93.美青年の取材拒否には変態悪女も涙する!?けど泣いてばかりもいられない、一大イベントに遭遇です!
さて、こうしてアナスタシア様の手フェチ回もどうにかこうにか脱稿した3月は28日の午後。
「婚約式が終わったら、急いで結婚してね? お願い♡」
新たな挑戦心に萌え……じゃなくて燃える、私ことエリザベート・クローディス16歳。
ただいま、シドさんとおなじみのショコラティエ "ヴェルベナエ・ドゥルシス" でチョコレート休憩中。
あーんど、おねだり中、でございます。
我らが王女殿下リーゼロッテ様を意識して、可愛らしく小首を傾げつつ。
あーん、とシドのお口にチョコレートを放り込みつつ。
がっつり籠絡してさしあげますとも!
と張り切っているのですが。
「本番取材のための結婚は、お断りいたします」 固ぁい表情と声のシドさん。
「妄想で乗りきってください」
ブリザード砲弾に戦艦リジーちゃん、敢えなく撃沈、なのです!
でも負けませんよ!?
「だってだって!」 上目遣いキラキラお目めで反撃だっ!
「妄想より、取材した方がよりリアルに書けるでしょ? ね♡」
「いえ妄想の方がイイですよ。現実なんて大したことありませんから」
「え……そうなの?」 しょんぼり、ですねぇ……
「シドさんも? 実際にしたら、そんなにイイことないのかしら?」
げふっと口に含んだコーヒーを吐き出すシドさん。
「い、いえ、あのですね!」
「シドさんってスゴいのかと思って……すっごく期待してたのに……」
むせているお背中を軽くトントンしてあげつつの、ガッカリ口調。
どうですかっ!? この悪女ぶりっ!
と。
「ひゃ、ひゃにしうのぉっ (なにするの) !?」
……ほっぺムニムニ、割かし久々にいただきました。……
けっこう力、入ってます。
痛ひ。
「そんな知った風なことをおっしゃるのは、このお口ですか?」
「せうれす (そうです) ……」
「これ以上おっしゃるなら、お嬢様の "月刊ムーサ" 全部燃やしますからね?」
「せんにゃぁ (そんな) ……いでい (ひどい) ……」
「どーせ "ネーニア・リィラティヌス" からの知識でしょう」
"ネーニア・リィラティヌス" はユーベル先生の人気作品。
ジグムントさん評 『あからさまにイヤらしい (けど実は好き)』、リジーちゃん評 『細かく読むと実は面白い穴棒アーン』 な小説です。
「ひぇい (はい)」
「だったら本番シーンもユーベル先生から学べば良いでしょう」
がーんっ……
そんなことを言うなんてっ!
サイテーですね、シドさん!?
恨みがましい視線とか送っちゃいますよっ……!
泣いちゃいますからねっ、もうっ!
「やだぁ……シドさんがイイのぉっ……」 ……いったん泣くと、涙が止まらなくなってきちゃいました。
グズグズとみっともなくお鼻をすすり上げつつ、懸命に訴えます。
「それはね、経験値とかテクとか、おカラダの扱い方とかタイミングの計り方とかは、ユーベル先生の方が上だけどっ!」
「なんでそこで断定なんです」
シドさんまた、かなり不機嫌そうですが。
だって、どう考えてもそうでしょう?
……それとも、違うんですかシドさん? (じっとり)
と、それはさておき。
「でっ、でもね、わたくしは、シドの方が、絶対にイイからっ……そんな、ほかの人にどぞっ、とか……」
えーん(涙) 悲しいっ
悲しいのですっ
「あ、あ、悪女だから、いくつも股かけて当然だし、そう思われるのも仕方ないけどっ……で、でも」
ひっくひっく、としゃっくりも止まりません……
本当ならこう、ハラリと涙が零れるだけで人心をズキュンと貫くような、そんな悪女泣きをマスターしたいのにっ!
情けないですねぇっ、もうっ!
「取材も結婚も、シドじゃなきゃ、やだぁっ……」
ふぇーんっ
本気泣きの時はお子様と変わらないリジーちゃんです。
「わかった、わかりましたから」
シドがハイテーブル越しに手を伸ばして、頭を撫でてくれます。
昔から、イヤな夢を見て泣いていると、こうやってヨシヨシしてくれていたのでした。
お嬢様定番のハーフアップをくずさないよう、そっと撫でてくれる形の良い指先。
けっこう久々ですね!
最近はシドさんからの接触、少ないから、本当に貴重なのですっ!
これはもっと味わっておかねばっ……!
「そもそもは 『ユーベル先生の作品』 って意味で、何もご本人では」
「だって! もうっ! ふぅぅぇぇぇ……あら」
さらに本格的に泣きに入ろうとしたとき。
視界の隅に見事なストロベリー・ブロンドが飛び込んできました。
リーゼロッテ様です!
おおっ。
仲良さそうに腕を組んでいるのは、ヘルムフリート青年ですねぇ!
これは。
かねてより楽しみにしておられた、お誕生日デートとお見受けしましたよ?
リーゼロッテ様の少し上気したお顔、それからヘルムフリート青年の蕩けきったお顔。
眼福です!
二人は顔を近づけて小声で話しつつ、"ヴェルベナエ・ドゥルシス" の店内へと入っていきました。
「シド、隠れるわよ!」
慌てて涙を拭いて、囁くリジーちゃん。
「いつもみたいにご挨拶しないんですか」
「今日はダメ」 何しろ、王女殿下のもしかしなくても最初で最後の婚約前デートですからね!
「お邪魔なんてできないわ」
「とか言いながら、なにコソコソと覗き込んでおられるんですか」
「だって気になるんだもの!」
と、リジーちゃんここで、イイことを思い付いちゃいましたよ!?
「ねぇシド」
お目めをキラキラさせてじっと見詰めて差し上げますとも!
「なんでしょうか」
シドさん、引き気味ですね。
正しい推測と思われます。
でも、負けませんっ!
「あのね、書字魔法とかシドさんの護衛とか、もしかしたら、お役に立てるんじゃないかしら?」
「それデバガメっていいませんか」
「言わないわよ!」 自信満々に断言するリジーちゃん。
だって、悪女ですから!
「ただ、陰ながら温かく見守るだけですからね♡」
「……ダメだと言ったら、勝手に、はぐれてしまわれるんでしょうね」
「よくお分かりですこと」
こうして、不本意そうなシドと、ワクワクしているリジーちゃんは、ロイヤルカップルのデートをデバガ……もとい。
あくまで陰ながら、温かく見守ることにしたのでした。
読んでいただきありがとうございます。




