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伯爵令嬢に転生して極悪最凶の変態を目指しましたが、結局は普通のお色気作家になりました。  作者: 砂礫零


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73.イケメンパパの悩みも彼方に押しやる愛の力!そして美青年の過去が明らかに!?

ご訪問下さり有難うございます。


後半シド目線入ります。オフザケ少なめですが、お楽しみいただけると幸いです。

「もちろん、愛しているからですわ!」


 しんしんと雪の降り積もる2月(フェブルアリウス)は3日の夜。

 ふと気付けば何だかイケないことをしているのを侍女に見つかり父に告げられた、私ことエリザベート・クローディス。

 ルーナ王国では一応、成人済ませた16歳でございます。


「普通、女の子のこういうことって母親の方に言わない?」 とシドと共に連行されつつナターシャに尋ねると 「あの天使様を悩ませたいんですか」 と逆に聞き返されました。


「それに旦那様の方が分かって下さると思いますわ!」


 ……言いたいことは分かります。でも。

 そこまで気を遣えるなら、バラさないでくださいな、そもそも………とまぁ、それはさておき、そんなわけで。


 ただいま父の書斎にて、控えめな声で 『(免罪符)』 を主張中です。


 口に出すと寒気がくる言葉も、アナスタシア様を守るためならバンバン使っちゃいますよ!


「……リジー……だからって婚約前にそんな、はしたない真似を……」


 父はグズクズ泣きながらお説教下さいます。胸が痛みます。


 本当にごめんなさいお父様。


 どうしても 「ただの取材だから気にしないで!」 って安心させてあげられなくて。

 ん? 安心するでしょうかね、それ?


 いや……どう考えても 『(免罪符)』 一押しの方が、マシ……な気が、しますよね?


 こうなったら、もう。


「だってっ……!」 免罪符にプラス瞳ウルウル攻撃も、しちゃいますよ!


「公爵家からのプロポーズなんてっ! こうでもしなければ、お断りできないでしょう?」


 おおう、あの肖像画、なんて都合良く活用できることでしょう!

 最初は 『何だコイツら』 とか思っちゃったけど、今ではむしろ感謝ですね!


「わたくしはシドがいいの!」


 シドは隣で、床を凝視しつつ胸を押さえて「うっかり感動しそう」 とか呟いています。

 いえね、丸っきり嘘というわけでも、ないですからね?


 もしも、誰かと結婚しなきゃハルモニア広場で首になる、って事態になったら相手はシドが良いと思いますよ。うん。


「……わかったよ……」 父がキレイなハンカチで涙を押さえつつ早々に結論付けます。


「お父様も、そうじゃないかとは思っていたんだ……」


 あれ、そうなんですか?

 うーん、どの辺で、なのかなぁ……?


「公爵様には率直に事情を話して、諦めていただこう」


「大丈夫……ですの?」


 やすやすと免罪符が効いてホッとはしたものの、別の意味で心配になる リジーちゃん。

 率直に、とはすなわち。

『ウチの娘は従者とデキていますから、息子さんとはちょっと』 ということですよね。


「公爵様 『なんて失礼なムキーッ』 とか、なりません?」


 父、ふぅぅぅぅ、と重たいタメイキです。


「誤魔化して断って、蓋を開けてみたら従者と結婚している方が、よほど失礼じゃないか」


「確かに、ですわねお父様」 好む好まざるに関わらず、ルーナ王国にはれっきとした身分制があるのです。


「いっそ革命でも起こしちゃいます?」


 身分関係なくなれば、公爵様に失礼じゃありませんものね!


「……リジーは冗談が上手になったね」


「恐れ入りますわ」


 あら、革命は無理っぽいですわね。


 父なら、革命軍のリーダー張れるかと思ったのですが……まぁ良いか。


「大丈夫だ。王族の方々は皆、ご立派だから。率直に話せばきっと分かって下さる」


 己に言い聞かせるように、何度も頷きながら話す父。

 本当に……ご苦労お掛けします。

 ごめんなさい(涙)



「その件ですが、少しお待ちいただいても大丈夫ですよね」 シドが急に、口を挟んできました。


「もともとが保留する予定でしたし」


「それはまぁ、できないわけではないが……返事は早目の方が」


「1ヶ月ほど待っていただければ」


「1ヶ月!?」


「はい」 シドが頷きました。


「ジンナ帝国の、とある人物の口添えを頼めるかもしれません」


 えええっ!

 どうしてここで、ジンナ帝国がっ!?

 全くワケがわかりませんよ……っ!?


 父も、不思議そうにシドを見ています。


「ジンナ帝国とつながりがあったのか?」


「ワケあり、ですので」 シドがニッコリしました。


「たぶん、従者風情がお嬢様とデキている、というよりマシな結果になると思いますよ!」



 ※※※※※



 翌朝。シドは旅装を整えて馬に乗った。馬に乗るのは十数年ぶりだ。


 ルーナ王国では馬車が一般的な上に、基本従者は馬に乗らない。


 最初は不安があったものの、乗馬は身体が覚えていた。

 捨て去ったと思っていたものに、助けられる。


 そんな時が、全くないわけではない。

 今回ジンナ帝国に行く目的など、その最たるものだろう。


 もう2度と見たくもない、故国。

 母を殺した、無慈悲の帝国。


 まだ、幼く、アーロンという名で呼ばれていた頃。


 ある晩、ふと目を醒ました彼は母を探して館を彷徨い、その言葉を聞いた。


「もう庇いきれない」 溜め息まじりの父の声。


「あの子は年々、陛下に似てくる。疑問に思う者も多い。

 もういっそのこと、ご落胤を預かって育てていることにしてしまおう」


「いけません」 いつも優しい母の声が、この時だけは強く響いていた。


「今の情勢でそのようなことが明るみに出れば、たちまちあの子は消されてしまいます……

 それとも、それをお望みですか?」


 彼はいつの間にか戸口に耳をつけるようにして、両親の話を聞いていた。

 内容が自分を指すらしいことは分かったが、その意味がよく分からない。


 母の声が震える。


「血の繋がらない、不義の子には死を、と?」


「そんなことは言っていない!」 父が声を荒げる。


「私がどれだけあの子を尊重してきたと思っている!?

 それも、あなたと陛下の子だからだ!」


「旦那様」 母にたしなめられ、父の声は再び静かになる。


「だが……このままでは、いずれ、詮索好きどもが騒ぎ出す。

 もう、あれこれと調べているかもしれないな」


 あの子が、あれほど陛下に似ていなければ、と疲れたような呟き。


「陛下は関係ありません」 母は静かに、だが強く言った。


「あの子はわたくしだけの子ですわ。何としても、守ります」


「やめてくれ」 父……父だと信じていた男の声が掠れる。


「わたくしが贖罪の(フェブルア)神殿に不義を告白すればそれで良いでしょう?」


「今さらか? 私は」絞り出すような声が続く。


「あなたに(そば)に居てほしかったから、全てのことに目をつぶった。

 嫉妬も抑え、あの子のことも尊重してきた」


「存じておりましたわ」 母が微笑む気配。


「有難うございます。でも、このようなこと言えた義理ではありませんが……」


 言い淀み、しかし願いははっきりと口にされる。


「少しでもわたくしのことを愛して下さっているなら、その愛を今度はあの子にも与えてやって下さいませ。

 わたくしの、忘れ形見になりますのよ」


 幼い少年は混乱しながらその場をそっと離れる。


(お母様は死ぬ気なの?

 お父様は僕のお父様ではないの?

 ……全部、僕のせいなの?)


 どういうことなのか知りたくて何度か尋ねかけたが、すんでのところで、いつも。

 自ら、押し止めてしまう。

 ……知れば、全てが崩れてしまうのが、怖かった。


 しばらくは表面上、穏やかな日が続いた。

 だが、時はきて、母は捕らえられた。


 理由はうっすらと、察しがついた。

 ―――自分の、せいなのだ。―――


 面会に行った少年に、母は言う。


「いいこと。お母様はこれから、あなたとはもう会えなくなります。でも、幸せなのよ」


「僕のせいなの?」


「いいえ。あなたのせいではないの。お母様だけが、いけなかったのよ。

 でも覚えていて」


 狭い鉄格子の向こうで母は微笑み、何度も 「幸せなのよ」 と繰り返した。


 次の日に母は、毒を飲み、見せしめとして炎で焼かれた。

 ジンナ帝国では、不義密通は死罪なのだ。



 父と信じていた男が、少年に告げる。


「お前の母は、お前を守るために亡くなった。

 彼女の願いに従い、私はお前を守ろう。

 書類上は養子とするが、これまで通りに暮らせば良い」


「これまで通りに?」


 生まれてはいけなかった自分が、母を殺して、のうのうと生きていくというのか。


 少年の問いに、男は頷く。


「この宰相の息子として、全てを与えよう。それが、彼女との約束だ」


 男はジンナ帝国の宰相。

 母を処刑するための書類に、サインをした男だ。


 少年の沈黙を男は承諾と取り、彼の手を軽く握って踵を返す。

 その背を睨み付けても、振り返ることなど一切ない。


 全てが、憎い。

 この帝国も、あの男も、母と通じながら素知らぬ顔をして皆に(かしづ)かれている皇帝も、母も。


 そして誰よりも、自分が、憎い。


 顔も、声も、髪も、手足も、心も。


 自分の何もかもが、呪わしい。


 生まれてこなければ良かった。



 ―――僕ハ、僕カラ、逃レタイ―――



 彼は館を抜け出し、奴隷商人の一隊に混じる。

 どんな最悪な環境でも、あの男の館よりはマシだ。


 一人称を 「俺」 にしてみる。

 怯えている子供を、他愛ない冗談で笑わせてみる。


 しかし何をどう変えたところで、憎しみだけは変わらない。

 心を突き抜け、全身を支配する憎悪。


 どうすれば逃れられるだろう?

 それとも、それに(さいな)まれつつ生きることこそが、己に与えられた罰なのだろうか。



 ……けれども。

 答えは、意外なところにあった。


 奴隷市場の客としては珍しい、幼い少女。

 その、陽光がさせば深い薔薇色に輝く、稀少なアメジストの瞳に不思議なほどに心が、吸い寄せられる。


「お前は、わたくしのものよ」


 父親の目を気にしつつ、こっそりと、しかし無邪気に囁かれる所有欲。


 ああそうか、と彼は気付いた。


 この少女に所有されるだけで、良かったのだ。

 それだけで、俺は 『僕』 から逃れられる。


「今日からは、お嬢様が俺の主です」


 彼は少女に(ひざまず)き、うやうやしく頭を垂れた。 ――――



 それから12年が過ぎようとしている、2月(フェブルアリウス)


 2度と見たくないと思っていた故国へ向かう旅でも、その心は穏やかだ。


 あの時から彼を受け入れ、愛し育ててくれた人々のために、利用できるものを利用するだけなのだから。


 さぁ、と馬に声を掛けた、その時。


「シド」


 明るくよく通る声が響き、彼は振り返って目を見張った。


「お嬢様。なんですかその格好は」


 主の服装は、いつものそこそこ華やかなドレスではない。

 まず目に付くのが、毛皮の帽子と父親から借りたらしい男物のガッシリしたコート。その下はおそらく、シンプルな乗馬服だ。

 持ち物は、最低限の荷物を詰め込んだらしいナップザックに、大きめのポシェット。中身は、携帯用のインク壺にペンに、紙の束、といったところだろう。


「それはもちろん」


 いかにもワクワクしている、といった様子で、彼女は口を開いた。


「わたくしも一緒に行くからに、決まっているでしょう?」

読んでいただきありがとうこざいます(^^)


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