86.すみれの香りが問いかける誠実な愛の行方とは!?王女殿下のお悩みに困惑気味の変態悪女、でございます!
さて、そんなこんなで、雪のちらつく3月は10日。
ショコラティエ ″ヴェルベナエ・ドゥルシス″ でコーヒーと春の新作フレーバーを楽しんでいる私ことエリザベートと、ナンチャッテ婚約者のシドさん。
そして、なんだか悩める王女殿下、リーゼロッテ様。
悩んではおられるけれどチョコレートの誘惑はまた別腹のよう。
ただいま3コめの春の新作フレーバー ″すみれ″ をわけわけして、いただき中です。
こちらも、新作フレーバーその1 ″スノードロップ″ に負けず劣らず、チョコレート詩人の魂が発露されておりますよっ!
若草色に染められたホワイトチョコの上にポチポチと散りばめられた、すみれ色のトッピングシュガーと銀箔。
まるで、野原のあちこちに群生するすみれと、そこに集うという妖精たちのようですね!
はぁぅぅぅぅ。素敵。
そしてそんな詩情あふれるチョコレート、中身はなんと!
においすみれの砂糖漬け重ね入れ!
……普段、お菓子の表面を彩る可愛いお花を、あえてin、なのですっ!
『ああもしこの花が表面を飾っていたなら』 と想像しつついただく……前世でいう茶道の精神にも通じそうですね。
香りも甘みのハーモニーも!
春♡ なのですっ
「「ああんやっぱり美味ひい!」」
もうすでに3コめなのに身悶えする、リーゼロッテ様とリジーちゃん。
シドはコーヒーを口に含みつつ、優しい目でこちらを……え?
呆れた、とかバカですか、とかじゃなく?
優しく……視姦、しておられるんですかシドさん!?
あぅぅぅぅ、どうしようっ
なんて余分なことに気付いて、より身悶えしちゃうリジーちゃん。バカですね!
でも止まらないぃぃぃっ
と、それはさておき。
今は王女殿下がもったいなくも、悩みを相談して下さっている最中でもあるのです。
「ヘルムフリート様が?」
こてん、と首をかしげて驚きを表現すれば、こくん、とうなずくリーゼロッテ様。
「そう。あれは絶対に、怒っているわ」
「ヘルムフリート様が!?」
「ええ」
えええええ!? 信じられませんよ!?
いえ、確かに、誇り高き何事にもソツなき侯爵家令息様ですけどっ!
リーゼロッテ様の前ではひたすら犬……失礼、パシリ……やっぱり失礼……元・逆ハーレム要員No.1 (うんこれだっ) なのに!
リーゼロッテ様、ふぅっ、と悩ましく溜め息などつかれます。
普段は凛とされているだけに、庇護してあげたい感が増しています。
萌えます。けど、そんな場合じゃなくて。
「やはり夫になるのだから、従者扱いはやめようと決意したのだけれど、何かギクシャクしてしまって……その上」
あれ何か、今のセリフ、どこかちょっとデジャブ。なんだったっけ。
とりあえず、続きを伺ってみましょう。
「ラズールと2人で話していたところを見られて」
「ラズール様と!?」
「そうなの」 また溜め息。痛ましいです!
「わたくしとしては、元々が従兄だし幼馴染みだしで、別に一切やましいことはないのだけれど」
「まさかヘルムフリート様がお疑いに!?」
「いいえ」 ふるふると頭を横に振られます。
「疑われている、とは思わないわ……けど何というか、すごく不愉快、だったみたいな気が……」
心が狭いですね、ヘルムフリート青年! んもう、鉄壁ノーブル様のくせに!
……と、リーゼロッテ様の従兄様がほかの男性なら、そう言えるのですが。
その方は何しろ、前科といわくとフェロモンがてんこ盛りの鬼スズメバチ様でいらっしゃいますからね。
「無駄に色気がありますものね、ラズール様って」
「しかも、そのつもりがあっても無くても振りまくでしょう、あの人」
「つまり……ヘルムフリート様は、ラズール様とリーゼロッテ様がイイ雰囲気だったことに……その」
嫉妬されて、しかもそれをリーゼロッテ様には見せたくなくて、ついつい冷たく素っ気なく振る舞ってしまい、結局は最愛の人を悩ませてしまっている、という……!
ダメだ、ここで萌えるな、リジーちゃんっ!
ここで萌えてしまうなら、それは人ではなくオニですよっ!
「難しいですわね」
なんとか溜め息1つに抑えれば、リーゼロッテ様も瞳をウルウルさせながらコクコクとうなずきます。
「難しいの」
「困りましたわね」
「困っているの」
きっと鉄壁ノーブル様なヘルムフリート青年のこと、王女殿下に直接には文句1つ言わず、普段通り丁寧に接しているつもりなんでしょうね!
で、王女殿下も、そんなヘルムフリート青年に直接、気掛かりを尋ねるようなことはしなさそうです。
何しろ、普段から凛とされたランク上の悪女様ですからね。
……んー……
これからずっと一緒に暮らすのだから、言いたいことは言って、尋ねたいことは尋ねて、というのが良いと思うんですが。
それをどう言えば良いのかが、ちょっと分からないリジーちゃん。
こういう時は物事の始まりから探ってみましょうか……自信、ないけど。
「そもそもどうして、侯爵家令息様が従者扱いに?」
「もともとは学友として呼ばれていて、その後そのまま護衛になったのよ」
「護衛だったんですか」
「従者は別に居たんだけれど、ホラ、王家もなるべくコストカットしなければならないから」
「それでヘルムフリート様が従者を兼ねることに?」
「そう。ダイヤと相談して決めたのよ。それまで従者は3人いたのだけれど、別の仕事をしてもらえば効率的じゃないかって」
ほほう……これは。
ヘルムフリート青年、ほかの従者を追い払ってリーゼロッテ様独占を狙いましたね、きっと。
それにしても3人ってもしや。
「では逆ハーレムの方々が従者を?」
「その通りよ!」 瞬間、パッと顔を輝かせるリーゼロッテ様です。
「公には従者にする、としておけば、見目麗しい奴隷少年買い放題でしょう!?」
ブレませんね、リーゼロッテ様!
そして、萌えなくなった後もジュエリー店を任せたりして、最後まできっちり面倒見るところがさすが、なのです。
それはさておき。
そうすると、ヘルムフリート青年の従者歴は相当長い模様。
「それなら……やはり、急に取り扱いが変わって戸惑っておられる、のが1番の原因ではないかしら」
言いながらも、やっぱりデジャブ、と思ってしまいます。
たしか、リジーちゃんとシドの間にもそんなことがありましたね!
あの時はシドさんが妙な取引など持ち出して、なし崩しになってしまったのですが……
リーゼロッテ様とヘルムフリート青年は、身分の高い方同士。
私たちのように 『下僕扱いの代わりにイジメさせてね』 『ラジャっ』 というわけにはいかないでしょう!
「それだけならまだ何とかなったと思うのだけれど」 リーゼロッテ様また、ふぅ、と若干重めな溜め息です。
「ラズールに美少年を見繕ってくれるよう頼んでいたところを、聞かれたのが致命的だったような……」
「え」
「だって、新しい従者が要るでしょう? どうせなら、育て甲斐のある、可愛い子がいいでしょう?」
ブレませんね、リーゼロッテ様!
それにしても。
ラズール様本人と美少年従者……か。
ヘルムフリート青年の地雷は、どちらだったのでしょう?
口の中のチョコレートの甘みが消えるのを待って少し冷めたコーヒーを1口飲み、またしても首をひねるリジーちゃんなのでした。
読んでいただきありがとうございます(^^)