92.ついに変態悪女の野望が叶う時がやってきた!でもその前に、征服せねばならぬ山もあるよう、なのです!?
さて、かくしてまたしばらくの時が経ち、3月は28日。
「おおおおおぅっ! アナスタシア様の御手が、御手がぁっ」
身悶えしつつ絶叫しておられるのは大衆向け文芸誌 "月刊ムーサ" の編集兼印刷ご担当、バルシュミーデ兄弟社のジグムントさん。
相変わらず眼鏡が似合わないムキマッチョで穏やかな人格者、と見せかけ実は、けっこうな変態様でいらっしゃいます。
「なんということかっ! ここまで嫋やか、しなやか、艶やかにっ……はぅぅぅぅっニクいっ!
この指輪変態老人精霊がニクいっ!」
うーんこの反応。
OKってことで良いんでしょうかね?
と、迷う私ことエリザベート、またの名をルーナ・シー。
「それはよろしゅうございましたわ。ではね、失礼させていただきますわ」
扇で鼻まで隠しつつ、しとやかに挨拶をいたします。
ジグムントさんが怪訝そうにヒソヒソとシドに話しかけました。
「シーさん、お元気が無いようですけど、大丈夫ですか」
「それがちょっと、妙な遊びにハマっておられまして」
同じくヒソヒソと返すシド。聞こえてますよ?
なんっか、余裕ですね!
腹立ちますね!
こっちは、扇の裏に洗濯前シャツの襟の真ん中の、いちばん汚れが着く部分を貼り付けて、なんとかしのいでいるというのにっ!
はぁぅぅぅぅ……(タメイキ)
シドさん断ちは厳しいのです。
しかも、もう5日もガマンしてるのにシドさんの方は全然、大丈夫そうですよ?
どうしてでしょうねラズール "鬼スズメ" ……
「ぁぅぅぅぅ……ユーベル先生、助けて……」
半ば朦朧としつつ呟けば、ジグムントさんがピキーンと固まります。
「シドさんっ! 何やっておられるんですかっ」
「と言われましても」
「婚約前と結婚前は危険なんですよ!? きちんとキープしとかないと!」
そうそう、もっと言ってやって下さいませ、ジグムントさん!
「いえ、お嬢様に限ってそれはあり得ませんから」
「ダメですよぉぉぉ?」 ちっちっちっ、と指を振りつつネットリと念を押すジグムントさんです。
「信頼しているといえば聞こえは良いですが、それにアグラをかいて努力を怠れば、女性は離れていくのです!」
そうだそうだ! 頑張れジグムントさん!
扇をスーハーしつつ、応援させていただきますともっ!
「怠ってませんよ」 対するシドは、堂々胸を張っております。
「俺は全てを捧げていますから!」
「じゃあ、シーさんが最近お気に入りの洗髪剤の香りは?」
「ローズマリーとアニスです」
「いちばん可愛い寝言は?」
「地獄に堕ちろ、です」
「ほくろの数は?」
「知りませんし知っていても教えません」
「うむ合格っ」
………………ジグムントさん?
ジットリとした目を思わず、扇の陰から送ってしまうリジーちゃんです。
「仕方ないですよ」 ジグムントさんたら!
なんだか急に、シドの味方っぽくなっておられますねぇ?
なぜだか、涙ぐんでまでおられますが?
「夜中に合鍵で忍び込み、髪を撫でつつ寝言を聞いているのに……脱がしてないなんて……切ないっ」
「一体どこからそんな妄想が!?」
「いえ、これこそが真実です!
何しろお貴族様となると、婚前交渉がバレた段階で評判ガタ落ちなのでしょう?」
確かにそうですけどね。
だからシドさんが、ひたすらガマンすることに……ってのがこうなった成り行きですけどね。
「で、真相はどうなんですか、シドさん?」
「さぁ?ご想像にお任せします」
しれっとしたお顔。
ということは、もしや。
本当に、夜中に…………!?
きゃぁっ! 萌えますねぇっ!
そして。
(駆け引きとか、そんなことばっかり考えちゃっててごめんなさいぃぃ!)
ぱらり、と扇を投げ捨て、がっしとシドに取りつきます。
ああ……久々のこの感触……
やっぱりナマモノがいちばんなのですっ!
「シドさん大好きぃぃ!」
「知ってます」
ひとしきりシドのお胸をスーハーするリジーちゃんを、拾った扇をパタパタしつつニコヤカに見守るジグムントさん。
さて、と話題を切り替えます。
「実は今日は、シーさんにスペシャルなニュースが!」
「なんでしょう?」
ジグムントさんが物凄いドヤ顔を披露されました。
「なんと! ポリー嬢の単行本化が決まりそうですよ!」
「ええええっ」 思わず声が上がっちゃいますよ!
「本当ですの!?」
「『決まりそう』 って、まだ決まっていないんですか?」 と、シドが冷静に問いただせば。
「よくぞ聞いて下さいました」 ジグムントさん、ドヤ顔続行です。
「実はこれには社長から条件が出ていまして」
「あー……」 たちまち意気消沈するリジーちゃん。
「ウマイ話にはウラがある、的な」
「確かにそうなんですが、今のお二人にとってはむしろ、良いことだと信じていますよ!」
「それで。条件とは?」 落ち着いた声で尋ねる、シド。
「それがですねぇ」 ジグムントさん、かなり勿体をつけたヒソヒソ声です。
「本番シーンを袋とじオマケとして、つけたいのだそうです」
「えぇぇぇぇぇぇえ!?」 びっくりしすぎてアゴが外れるかと思いましたよ、もうっ!
「ジグムントさんが、そんな即物的な!?」
「オマケですから、ポリーちゃんじゃなくてもいいのですよ!
アナスタシア様と亡き旦那様の愛の新婚生活とか、どうですか?」
「ジ・グ・ム・ン・ト・さ・ん……?」
「スミマセン! どうしても社長を説得できなくて……」
リジーちゃんの責め口調に、しょぼぅぅぅん、とうなだれる、ムキマッチョ眼鏡。
「それに、確かに読者様からも 『シー先生の書く本番シーンを読んでみたい!』 とのリクエストが」
「そこまで、読者迎合する気などっ!」
「いえ、でもですね!」 ジグムントさんは、中指でクイッと眼鏡を持ち上げて真面目な顔をしました。
「これを新たな挑戦ととらえれば!
シーさんの可能性を伸ばすためにも!」
うっ。
今、胸になにかが突き刺さりましたよっ!?
「挑戦……新たな可能性!」
「そうです!」 コクコクと頷くジグムントさんです。
「確かに視姦もフェチも美しいですが、本番はいわば異種総合格闘技っ!
きっと挑戦するだけで、シーさんの作家としての技量を伸ばしてくれると思いますよ」
なぬっ!?
作家としての技量ですとっ!?
表現の幅が大幅UP、となっ!?
ここで食いつかない作家なんて、いないでしょうねっ
「やりますわっ!」
「その意気です!」 ジグムントさんは私の両手をとり、コクコクとうなずきました。
「するぞ打倒ユーベル先生! 賞品はポリー嬢単行本化ですからねっ!」
そこまで言われたら、受けて立つしかないでしょうっ!?
そうです!
打倒ユーベル先生っ!
いつの間にか 『到底無理』 などと諦めかけていました。
が、それは幸せボケというものです!
ダメダメダメ!
人間たるもの、もっと貪欲に求めなければっ!
さぁ、今この瞬間から第2ラウンドスタートっ! なのです!
「おーっ!」 「おーっ!」
拳を振り上げて決意表明する私とジグムントさんの後ろで、シドだけが、重苦しいタメイキなどついておられたのでした。
が。
リジーちゃん、知ぃらない、っと!
読んでいただきありがとうございます。
新たにブクマまでいただいてしまい、舞い踊っております。ありがとうございます!
これまでお付き合いいただいている皆様も、本当に感謝です!
さて、ここから少し宣伝。
今、銘尾友朗さま主催『夏の匂い企画』に連載をupさせていただいているのですが、これがなんと実は!
リジーちゃん転生前のヒロインが出てくるという、すごいことにっ!(←無理に盛り上げてみる)
作品のテイストもヒロインの性格も全く違う、若干ウツの入った中2作品ですが、気になる方はぜひ連載中のこちら
『楓くんはこじらせ少女に好きと言えない~夏の匂いの物語~』(https://ncode.syosetu.com/n4604fr/)
ご覧くださいませね。
ページ下からも飛べるようにしておきます。
宜しくお願いします~m(_ _)m




