72.美青年のブリザード説教から始まる首フェチ取材!強気に攻める変態悪女、なのです!?
さて時は折しも贖罪の2月3日。
自室で従者兼お兄さんの美青年と向き合っている、私ことエリザベート・クローディス (なぜだか求婚されました)。
窓の外はしんしんと雪が降り積もり、寒いです。
シドの顔からも、これまで見たことのない冷気が漂い出て、寒いです。
なぜこんなに怒られているのかよくわからないのですが、雰囲気に飲まれ、とりあえず正座してうなだれるリジーちゃん。
ちなみにルーナ王国には正座の風習ありません。
「いいですか、お嬢様」
「はい」
「せっかく政治に関係ない家に生まれたのに、愛の無い結婚をしようとするのは愚かです」
シドの台詞に、ピキーンと凍っちゃう心持ち。
……シド、今、なんておっしゃったのかしら!?
あ、あ、あ……あぁそうか。アイスクリーム。
うん確かに冬にはアイスクリームは欠かせませんね!
年中いつでも欠かせないのは、チョコレートですけれども。
「お嬢様にはちゃんと、愛する人と幸せな結婚をしていただかなければ」
『愛してないから攻略OK』 なんて論外ですよ! などと、ブツクサ怒っているシドですが。
そんなこと言って痒くないのか!?
……。
あぁそうか。ルーナ王国では廚2文章当たり前、しかもシドは書字魔法の朗読でよけいに慣れているんでした。けれども。
「大切なのは 『あ・い』 ですよ!」
真顔で強調されるとつい、思ってしまうのは。
「シド大丈夫? 熱でもあるの?」
額に額をあてて確かめますが……うん、若干高めですが、うわごと言い出す程ではありませんね。
「俺は真剣です」 まじか。
「じゃあ、ヘンなものでも食べたのね!」
「ヘンなものって」 シドの唇が薄く笑いました。こわっ。
「これのことですか」 熱い指が耳に触れて、手のひらが私の頬を挟みます。
力なんてほとんど入っていないのに、振り払えない。
優しい手つきなのに、痛くて泣きそう。
でも負けませんっ!
「どうして、耳がヘンなものにカウントされるのよ」
「アルデローサ様の耳だから」
真剣な声ですけど、相当オカシイこと言ってますよシドさん!?
で、なんでそんな面白いこと言われてるのにチョコ痛みなんだ、この役立たずの心臓めっ。
「それとも、こっちのことかな」
漆黒の瞳が近付いてきて、そっと閉じ、唇に柔らかい感触。
うぎゃあああっ!
もしかしなくてもキスされてる!
ていうかこれ、味わわれてます?
唇、甘噛み、されてますけど。
舌で、歯を味見、ですか?
たぶん鮭シチュー薄めた味だと思う。
シドも食べてるんだし、そんなに熱心に味見しなくてもイイと思う。
どうしよう。なんか、気が遠くなってきた。
ふーっと去りかけた意識を戻したのは、チュッという音と、首筋を吸われる感触。
こんな音、読み物の中だけかと思ってたら、本当にするんですねぇ。
なんか感心。
そうかぁ、次のアナスタシア様は首フェチ回か。
耳フェチ回のイヤリング様とペアのネックレス様が 「お前が出たんなら俺も」 と出張って、高貴な未亡人の首をしつこく愛でるワケですね。
唇が触れた部分が、全部、熱くてそのまま溶けてしまいそう。
『んんっ……んっ……ああっ……ぅんっ……ぁあんっ』
おや、ロティーナちゃんがまた降臨してますね。
しかし頑張れリジーちゃん!
これもまた、取材なのです!
快感にのけぞるアナスタシア様の美しい首を余すことなく描写せねばっ。
もしここで頑張れたら、打倒ユーベル″鬼スズメ″先生イケるかもしれませんよ!?
何度も首筋に口づけしつつ、シドの片手がドレスのボタンを器用に外していきます。
首元を押し広げてキスを繰り返す唇が、鎖骨の上に降りてきます。
舌が、くぼみを丁寧になぞると、それにあわせて頭が左右に動くのが、子犬みたいで可愛いです。
頭、ちょうど私の鼻の前ですね!
いつも心を落ち着けてくれる、シドのにおい。
手を回してサラサラの髪を乱してやると、いっそう強く香って、なんだかやっぱり安心してしまいます。
そうこうしているうちに、シドの唇は鎖骨を離れて胸の谷に……
「ストップ! そこまで!」
「なんでですか」
ナニ不満そうな顔してるんですか!?
「ネックレスの精霊様の守備範囲は、胸上部までなのよ」
「……妙に反応が良いと思ったら……」
シドさんがくうっと肩を落とし、両手で頭をガシガシしています。
「いつの間に取材に落とし込んだんですか」
「あら。これが取材以外のナニなのよ」
「あ」 「ストップ!」
イヤな予感がしてシドの台詞を止めると、漆黒の瞳がじっと見つめてきました。
「あい」 「だからヤメて!」
そんなコワイ言葉は聞きたくない。
お願いだから、言わないで。
忘れていた憎しみと絶望が、身体の奥から溢れてきそうで、私は思わず左の二の腕に右手の爪を食い込ませます。
絶対に、負けません。
「そんなこと言わなくても、シドはわたくしのものでしょう?」
必死で言葉を紡いで、その内容にまた愕然とする私。
―――『あなたは私のものよ』 それは前世の実母の言葉。
『あなたのためなら何でもしてあげる。私がしてもらいたかったことは、全部』
幼い頃はそういうものなのかと受け取めていたのに、いつの間にか憎悪と絶望しか生まなくなった、彼女の愛情。
母は私を溺愛しつつ、私が 『母の付属物である以外、何の価値もない子』 だと教え込む。
『母さんの娘なのに、あなたにできるわけがないでしょう?』
『母さんの言うとおりにしなければ、他人に嫌われてしまうよ』
『母さんの言うことを聞かないからよ。自業自得でしょ』
『余計なことをして心配させないで!』
愛情から出た言葉でなければ、あれほど囚われることなど無かったのに。
逃れたくても逃れられない檻の中で、いつしか心は死んでいた。
何も考えず、何も感じず、当たり障りのない笑顔を浮かべてプログラミングされた言動で動く人形。
それが、前世の実母が愛をもって作り上げた、私。―――
同時にフラッシュバックする、もう1つの記憶。
―――前世の兄が、私の身体をさわる。イイところもイケないところも、全部。
「大好きだよ」 と言われて、その言葉を信じる。
「世界一かわいい」 と言われて、有頂天になる。
私も兄が大好きだから、それでいいのだ、と思い込む。
どうしようもなく愚かな女の子、それが、前世の私。―――
愛が全ての免罪符となるならば、私は愛されたくなどない。
愛したくもない。愛は、こわい。
―――愛があったから、やすやすと支配され、やすやすと利用された。
そして、それに気付いた時に、愛は怒りと憎悪に変わった。
怒りと憎悪が、空っぽの心に渦巻いて、苦しい。痛い。
なのに、それだけが、私だけのものなのだ。誰にも支配されたり利用されたりすることのない、私自身。
だから、決めた。
怒りと憎悪と痛みだけが私であるならば、次こそはそれを隠さずに生きていて行こう、と。
次こそ私は、誰にも支配されたり利用されたりしない―――
逆に支配し利用してやるのですよ、ふっふっふ(悪女的笑)と思って籠絡スキルを磨きつつ、この16年生きてきたはずなのに、今になってっ。
支配も利用もナイナイ、と思っているはずの人に対して 「あなたは私のもの」 なんて、即座に 「ご遠慮します」 と言いたくなる台詞を吐いてしまうなんて!
のぉぉぉぉっ!
「ごめんなさい、間違えたわ」 急いで言い直します。
「シドはわたくしのもの、ではないことは分かって」
「間違えてませんよ」 シドの声が被さりました。
「俺はあなたのものです、アルデローサ様」
「それはいけません」
けれどシドは、首を横に振ります。
「いいえ、シドはあなたのものですよ」 頑固ですねもう!
「あなたが俺にこの名を与え、新しい人生を与えたんです」
そんな真面目な声と表情で、過去の間違いをほじくり返さないで下さい。
反省してますから!
「そうでなければ俺はきっと、自分自身から逃れられずに、死んでいました」
「ほえ?」 思わずアニメ声を出してシドを見る私。
なんか今、びっくりすること言われましたよ?
シドがワケありは知ってましたが、そのワケって掘り返したらメチャクチャ重いのでしょうか、実は!?
しかしシドはそれ以上は語るつもりなさそうです。
ただキレイに微笑んで、こう言いました。
「だから俺は、間違いなく、髪の毛の一筋まで、あなたのものですよ」
破壊的な廚2ゼリフを口にしつつ、私の手をとって黒金の髪で覆われた頭に置きます。
「触ってみてください、分かりますから」
んなもんで分かるか! とツッコミ入れたい。
けどそしたら黒い笑みで 「じゃあ試しにココとかどうですか」 とイイところやイケないところを無理やりオススメされそうな気がする!
ひとまずは、おとなしめに聞いておきましょう。
「て、どこを」
「どこでも、お好きなところを」
と言われても。どうしろ、と言うんだコレ。
とりあえず頭をナデナデしつつ考えていると、ピコーン! と閃くものがっ。
そう、確かリジーちゃんは仕事熱心に首フェチ取材中だったではありませんか!
そんなわけで、シドのアゴをくいっと持ち上げてそのお首を視姦させていただきます。
首筋の力強い曲線、よく見るとなかなか艶めかしいですね! 形のイイ喉にもソソるものがあります。
うーん囓ってみたい。どうしよう。
ま、せっかくお許しが出てるんだし、いいか!
えいやっと喉仏を口に含み、舌でコロコロしてみます。うん塩味。
『あっ……』 おや、どうやらシドにもロティーナちゃんが降臨したようですね! ザマヲミナサイマセ!
……ん? 今『もっと』とか言った?
……………気のせい、ですよね。
次は美味しそうな首筋を賞味してみましょう。
なんだか吸血鬼の気分ですねえ!
(そうか、吸血鬼は首フェチだったのか!)
歯を立てると痛そうなので、カプッと唇でくわえてみます。
心落ち着くシドの香りに、コリコリ感と柔らかさのミックスが良い感じです! ……塩味。
『ぁああんっ』 ロティーナちゃんも熱心に降臨し続けておいでのようですね。 よろしい。
さて、次はどこにしようかな。
そんなことを考え出した時。
ばーん、と部屋の扉が開きました。そこに居たのは。
「リジー……まさかリジーがそんな……」
呆然と呟いているイケメンパパもうすぐ41歳。
と、「きゃあっ、すみません!」 と誰に謝っているのかよく分からないけど、ワタワタして謝っているナターシャ。
…………そういえば、鍵。
閉めるの忘れて、ました、ね……!
読んでいただきありがとうございます(^^)




