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伯爵令嬢に転生して極悪最凶の変態を目指しましたが、結局は普通のお色気作家になりました。  作者: 砂礫零


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82/201

82.早春の兆にナンパ青年が真の力を発揮する!あまりの破壊力に婚約者の美青年もかすみがち、なのです!?

 さてかくして、暦の上でだけは春な3月(マルティウス)の5日。

 アリメンティス公爵家の広大な庭園をラズール青年に案内していただいている、私ことエリザベート。

 そして、従僕のフリして実は婚約者なシドさんです。


 もともと 『温室を見せてもらう』 約束だったはずですが、温室までが普通に遠い……!

 モミの林の中を、もうかれこれ15分は歩いておりますよ?


「あ」 不意に、ラズール青年が声を上げました。


 その目線の先を見れば、1本の古木の根元に、雪を割って顔を覗かせている花が。


「スノードロップですわね」


 可愛らしい姿に、思わず顔がほころびます。


「そう」


 わざわざかがんで、その周りの雪を()けるラズール青年。

 意外な一面ですね!

 白い花を見つめるオッドアイは優しく、しかし、どこか悲しげな色が浮かんでいます。衝撃です。


 これだったのかっ!


 ―――ずっと疑問だったんですよね。

 この方がそこまで、モテるというのが。―――


 いくら遊びと割り切っておられるお相手ばかりとはいえ、ちょっとオカシクナイ? などと思っていたリジーちゃん。


 が!

 おかしくないのです、全然っ!


 つまりは、ナンパな言動の端々にこういうほろ苦甘みをプラスさせてたんですね。

 それで、サバけたお姉様方から 「んもう、寂しんぼちゃんなんだからッ」 とばかりに、お相手いただいていたというわけですねっ!


 さすが腐っても王族。

 ハンパ無きギャップ萌え要素が炸裂しておられますっ!



「お嬢様」 


「……はっ!」 シドのブリザードがかった声で、我に返ります。


「助かったわ、ありがとう」


「ここで礼とか言われたくなかったですね」


「だって……あの凄まじい破壊力を見たでしょ?」


 シドだって分かりますよね?

 元々、ラズール青年に満更(まんざら)でもなかったですもんね?


 さっきも、食いつこうとしてたしね?


「知りません」


 シドさんが超絶不機嫌顔をしたところで、ラズール青年が立ち上がりました。


「待たせたね」


「いえ……スノードロップが、お好きですの?」


「ルーナ王国で、この花嫌いな人なんている?」


 ふわりとした最高級のノーブルスマイル。

 なるほど。

 あの破壊的表情の後でこれを繰り出し、トドメを刺すわけですねっ!


 あー……シドと (非公式だけど) 婚約した後で良かった。

 ウッカリ嫁にされるところでした。

 危ない危ない。


 と、さて。

 そんなことをコッソリ考えているうちに林を抜け、温室に到着です。


「見事ですわね」


 温室だけで、我がクローディス家の庭がすっぽり入りそう。


 赤、紫、ピンク、白……

 色とりどりの蘭や薔薇などが、季節ガン無視で咲き誇っています。


 華やかすぎて、落ち着きませんね!


「あちらがハーブですね」


 シドが指す方を見ると、我が家でも定番のレモングラス。

 ほかジャスミンやセージ、マロウと種類も豊富です。

 ルーナ王国では珍しいハイビスカスまで、ありますね!


 嫁に来てたらブレンドし放題、とちょっと妄想してみるリジーちゃん。


「やっぱり……実用的ってイイわねぇ」


 ほうぅぅっ。

 ウットリとアニメ的溜め息なんてついてみます。


 と、急に、目の前に薔薇の花束が……っ!


 見れば、ラズール青年が横から、差し出してくださっています。


 なかなか可愛らしいアレンジですね!

 全体的に白が基調で、ピンクと淡い紫で、アクセントがつけられています。

 添えられた薄緑のカーネーションと、緑色の姫リンゴの枝が爽やか。


 ……なかなか、素敵なのですっ!


 けれども、しかし。

 差出人がこの方では、素直に受け取るわけには、いきませんよ!?


「どうぞ。こっちもハーブに劣らず良い香りでしょ?」


 柔和に微笑むオッド・アイ、危険レベル高め、でございます。


「ご両親から是が非でも落とせ、とでも?」


 扇で口許を覆い繰り出したイヤミに、苦笑いで応じるラズール青年。


「いや、普通にお詫び。迷惑をかけたね」


 ……え。


「まぁ。お気遣いありがとう存じます」


 受け取りつつ、悪女の韜晦(とうかい)術でニッコリ棒読みすれば、ラズール青年もまたニッコリされます。


「良かった。

『あれだけ迷惑かけといて花束1つかオイ』 とか思われなくて」


「あらー、おほほほほ」 はい、笑って誤魔化してますが、物凄く思いました、ソレ。


「可愛いから、許して差し上げますわ」


「それは有難いね」


 ラズール青年が手を伸ばして、花の位置を細かく直しつつ、ぽつりと言います。


「結婚など、全くする気は無かったんだ」


「そうでしょうね」


「でも君となら、やっていけるかと思った。両親が、あれだけ早く動くとは、予想外だったけれどね」


 なにげに口説いて……ませんよね、まさかね!


 そもそもが、一体どうして。


「オモチャにされてる、とは思ってました」


「えっ 『もしかしてわたくしのこと……ドキドキ』 とかは?」


「全くちっとも全然」


「……あれだけホメ上げたのに……」


 天井を仰がれる、ラズール青年。

(ホメた程度で、悪女がなびくものですか。ナメないでくださいませ!)


「いえ? 普通に気持ち悪かったですわ?」


「ええええええっ!?」


 動揺されてますね。ふっ。

 ザマヲミナサイマセッ!


 ではなくて。


「そもそもどうして、わたくしですの」


「大事なもの以外は、心底どーでも良い人に見えたから」


 当たってるでしょ、と言わんばかりのドヤ顔です。


「確かに」


「結婚しても自由にさせておけば 『夫婦だから云々』 とか面倒なこと言わないかな、と思って」


 うわー! よく見抜いてますね!


 確かに一瞬、アリメンティス公爵家からのプロポーズ受けようと思った時は、そんな感じでしたね!


 でも。

 今だったらとても、考えられません。


「それってもし、結婚後にラズール様が 『大切なもの』 の範疇に入って、わたくしが面倒なこと散々言い出したらどうする気でしたの?」


「は……?」 ラピスラズリとタイガーアイの双眸が、大きく見開かれました。


「そんなこと、あるの?」


「だから、もし、ですわ」


「うーん。それは、想定していなかったなぁ」 難しいお顔ですね!


「従者とにゃんにゃんできる環境さえ与えておけば、満足するものとばかり」


 な、なんですと!?

 いや確かにシドのことは好きだけど!

 それはここ最近の話で、当時は別に、ですよ!?


 ……自覚してなかった、だけだったのかな。


 どうしよう。なんか嬉しいのです。


 もし、私が、ずっと前からシドのこと好きだったのなら、それって、すごく嬉しいかも……っ!


 どうしよう。顔面崩壊してます。

 ……そして、止められませんっ。


 そんなリジーちゃんを、ラズール青年は優しく見つめ、やおら顔を近付けてきたかと思えば。


 素早いキス。


 ……完璧に、隙を突いてこられました。


 のぉぉぉぉぉっ!

 シドが見てるのにぃっ!


「なになさるんですかっ」


「いや? 急にしたくなっただけ」


 いたずら気に微笑まれると、騒ぎ立てる方が恥ずかしくなっちゃいます。


 ずるいぞナンパ鬼スズメ。


 こうなったら、こっちだって!


「ふんっ! そ、そんなもの、ししし食前酒にも、なりませんわっ!

 おーほほほほっ」


 決まりましたね! 悪女ゼリフ!

 しかしラズール青年、高級ノーブルスマイルで応戦です!


「そう? じゃあもう一回、してみる?」


「……踏んでもいいかしら?」


「喜んで。どこを踏んでくれるのかな?」


「…………負けました」


 ガックリしちゃいましたよ、もうっ。

 やはり、変態度では全然かなわないのです。悔しいっ。


 そんなリジーちゃんの頭を、日に焼けたたくましい手がナデナデしてきます。


「おめでとう、と言わせてもらうよ」


 ああ、何もしてこないお兄ちゃんってこんな感じなのかな。


 柔らかで温かい声、聞いたら素直に嬉しくなっちゃいますねぇっ!


「ありがとうございます」


「君を不幸にしないで済んで、本当に良かったよ」


 ……え?

 嫁は不幸になる前提なのですか?

 アリメンティス公爵家……!


「ラズール様も、遊んでばかりおられないで、大切に思える方を見つけられたら良いのよ」


「それは……難しいなぁ」 頭を撫でてくださっていた手が、止まりました。


「大切だったものはもう、想い出の中にしかないんだ」


 そう言うラズール青年の声は、穏やかで笑みさえ含んでいるのに、やっぱりどこか悲しげで……


 これがシドと (非公式だけど) 婚約した後で良かった。


 もう1度そう考える、リジーちゃんなのでした。

読んでいただきありがとうございます(^^)

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― 新着の感想 ―
[一言] >ナンパ鬼スズメ。 呼び方がドンドン酷く (;'∀') 踏めばよかったのに (`・ω・´)シ ナンパやろうなんて踏んでしまえ!?ww
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