95.校了原稿お直しミッションに大興奮の変態悪女!色々とヤバめの扉も開きそうです!?
さて、かくして3月は28日の昼下がり。
「はぅっ……ぁぁんっ……」
シドと大急ぎで戻ったバルシュミーデ兄弟社の印刷室で、美青年とムキマッチョ青年に挟まれアツく身悶えする私ことエリザベート、実はしがないお色気作家ルーナ・シー。
現在、拙著 "若き未亡人アナスタシアの優雅なるお遊戯" 5月号の原稿を、せっせと手直し中でございます。
ジグムントさんが活字組む前で良かった!
「すごいスピードで書いてますね」
感心したように呟くジグムントさん、眼鏡が似合わないムキマッチョ様です。
そのムキマッチョ青年に、こんな注文をつけるシドさん。
「申し訳ないですがお耳塞いどいていただけませんか」
「お気持ちは分かりますが」 ガチャガチャと印刷機を動かすジグムントさん。
「仕事中なのでちょっと……できるだけ聞かないようにしますので」
「……ぁぅっ……ぁっ……ダメっ……」
ついウッカリとイイ声を漏らしちゃってるのはリジーちゃん、です。
どうしよう。
書くだけでロティーナちゃん降臨状態なんて初めてですねぇっ!
でもやめらんない、のです。
だって今。
両サイド同時進行での手フェチを身をもって体験中っ!
のような気分っ……
両サイドとはすなわち、アナスタシア様と指輪の化身たる美老人精霊、でございます。
妄想なのにお手々とお口が快感にしびれておりますっ……
そして心に渦巻いているのは、色とりどりの愛と欲望と執着心と喪失感と寂寥感っ!
アナスタシア様の指先から肘の裏までをキュッと噛みしめては、レロレロと舐め回す美老人精霊の独占欲。
亡き旦那様を彷彿とさせるテクにウットリと欲望を掻き立てられつつも、微妙な違いに甦る喪失の悲しみ、そして広がる寂しさ……
「んっ……んんんん♡ ……もっとっ……」
それらの感情から逃れようと、アナスタシア様は、さらなる愛欲に溺れていくのですっ……おっふぅぅっ(鼻息)
そしてそして。
手直しした部分、前後のつながりをもう1度読みなおして。
OK、リジーちゃん天才っ!
などと自画絶賛しつつ原稿をトントンして整えます。
「書けました」
「見せてください!」 わっ、ジグムントさん反応早っ!
かっさらうように原稿を奪いとり、喰いつくように読んでおられます。
作者冥利に……
「ふっぉぉぉぉぉぉぉお!」 なんでしょうか? 今の声は。
見れば、目を血走らせたジグムントさんが、シドに原稿をぽいっと預けて走り去っていくところ。
「失礼しますぅぅぅ!」
……ああトイレ。
緊急でも挨拶を忘れないとは、さすが人格者ですね!
「先ほどから悶えておられましたからね……一体何を妄想してたんだか」
対するシドさん、不機嫌そうですね!
漆黒の瞳を尖らせつつ、預かった原稿をバサバサと台の上に置いて丁寧にまとめてくれています。
「まっさかぁ。シドが反応してないのに、ジグムントさんが反応するわけないでしょ」
リーゼロッテ様に倣ったケタケタ笑いを披露するリジーちゃん。
思い通りに原稿が書けて超キモチイイ! のでございます。
いえね、ほんと。
そんなこと、なかなか無いのですよっ!
それにしても、リーゼロッテ様といえば。
「ヘルムフリート様とのデート、どうなったのかしら」
「仲良くやっておられるんじゃないでしょうか」
「そうよね、きっと」
キャッキャウフフ、な感じでしたもんね!
もし途中で暴漢なんかが現れても、きっと大丈夫でしょうし、ね。
悪いやつらを華麗に撃退するヘルムフリート青年!
惚れ直す王女殿下!
そしてキャッキャウフフ、3倍濃度でリターン……はぅぅぅ羨ましいっ!
「妄想でヨダレ垂らさないでください」
「だってだって!」
リジーちゃんだってキャッキャウフフしたいのですぅぅっ!
と、シドさん急に身をかがめてきました。
こ、これはもしや……!
顔が近いっ! 近いのですっ!
何日かぶりの人口呼吸、ですねっ!? ドキドキ。
目を閉じて待ち構える、リジーちゃん。
が。
……………………あれ?
今、なんかペロッとしましたね?
まさかそれで終わり?
「いつまで目を閉じてるんですか」
ガーン……それで終わりだったようですっ
「今、何したの?」
薄目を開けてみれば、シドの……
ああ、これは 『イジワル大成功』 のお顔ですね。
「ヨダレをぬぐいましたが、何か?」
な、なんと……よし、こっちだってっ!
「シドさん?」
「なんでしょうか」
ここで、己が右手にチューしてニッコリ差し出してあげますともっ
「ここにもヨダレがつきましたわ?」
「バカですねアルデローサ様」
やたっ。
シドさんが手をとって下さいましたっ!
そして。
手の甲に優しいキス…………じゃなくて。
「なんで、痛いんでしょうか?」
噛まれております。
上目遣いにこちらを窺う漆黒の瞳は確かに激萌えポイントですが。
地味に痛ひ。
しばらくして口を離したシドさん。
「ほかのヤローの前でイケナイ声出さないでください」
「? イイ声なら出した気もするけど?」
「……とにかくどっちとも禁止です」
「シドっ……!」 感動に目をウルウルさせるリジーちゃん。
これってヤキモチね?
こんなに分かりやすく嫉妬してもらえるなんてっ!
きゃぁぁん♡
キャッキャウフフとはちょっとジャンルが違うけれど、これはこれで……うふふふ (含み笑)
手の甲に残ったシドの歯形が愛しいぃぃっ!
所有されてる感に悶えますっ♡
リジーちゃんたら、終わってますねぇ……うふふふふふふふ (デレ笑)
「こっちもこっちも!」 ワクワクと左手の甲を差し出すリジーちゃん。
「跡が一生消えない勢いで、噛みしめて下さいヨロシクっ♡」
と、シドさん、なぜだか絶句して固まっています。
……珍しいこともあるものですねぇ?
普段なら 『いい加減にしなさいバカですか』 とかなのに。
どうしたのかしら、と首をかしげていると、いきなり。
ぎゅうっ、とシドの腕が頭に巻きついてきました。
おおおおっ! これは!
ま、まさかのホールドっ!
固いお胸の香りを吸い放題、なのですっ♡
「やっぱり……婚約式が終わったら、できるだけ早く結婚しましょう」
落ち着くシドの匂いに包まれて、大好きなバリトンボイスがなんか嬉しいことを言ってくれてますよっ!?
夢かな、夢なのでしょうかっ!?
ドキドキしながら確認します。
「じゃ、じゃあ、本番の取材もしていい……?」
「……3回目からなら」
しぶしぶ、といった感じですね!
でも、言質はとりましたよっ!?
後で 『そんなこと言ってませんよ?』 とかシラバックレもダメですからね?
だって、抱きしめられながら蹴飛ばす自分の足が、ちゃんと痛いのですっ。
イェーイ! ヤりましたぁっ!
夢じゃありませんよっ!
内心で小躍りしつつ、お胸の香りをすーはーしつつ。
「シドさん大好きっ♡」
いっぱいに手を伸ばしてお腹をホールドするリジーちゃん。
するとシドは、いつもの 『知ってます』 の代わりに、そっと額にキスしてくれたのでした。
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