69.利用できる者は全て利用してこそ変態悪女!ナンパなエロ小説家の心とワザも盗んじゃいます!?
かくして時は、全てが凍りつく贖罪の2月はじめ。
私ことエリザベート・クローディス今年はもう17歳、ただいま目抜き通りのカフェ ″アクア・フローリス″ にきております。
アンティーク調のソファやスツールなんかがゆったり配置され、時間を忘れてお茶を楽しめる雰囲気です。
中央には、リジーちゃんの背程もある大きな花瓶。
今は雪だるまのモニュメントをつけたヒイラギの枝が飾られています。落ち着いていながらオシャレな店内、素敵ですね!
そこでタイプの違う青年2人と見つめ合いつつ、優雅にお茶を手にして微笑むご令嬢。なってみたいですよね!
けど、ギリギリなところで残念。
現在、リジーちゃんが見つめているのは原稿用紙。
手にしているのはペンで、微笑む代わりに針突き刺すだけで失血死しそうなほどコメカミ付近に青筋立て、ガリガリと手直し中でございます。
「結婚について話し合うつもりかと思ったのに」
優雅な仕草で手にカップ、口に冗談を載せつつ微笑むのはラズール青年。オッドアイの、日焼けした軍人さんです。
これから軍艦に帰るところ、次のお休みは雪灯祭とおっしゃるから、急ぎ慌てて引き止めてお茶などご馳走して差し上げているのですよ。
対する漆黒の瞳の美青年ことシドさんは、そんな軍人さんにブリザード視線を送っています。
まぁ、リジーちゃんのライバルはシドにとってもライバルですからね、たぶん。
「お嬢様は真面目な方なので、仕事優先でございます」
「いいね。仕事に邁進する女性って、どうやって堕として仕事以外の顔を見てやろうかとか、つい思っちゃうよね」
日焼けしたお顔に再びブリザード視線を向けるシドさん。
気持ちは分かるけど、冷凍しないようにお願いしますよ!
まだ、ラズール青年ことユーベル先生の技術と変態精神を盗んでいませんからね!
シドの声が、とげとげしく響きます。
「思うのはあなただけですよ」
「そうかな」
僕だけだったら 『ネーニア・リィラティヌス』 にあれだけ人気が出ないよね? と、完璧な角度で小首を傾げている気配。
もうっ、むかつく!
ティーカップなんて、とりあげて差し上げますよ!
「書き直しましたわ!」
ばん、とラズール青年の目の前に原稿を置きます。
「いかがかしら?」
「早いね」 誉めてない口ぶりですね!
「妄想が足りないんじゃない?」
「後でゆっくりするから良いんです!」
エロい方面のワザをじっくり教えていただいても帰艦時刻に間に合うよう、こちらの妄想は急ぎ急ぎ、なのでございます。
「うーん」 読みながら、完璧な角度で小首をかしげるユーベル先生。
「まだなにか」
「ジグムントさんなら、感涙身悶えしてくれそうな出来になってるんじゃない?」
そうでしょうとも!
なにしろ、耳かきシーンのついでにエステシーンも手直ししましたからね!
けれども、しかし。
……なんとも、引っ掛かる言い方。
「ユーベル先生はいかがですの」
「どうしてこのイヤリング精霊は、これだけアナスタシア様のことが好きなのに、耳かきと悩み相談で満足できるのか考え中」
「それは、百合までいかない女子の友情というものですわ」
「だって化けて出るほどアナスタシア様のことが好きなんだよ?」
うっっ。詰まるリジーちゃん。
ユーベル先生がびしり、と指摘します。
「つまり君の倫理感が物語をコントロールしすぎて、せっかくの美少女精霊様が生きてない」
うっっっ……また 『お行儀良すぎ』 って言われてるぅぅぅ!
屈辱です!
言われてみれば確かに、と思ってしまうあたりが、特に!
「ではユーベル先生なら、どう書かれますの?」
「そんなの、決まってるでしょ」 オッドアイがふわりとノーブルスマイルを浮かべます。
「耳に口付けて言葉責めしつつ舐め回して、ワケ分からなくしたところで脱がせて最後までイク」
「結局それですか」
はぁぁぁ (タメイキ)
そんなことするのはリジーちゃんの美少女精霊様ではないですね。
たとえ、お行儀いいと言われようとも。
「それ以外に何があるの?」
「だから、アナスタシア様の役に立ちたいとか! 疲れたアナスタシア様に癒しをあげたいとか!」
「だから、イイ気持ちにして心を開放してあげてストレス解消? みたいな」
あっ、でも女の子同士って最終ナニ使うんだろう? 男よりイイってことあるのかな? などとまた、首を傾げておられます。
そんなの、存じませんって。
はぁぁぁ(タメイキ)
やっぱりユーベル先生とは、根本的に合いませんね。
「じゃあまぁ議論が紛糾したところで、本題に入ろうか」
テーブルの上の原稿を丁寧にまとめて脇に置くユーベル先生ことラズール青年。
ティーカップを手にとり、冷めたお茶を優雅に1口含んでいます。
「わかりましたわ。それなら、イヤリング精霊の心情をもう少し細かく書き足すことにいたしますわ」
「やめた方がいいんじゃない?」
「あらなぜですの」
「ますますエロくなくなりそうだから」
……屈辱!
「で本題なんだけど」
「わかりましたわ! ではイヤリング精霊には耳つぼマッサージと称しつつ耳朶以外を甘噛みさせましょう」
「なんで耳たぶ除外なの?」
「そっそれは」
思わず耳たぶガードして、うつむいちゃいます。
……今、何もフラッシュバックさせないで、リジーちゃんの脳ミソ……!
シドさんのあれは、単に、取材協力であって。
と、ここで急に、シドが口を開きました。
「耳たぶは俺のためだけにとっておいてくれることになっているので」
いっ、いきなりっ!
ナニを言い出すんですかシドさん!?
「へぇ、そうなんだ?」
ラズール青年、面白そうにオッド・アイをパチパチさせておられます。
「はい。まぁ俺たちこういう関係ですので、そちらの本題は無かったことに」
そうか、シドさんは 『本題』 って 『結婚』 のことだと思ってたんですね。
それで、ラズール青年撃退のためにヘンな発言をなさったわけですね。なるほど。
やっとわかった、リジーちゃんです。
でも 『結婚』 だなんて、冗談に決まってますよ。
だって本気なら、書字魔法が効力を発揮して鼻血ダラダラでしょうからね?
シドだって気付いてたはずなのに……あれ。
もしや、あの時の『気をつけろ』発言も冗談のつもりじゃなかったの!?
いやゴメン、180%冗談だと思ってました。
ということは、もしかしたら。
シドがメチャクチャ怒ってたのって、つまりは。
『ク○ナンパ鬼スズメ野郎に狙われてるから 「気をつけろ」 って言ってやってるのに、なんでホイホイお茶なんかしてるんだ。
どこまでも世話かけさせやがってバカ』
こういうことですね!
でもそれはシドさん、最初の一行からしておかしいですよ。こちとら市井の名花ではなく雑草、ただの乳臭いジャリガールですから。
オモチャにしてからかうことはあっても、本気で 『結婚』 とかないですよ、うん。
「えーだけど、身分的に無理だよね? 従者とお嬢様なんて子供だましの物語でしかないもんね?」
にっこりぐっさり、悪ノリをするラズール青年。
ダメですよ?
仮にも王族なのにそんな差別発言は。
……ほら。シドさんがまた、黙ってキレてるじゃないですか。
「でも僕は浮気公認だから!
奥さんが従者とイチャイチャしてても全然気にしないしね? どう?」
どうって何ですか。
「それに手とり脚とりレッスンもしてあげられるから、お色気作家としてもランクアップが期待できるよ?
どう?」
だからどうって何ですか。
「それにもちろん、奥さんがお色気小説を世間に発表するのも全面的に応援するから!
今よりもっと自由になれるよ?
どう?」
あら、それいいかもしれませんね。
……けれども、それこそ。
子供だましの物語でしかありませんね……!
現実に公爵家の両親の立場を妄想してみるとよくわかります。
息子が世間に浮名を流してるのにヨメまで変態悪女のお色気作家じゃあ。
息子は可愛いから許しても、ヨメは許せませんよ。
間違いなく、秘伝の毒をコッソリ盛られるレベルですね……っ!
というわけで、冗談はこの辺にして。
そろそろ本題の方に戻りたいものです!
「まぁご冗談がお上手」
ユーベル先生から技術と変態精神を盗むためなら、社交辞令も言っちゃいますよ!
「それで本題ですけど」 王女殿下を意識して可愛く小首傾げたりなんかもしちゃいますよ!
「ではやはりイヤリング美少女精霊様には、さらにアナスタシア様に触れたい欲を加速させるべきでしょうかしらね」
うん、やはり欲望渦巻く方が 『役立ちたい』 よりエロくていい感じですね!
ユーベル先生のおかげでわかってきましたよ。
「でもアナスタシア様の疲れたお気持ちを考えてガマン。
欲望の成就よりも癒しに徹するわワタクシ!
みたいなのが萌えそうですわね」
そうかもね、と苦笑するユーベル先生。
きっと 「結局お行儀いいね」 とでも思っておられるのでしょう。 けれど。
彼からは学んでも彼のコピーになるつもりはございませんからね!
そう、ユーベル先生はユーベル先生。リジーちゃんはリジーちゃん。
剥き出しにエロいのではなく、単にお行儀いいだけでもなく、にじみ出るようなエロさこそが、リジーちゃんことルーナ・シーの本領なのです!
こうして ″若き未亡人アナスタシアの優雅なるお遊戯″ 第3回の方向性がやっと固まり、ふぅぅぅ、と安堵の息を吐くリジーちゃん。
「もう少しいて下さいますわね、ユーベル先生?」
ニッコリと念押しをして、再びコメカミに青筋を立てガリゴリと原稿用紙に向かうのでした。
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