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異世界でもふっと婚活  作者: NAGI
第二章 南領編
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おめでとう!

何やら触れてはいけない扉を開けてしまったような気がするので、話題を自発的に変える。

「とにかく!冬はもうすぐそこですから、聖領でも冬支度を本格的に行いましょう!」

魔法で制御されているとは言え、四季はちゃんと存在する。北領ほどではないが、聖領の冬もなかなかに大変なのだ。

山の中腹に沿って街が広がっているから、平野部よりと寒さが厳しいし、決して少なくない雪も積もる。

「ヒルダさんから、今度の議会で提案すべきことはありますか?」

私が仕事を肩代わりする前はヒルダさんが議長だった。先輩としての意見も聞いておきたい。

「そうですわね。このところ、東領の商人が頻繁に訪れているようですから、そのあたりの交渉や自領の商人との調整など必要ではないかしら?」

「へえ、東領とそんなに交易が盛んなんですか?そう言えば、あちらは商売上手らしいですね」

領主も食えない感じだったし、お国(正確には領地だけど)柄かね。

「商人ばかりではございませんよ?相変わらず、レキ殿も頻繁に訪れているようですわ」

あー、あの人。懲りもせずちょくちょく来てるの?

東領は領主家のゴタゴタはともかく、平和そうだからな〜。

長年の家庭不和も解決に向かいつつあるようだし、もっと自領に目を向けるとか、お嫁さんを捜すとかすればいいのに。

「ふふ、お嫁さんは捜しているようですよ?」

へえ?そうなんだ。ラベルに跡を継いでもらいたいとか言っていたけど、当人にその気はないようで難航している。

「いい人が見つかるといいですね」

「うふふ。どうやら、これぞと言う方は見つかっているのだけれど、なかなか難しいようですよ?」

ふうん。まあ、家柄とか色々大変そうだものね。私には関係ないから、気長にやってねって感じだ。

「関係がなくもないのだけれど…。そうね、あなたがそう仰るのなら」

意味ありげに言葉を濁す。

関係って、私が主だから?ラベルが私の三の騎士だからって、親族との関わり合いまでタッチしないよ?

すると、ヒルダさんから、かわいそうな子を見るような眼差しを向けられた。

え?どうして?

「そうそう!提案ですってね?そうねえ、どれがいいかしら?」

あれ?はぐらかされた?

それよりも、どれがってそんなにあるの?私、旅から帰ったばかりなんだけど。

「時間は有限ですけれど、自然は待ってはくれませんことよ?」

はい、ごもっとも。仰る通りです。冬は間近ですもんね!

去年はぬくぬくと楽をさせてもらった分、しっかり働かせてもらいます!

こうして南領での出来事及び成果等の報告をひとまず終えた。


翌日から早速たまった仕事や新たな事業への取り組みなど、議長としての仕事を始める。

出発前、医療院の建設は土台部分など基礎部分だけだったのが、おおよその形になっている。

この世界では重機がない分、人力や魔法頼みだ。

ただし、魔力を持つからと言って頻繁に使用していたら、魔力不足で体調を崩す羽目にもなりかねない。

ヒルダさんや領主に連なる家系の人間だって、考えて使用しているのだ。

たまに己の力を過信したり、無茶な使い方をする者が緊急搬送(救急車はないが)されてくるらしい。

馬鹿だよね〜。

大がかりな建築物を建設する場合、土台など骨組みとする大型の岩やレンガの運搬、森から切り出してきた柱となる材木などの搬入に魔法を程よく利用する。

後の細かな作業は職人さん達の出番だ。彼らも要所要所で魔法を使う。壁に色を塗る際、魔法で何個ものハケを操るとか。

もしかしたら、竣工が早まるのかも知れないと密かに期待している。その方が皆も助かるものね。

そんな風にサクサクと仕事をこなしていく。

金の卵の流通や銭湯の建設に横やりを入れる者もなく、あっさりと議会で採決された。

どうしたんだろう?いつもだったら、一言物申す!と反対意見を言ってきた、おじさん達がこぞって作り笑顔で賛成してくれる。

まさか、ヒルダさんが圧力をかけたのでは?と疑ったら、アリーサが真相を暴露した。

「ヒルダ様はそれほど暇ではございません。ピアレット様が動かれたのでしょう」

神殿の実質No.2と目されるピアさんは、議会に顔が利く。

何故なら、忙しいヒルダさんに代わってピアさんが牛耳って?いたと言って過言ではないらしく、ヒルダさんからそれとなく耳打ちされ、怒り心頭だった…、らしい。

かくも尊い巫女様に何たる非礼か!と、自分より大分年上のおじさん達を捕まえて説教したとか、しないとか。

うん。怒らせてはいけない人っているよね!


仕事に疲れたら、私はトールの住んでいる寮の個室を抜き打ち訪問する。

半ば習慣となりつつあるのが自分で怖い。

だってさー。私は涙をのんでお別れしたばかりなのに、ちゃっかりくっつくとか酷くない?

これは純然たる主としての監督責任なのだと表向きの理由を盾に、ソールの邪魔をすること度々。

トールは突然どうしたのだろう?と困惑しつつ、それでも時には手料理を振る舞ってくれる。

美味しいんだよね、これがまた。これも楽しみの一つだ。

今日も仕事終わりにトール達の住む寮へと足を運ぶ。

護衛はセーランである。ヴァンやアリーサが一緒の時は怒られるのでやらない。

ラベルはお子様だからなー。あえて遠回りとなる道を選んで、散歩して帰るのが常だ。

セーランは寮の前で待機だ。

「トール、いる?」

勝手知ったるなんとやらで、返事も待たずに扉を開け放つ。鍵は管理人から借用したものだ。

「寮内の不純異性交遊は禁止だよ!」

あ、間違った。異性じゃない。同性だった。

「って!どーでもいいか!」

ズカズカと、上がり込む。トイレとシャワーブース(これは私の提案)の並んだ短い廊下の先に一部屋。いわゆるワンルームだ。

「っっっっ!?」

部屋の中の光景にフリーズすること、しばし。

トール、あんたがそっちだったの?

仰向けでこちらを見るトールは明らかに動転した顔で、ohと言わんばかりだ。

それに対してソールはふふんと勝ち誇った顔をしていた。

あの、私は別に恋敵でも何でもないよ?ただのジェラ(ジェラシー)剥き出しおばさんですよ?

もふもふとしたトールに馬乗りになったソールの姿がそこにあった。

美女(美男)とウサギ…。絵ずらがシュールだ。

「えーと。ごゆっくり?」

タタタタタタタッ!バタンッ!

部屋の扉を乱暴に閉める。

「ふは!。やばかった」

断じて、他人の情事を盗み見る趣味なない。

こうなったら、彼らの番成立を祝ってパーティーでもしてやるか…。

私は背中に哀愁を密かに漂わせ、密会現場を後にした。

私の去った直後に、

「ま、待って!ちが、違うんです〜!はふう!」

と、雄叫ぶトールの声は届かなかった。

その二日後、私はヴァンら仲間とともに、

『トール&ソール、番おめでとう!』

と書かれた垂れ幕を用意し、サプライズパーティーを敢行した。

「え?えええええー!」

トールが四十センチ以上は高く、垂直に飛び上がった。これが体力測定だったら、いい値を叩き出してたよ。

「な、ななななな!」

さっきから一文字ずつしかしゃべってないぞ?

そうか、そうか。そんなに嬉しいのか。

「おめでとう!お幸せに」

私だって他人の幸せを祝えるんだぞ?こんにゃろ。

「おめでとう。二人に我々三人から贈り物だ」

ヴァンが男性陣を代表して、小さな包みを手渡す。

「気を遣っていただいて、ありがとうございます」

新妻ならぬ新夫のソールが満面の笑顔で受け取った。中身はあとでと釘を指されていた。

何だろう、中身が気になる。

「私からはこちらを…」

アリーサが贈ったのは小粋なランタンだ。ムード作りに最適だね!

「はい!これ、良かったら使ってね」

私は自分で作製したトール&ソール人形を贈る。

デフォルメされたウサギとツバメのぬいぐるみだ。

「まあ!可愛らしい」

お世辞じゃなく、喜んでくれたらしい。

私はチマチマとした裁縫や編み物など根気がいるのは苦手だが、こうしたぬいぐるみ作りは好きだ。

本人には内緒で、トールの実際の毛玉を少々利用してある。流石に全体は無理なので、しっぽ部分だけだが。

ソールがしっぽに頬ずりしている。

え?まさか気付いたの?

「新居に飾らせていただきます」

彼らの住んでいた寮は、独身寮なので番は不可。あとシングルマザーのための寮があるが、ここは子供と女性のみだから当然不可。

二人とも働いているのだから、個人で借家か賃貸を探してもらうしかない。

流石に新築一軒家は無理だろう。いや、待てよ。そう言えばトールはいいとこのボンボンだった。

「住まいの当てはあるの?」

「ええ。妻帯した騎士様方の借家に空きがあるようなので」

そっか。そんなところまで話は進んでいたんだね。

私ったら、そんな仲とはつゆ知らず。邪魔ばっかりしてゴメンね。

そっかー。遂に仲間のなかで最初のカップル誕生か。

こうなったら、とことんお祝いしてやるぞ!

皆もいいよね!

「おめでとう!幸せになりなよ」

「ヴオ!」

とは、ノア君親子だ。

他にも小さなお子さん連れがいて、ほのぼのする。

寮の独身男性はやっかみ半分、

「こんな美人とうまいことやりやがって!」

と、手荒く祝福する。

パーティーは子供を寝かせにお母さん達が帰っても続いた。

ラベルってば、またあんなに酔っ払って、ちゃんと起きられるのか心配だ。

宴は続く。

もう一人の主役を置きざりにして。

トールがなまじ柔毛に覆われた兎系獣人であったため、誰も気付かなかった。

彼が最初から最後まで、顔面蒼白であったことに。

トールはノーマルなウサギさんで、いつか自分と同じ兎系のカワイイお嫁さんをもらう予定だった。

けれど、気付いたら外堀をがっちり埋められて、身動きとれなくなってしまっていただけとは誰も知らない。


あれ?誰が主役だったっけと思う、今日この頃です。

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