や商隊の護衛などを行ったりする全うな人達だ。

ただまあ、破天荒であったり、粗野であったり、色々と見かけや行動に問題はあるらしい。

私は会ったことがないので、あくまで噂によるとだが。

「クレイさんはシセンさんの娘さんを助けた恩人じゃない。最初から、悪い人だと決めつけるのはどうかと思うよ?」

「私だって、噂や見かけで判断したりしません。ただ、これまでの経験上、ろくな人間としか会ったことがございませんから」

「え?聖領には冒険者ギルドがなくて、大っぴらに歩いてはいないんでしょ?なのに、そんなに会ったことがあるの?」

「それは…。ずっと昔の、私が北領にいた時分のことですから…」

途端に歯切れが悪くなる。

アリーサは自分のことを話したがらない。特に北領にいた頃のことを決して話そうとはしない。

あの地は色々と問題を抱えていると聞いているので、きっと辛いことがあったに違いない。

「まあ、アリーサの会った冒険者が悪い人ばかりだったのは残念だけど、クレイさんはいい人かも知れないよ?

どうする?一緒に行く?」

騎士の護衛がいれば、アリーサを無理に連れて行く必要はない。だから、聞いてみた。

「私は…、ご遠慮いたします」

冒険者に余程嫌な思い出があるようだ。無理強いはすまい。

「いいって、いいって。それじゃ、誰を連れていこうかなあ?」

つい先日、ヴァンに頼み事をしたばかりだし、連続は駄目だよね。護衛任務以外の私的な用件だもん。

「でしたら…」

彼女が推薦したのは、意外な人物だった。

「あたしみたいなもので構わないの?」

なんとノア君のお母さん、シルフさんだ。

「まあ、旦那が冒険者崩れだっから、多少の面識はあるけどさ」

幼稚園で下働きをしているシルフさんに事情を言って、連れ出した。その後、こうして案内されながら聖領の下町を歩いている。

聖領は神殿に近いほど裕福な者で占められ、遠くなるに連れて貧しいもので占められる。

ここはその中でも特に貧しい人達が住む通りだと言う。

「お綺麗な巫女様に足をお運びいただくような場所じゃないんだけどさ。お捜しのギルドがここにあるんじゃ、仕方ないよね」

これでも随分とマシなのだそうだ。冬場だから臭いもあまり感じられない。これが、夏場だと色々な臭いが混ざりあって、慣れない者は吐いたりするそうだ。

「寒いから野宿する者もいないし、キレイなもんだよ?」

そう言うけど、なかなかですよ?

道端には何やら動物らしきものの死骸が転がり、ネズミが群がっているし、残飯を野良犬や野良猫があさり、そこいら中に汚物が散乱している。

私がこれまで見ていた聖領って何だったの?と、疑問がわくような光景だ。

酒場も多くて、矯声や酔っ払いの声などが聞こえてくる。

えっと、まだ真っ昼間だけど?もう、飲んだくれている人がいるのかな?働かないの?

「昼夜は関係ないよ。夜から働きに出る者もいるし、旅人なんかが立ち寄ったりしているしね。まあ、騒ぐのが好きなのさ」

こうして見ると以前、お邪魔したシルフさんの店はかなりお上品な部類だったような気がする。

「ああ、まあね。あそこは商人とか裕福な客層相手の店だから。こことは違うよ?あたしも前はこの辺りがヤサだったけどさ」

ふい〜。こんな場所で働いていたの?

「平民相手の店はどこもこんなもんだよ?大っぴらに娼館がないだけ、他所よりよっぽど治安もいいし」

「でも、隠れてそういうことをしている店もあるんだよね?」

「あたしの口からありますなんて、言えないよ。けど、それで家族の口を養うことが出来るんなら、いいも悪いもないさ」

深い言葉に返す言葉もない。

そうして、シルフさんの先導で私達は賑やかな通りを抜けた。その先は、もう少しまともそうだった。

こじんまりとした商店や道具屋などが並んでいる。

結局、護衛はいつもの三人だ。

ラベルかセーランだけでも良かったのだが、私が冒険者ギルドに行くと聞いたヴァンが自分も供をすると言って聞かなかったのだ。

「あんな場所に一人だけを連れて行くなど、とんでもない!俺も付いて行きます」

黒い毛並みを逆立てて、詰め寄られたので仕方なくそうした。

ヴァン曰く、冒険者ギルドとは「領地に属さない治外法権の組織」であり、独自のルールに従って運営されているとのこと。

冒険者は領民ではない。正しくは流民だ。

どこにも属さず、誰にも指図されない。もちろん神殿に睨まれれば、ここで生活出来なくなるのは同じたが。

領によって運営の仕方も異なるらしい。領主に従っているギルドもあれば、一線を画したギルドもある。

そして、ここ聖領のギルドはあってないものとして存在する、言わば、地下組織なのだ。

「あまり期待しないで下さいね。ろくなものじゃないですから」

ふん?どう言うこと?

「ここじゃ、大っぴらに動けない分、何と言うか、はみ出し者が集まった、みたいな?

うちの死んだ亭主も、ついていけないってギルドを抜けて、フリーの傭兵になったくらいで」

そんなにひどいの?

「あ!勘違いしないで下さいな!乱暴者ばかりだーとかじゃなくて、どっかネジが外れてるんですよ」

いや、余計に悪くない?逆にビビっちゃうね。はみ出し者、アウトローの集まりかあ。

「着きました。ここが冒険者ギルド聖領支部です」

「えっと、ここなの?本当に?」

そこはどこをどう見ても、洋服屋さんだった。結構、ファンシー路線の。

「表向きは服屋でギルドは地下にあるんです」

カランコロンとドアベルを鳴らし、シルフさんが勝手知ったるって感じで中へと入っていく。

私はおつかなびっくり、それに続いた。

外から見てもファンシーだったけど、中はもっとスゴかった。

えーと、ゴスロリって言うの?一昔前に流行った。あれがカラフルな彩りで再構築された感じ?

こうなるとゴスロリじゃないな、あれだよ。魔法少女だよ。

「あら!いらっしゃ〜い。久しぶりねぇ」

巨漢だ。女性に対して失礼なんだけど、巨漢としか言い表せない。筋肉ムキムキで腕だって細身の女性のウエストくらいある。そんな人が魔法少女の格好をしている…。

「お連れさん?かわいい子じゃな〜い」

はう。捕まっちゃった。肩を片手でホールドされる。

「うーん。黒髪に黒い目かあ。逆にシックな方がいいかもね」

そうして私に合わせてきたのは、茶色の水玉模様のワンピース。魔法少女vr.。

え?シックって言ったよね?

「うーん。地味かも。あー、そっか。顔立ちが地味だから、余計だわ」

面と向かってディスられた。

「ちょ、ちょっと!その子はあたしの恩人なんだから、雑に扱わないでよ!」

「あら?そうなの?恩人ってなあに?こんな子供が?」

「色々あったのよ。あたしは職を紹介してもらったり、ノアと一緒に暮らせるようにしてもらったり」

「ノアちゃん?あんたが産んだ?」

「そうよ。旦那の忘れ形見」

「ガンゼの子供かあ。もしかして…」

「そ、熊系獣人」

「わあ!かわいいでしょうねえ。獣人の子供は全員かわいいけど、特に熊!ふわふわもこもこなのよねえ」

あー、分かる。分かるよ!あの、ふわもこは凶器だよ。それにプニプニの肉球…。

「あんた、分かってるじゃない!そうよ、あの肉球の手触りたるや…。至福」

ガシッと握手を交わした。お互いに同士を見つけて喜び合う。

そんな私達を周りが冷めた目で見ていた。

「ええっ、と。ナツキ様はノアに触るの禁止」

シルフさんってば、ひどいよ!

「ところで、さ。そっちの人達、騎士様よね?あんたとどういう関わり合いな訳?」

ヴァン達がさっと身構える。

「神殿は関係ないって!クレイに用があるって」

「クレイ?あいつに?あの馬鹿、何かやらかしたの?」

「いえいえ、違うんです。私達は単に言伝てを頼まれただけで」

そう言って簡単に説明する。

「へええ。義理堅いわねえ。そう言うことなら、特別に案内してあげるわ。一見さんはお断りなんだけと」

何やら京都の花街のようなルールがあるんだね。

あれ?そう言えば、案内って?

「ミグ姉さんはギルドの受付なのよ」

受付?受付嬢ってこと?

「そ、よろしくね」

元冒険者であるミグ姉さんが、天井から吊り下げられたランプの紐を引っ張る。

すると、奥の部屋の壁が音をたてて開いた。隠し扉だ。

「さ、ここからギルドに行けるわ」

そうして、ぐるりと私達を見回した。

「あんた達四人は好きにしたらいいわ。けど、シルフはダメ。荒くれの中に餌を放り込むようなものだもの。彼女の相手はあたしがしとくから」

餌って…。それは女性だからってこと?

じゃあ、私も危ないんじゃ…。うっすらと身の危険を感じる。

「はあ?あんたに誰がその気になるってーの?ウチの連中にロリコンはいないわよ!」

まさかのお子様認定!

「もちっと女を磨いてからにしな」

うう。ダメ出しまで。

確かに私はお子様体型ですよ!プックリお腹で悪いか!

プンスカしつつ階段を降りる私に、

「さっきのは単なる軽口ですよ」

と、セーランが慰めの言葉をかけてきた。

「そうですよ!それにぽっちゃりな方がかわいいですよ!」

ラベル、ぽっちゃりは余計だよ?

いいって!余計に惨めになる。

「確かに。彼女はナツキ様に気付いていたようだ」

とはヴァン。

「気付いてたって、何?幼児体型に?」

「は?馬鹿なことを…!」

呆れたようにヴァンが言うと、

「あなたが巫女だと言うことにです」

先頭を行くセーランが正解を答えた。

「ギルドは情報収集に長けた組織ですから、とっくに我々の来訪を察知していたことでしょう」

小さな灯りが灯る地下への階段をさらに下って行く。一体どこまであるのか。地下三階くらいはありそうだ。

そうこうしているうちに扉が現れた。黒っぽい鉄の扉だ。

「…開けます」

ギイイイと錆びた開閉音とともに扉が開かれる。そこは…。

「いらっゃいませ!冒険者ギルド聖領支部へようこそ!」

パパパン!とクラッカー音もどきが鳴り響く。

は?どゆこと?

「巫女様が降臨するたあ、末代までの語り草でい!」

何故にべらんめえ調?

「わ、わわわ!薔薇姫様の魂の伴侶だあ!」

おっと、精霊がいる。聖領にもいたんだ。

「おうおう!ちっこいのに聖領の議長様たあ、偉いもんだ。その権力で俺っち達を聖領公認にしてもらえねえか?」

こちらはバッファローが原型だろうか。大柄な牛系獣人だ。

「よう。ギルド長のグレンだ。俺を捜してるって話しだが、早速、要件を聞こうじゃないか」

背中に大きな戦斧を担いだ、一際大きな人が私の目の前に立った。濃い紫色の髪と茶色の目をしている中年男性だ。

人族だよね?けど、獣人と変わらない体躯の持ち主だ。ログさんみたいに半獣なのだろうか?

「クレイさんも半分獣人の血が流れているの?」

知りたいと思ったことを率直に尋ねた。

彼は大きく目を見開いた。

「は、っはあ。こりゃ、いいや。まず、俺が半獣人かどうかが気になるって?」

「ええと。南領で混血の人に会ったので。その人は見た目がほとんど人と変わりがなくて。

それで、あなたもそうなのかなって」

「いや、俺の両親は二人とも人だ。もしかしたら、じいさんあたりに獣人の血が混じっていたかも知れんが」

そう言いながら、私の顔を面白そうに覗き込む。まるでおもちゃを見つけた少年のように目を輝かせながら。

「おじいさん?ご両親から詳しく聞いていないの?」

「ああ。俺の母親は養護院で俺を産むとすぐに死んだからな」

そうだったのか。無神経に聞いてごめんなさい。

「いいって。俺を育ててくれたのも養護院のばあさん達だからな!」

ばあさん?

「神官のばあさん。あの頃、俺達の間で鬼婆みたいに恐れられていた神官がいてな。セルマって言うんだが。知ってるか?」

もう、とっくに引退して余生をのんびり過ごしているはずだが。

「ええと。ごめんなさい。多分、合ってると思うのだけど、セルマさんなら職業訓練所で所長をしてるけど…」

「はああっ?あのばあさん、まだ現役かよ!」

近くにいたクレイさんと同年輩くらいの獣人達も

「おったまげたなー。俺達がガキの時分でも結構なばあさんだったのによお。こりゃ、祝い酒でも持っていかねえとな!」

「馬鹿か!俺達が大手を振って会いに行けるかよ」

ギャハハハハハと爆笑。

「いいと思いますよ?昔馴染みに会いに行くだけだもの」

「そうなのか?」

「聖領で冒険者を認めていないようだけど、一個人として会うなら、誰も咎めたりしませんよ?」

少なくとも私は。職業訓練所は私の管轄だし、構わない。

「そ、そうか?それなら、会いに行こっかな」

赤毛のモヒカン頭のおじさんが、もじもじしながらそう言うと、

「えー、じゃあ俺もそうするか」

牛系獣人さんもソワソワしだした。

「仕方ねえな!セルマばあさんに恩がある奴ら、全員で行くとするか!」

クレイさんがそう音頭をとると、数人の中年おじさん達が一斉に「おお!」と、嬉しそうに握り拳を突き上げた。

よっぽど嬉しいんだろうな。

私はおじさん達を微笑ましく見つめた。













聖領編、開始です。次回は北領に行く予定だったのですが、テーマがものすごく重いので真冬に暗い話はダメだろと思い、どうしようかなーと悩んでいたら、この話が生まれました。


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