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異世界でもふっと婚活  作者: NAGI
第二章 南領編
109/210

こんな所に信者が!

私達は同じ悲しみを知る者同士であった。言葉はなくとも、互いに共感し合う。

時には慰め合い、励まし合うことも必要だろうが、この瞬間、私達に言葉は必要なかった。

私の知らない、ヒルダさんの亡くなった旦那様や息子さんについて、ヒルダさんはこれ以上語ろうとはしなかった。

私もそれで良かった。

話したくない、聞きたくないということではなく、今はその時ではないのだと理解していたから。

いつか、そうしたいと思える時がきたら、ヒルダさんは話してくれるだろうし、私も聞いてみたい。

私もそんな風に両親の思い出を語るのは、今でもなお、苦しみを伴う。けれど、この世界に転移したことで、新しい家族を得た。

次に、二人のことを話す機会があれば、少しの痛みとともに懐かしく語りあえると思う。

その時までお預けだ。時間は十分にある…、はずだ。

ヒルダさんの告げた、大いなる災害『次元の大波』が、私達を引き裂くことがなければ。

不安は大きく膨れ上がるばかりだ。だって、ヒルダさんでさえ抗えないのだ。どれほどのものなのだろうか。

「不安なのは分かります。これまでの長い歴史の間、多くの犠牲を払って、なんとか食い止めてきたのです」

「いつ来るとか、周期とかは判明していないのですよね?」

「ええ。けれど、百年のうち二度来ることはありません。おおよそで百年後であったり、二百年後であったり。

そして、さらに間が開くことはあっても三百年を越えることはありません」

前回から二百年ほどの年月が流れた。次がいつ訪れてもおかしくないのだ。

「普段から不測の事態に対応出来るよう、聖領はもちろん、各領においても準備は怠っておりません。

一日でも長く平穏が続くことを願っていますが、あなたが知らないままでいるのはよくないので、こうしてお話ししたのです」

うん、そうだね。もし、急に魔獣の群れに襲われたら、そりゃ大パニックに陥るだろうね。

知りたくなかったけど、教えておいてもらって良かった、のかな?

「今は心に留めておく程度でよろしいのですよ?あなたにまで危難が及ぶのは、それこそ最終局面のことでしょうし。わたくしがさせません」

はう。カッコいい。ヒルダさんはもの凄い美女であるだけでなく、男前だね。

もし、ヒルダさんが男性だったら、迷わず夫に選んでるよ。

「まあ!光栄ですわ。けれど、血が濃すぎるのは駄目なのです。レーヴェナータの血とキーラの血が合わさるのは、半ば禁忌なのですわ」

え?それってどう言う?

私の疑問に答えてはくれなかった。ただ、ヒルダさんは悲しそうに顔を曇らせた。

ああ…。聞いてはいけないんだな。それだけで私は納得する。

「出来るなら、あなたは知らないままでいて欲しいのです。これは単なる、わたくしの我が儘なのかも知れませんが」

レーヴェナータの直系の血筋と地球から転移した巫女との間に生まれる子供は、その近すぎる、いや、強すぎる力を継承するためか、悲劇しか生まない。

領主家の一族など、ある程度薄まった家系の者が相手であれば問題ないが、神官長の生んだ子供は強い魔力を持つ者が多い。

かつて、そうした婚姻を結んだ結果、起こった悲劇を忘れるにはまだ早すぎた。

「もし、お望みであればお話ししますが…」

「いや!いいです、いいです!もう、一杯一杯なので!」

ホントにもう!次元の大波すら、完全に理解した訳ではないので!

「そうですか。わたくしもその方が有難いくらいですわ」

にこっと微笑んだ。

えー、何だろう。そこまで言いたくない過去って。好奇心がわくのだけれど。

「それよりもお土産って何ですの?もっと楽しいお話を聞かせて下さいませ!」

「あ!そうだ!ヒルダさんに是非にって言われてたんでした。気を使遣って運ぶのは結構大変だったんですよ?

街道の辺りで金の卵を産む鶏を育てている村があって…」

それからは旅の思い出と言うか、お土産話に興じた。

特にルウちゃんの件は、大層な食いつきだった。

「まあ!まあ!まあ!火竜ですって!わたくし、見たことがございませんわ!」

ヒルダさんの出身は西領なのだそうだ。幼少期はあちらで過ごしたとのこと。西領には竜ではなく、神聖な霊獣がいるとのこと。

「照れ屋さんで滅多に姿を見せては下さいませんの。わたくしも一度会っただけですわ。けれど、神々しいお姿でしたわ」

ふうん。私も会ってみたいな。

あ!でも、しばらくは聖領でのんびりさせて下さい。医療院の開設やら、スーパー銭湯の開設やら、色々とあるので!

「まあ…。その銭、湯?なるものは面白そうですわね」

わたくしも、一人でまったり出来る浴場は好きです。

って、私と違って彼女の場合、お付きが何人も侍っているのだけれど。気にはならないんだね。

根っからのお姫様はお付きが何人いても、もはや背景みたいなものらしい。

「議会で承認をしてもらったら、着工したいと思います。まずは庶民の銭湯のような感じから始めて、好評ならスーパー銭湯を作ってもいいかなって」

「スーパー?がつくとつかないで、どんな違いがありますの?何だか強そうではありますけど…」

ぷふっ。それってスーパー○ンをイメージしてるの?

「スーパーがつくと、多種多様な浴室やら食事処やらあって、一日中でも楽しめる感じですね」

「まあ!楽しそうですわね」

え?ヒルダさんも入る気なの?

そんなの、一国のお姫様が銭湯に来るみたいなものなんじゃ…。

私は構わないけれど、庶民の皆さんはヒルダさんの裸体(断じて嫌らしい意味ではない!一級の芸術品だと言う意味だ)に耐えられるのかどうか…。

私も一緒に入ることがあっても、いまだに視線を反らしているくらいだ。

「冬が来る前に終わらせたいですね。先ずは庶民専用ですから、ヒルダさんは神殿で我慢して下さい」

それでも、十分贅沢だからね!自宅にマー○イオン型蛇口がある家がどれだけあると言うのか。

「それよりも医療院ですよ。玄鳥の一族から薬師を招いたので、薬師の育成にも手を貸してくださるそうですよ!」

ソールのことを話す。

「大したお手柄ですわ!わたくしも鼻が高いですわ!」

引きこもり?だった玄鳥の一族を引っ張って来た功績は、私の評価に直結するらしい。

経費ばかり嵩む、穀潰しの巫女だと言われなくてすむ。良かった、良かった。

「は?どういうことですの?誰がそのような、愚かな讒言を口にしているのでしょう?」

ひいい!こわっ、怖いよ!

「あー、あれです!かも知れないってだけです!」

私は慌てて否定する。嘘だけど。

聖領で様々な改革を行ったなかで、不満に思う輩もいたのだ。特に女性の社会進出などで。

女性は家に引っ込んでろ!とか言うのはまだしも、技能のない女性をいかがわしい場所で働かせたい連中にとって職業訓練所は不要の長物らしい。

私としては「ふざけんな!」と一喝したいところだ。

議会は清廉潔白な人物ばかりではない。権力者=弱者を食い物にする輩と言う図式も存在するのだ。

私は決して屈しないけどね!

「まあ…。そうですか。そうおっしゃるなら、心に留めておくだけにいたしますわ」

留めておくだけで何もしないとは言いきれませんけど。

いやいや、そこは止めておいて下さい!

「いつまでも守られっぱなしでは、私の成長の妨げになりますし。ね!」

そう言うと、渋々納得してくれた。

はあー、良かった。一つの命が救われたよ!

「でも、目に余るようでしたら、こちらも黙っておりませんから。そこは了承して下さいませ」

笑って威圧しないで下さい。怖いですよ?

「そうそう。玄鳥の一族と言えば…」

ソールとトールの恋ばなにちょこっと振れてみる。

「まあああああ!そうですの?あのトールに恋人が?」

予想に反して、凄く食いついた。

「ナツキ様?ナツキ様はこちらにいらして、さほど年数が経っておりませんから分からないでしょうけれど、神殿ほど恋と無縁な場所はございませんのよ?」

まあ、神官は未婚が条件でしょうから、そうでしょうね。神官を辞めることは簡単だ。辞めたいとヒルダさんに申告しさえすればいいのだから。

誰かに恋をして、その成就を願うことは禁忌ではない。

「神官になるのは大層困難なのです。養護院にいる孤児が多いのですが、全てを採用する訳ではございません。

選抜され、厳選され、辛い研鑽を積んでやっと一人前となるのです。生半可な覚悟ではなれません。

恋如きで辞められるなら、最初からなっていませんよ?」

如き、ですか?そこまでストイックなのも、どうかと。

ギチギチ過ぎると変な方向に暴走しそうだ。なんか映画で見たことこがある。戒律を犯した自分を鞭で痛めつけるとか。

「まさか!そんなことあるはずないでしょう?ただまあ、変な方向に思考がぶれているのは認めますが」

えーと。まさか、それって…。

「殿方同士の恋愛に少々、いえ、かなり傾倒していると言いますか…」

ああーっ!こんな所にBL信者が!

「ですからその…。トールとソールの恋と言うか、種族の違いと言うか。その辺りに熱狂する者がいるかも知れないと言うか」

え?それって自分ですよね?

ヒルダさんてば、十分リア充を満喫出来るでしょうに。何故?

「夫はもう必要ございませんの。女の子を一人だけとは言え、産んだのですから。誰からもとやかく言われたくございません!」

ど、どうしたの?そんなに嫌なことがあったの?

はあっと大袈裟なくらい、大きなため息をついて、

「この世の中に親類縁者ほど、厄介な代物はございませんわ。

ナツキ様もその辺りはきちんと考慮に入れて、夫候補を選択して下さいませね?

くれっぐれも、ね?」

と、念押しされた。









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