9.順風満帆な悪女人生を歩む前に突如として革命に巻き込まれそうな気配。でも今世こそ美貌と才能を駆使して何とかします!
シドと名付けた自称『ワケあり』な美少年のお友達……もとい下僕を得てから3年余。
共にピクニックしたり水浴びしたりお風呂に入ったり、と、まさに兄妹同然に仲良く過ごしつつ、ついに8歳になった私ことエリザベート・クローディス。
しかもラッキーなことに、かなりの美少女ですよ!
父譲りの艶やかなプラチナブロンドの髪、母譲りのアメジストの瞳はたまに『神秘的』とまで評されるようになりました。
顔立ちも両親の良いところを譲り受けて適当にバランスとれています。
……とか言うと 「ははぁコイツ前世では大したこと無かったんだな」 と邪推したがる愚民どもに、ひとこと。
と・ん・で・も・な・い・っ!
リジーちゃんの前世。
それは、今世以上に折り紙つきの、近所でも評判の、美少女! でしたとも。
しかも品行方正な正統派でございますよ……っ!
が。
その時の経験から申しますと、美貌を真に活かせるのは悪女だけ! なのですっ
リジーちゃんの前世のように、ナンチャッテ善人の固い仮面を被った人間には……!
美貌とは、百害あって一利なし、のものだったのですよ。
ふふふっ(ヤケ笑)
まずは6歳で、知らないオジさんに公衆トイレに連れ込まれかけ (地獄に堕ちろ)、
続いて8歳で、実の兄にイイところもイケないところも全身なでくりまわされ (地獄に堕ちろ)、
その後10歳で、早熟な男子共からスカートめくり等々のイジメに遭い (地獄に堕ちろ)、
12歳では電車内痴漢に遭ってスカート切られましたとさ (地獄に堕ちろ)。
前世では、思春期頃にはすっかりと、男性恐怖症の枯女に成り果てておりましたよ、ええ。
いえね、今だからこそ 「地獄に……」 などと言っておりますが。
当時は 「悪いのは私なんだ」 と信じ込んでひたすらガマン! していたものです。
お、思い出したら……涙でてきちゃいましたっ! でも負けませんっ!
さて、もう少し、前世の記憶・フラッシュバックにお付き合いくださいませね?
そして、女子校での隠遁生活を経て、就職したての頃には……
当たり障りのない笑顔を誤解した一部の同僚から 「男に色目使っている」 などと陰口を叩かれ、すっかり人間不信になるというオマケ付きっ!
あーほんとにもうっ!
今思えば、早めに前世切り上げられて良かったですねっ!
おっと……その前世を切り上げられた原因。
ええぇぇ!? ここまでフラッシュバック、する!?
リジーちゃん前世の終わり方。
なんとなんと……ストーカー男による絞殺!
しかも犯人が実は割かし信頼していた上司!? まじでしょうかっ!
……り、リジーちゃん……前世の前世くらいで何か悪いことしたのかしら? (よろっ)
因果応報? やだそんな思想、ルーナ王国にはございませんことよ!
な、なんだか、でも……今世でも人間不信になっちゃいそうっ……
でも負けませんっ! そうならないためにも!
書字魔法でちょろっと呪っておきましょう、ね♪
さぁ、クローディス家の家紋入り特殊紙、ペン、リジーちゃんの血入りインク!
スタンバイOK!
さらさらさらーっ、と書いてみましょうっ。
『(前略)前世は地球、日本国○○において西暦××××年に(後略)』っと。
さすがにこれ、シドに読ませるわけにはいきませんね。
自分で読みましょう。
書字魔法で呪いなんかかけてるのが、バレないよう、小声での詠唱……効くかな。
効きますように!
かわいそう、なんて絶対思いませんからねっ!
そうです!
今世の私は、ひと味もふた味も違うのですよっ!
なにしろ悪女!
(手順がかなり面倒だけれど一応は)魔法が使える!
これすなわち。
気に入らない者は、片っ端から路上で裸踊りの刑ですっ!
踊りながら地獄へ行くが良いのです!
おーっほっほっほ(高笑)
さて、と。それはさておき。
大して気に入らない者が出ることもなく、優しい両親の心を手練手管をもって確実に蕩かしつつ、金と権力が切れるまでは継続が確約されているお友達……もとい下僕も手に入れたリジーちゃん。
この3年間余りというもの、本当に順風満帆だった第2の人生なわけですが、ここにきて、急に問題が起きたのです。
それは……
「パンを寄こせ!」
「俺達は飢えているのに、貴族は腐るほど食べている!」
「パンを寄こせ!」
「おーっ!」
路上に響くシュプレヒコール。
ルーナ王国では今年、小麦価格が高騰して民が困っているのですよ。
いやでも、貴族だからって十把一絡げにしないでくださいませ愚民共、ですよねっ!
そもそもそのコール。
ウチみたいに『適度な金持ち』の家に住んでいる末端貴族には聞こえても、本当に聞かせたい方々には聞こえてませんことよ?
なにしろヤツらは、門から馬車で30分とかそういう、広大な敷地のお屋敷に住んでおられますからね!
それにしても問題です。
こうも早く革命への足音が近付いてくるとは……え、どうして革命確定かって?
それはもう、今のルーナ王国は折しも文化は爛熟期、政治は腐敗期、庶民は台頭期、ですからねっ。
こんな時に腹が減れば、革命まっしぐらはもう当然、ってなもので、ございます。
空腹は革命の火種ですものね。
「ねぇ、シド。いつ頃革命って起こると思う?」
「いきなりはないでしょう、アルデローサ様」
シュプレヒコールをオヤツにバルコニーで優雅にお茶を楽しむ、リジーちゃんとシドさん。
いえね、足りないのは小麦なんで。
お茶は良いんですよ、ええ。
唐突なフリにシド、苦笑いです。
「今年の小麦は確かに不作見込みで今の段階で価格は5割増と旦那様から伺っておりますが、他国の歴史から鑑みるなら革命が起こるにはまだまだでしょうね」
さすがワケありだけあって頭が良さそうな意見を述べてくれますね!
「お父様は今後、工員分配用に小麦を買い増しているのよね。そんな人たちも価格上昇の原因なわけだけれど……はっもしかしてお父様が革命を主導するおつもりかしら!?」
「それナイナイ。一応端くれとはいえ体制側の金持ちなんですよ?」
「よねぇ……でもこのままでは問題だわ。この世で心のままに悪逆の限りを尽くせないとなったら、断頭台で首のまま泣きそうよわたくし」
「なぜ断頭台直行なんですかっ」
「それはもう、貴族の上に悪女ですもの!」
シドにはリジーちゃんの野望『今世こそは悪女になるぞ!』は、すでに打ち明け済みなのです。
(こんな風に素直に未来への展望を語れるって楽しいものですね♪)
そんな話を和やかにしていると。
「リジー様、シドさん」 侍女のナターシャが呼ぶ声。
「そろそろ先生がいらっしゃるお時間ですよ」
実は7歳から家庭教師についてお勉強をしているのです!
前世の記憶でお勉強チート?
ふっ……リジーちゃんの脳ミソ、なめないでくださいませ、ね?
(どういうワケか国語と芸術以外は極めて普通、です。
前世は優等生だったのに……)
と、それはさておき。
「「はーい」」
声を揃えて立ち上がる、リジーちゃんとシドさん。
シドは立場的には従者ですが実質は兄妹も同然、なので一緒に教育を受けているのですね。
そんな私たちの背後では、相変わらずシュプレヒコールが続いています。
「ねぇシド」 ふと、あることを思いつき、ニヤリと悪女の笑みを頬に浮かべるリジーちゃん。
「これだけうるさいと、先生だって教えにくいわよねえ?」
「そうですね。フケますか」
形のいい唇を不敵に歪めて微笑む美少年。
いやもうこんな黒い表情でも眼福ってどうなのかしら。
……と、そうじゃなくて。
「イイこと考えたの! これは、革命を回避する唯一の方法かも、しれなくてよ!」
ヒソヒソと耳打ちを続けると、シドの不敵な笑みは次第に困惑気味のそれに変わっていったのでした。
©️秋の桜子 さま
読んでいただきありがとうございます(^^)
4/24 リジーちゃんの前世の死因が分かったのでちょちょっと書き換えておきました。しかしこれまじか。悲惨やなぁ(爆)