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異世界でもふっと婚活  作者: NAGI
第二章 南領編
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罠と犠牲と

一晩、ぐっすり眠った私を待っていたのは、説教の嵐であった。

まずは隊長さん、次に医者の先生(見るからに偉い人)、そして最後はザスさんだった。

「あなたって言う人は!」

そう言ったきり、わなわなと震える。

彼が私を案内している最中に起きた事故(いや、自己責任による暴走行為とも言う)によって、多くの人間をパニックに陥れた、…らしい。又聞きなので。

ザスさんは最初、私が少年を励ますために手を握っているのだとばかり思っていた。

沢山の犠牲者が出て、精神的にも肉体的にも疲弊した翼人の陣に突然やって来て、好き放題している聖領の巫女姫様。彼はそう考え、苦々しく思っていたと告白した。

どこか現実を見ていないような私の目を覚ますために連れて行ったのに、まさか、見ず知らずの少年のために、自身を命の危機にさらすとは思いもよらなかった。

「もしあのまま、あなたが目を覚まさないで死んでしまったら、我々がどうなると思っているのですか!我々だけじゃない、この町そのものが滅ぼされてしまうのですよ!」

えー、そんな大袈裟な。

「大袈裟ではありません!聖領に仇なすとはそう言うことなのです。過去、どれだけの町や村が滅んできたことか…」

曰く、聖領の長である神殿長(今のヒルダさんの立場)や彼女に仕える神官達、そして、時代ごとに呼び出される巫女達に危害を加えることは、それこそ神に仇なすような行いに等しい行為なのだそうだ。

えー。ヒルダさんはともかく、私まで?

「ヒルダ様の御代になってから、そのようなことは起こっていませんが、レーヴェンハルトの歴史上、決して少なくありません」

基本、聖領から出ることはない神殿長や引きこもり?傾向のある歴代の巫女の代わりに神官が各地に赴く。

彼女らは選別ならぬ、聖別された存在で、彼女らの伝える言葉は神殿長の言葉であり、意思である。そんな彼女らに危害を加えてはならない。それは不文律である。

しかし、いつの世にも馬鹿はいるもので、彼女らをただの女として扱ったり、その言葉に従わなかったり、さらに命を脅かす者さえいた。

「一番最近では、五百年前、直系の領主の血筋が途絶えたことで親戚筋に当たる北領の領主代行が領主の地位に固執して領主館を明け渡そうとせず、命令書を携えて来た神官を殺害に及んだ時は、当時の領主館の建っていた山もろとも消滅せしめたと言う逸話は誰もが知っている史実です」

何それ、こっわ!てゆーか、最近で五百年前ってどうなの?

「神官を害したというだけで山が一つとその周辺が、削り取られたのですよ?そこは現在に到っても不毛の地で亡くなった領主代行の悪霊がさ迷っていると言う噂です。一度、ご覧になってはいかがですか?」

いえ、いいです。幽霊とか無理です。

「ごめんなさい。私が考えなしでした」

しゅーんと頭を垂れ、俯く。

朝からずっと怒られて、さすがに凹む。とゆーか、私のせいでもっと大惨事が起きたかも知れないなんて。

ヒルダさんが何の罪もない民を死なせるとは思わないけど、彼女の心が傷つけらることで結果、レーヴェンハルトの危機がおとずれるかもしれない。

驕りでも何でもなく、それくらい私は彼女から大切に想われている。自分で言っておきながら、照れる。

「ご理解いただけたのなら、いいのです。私もきつく言い過ぎました」

私がずっと俯いているのを泣いていると誤解したらしく、急に慌て出した。

おや?風向きが変わった?もう、怒ってない?

上目遣いで顔を上げると、照れたような困ったような表情を浮かべた青年の顔があった。

「と、とにかく!二度とないように!」

「はい」

肝に銘じます。

「それとお礼を言わせて下さい。あなたのお陰で命が助かった者は、私の従兄弟なのです」

叔母にあたる母親と面会出来るほど回復し、喜びあっていたと報告してくれた。

「けれど、このことはあくまで内輪に留めさせてもらいます。あなたの奇跡を得ようと欲する者が他に出ないとは限りません。人は勝手な生き物ですから」

もちろん、そうした方が良いに決まっている。命と引き替えに命を購うなど、あってはならないことだ。

「癒しの魔力を持つ医者ならともかく、一般的な魔力を持つだけの者に同じことは出来ません。医者に強要があってはならないし、ましてあなたに無理強いする者が現れたらと思うと」

ブルリと震える。

すいません。いらぬ迷惑をおかけします。

「箝口令をしいていますし、叔母達が口を滑らすことはありませんから、その点は安心して下さい」

「その点は信頼してます」

笑顔で言い切る。

なんかさー、総じて翼人の人達って真面目そうだもん。こっちの方が、ちょっと心配。

「そ、そうですか」

何故、赤くなる?暑いのだろうか。

「ザスッ!急いで司令部へ戻ってくれ。緊急事態だ!」

同年代らしい青年兵が呼びに来た。随分と慌てているようだ。

「どうした?敵に動きがあったのか」

「ああ。最悪な形でな」

私もザスさんと連れ立って戻る。一人にしておくと何かしそうで心配なのだそうだ。

失礼な。私はそこまで愚かじゃないよ?多分。

「ザスです。今、戻りました」

天幕に入ると昨日の面々に加え、沈痛な面持ちの人達が集まっていた。そこに見知った人を見つける。

タマラさんのお父さんだ。彼は兵士だから、いても不思議はないけど、明らかに民間人という人達もいる。

「ああ、戻ったか」

隊長さんがザスさんの背中にくっついている私を見て、一瞬、迷う素振りを見せたが何も言わなかった。

「緊急とのことですが、何があったのですか?」

ザスさんは父親である隊長の副官でもある。有能なのだ。

「あいつら、こともあろうに町に残っている翼人の家族を見せしめに使うつもりだ」

苦々し気に答えを返す。

「隊長さん!何とかしてください!うちの娘は獣人の兵士を夫にしているから、残らざるをえなかっただけなのに!」

一人が叫ぶと皆が一斉に訴え始める。

「あたしの娘婿は町長に仕える、下っぱだけど文官だ。夫を残していけないから、あたし達家族だけでも避難しろって娘に言われて来たのに、何でこんなことに!」

「うちだって同じよ。孫だっているのに!」

どうやら町に残っている翼人は、獣人を家族に持つ人達が大半らしい。

「…うちのは実家の母親を動かせないからと残って、獣人の親族はありません」

悲壮な顔でおじさんが声を絞り出す。

「…あ」

皆が居心地悪そうに顔を反らした。

「落ち着け。まだ、何も起こっていない。ただ、お前達も残った家族と同様にキャンプを出て、町に戻るようにと言われただけだ。むろん、そうしたいと言うなら止めはしない」

劣勢なのはこちらなのにどうして?と、疑問が浮かぶ。

「兵士でもない、一般人は戦いたくないんだ。翼人側が劣勢なのは今だけだ。領主は戦うことを承認してなどいないし、じきにシルヴァ様に率いられた援軍が到着するはずだ。

その前に町の民意を掌握しておきたいのだろう」

あちらが本当に翼人とは言え、獣人の家族を殺めるはずはない。そんなことをすれば、たちまち中の獣人が反乱を起こすだろう。

「ただ、心配なのはオストの家族や残っている者達だ」

町のなかにはまだ、獣人と縁戚でもない翼人が残っている。大半が老人や病人、そして、その世話をする家族だ。一般人ならば、まだいい。けれど、おじさんは翼人の兵士だ。

「隊長…、私は」

「お前があちらに投降したところで、その後の扱いなど知れているぞ。お前は仲間同士で戦えるのか?」

奥さんを助けるために獣人側に寝返ったとしても、過酷な未来しかない。

「それは…」

天幕の仕切りが勢いよくはね上がった。

「至急、来て下さい。やつら、人質を城壁に立たせて、脅しにかかっています!」

ガタンと一斉に皆が立ち上がる。

無言のまま、次々に飛び出して行った。

駆けつけた兵士達の中に父親の姿を見つけた、タマラさんが必死の形相で叫んだ。

「お父さんっ!お母さんが」

そこは獣人の放つ矢の射程からギリギリ離れた場所で、キャンプにいた大勢の避難民らが集まっていた。

「危険だから、戻りなさい!」

と言う、兵士達の声など届いていないみたいだ。

「ひどいっ!翼人だからって、同じ町の人間でしょうに!」

「人でなしっ!」

マルタさんのお母さんを含む数名の翼人が体に縄をかけられ、城壁の上に並ばされている。

そして、彼らの隣には町の外にいる翼人達を見下ろすように、獣人の兵士が立っていた。

そのなかにハイエナ系獣人がいた。獣人の年は分かりにくいのだが、その人物は体毛に白髪が多く混じっており、年齢が上だと見てとれた。しかも、着ているものが兵士達とは違って上質だと分かる。

「ふ、ふん!こいつらは密偵の疑いがあるから、こうして縄をかけているに過ぎん。疑いが晴れたら、すぐに離してやる」

尊大なのに小物臭い。

虎の威をかるなんとやら、だ。いや、違うか。獅子の威だ。

「エリカーッ!」

城内から獣人の兵士が、女性の名を連呼しながら、城壁の上へと駆け上がって来た。

走って来たのだろう。毛並みは逆立ち、着ている兵服も乱れていた。

「町長!エリカは無実です!翼人の家族とは、戦が始まってすぐに縁を切っています!」

天幕内にいた中年のおじさんがぐっと拳を握りしめた。捕らえられているのが、きっと娘さんだろう。

優しそうな翼人の、若い女の人だ。そして、獣人の兵士が夫だろう。

「本当にそうか?」

猜疑心に満ちた声音で尋ねる。

「はい!ここに残ったのが、確固たる証になるはずです」

「ふん!それならば、良かろう。縄を解いてやれ」

部下に命じ、自由になった女の人が夫へとすがりついた。小さなすすり泣きが聞こえる。

「町長様に感謝しろよ」

縄を解いた獣人がそう言い放った。

「は、はい!ありがとうございます!」

妻を胸に抱きしめ、男性が感謝を口にする。


なんと言うか、まるっきり茶番だ。見せしめを用意するだけして、自分達の力を誇示するために利用する。

そんな風に次々に縄を解かれていくなかで、マルタさんのお母さんは微動だにしない。

ただ、視線は翼人側にいる夫と娘に注がれていた。

おじさんがよろりと一歩踏み出すと、おばさんはきっぱりと首を振った。まるで怒っている風に。

声のない言葉がおじさんの口から漏れる。

おばさんが嬉しそうに微笑んだ。

次の瞬間、おばさんが城壁の上から体を宙へと投げ出した。

周囲で悲鳴がとどろく。

「いやっ!お母さん!」

マルタさんが両手で顔を押さえる。

そうしたなかで間髪いれず、おじさんがばっと翼を広げ、愛する妻の元へと飛んでいった。

やった!キャッチした。

「ゆ、弓を放てっ!」

城壁にいた兵士が一斉に弓を構え、そしてー。

二人は空中で固く抱き合っていた。まるでこれから起こることを全て受け入れるかのように。

何で?どうしてこっちに戻らないの!

奥さんが助けられたとしても、奥さんの親族がまだ残されている。きっと同じ目に合わされるだろう。

ならば、いっそのことー…。そう思っての行動。

駄目だよ!マルタさんの、子供の前で死を選ぶなんて!残された者がどれだけ傷つくか、あなた達はちっとも分かっていない。

「駄目えええぇっ!」

私は力の限り、叫んだ。

降り注ぐ矢が二人を射る直前、

《風 乱 流》

魔法の詠唱が唱えられ、矢の軌道が反らされた。

そこに畳み掛けるかのような第二の詠唱が。

《嵐 圧 巻》

城壁にいた兵士が突如として湧いて出た風の渦、竜巻によって上空へと巻き上げられた。

それはまるで風の洗濯機に揉みくちゃにされているような絵図らで、他人ごとながら可哀想になるくらいだった。

ひとしきり回され、彼らはそのまま地面へと落下した。

うん、大丈夫そう。べしゃって音がしたけど、手加減がされていたらしい。ピクピクと動きがある。

「ヴァン!セーラーン!」

魔法によって回避せしめたのは、私の騎士達だ。

か、かっこ良すぎる!

「ナツキ様〜!俺もいます!」

あ、ラベルもいた。彼は愛馬?ヒッポグリフのグリちゃんに騎乗し、そこにマルタさんのご両親も同乗していた。

グッジョブだよ!三人とも!

「ピエエエエエエ!」

あ、はい。カナンもね。







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