84.艶感増した?そうですか!?やっと脱稿してみれば、何か気付いた担当さんです!
さて、そんなこんなで3月は10日。
拙著 ″若き未亡人アナスタシアの優雅なるお遊戯″ 4月号分の原稿を持って活版印刷所バルシュミーデ兄弟社を訪れている私ことエリザベート、またの名をルーナ・シー。
と、ナンチャッテ婚約者のシドさん。
ナンチャッテ、というのは、まだ婚約式を済ませていないから、ですが……
実は 「婚約式ナニソレ美味しいの?」 状態のリジーちゃんです。
いえ、普通なら両家顔合わせを兼ねて、ですから式が要るのも分かります。
が、ウチの場合は、グァン様からの 『アーロンをヨロシク』 的なお手紙 (シドが捨てていたのをコッソリ回収) で終了してますからね、それ。
「別に要らないですよね?」 と両親に尋ねれば、母は天使様のお顔を曇らせ父はコメカミを押さえて口々にこう、お返事いただきました。
「「どうしてもイヤならやめるけど……」」
悪女としては、ここで 「ハイやめます!」 とニッコリ言い切りたい!
けど……そうするには、両親からは恩義を受けすぎてるのですっ。
「お父様とお母様がなさりたいなら、お付き合いして差し上げてもよろしゅうございますわ」
仕方なくこう申し上げた時の両親の嬉しそうな顔といったら!
はぁぁぁうぅ……萌えます。とろけます。眼福です。ご馳走様です。
そんなワケで、婚約式が済むまでシドは 『ナンチャッテ婚約者』 なのでございます。
早く普通に 『婚約者』 って呼びたいのにっ!
……と、コホン(咳払い)
それはさておき。
今、リジーちゃんの目の前では。
例によってインクの匂いにまみれた印刷室で、ジグムントさんが、感涙にむせんでおられます。
「ぁぁぁぁぁぁあああっアナスタシア様! あなたこそ生ける芸術っ!」
いや生きてませんけど。
が、そんなこと言っていただくなんて、作者冥利に尽きますねぇ!
「美しいっ! 美しいですよ、シーさんっ! もう、言葉になりませんっ」
「あらーそれほどでもありますわ!おっほっほほほほほー!」
いつにも増して高笑い、です。
だって苦労しましたからね!
めちゃくちゃ、苦労しましたからね!
シドさんが近くに居るときは15分おきにイジりたくなって集中できないので、夜に起きて原稿書いたりしましたもんねっ!
(おかげでニキビができました)
「イタズラ気があるのに健気なイヤリング美少女精霊も素敵でしたが、こちらも神ですね!」
おおっ!
『神』 いただきました!
どうやらお好みに合っていたようですね、今回のネックレス妖艶美女精霊様も。
良かった。
ジグムントさん、激ホメ下さりつつ、本文を再読されています。
「妖艶な美女に首を余すところなく攻められ、快楽にくねるアナスタシア様……ああやはり素晴らしい!」
よく分かっておられます!
この首フェチ回はかなり、視姦に重点を置いているのですよっ!
きれいな稜線を描く鎖骨。
小さな喉仏のラインがセクシーな、仰け反った白い首。
横向きにひねれば露わになる、女性らしい細い筋も、美味しそうなのです!
そして、首から肩にかけてのなだらかな曲線。
アナスタシア様は若干なで肩気味なので、首がより長く嫋やかに見えるのもポイントなのですよっ……ハァハァ(興奮)
「それに……なんだか急に艶が増しましたね」
「あらー、そうですかしら」
「ええ、ものすごく!」 力一杯うなずく、ジグムントさんです。
「隠れイヤらしさはそのままに! しかし攻めがより大胆に! 描写のリアリティが増し増しで……」
「あら、おほほほほほほっ」
気分良いですね!
これでユーベル先生打倒しちゃったら、最高ですね!
と、ここでジグムントさん、ほかに誰も聞いていないのに、声をひそめます。
「もしかして、シドさんと進展したんですか?」
「ほ……ゲホゲホゲホッ」 急なフリに咳き込んで、涙目になるリジーちゃん。
「ど、どうしてですの?」
「え? ほかに誰かいるんですか?」 ジグムントさん、キョトンとした後に険しいお顔を作られます。
「まさか……ユーベル先生」
「有り得ませんわね」 1cmほどグラッときたのは、内緒でいいですよね!
「ですよね! 彼はやめといた方が良いですよ!」
「重々承知しておりますわ」
ええ、もう、ものすごく!
でも、いくら取扱い注意の鬼スズメバチ様とはいえ……
「やめときましょうね!」
少々の同情心を見抜いたように、ジグムントさんは真剣なお顔で念押しされます。
「大丈夫ですよ」 シドが急に、薄い唇をキュッと歪めて参戦してきました。
「お嬢様、ジグムントさんには知らせた方が良いんじゃないですか?」
ええまあ、そのつもりでしたけど。
どうやらシドさん、ラズール青年=ユーベル先生が絡むと、イラッとしちゃうようですね!
まさかこの期に及んでまだヤキモチ……なわけ、ないか。
ともあれ。
「そうね」 覚悟を決めて、扇で顔を……
「隠し過ぎですお嬢様」
だって言おうとすると、顔面崩壊しちゃうんだもの。
「仕方ないですね」 ヤレヤレ、とわざとらしくタメイキをつく、シド。
「俺が言いましょうか?」
「はい。お願いします」
コクコクとうなずくと、急に足元をふわっとすくわれてしまいました。
姫抱っこ強制回収スタイルですね!
……ジグムントさんの前で、ナニ恥ずかしいことしてくれてるんでしょうかね?
「というわけで俺は」 シドさん、とってもイイ笑顔。
「こちらの姫君と婚約するんですよ!」
どれ程イイ笑顔だったかというと、後々ジグムントさんが回想して曰く。
―――あんなに崩れた顔面は見たことがない―――
程だった、そうです。
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