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異世界でもふっと婚活  作者: NAGI
第二章 南領編
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選択の可否とは

サヘルを出発した私達一行は、来た時と同様に帰りもシセンさんの集落にお邪魔することとなった。

相変わらず、私が空鰐に馴染めないからだ。危害は加えられないとは思うが(騎獣の方が断然強いので)、目覚めた時にあいつらが側にいたらと思うと…。うう、駄目だ。

迷路みたいな集落内部を以前と同様にラーセム君に案内され、長の部屋へと通された。そこで最初に待っていたのは、どことなく可愛らしさも併せ持った美女だった。

「セーラン、お帰りなさい」

え?何、この美女は?

彼女は私の脇を通り抜け、嬉しそうにセーランへと抱きついた。

「母上?いらしたのですか?」

「いらしたとは何ですか。久しぶりに会った母親に対して、冷たいのね?」

おお、セーランのお母さんでしたか。

「母上、ご紹介します。私の主であるナツキ様です」

私は精一杯のよそゆきの顔で、

「はじめまして。息子さんにはいつもお世話になってます」

と、挨拶した。

「こちらこそ。セーランを騎士に任じて下さって、ありがとうございます。巫女様の騎士だなんて、一族の誉れです」

私が神殿の巫女だと、駄々漏れなんだね。まあ、そうだろうなー。翼人の谷やその他諸々で派手に動いていたしね。

「色々と話は聞いているぞ。一晩と言わず、何日でもいてくれて構わんぞ」

とはシセンさんだ。おじいちゃん達もホクホク顔である。最初の時とえらい違いだね。

「翼人の難儀を救ってくれた英雄だ。今夜は歓迎の宴だ」

英雄って…。そんな御大層なものでは。てれてれ。

「獅子族の里での貴殿らの働きは、まさに獅子奮迅であったと聞いているぞ!や、この言い方は獅子族の輩には屈辱的であろうな!」

はっはっはっ!と、上機嫌である。

「私も参加しておりました!まさしく、長の言われる通りで!」

ラーセム君もいたんだ。

「さすがに神殿の騎士と言うところか。俺はお前の従兄弟であることが誇らしいぞ!いや、もちろん!お二方のご活躍も目を見張るほどであったとか、そんな方々をお迎え出来て感無量とはこのことだ」

あれ?私じゃない?そう言えば、私の行動のほとんどが箝口令をしかれて表沙汰にならなかった。

主として誉められたことを祝ってあげなければ…。

行われた歓迎の宴の主役は、第一にセーランでヴァンとラベルは次席?扱い。それでも主賓として、チヤホヤされている。

私なんてモブだよ。モブ。

と、ここで同じモブ仲間であるはずのトール達はと言うと。

「トール殿、こちらをどうぞ。翼人の集落でしか食べられない珍味です」

お皿を両手で添えて、トールへと差し出す。

「へええ?変わった色をしていますね?これはどういった生き物なのでしょうか?見たことろ芋虫のようですが、このような個体は見たことがないなあ。南領特有なんでしょうね?」

お皿の上には芋虫のでっかいやつが盛られている。一般的な芋虫では断じてない。スライムみたいに半透明なのだ。オエ。

元は鳥さんだからだろうか、昆虫の類は平気らしい。

トールは魔法生物に興味があるくらいだから、珍しい動植物に目がない。兎眼をキラキラさせながら、スライムもどきの芋虫を観察している。

何がそんなに楽しいのか理解不能だ。

そして、そんなトールの様子をソールが嬉しそうに寄り添って眺めている。

もう何度目になるか、いらっとするね。

けど、何というか、この二人って纏まりそうなのよねえ。そもそもの、きっかけは私なんだけど。

先刻の話になるが、空から降り立つと速攻、イチャイチャしていた罰とばかりに、私はトールのしっぽを問答無用でもふった。

「は、はふうっ!や、やめて下さい~!」

涙目で訴えるのを、知らんぷりする。もふもふ〜、もふもふ〜。

「お止め下さい!職権乱用ですよ!」

トールを庇うようにして、ソールが私達の間に割り込んで来た。

はあ?何よ、あんたに関係ないじゃない?トールのしっぽをもふる権利を私は持ってるのよ?

「そんな権利、ないですよお~」

東領で私なら仕方ないって言っていたよね?

「仕方ないから諦めただけですう」

「トール殿は上役の横暴に耐えておられただけ。獣人の尾に触れて良いのは、家族や恋人のみ。そんなことは二歳の子供だって知っていることですよ!」

二歳児は流石に知らないとは思うけど。そうなのか。私ってば、まんまセクハラ上司じゃない?

「以後、気をつけて下さい!」

そんな訳でトールは庇ってくれたソールに気を許し、随分と仲良くなった。まあ、まだ恋人同士とまではいかないようだ。トールは鈍感だしね。

それでも親密さは増し、ソールが甘えた風なのが私の神経を逆撫でする。

気が付けば、ぽつんと一人きり。アリーサは給仕の手伝いで席を外しがちだし。

さ、寂しい!私ってば、まんまぼっちじゃないか。

「少し、お話してもいいでしょうか?」

声を掛けてくれたのは、セーランのお母さん。

「どうぞ、どうぞ!」

どちらかと言うと人見知りなのだが、この時ばかりは歓待ムード全開で隣を勧める。

年代で言うと以前の私くらい、大学生か社会人の子供のいる世代と言えば、分かりやすいかもしれない。

「あの子…、セーランとは意志疎通出来てますか?」

ん?どう言うこと?

「複雑な生い立ちのせいで、父方の獣人族にも私の方の翼人族にも心底、受け入れなれないまま成長し、あの子は感情を表に出すことが苦手になってしまったのです。

私以外ではシセン親子やログ夫婦とは、子供の頃から慣れ親しんだ間柄なので問題ないのですが、彼ら以外となるとセーランはことさら無口な上に無表情で」

「えーと、無口なのは認めますけど、セーランは分かりやすいですよ?」

「は?」

ねえと、たまたま給仕から戻って来ていたアリーサにも同意を求めると、

「そうですね。最初は何を考えているのか掴めない方でしたけれど、最近はそれほどでも」

と、返事を返す。

お母さんは余程驚いたのか、ぽかんと口を開けて私達を交互に見てから、嬉しそうに笑いだした。

「ふふふ。そうですか。あの子は分かりやすいですか」

年齢で言うとお母さん世代なのだけど、どこか可愛らしい人だ。

「長年の心配がふっ切れたような気がします。ありがとう」

お礼を言われるようなことは何も。

「それなら、私も落ち着いて暮らしてみようかしら?」

「これまではどこにいらしたんですか?セーランは、ログさんの所に預けられていたと聞きましたけど」

むくむくと好奇心の湧いた私は初対面にも関わらず、突っ込んで尋ねてみた。

「あの子が幼いうちは、ここに二人で暮らしていました。夫を亡くして婚家から出た時、両親はいましたが、翼人の谷には戻れませんでしたから」

ああ、シルヴァのお兄さんの婚約者だったんだよね。旦那さんを亡くして、魔獣討伐で元婚約者のカナフさんも片方の翼を失った。そんな所に、のこのこと顔を出せる訳がないか。

「ふふ。色々とご存知のようね」

「まあ、おおよそのことは…」

「私は、一族の反対を押しきってまで獣人の夫に嫁いだので、出戻っても居場所はありませんでした。

幸い、シセンの母親、私にとっては叔母にあたる人が私達母子を受け入れて下さって、慎ましく暮らしていましたけれど、私の心はいつまで経っても乾いたままで、落ち着いた暮らしを続けてはいられませんでした」

夫の死があまりにも突然過ぎて、受け入れることが出来なかったの。そう言って、寂しそうに微笑んだ。

「幼子ではなくなったセーランをログに預けて、私は旅に出ました。あてのない旅に」

学問の師匠が玄鳥の一族で、彼女はあの事件が起こった後も、ずっと旅を続けていた。自分は助手として、その人に付き添った。

「子供達が大勢亡くなった事件ですね?」

「そう。彼女の子供もその時に亡くなってしまったの」

そうか、そう言うことなのか。二人はともに同じ哀しみを抱えていたのだ。

彼女達、私は師匠と言う人に会ったことがないから詳しいことは分からないが、二人はあまりにも突然に、そして、理不尽に愛する人を奪われた。

玄鳥の一族の多くが翼人の谷に籠ったのに対し、師匠という人はさらに辛い現状を選んだのだ。

誰かを救いたいと願い、子供を置いて治療にあたっていた尊い行いを踏みにじられてなお、それを継続していくことで自身に罰を与えていたのかも知れない。

「本当は誰よりも救いたかったのに救えなかった、大切な我が子への贖罪…」

そんな師匠に同調し、彼女はセーランを置いて出て行った。

「贖罪なんて、そんな高尚な考えじゃないの。師匠も私も。ともに心がひりつくように乾いて、ギリギリと自分自身を痛めつけるようにしか生きられなかっただけ」

夫も元婚約者も、己の選択が間違っていたからこそ失い、傷つけることとなった。セーランにも寂しい思いをさせてしまった。父親の顔すら知らない子供にしてしまった。

私が間違ってしまったばっかりにー。

「セーランは間違いなんかじゃないです」

まるで結婚そのものが、セーランの誕生そのものが間違っていたと言わんばかりの彼女に私は腹を立てる。

「もちろん、そうですとも。私の生き方は、間違いばかりだったかも知れないけれど、唯一、胸を張って言えることはセーランを産んだことです」

その顔は誇らしげで、宴の中心にいるセーランをいとおしげに目で追っていた。

「ごめんなさい。話が逸れてしまって。

今日ここにいたのは本当に偶然で、まさかセーランと会えるだなんて思ってもいませんでした。

…神様のお導きかしら?」

私の膝を枕にグースカ眠る薔薇姫こと、セイラをチラリと見る。薔薇姫信仰にいささかも陰りはないが、この程、火竜信仰も翼人の間でじわじわと浸透し始めているらしい。

二人?セットとなることで熱狂的な部分が半分となって、随分と落ち着いたのはいいことである。

ムニャムニャとヨダレを垂らす(拭いてあげた)セイラは、幼児そのものだ。

「師匠とも、そろそろ二人で翼人の谷に戻って暮らそうかと話していたんです。

この後、彼女は後進の指導を、そして、私はカナフと一緒に孤児達を育てることに…」

はあああああああ!なんか大きな爆弾を落とされたって感じなんですけど!

それって、復縁するってこと?

「色恋は関係ないの。あの人と同じように親を亡くした子供達を育てていきたいだけ」

勘違いしないでね、と笑ってますが、そうじゃないですよね?

「こんなおばさんに誰も言い寄ったりしませんよ?」

いやいやいや。そんなこと言っても、説得力ないです。十分、お綺麗ですよ?

「セーランとも話し合いたいし、まだ、決まった訳ではないので。あの、そんなに興奮しないで」

これが興奮しないでいられますか!もうもうもう!何で私の周りはこうも春めいてるの!

私、もしかしなくても選択を早まったのかも。これからすぐにサヘルに戻ってー。

あー、ないな。あり得ない。リヒトさんと復縁なんて。だって縁を結ぶ前に自分で断ち切ったのだから。

どの顔下げてって感じだよ。

私の選択、間違いなんかじゃないよね?誰かそうだって言って!お願い!




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