90.婚約前の大急ぎ手フェチ取材は意外と萌える!?オマケも付いて変態悪女はゴキゲンです!
さて、そんなこんなで3月は12日。
前の日に婚約式用ドレスのための採寸も無事に済ませ、王女殿下の分とともに発注までしてもらってしまった、私ことエリザベート・クローディス。
4月1日にシドと正式に婚約することが決まり、浮かれ気味にフワフワとドレスの出来上がりを待つ日々……というわけには、なかなか、いかないのでございます。
『あっ……』
現在、ベッドの上で忙しくロティーナちゃんを降臨させているリジーちゃん。
フワフワどころか、何してやんでーい!
……などというツッコミは、受け付けませんよ?
なんとなれば。
これは真面目な取・材! だからでございます!
『ぅうん、もう、ダメ……』
はぁーん、と熱めの吐息が漏れちゃってますが。
それでも。
大真面目! なのです。ここ大事だから、2度言っちゃいました。
「あれ、もうイイんですか」
ロティーナちゃんの降参発言に、私の指先を口に含んだまま顔を上げるシドさん。
はい、何を隠そう、今は 『手フェチ』 取材中なのです。
『手フェチ』 といえば、割かし久々にタルカプス・アムフォイトマン先生に教えを乞えそうですね!
というわけで、先生の著作を実践中、なのですっ。
その内容とは、すなわち。
『横たわる少女の手は力なく安らかに自然な曲線を描いている。
あたかも彼女から遊離しているかのようにダラリと垂らされたそれは、しかし、躰のほかのどの部分よりも、彼女そのものであった。
白く滑らかな肌に手の甲のふくらかな丸みが包み込まれ、手のひらの窪みは、無垢なる雛鳥の小さな棲み家に相応しい柔らかさである。
緩やかに曲げられた、しなやかに細い指は、この世で最も清らかで美しい仕事のために造形されたのであろう、とフォルナーは考えた。
すると、その指が、己の肉体をまさぐるところが、当然のように脳裏に浮かんできた。
―――指先が這う部分はまず焔で溶かされ、それから氷のような罪の意識で再形成される……この穢れた身が、あの指先で、聖なるものへと造り変えられるのだ―――
彼は身を震わせながら跪き、眠れる少女の右手をそっと押しいただくと、その桜貝のような爪に唇を寄せた……』
このディープさを眠っちゃわずに実体験してみるならば、どうなるのか!?
というわけで。
キャスト1(目覚めて寝そべる美少女役):リジーちゃん
キャスト2(キャスト1の右手薬指の、爪と肉の隙間をペロペロと舐める変態老人役):シドさん
で、お送りしていた 『タルカプス・アムフォイトマン劇場』 の1シーン。
(いくらなんでも、この部位でロティーナちゃんはないわね!) などとタカを括ったいたのが。
見事に大外れ、でございましたね!
……なんか恥ずかしすぎる。
シドが私の指から唇を離しました。
「相変わらず感じやすいですね、アルデローサ様」
「真顔で言わないで。よけいに恥ずかしいから」
あぅぅぅぅ。また、身悶えしちゃいますよ、もぅっ!
と、シドさん、ふっと笑って耳元に口をつけてきました。
「可愛いですよ」 囁かれる言葉と共に耳にかかる息に 『あんッ』 とロティーナちゃん、また瞬間降臨です。
あーもう。ウザいなロティーナちゃん。
こっちは、それどころじゃ、ないのにな。
婚約式の前に早めに原稿上げてジグムントさんがガッカリしないようにして、我が家の工場についての資料も読み込んできっちり予習して父がガッカリしないよう……
「アルデローサ様、いけません」 シドが手を近づけてきて、私の眉間を伸ばします。
「薄幸の善女のお顔になってますよ」
シドの手がそのまま頭の横に流れて、キレイなお顔が近付いてきました。
おおぅっ、ぉぉぉぉお!な、なんとっ!
久々の、してもらう方の、キス。
する方じゃないのです、してもらう方なのです! ここ重要。
はぅぅぅぅ……癒されるぅ……
前にシドに、ひたすらガマンしてください、って言ったの確かにリジーちゃんだけど。
シドさんを、なでなでちゅうちゅうし放題、もなかなかに美味しいとは、思うのだけれど。
やっぱり、一方的ってなんか、寂しいですもんね!
だから、もうちょっとだけ。
捕まえようとして、舌を伸ばします。と。
「ちょっ……」 という慌てた声と共に、シドの顔が離れていきました。
捕獲失敗ぃぃぃ!
「なに今さらテれてるのかしら」
「今のはキスじゃありませんよ。俺からはしない約束ですから」
「じゃあ何だというのよ」
「人工呼吸です」
ラ、ライフセーバーさんたちを敵に回す発言っっ!
でも確かに、さっきまで焦ってばかりだった気持ちが、今は落ち着いています。
ちゅうは心の人工呼吸……? (赤面)
「ありがとう、シド」
「どういたしまして」
にこりとするシドさんの顔が、次の瞬間固まりました。
リジーちゃんが、胸を押さえて苦しそうな顔をしだしたからです!
「アナスタシア様の手フェチ回、ジグムント様にダメ出しされたら……ああっ、考えるだけで胸が苦しいっ!」 演技じゃないですからね!?
今いちばん、心配なことを態度で表現しただけです!
「し、シド……お願い。心臓マッサージをっ……」
「かしこまりました」
やたっ! 今日はいい日なのです♪
大人しく待っていると。
シドの少し筋ばった長い指が、私の頭をとらえました。
そのまま、側頭葉の上あたりを左右同時にグリグリと……
ぅうん、なかなか気持ち良い頭ツボマッサージ♡
けれどもっ!
確かに、これはこれでイイんですけど、でもっ!
唇を尖らせるリジーちゃん。
「シド、お胸は?」
「いえ、今、緊急なのは頭と診立てましたので」
「……ぅぅぅぅン、そんなァ……」
「悩ましい声を出そうとしてもダメです」
がーん、ショックです!
ロティーナちゃん降臨の時には出すつもりなくても出ちゃうのにっ!
なんて不便なんでしょうか……
「ひどいぃぃ」
「だから頭のコリはしっかりほぐしてあげますから、頑張ってアナスタシア様書きましょうね!」
「グスン。お胸も揉んでくれないと肩が重すぎて書けません」
「……なら。肩こりマッサージも追加しますよ」
ぉぉぉっ! やっぱり今日は良い日なのです♪
「ありがとう! で、お胸は?」
「結婚したら毎日揉みしだいてあげますから、今はガマンしてください」
そっかぁ……うふふふ(含み笑)
結婚かぁ。
これまで大して熱意なかったけれど、そうやって考えると楽しみですねぇっ!
その後、シドが約束通りしっかりと揉みほぐしてくれて軽くなった肩と心で、アナスタシア様の原稿に向かうリジーちゃんなのでした。
お読みいただきありがとうございます(^-^)
ブクマ評価感謝しております!
新しく読んでくださっている方も、これまで読み続けて下さっている方も本当にありがとうございますm(_ _)m
手フェチについて補足説明しますと、こちらの世界ではタルカプス・アムフォイトマン先生ご本尊ではなく、サルウス・プロスペル・エッケバッハ先生ご本尊の方が有名で、本文でもそちらの精神を参考にしております。




