83.嫉妬に狂い拗ねる婚約者がめちゃ可愛い!?萌えすぎて変態悪女も崩壊気味です!
こうしてアリメンティス公爵家からのプロポーズを無事にお断りし、やっと帰宅した私ことエリザベート、またの名をルーナ・シー。
穴棒アーン専科様に変態度で負けていることをハッキリと思い知った、16歳です。
でも、しょげてばかりはいられませんっ!
なにしろ、アナスタシア様が 『早くわたくしを出してくださいな♡』 と脳内で催促してくださっているのですから!
お話を書いてしまわないことには落ち着けないのです。
取材を重ねれば重ねるほどネタの少なさに打ちひしがれる首フェチ回。
けど、力技でなんとかして差し上げますともっ!
作家としての技量が問われる時です!
徹夜して目の下クマの日が続こうと、絶対に負けませんよ!?
……という闘志をグズグズに打ち砕いているのが、シドが背後から送ってこられる、恨みがましい目線です。
言いたいことは分かります。
アリメンティス公爵家のお庭や温室での、ラズール青年とのやりとり一部始終が超絶に気に入らないんですよね。ええ。
分かってますから、わざわざ聞いて差し上げる必要ありませんよね!
……後回しで、いいですよね!
………いいですよね?
…………………………。もうっ。
「言いたいことがあるのならはっきりお言い」
ペンを置き、ぐりんと振り返ります。
見上げたシドさんのお顔、暗ぁく淀んでいますね!
拗ねまくっておられますね!
……なんでこうも、めちゃくちゃ可愛らしいんでしょうかね!?
いやもう。こんな顔されたら。
することはただ1つ。
よっこらせ、とシドの横に椅子を運び、上に立って頭をぎゅうっと抱きしめます。
……お腹くらいの位置でホールド。
『胸にかき抱く』 って、身長がマッチしていないと難しいんだな、と改めて実感です。
「……!」 腹上で暴れるシド。
「死ぬかと思いましたよ!」
ホールドを振り払い、ますます恨めしげな顔をしておられます。
「だって、最近のシドさんったら、可愛いすぎるんだもの」
「俺は普通です。アルデローサ様がハメを外しておられるだけです」
「やっぱりそうかしら?」
ええ、そうだろうとは思っておりましたよ。
でもイケないのはシドさんですよ!?
旅行中と比べれば、戻って以来は普通というか、明らかに冷たいですよ?
なにこれ?
釣った魚に餌はやらない、というヤツですか?
それとも。
「もうわたくしに飽きた、とか……」
ボソッと呟いてやります。
恨み目線には恨み目線だっ!
シドの顔に動揺が走りました。
ふっ! ザマヲミナサイマセ!
「そんなわけ、ないでしょう!?」
「だって最近、ちゅうちゅうしてくんない」
「…………!」
「なでなでも、してくんない」
「それはっ……!」
思いっきり狼狽えておられますね、やっぱり可愛いですね!
「そんなシドさんが、ちょっとわたくしがラズール様にキスされて頭なでられたからって、イライラしなくて良いと思います」
ビシッと核心を突いて差し上げましたよ、どうだっ……!
椅子にバーンと仁王立ちになるリジーちゃん。
絶句しているシドを、腕を組んで見下ろして差し上げます……あ、つむじ発見。
欲望に負けて、つついて差し上げますよっ。
つんつんつんつんっ!
「何されてるんですか」
「つむじを可愛がってます」
ついでに、キスもしてしまいましょうっ
身をかがめ、頭を抱え込むようにして唇を寄せます。
サラサラの髪の毛と洗髪剤の香りと、シドさんの匂い。くすくす(忍び笑)
しっかり堪能させていただいていると、下から、ややかすれた抗議の声。
「オニですか、アルデローサ様」
「どうして、そうなるのかしら」
ぷくうっと頬を膨らませて、こちらも抗議。
と、シドさんいきなり私の両足にタックルしてきました。
ふわ、と身体が持ち上がる感覚。
新しいですね!
なんと、姫抱っこ強制回収スタイルじゃないのですよ。
―――けど。バランス悪っっ!
すなわち。
リジーちゃん、立ったままの状態で手をバタバタさせつつ、運搬されております。
一体、何がしたいんでしょうかシドさん!?
ドキドキ。
……と思ったら。
やっこらせっ!
そのまま、机の前に置かれてしまいました……。
「さっさと続きを書きなさい。邪魔しませんから」
うううう……意地悪ですね!
目の前には、隅の方にラクガキした 『だけ』 の原稿用紙。
イメージはあるんですけど、ねぇ。
前世の有名彫刻 ″聖テレサの法悦″ のごとく、美しい首をのけぞらせるアナスタシア様。
それこそ (今世でも誰か彫刻作ってくれないかしら) と思うほど、芸術的なのですけどねぇ。
そこに行き着く突破口が……どうにも掴めないのですぅぅぅ!
そして。
「俺には聞かないんですね」 やっぱり拗ねた口調のシドさん。
と同時に、薄い唇が、リジーちゃんの首の付け根に落とされます。
『あっ……』
いやだから、最近はシドに取材協力お願いしても、ロティーナちゃんが忙しくご降臨くださるだけ、ですから。
意味ないっていうか。
……という、リジーちゃんの心の声には全く意を介さないシドさん。
肩から背中、反対側の肩と首の付け根ぐるりと、服の上から、なかなか熱心なキスをしてくださいます。
同時に、前に回された指先が鎖骨や喉元をさわさわと弄ります。
そのボランティア精神は尊い……とは、思うのですが。
『んっ、んんっ、ぅんっ、ぁぁんっ……』
けっこうワンパターンなんですよね、ロティーナちゃんの基本的な反応って。
そういえば、ユーベル先生の作品 ″ネーニア・リィラティヌス″ も、ちゃんと読まないうちは 「毎回同じ」 とか思ってましたっけ……
やっぱり、退屈! なのでございます。
ユーベル先生ほど細かく、色んな応用が効かせられるわけじゃないですしね。
別方向のアプローチを考えねば、書く方も読む方も (きっと) 飽きてしまうのだ……っ!
と、急に。
シドがストップしました。
そして、両手で後ろ首にかかった髪を分けておられます。
そこから今度は、うなじを登るようにキスしてくださってます。
かかる息が、服の上からなのに熱くてくすぐったいっ。
『はぁんっ……』
ロティーナちゃん、またイイ感じに吐息を漏らしておりますね。
艶めかしい、バリトンボイスが囁きます。
「ここ……痕つけてもいいですか?」
おぉっ。
なんだか今、ピンときましたよ!?
新しいアプローチ、そういうことですねっ!?
やりますね、シドさん!
早速、脳内にメモメモです!
「どうぞ」 いそいそと襟元のボタンを外し、うなじを晒します。
「後でしっかり感想レポしてね!」
と。
「……はぁぁぁぁぁー……」
大仰なタメイキをつき、ガックリと肩を落とすシドさん。
一体なぜ。
「アルデローサ様がそんなだから、俺が何もできないんですよ」
再び送られる恨み目線。
て、どうして、リジーちゃんのせいっ!?
「ちゃんとストップかけて下さらないと」
「だって、もう、ほぼ公認ですのに?」
「だから、止められる自信がないので」
小さい声で、恥ずかしそうな顔をするシド……て、ちょっと待てください?
この人の恥じ入る顔って。
初めてですよ! ぉぉぉお!
「だって、ストップかけるタイミングが分からないのよ」 萌え萌えしながらも、唇を尖らせるリジーちゃん。
「ちゃんと合図して下さらないと」
「それができるなら、苦労してませんって」
シドさん、ますます恥ずかしそうですっ!
いやもう可愛いっ! 可愛いのです!
萌え萌えしつつ、同時に、胸の奥に温かいものが溢れてきます。
そうか。
この人、リジーちゃんのことを大事に大事にしたいんですね、きっと。
……愛されてるって、こういうことなのかな。
シドの胸に、コツン、と額をあててみます。
迷いながら、そっと肩を抱きしめてくれる大きな手。
ずっと前から、彼がいると安心したものです。
今も、何されてても安心しちゃいます。
そして、もっともっと、触れ合っていたくなる。
けれど、そう言うのももったいない気がして、代わりの提案をします。
「じゃあ、ルールを決めましょう」
「そうですね」 ほっとしてますねシドさん!
「では今後は、わたくしがシドを、ちゅうちゅうなでなでし放題、ということで」
「え」 固まってますねシドさん!
「シドさんは、頑張ってガマンしてください!以上」
どうですっ!?
完璧でしょ!?
胸を張る私に、本日何度目かの恨み目線が送られます。
「オニですね、アルデローサ様」
「だって悪女ですもの」
笑って手を伸ばし、シドの頬に触ります。
早速ちゅうっとしてみたいのですが、背が届かないのですっ
一生懸命、背伸びしていると、身体がふわりと浮きました。
ナイスサポートですねシドさん!
大きな手に持ち上げられたまま、えいやっ、と薄くてきれいな形の唇にキスします。
「下手くそですね、アルデローサ様」
言いながら、シドのお顔は嬉しそうに蕩けていたのでした。
読んでいただきありがとうございます(^^)
これからしばらくリジーちゃんデレデレ回(回復時期不明)が続きそうですが、呆れずお付き合いいただけると有難いです。




