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異世界でもふっと婚活  作者: NAGI
第二章 南領編
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ここは戦場です

町の中を通り抜け、私はタマラさんに連れられて翼人が駐留する郊外へとやって来た。

お母さんを一人残して行くのを嫌がり、一緒に行こうと説得したけれど、

「ここには親戚や友人が大勢いるから、大丈夫」

と言って、お母さんは家に残った。

実際、翼人を家族に持つ一家は早々に家を出て、他所に行ったり、兵士に守られた郊外へと避難しているのだそうだ。

まるで難民キャンプのような光景に胸が痛む。

ここは戦場なのだと目の前に突きつけられるようでー。

「タマラじゃないか!どうしたんだ?やっぱり、避難することにしたのか?」

タマラさんとよく似た色合いの翼を持った兵士が驚きつつも、大切な娘を迎え入れるように手を広げた。

「お父さん!」

だっと駆け寄って、大きな父親の胸へと飛び込んだ。

「お父さん、お父さん!」

そうしていると年相応の、まだまだ幼い少女であると分かる。

領主館に仕える、身分の低い給仕達は幼い頃から行儀見習いとして入るのが慣例であり、タマラさんも子供のうちから親元を離れたそうだ。

だからこそ、今回の騒ぎにいてもたってもいられず、周囲の反対を押しきる形で戻ってきた。

「お母さんは?一緒じゃないのか?」

胸に娘を抱き止め、周囲を見渡す。だか、そこに妻の姿はなく、見ず知らずの私が立っているのみだ。

「この子はどこの子だい?町の子供ではないようだが」

私の姿はタマラさんとそう変わらない年齢なので、不審者とは思われないだろうが、見たことのない子供を警戒しているようだ。

普段、町中の警備にあたっている関係でほとんどの住人は顔見知りらしい。

「ええと、私はリヒトさ…、様の密命を受けて、現状把握に参りました監察官です」

「監察官、ですか?君が?」

「え?そうだったんですか?」

親子でビックリしている。私もちょっと苦しい言い訳かなーとは思ったけど、ただの旅人では保護されて終わりだろう。

「そうです。ただし、内密ですからね」

キリッと表情を改める。

「了解です」

「は、はい。私も誰にもしゃべりません」

ん?そんな簡単に信じていいの?

「その、あなたの頭に乗っていらっしゃるお方は、薔薇姫様ですよね?」

恐る恐るという風に、私の頭上を手の平で指し示す。

いつの間に…、さっきまで鞄の中にいたはず。

軽すぎて気付かなかったよ。

「ええ、まあ。そのようですね」

「何と!我らの神がついていて下さるなら、こちらの勝利は決まったようなものだ!」

感激しているところ恐縮ですが、この子にそんな力はないですよ〜。

本人も我関せずとばかりに欠伸してるし。

こんな神様を有難がられる罪悪感と内心の葛藤を、私は巧みに押し隠した。


おじさん(タマラさんのお父さん)に案内され、翼人の陣営へと向かう。その途上でタマラさんと別れた。キャンプにいた、知り合いの家族におじさんが預けたのだ。

タマラさんは家に帰るつもりでいたのだが、私がお母さんから彼女を残すように頼まれたと伝えたからだ。

「タマラさん、大丈夫でしょうか」

随分と抵抗されたが、父親に言い含めれ、最後は渋々従った。

「町は獣人の本拠地ですから、あの子を残すのは私も反対です。妻は獣人ですし、親族の元に身を寄せると思います」

何でも足の悪い母親が兄夫婦の家で同居していて、置いてはいけないと言い張るのを無理強い出来なかったそうだ。

「流石に同胞を害することはないでしょう。そんなことをしたら、町の獣人の支持を失いますから」

普通に暮らしている獣人側にしてみれば、これまでの町長の数々の行いに関して、自分達には損はないことなので何もしてこなかった。ただ、何となく悪いという気持ちもあり、翼人との戦闘は出来れば避けたいと言うのが大半。

だが、一部の翼人排斥を主張する者達と孫を引き渡したくない町長の陣営が率先して戦う姿勢を見せ、それに呼応する周辺の獣人達が戦を継続させ、これに対して、商人を殺された翼人側がこれまでの不満を爆発させ、それに応戦している。

道々説明を受けながら進むのだが、私の感想としては、何というか不毛だ。これに尽きる。

一際、大きな天幕の前に大勢の兵士が集まっていた。彼らの「誰だ、これ」と言う視線を一身に浴びつつ(セイラは鞄にしまった、混乱するのが目に見えているので)、私はおじさんの後に続いた。

「ゲイル曹長であります。隊長にお目通りを願う者を連れて参りました。許可を願います」

おじさんが天幕の前に立つ兵卒にそう告げ、しばし待つ。

「入室を許可する」

許可が得られたので天幕の中へと入った。

「失礼いたします!」

私はおじさんの背中に隠れるようにして、中へと入って行った。

そこには翼を持つ強面のおじさんらが、長机を取り囲むように勢揃いしていた。皆、翼を持っているので翼人だ。

「民間人じゃないか。一体、どういうつもりだ?」

彼らの中心に腰かけているのは、堂々とした体躯の、いかにも武人と言う感じの人だ。その人は、ギロリと睨むように見ていた。

「ぶふっ」

私は思わず、吹き出した。

「何だ?」

訝しげにその人は、片眉を上げる。

「すいません。くしゃみが…。風邪かな?」

我ながら、わざとらしかったかなと思いつつ、そう言い訳する。

「ふん、そうか。で?俺に会いたいと言っているのは、お前だろう?こんな時に人族が何の用だ」

眼力が強い。本当ならば、怖じけづいているところだ。だが、私は違う意味で忍耐を強いられていた。

くぅっ。込み上げてくる笑いを押さえるのに、ありったけの腹筋を総動員する。でないと、また、吹き出してしまいそうだ。

だって、だってさ!アクションスター張りのマッチョで厳めしい隊長さんの背中から生えている翼がなんと…。

ふわふわとした、まっピンク。絶対にあれはフラミンゴだよ。

ダンディな、武闘派おじ様とフラミンゴ…。

シュールな絵ずらが半端ない破壊力だ。

「ぐふっ、コホン。あのですね、私はリヒト様が派遣した監察官です。現場の視察に参りました」

「お前が監察官だと?」

あ、明らかに信じていないな。

仕方ない。奥の手を出すか…。出来れば出したくないのだが。

「これが、証拠です」

私は鞄をまさぐった。

「あれ?あれれ?何で!」

鞄の中はもぬけの殻だった。逆さに振ってみても、何も出てこない。いや、日除けのショールやらハンカチやら女子の必需品が転がり落ちる。

「それのどこが証拠なんだ?」

またしても痛い子を見る眼差しが降り注いだ。おじさん達の視線がツラい。

えーと。どうしましょう?









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