96.ついにきました婚約の日!けれど変態悪女のバトルはこれから、なのです!?
さて、こうしてやってきました4月は1日。
4月バカの日?
いえいえ、それだけではありませんっ!
「ふんふんふんふん、ふんふんふんふん、ふんふんふんふんふーふふん♪」
前世の楽聖ベートーヴェン様の 『歓喜の歌』 を鼻歌する私ことエリザベート・クローディス。
ただいま、王女殿下から贈っていただいたデイドレスを着付け中、でございます!
「まぁ良くお似合いですこと!」 嬉しそうにリボンを結ぶナターシャ。
「お嬢様はピンクをあまりお好きでないけれど、よく似合っておられますよ!」
確かに。
やや紫がかった淡いピンクはプラチナブロンドの髪にも紫の瞳にもぴったり! なのです。
ふんわり広がるシフォンスカートにカシュクール風にクロスさせた襟元、胸のすぐ下をキュッと縛る幅広めなリボン……
デイドレスのラインをきっちり抑えつつも、華やかなデザイン。
さすがは王宮専属のデザイナーさん、ですねぇ!
親ウケの良いオーソドックスさがありながら、カレのハートも狙い討ち♡ な感じが 『いかにも婚約式』 なのですっ
そう。 『婚約式』 ですよっ!
4月の1日は、すなわち 『婚約式』♡
(超絶大事なので『』付きで3度申し上げてみました。)
髪は清楚に編み込みでサイドに流し、小薔薇で飾ります。
淡いピンク、ドレスと揃えたかのようですねっ
「はいっ! 可愛く仕上がりましたよっ!」
ヘアアレンジからお化粧まで、すっかりナターシャのお人形さんになっていたリジーちゃん。
言われて改めて鏡を見れば。
ほぼ、別・人! でございますっ!
なにしろリジーちゃん、イイ年して普段はほとんど、お化粧してませんからねっ。
……だって人間、勝負は脱いだ後ですから!
書き物をするのにも変態するのにも、顔を造る必要などないのですっ……
「盛りすぎじゃない?」
「何をおっしゃってるんですか!」 フンッという鼻息も荒く、リジーちゃんをずずずいっと部屋の外に押しやるナターシャ。
「旦那様と奥様に見ていただきましょうね!」
「シドは?」
「もう先に出られたはずですよ。集合時間が男女違いましたでしょ?」
そうでしたっ……
男性側はホールで歓談などしながら婚約者を待つ、予定。
『同じ境遇どうし、お友達でも作ってね♡』 という王女殿下のお心遣いですね。
シドさん、慇懃無礼な感じでケンカとか売ってないかしら……
ちょっと心配なリジーちゃん。
とまぁ、それはさておき。
正直なところ、ちょっとガッカリだったり、します。
「シドに、いちばんに見ていただきたかったのに」
「王宮ホールの殿方の中でいちばん、びっくりさせてあげればよろしいでしょう」 ナターシャがクスクスと笑います。
「きっと見惚れてくださいますよ」
「それで、きっとシドのことだから 『盛りすぎでキモいです』 とか言うのよね♡ はぅぅぅぅ……」
タメイキでちゃいますねぇ、もぅっ♡
あの仏頂面を想像するだけで、かわいぃぃぃ……♡
「まぁお嬢様ったら」 久々に腕が揮えたナターシャも、幸せそう、なのです!
「すごくおキレイですから大丈夫ですよ」
きゃーん♡
ナターシャったら、もうっ!
ジグムントさんも真っ青なホメリストさんなんだから、もうっ (テれっ)!
かくして。
「まぁ! 素敵ね、リジーちゃん」
天使様のお顔に、うっとりするような微笑みを浮かべる母。
「リジー……とってもキレイだよぉ……うぅぅっ……」
涙ぐみ、グズグズと鼻をすする、やや苦味走った美貌の父。
いえいえ。あなた方ほどじゃ……、と言いたくなるお二人からの賛辞もバッチリgetして、馬車に乗って王宮ホールへgo! なのですっ!
道端には溶け残った雪がまだかなりの量残っています。
が、その間からちらほらと顔を出す、早咲きのタンポポにスミレ……
春、ですねぇっ♡
そんな景色を眺めつつ、馬車の中で両親と婚約式についてアレコレおしゃべりします。
「今日はどのくらい集まったのかしら」
と、少し不安そうな母。
なにしろ、合同婚約式は初めてですからね!
「10組は下らないんじゃないかな」
父が、コメカミをナデナデしつつ答えます。
「10組! 意外と多いのですね」
と、これはリジーちゃん。
「なんでも、クラウゼヴィッツ侯爵家と繋がりを持ちたい家が、子どもの婚約式を合わせたそうだ」
ふむう……皆さん、なかなかシタタカなのですねっ!
でも、リーゼロッテ様的にはきっと、大成功なのでしょう。
問題ありませんね、うんっ♡
「では、こちらへ」
ホールへ着くと、係の女性の案内で控え室に通されました。
ん? なぜ、わざわざ控え室に?
と配られた式次第を見れば……
『1.【デビュタントの想い出】
お父様はお嬢様をエスコートしてダンスホールに入り、そのまま1曲踊ってください。
曲が変われば婚約者様と交代。
愛するお嬢様のデビュタントを懐かしんでくださいね!』
えぇぇぇ!?
まずダンスから入るんですかっ!?
けっこうビックリなリジーちゃん。
というのも、ルーナ王国のパーティーは普通 『食事→ダンス (希望者のみ)』 なのですよ。
けれども、確かに。
社交界って、出会いの場でもありますからね!
今日いらっしゃっている令嬢のお父様の中にはきっと、 「あれが全ての始まりだったのだなぁ、くぅぅぅぅっ!」 などと振り返る方も、おられるのでしょうっ
それに、ふと見れば、父もなかなか嬉しそう、なのですっ……
「またリジーを、エスコートできるとは……」
「良うございましたわね、ユリアン」
そんな父を、目を細めて見守る母。
ビバ仲良し夫婦♡
ご馳走さまですっ♡
……などとたっぷり視姦しているうち。
「おお。皆様お揃いのようですな」
顔を覗かせたのはルーナ国王レグルス5世、異称はまだ無い、でいらっしゃいます。
そしてそして!
どどどーん!
優雅なドレープを描く銀のドレスに包まれたボンキュッボンな長身は!
我らが王女殿下、リーゼロッテ様ですよっ!
メガパイのマシュマロ谷間がしっかり見えているドレスを、これほど上品に着こなせるのは、この方を置いてほかならないのですっ!
「皆さま、お集まり感謝いたしますわ」 挨拶も淑やかに、ロイヤルスマイルは神々しいまでに輝いています。
「本日はわたくしたち皆の記念すべき日です。皆で素敵な婚約式にしましょうね。
そして結婚しても毎年、婚約記念日を祝えるよう、良き家庭を作りましょう!」
「おーっ!」
リーゼロッテ様に合わせて皆で拳を天高く振り上げます。
色とりどりのドレスの袖からのぞく、白く柔らかい淑女のお手々たち。
そのまま食べちゃいたい、と思わせつつ実は補食者はこっち、なのですよっ。
ふっふっふっふっ(悪女的笑)
そうですっ!
これぞ乙女の闘いっ!
未来の仲良し夫婦を目指して、パートナーをタラタラと蕩かし籠絡する第1歩。
それが、今日この良き日っ!
決意を胸に秘めつつもニコヤカに。
父にエスコートされてダンスホールに向かう、リジーちゃんなのでした。
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