68.ナンパ青年の耳フェチ調教!凍り付く変態悪女に更なる恐怖が待ち受ける!?
かくして耳フェチ取材はシドさんプレゼンツ 『フラッシュバック禁止!赤面身悶えイジワル企画』 、しかもどうにも使えない感を残した1シーンと化して幕を閉じ、10日余りが経ちました。
贖罪の2月は3日。
かかれた雪がうずたかく道脇に壁を作る上に更なる雪が積もる、白く極寒の季節ニモ負ケス、今日も私ことエリザベートが訪れているのは。
「おおおお、感動です!」 と涙にむせぶジグムントさんが働く印刷室inバルシュミーデ兄弟社、でございます。
「あっアナスタシア様が……このように心身を解放されて……ぬめぬめテリテリと……ああ!」
オイルエステにそこまで感動していただけるとは幸いです。
「この、美少女精霊様の耳かきと悩み相談との3点セットですっかり肩の力が抜け、リラックスされているご様子がまた何とも言えず色っぽいですね!」
へえ、そうなんですね?
とりあえず良かった。
『癒し系ストーリーを装ってオイルエステもしておけば、きっとジグムントさんは誤魔化されてくれるはず!』 という読みがあたって。
いえ、もっと際どく耳フェチを書こうかとは思ったんですけどね?
「ずっとこうしてみたいと思っていたんです」 とクスクス笑いつつ、アナスタシア様の、キッチリ正座し頭をしゃんともたげているような耳美女を足の裏から頭の先まで、舌先でツンツンとつつく小悪魔的美少女精霊様を。
けど無理でした、ゴメンナサイ。
脳裏に浮かぶ画像が妖しすぎて、何度繰り返しても5行ほどで鼻血タラリの刑をくらいました。
ラズール ″鬼畜スズメバチ″ 青年、実は呪詛返しもできるのかな。
そんなことをちらっと考えた時。
「ふーんなるほどね」
ん? この肩に馴れ馴れしく腕を掛ける感じと、砂糖多めクリームてんこ盛りなノーブルヴォイスは。
「でもこの耳、隠れてないんだね」
「それが何ですの?」
「研究不足だよ、シー先生?」
だから 『先生』 ヤメテ。ではなくて。
シドの突き刺さるような目線をキレイに受け流して微笑んでいる、日焼けしたお顔の中のオッドアイ。
ちらっと考えただけで湧いて出るとは、一体、どうなってるんでしょうか。
「耳は丸出しでなく、隠れてる方が萌えるんだよ。ほら」
物凄い手早さでリジーちゃんのハーフアップした髪を解き、耳を隠して下さる鬼スズメ様です。
「ね?」
なにが 「ね?」 ですか。
無視ですよ無視!
「それでこう」
長い指がじんわりと耳にかかった髪をかき上げます。
指先が耳に当たってますよ、キモチワルイ。
カキーンと固まってなければ扇でその指全滅させてやるのに。もうっ。
「ね?」
なにが 「ね?」 ですか。
いかに物慣れたフリしたって、書字魔法の呪いはまだ有効なはず。
女の子口説く度に鼻血タラしてるくせに。ぷぷっ (嘲笑)
しかし、ふと見るとジグムントさんの目がキラキラと輝いておられます。イヤな予感。
「なるほど! 確かに言えてますね!」
「でしょう」
ナニ男同士で、ニコヤカに頷き合ってるんですか。
しかも、シドまでが 「確かに」 とでも言いたそうな、悔しげな目線を送っています。
イヤな予感。
「そう、だからここは」 ひとの原稿に、勝手に線引かないでほしいんですけどね、ユーベル先生!?
「まず髪を解かせて、夜会の熱の名残を伝える汗を、ほのかに香らせ……
それから耳かきまではチラ見せに留め、直前に美少女精霊が万感の思いで露出させていく過程を丁寧に書き込む」
……………。リジーちゃん絶句です。
そう。確かにそちらの方がエロい。
もう耳かきにした時点で諦めていたのに、こんな作り方があったなんてっ!
悔しすぎて言葉が出ませんよ、もうっ。
そしてユーベル先生、さらに笑顔でダメ押しして下さいました。
「あ、それから耳の形とか、あまり細かく書かない方が良いよ?
それより手触りとニオイ重視でね?」
フェチはそれぞれにお気に入りの形があるから、細分化させない方が読者に受け入れられやすい。
言われてみれば、なるほど、ですが。ううう。悔しい。
穴棒アーン専科に変態で負けてる。
「でも耳のニオイだなんて」
いくらアナスタシア様でも良いとはいえないのでは?
「知らないの?」
「何がかしら?」
と、ラズール青年は、なんと。
素早く身をかがめ、リジーちゃんの耳の後ろに、鼻を押し付けてきたのです……! いやんっ!
「ナニなさっておいでですの?」
「ここのニオイってね、誘ってるんだよ? んー相性ばっちりみたいだね僕たち♡」
ぞぞぞぞぞ(寒気)
いや固まってる場合じゃないですよ! 頑張れ、リジーちゃん!
「絶対そんなの違うし」
「それから、ここ」
ん? 今何やら湿ったものが耳朶の付け根に……のぉぉぉぉぉおっ!
「感じるでしょ?」
ワケないでしょう! アホですね!
誰にでもロティーナちゃんが降臨すると思ったら、大間違いですよ!
ジグムントさんが慌てて 「失礼ですがやりすぎです!」 と止めてくれ、「そう?」と嘘っぽい爽やかさで体勢を戻すラズール青年。
「……!」
ぎとん、と睨み付けて差し上げますとも!
「リーゼロッテ様に言いつけますよ」
「別に構わないよ?僕と彼女はただのイトコだし」
ハッ、としました。
しまった! この人リーゼロッテ様と (たぶん自業自得で) 婚約破棄してたんだった!
「ご、ごめんなさい!」
慌てて謝ります。
こんな鬼スズメ相手でも一応、心を込めてます。
いくら自業自得で、その後も浮いた噂だらけとはいえ、心が全く傷付いていないわけではないはず。
あーホント、リジーちゃんったら。
どこまでウッカリなんでしょうか……。
ほら、ラズール青年のお顔が、少し固いじゃないですか……。
「謝ったから許されると思ってる?」
うわ。
なんだか、笑みを含んだ穏やかな声が、超絶こわいのです。
……でも、でも、負けません!
「もちろん! だって王族のお方ですもの」
腐っても王族、末端貴族かつ乳臭いジャリガールのウッカリ発言に必要以上に目くじら立てるわけにはいきませんよね。
……あ、でも。
―――貴族の処刑は、庶民にウケるんでしたっけ。
い、いや。でも。
残虐さをアピールしても良いことはあまりないはず!
恐怖政治は必ず滅ぶのです。
そ、そうですよ。そうに違いありません。―――
(ああ、王女殿下のお忍び訪問に必要以上にワタワタされたのは、こういうことでしたのね。お父様、お母様……) と、両親の気持ちがちょっと分かってしまったリジーちゃんでした。
さて、それはさておき。
ラズール青年、 「なるほどね」 と首をやや傾げて何やら思案しておられます。
そして。
リジーちゃんの前に回り、身をかがめ両肩に手をかけると、じっと目を合わせてきました。
どうしようもなく不安を誘う、ラピスラズリとタイガーアイの、キレイで無機質なオッドアイ。
「じゃあ、結婚してくれたら許そうかな」
「はあ!?」
「だから、け・っ・こ・ん」
「…………」
半開きの扇に口元を隠し、無言でキリリと歯を食いしばります。
本当にもう! この人、許せませんね……っ!
両親にも友達にもとんでもなく恵まれ、妄想を心の糧とする私のハッピー独身ライフ (シド付き) を!
冗談でも、そんな気軽に崩そうとするなんてっ!
ええい! こうなったらもう、リジーちゃんの必殺膝蹴りですっ!
……あ。かわされた。
それならば、扇手裏剣はっ!?
……と、振り上げた手を、シドがばっと掴みました。
「お嬢様、やりすぎです」
そのまま足元をすくいあげ、姫だっこ強制回収スタイルに移行。
「止めないで!」
バタバタと暴れるリジーちゃんの耳に、シドが口をつけて囁きました。
「心してかからないと、本気ですよ」
はい? まさか?
思わずピタリと動きを止めてシドを見れば、真剣な顔が頷きます。
まじか。
シドはもう1度、リジーちゃんの耳に口をつけて、こう囁いたのでした。
「鼻血が、全く垂れておられませんから」
読んでいただきありがとうございます(^^)
珍しく自分の足で原稿を届けに行ったラズール青年(普段は艦から郵送してます)。運命の出会い(笑)ちなみに本気でも鬼畜ですよこの方は。
続きは次回。




