66.身バレは新たな復讐心と探究心を引き寄せる!?そしてライバル心も再加熱、なのです!
「バレた……」
1月は15日、活版印刷所・バルシュミーデ兄弟社のパーティーも盛大にお開きを迎えたその後。
御者のゲルハルトさんお迎えによる帰りの馬車の中で、呆然と呟く私こと、エリザベート・クローディス。
鬼スズメことラズール青年に、"令嬢ポリーの華麗なる遍歴" の作家ことルーナ・シーであることを見破られ、気絶一歩手前、な状態です。
「いえ、まぁうまくしらばっくれておられましたよ」
しらばっくれの大家シドさんからの認定いただきましたが、私にはわかる。
あの鬼スズメ様の 「ふうん?」 という微妙なお返事と面白そうに歪む口許、そして素敵なオモチャを見つけた子供のようなイキイキとした瞳の輝き、それ即ち。
(まぁ今はそういうことにしておくよ。だって、調理法はこれからゆっくり考えたいからね?)
ということですね。きっとそうに違いありません。
それとも 『襲われたい』 願望の妄想……イヤないない。
だってリジーちゃんにあるのは 『見られたい』 願望に 『見たい』 願望に 『触りたい』 願望 (最近ちょっと芽生えてきました) だけですからねっ!
むしろ襲うような輩は、その場ですぐ地獄に向かっていただきたい、のです……っ!
というわけで、バッグから書字魔法用特殊紙を出してシドに渡します。
「シド、これ読んでいただけるかしら」
前世から鍛えた何気ない愛想笑いで誤魔化しつつその場を退散、トイレで血を多めに流しつつ精魂込めて書き上げた鬼スズメ討伐用の詩文でございます。
しかし、ざっと読んでポイ、と突き返してくるシドさん。
「書き直した方がよろしいかと存じます」
「どうして?」
こんな時まで添削要りません、鬼教官め。
「ナンパ中に裸踊りって」
「みっともなくて面白いでしょう?」
ナンパ中、いきなり服が無くなってアホヅラ晒す鬼スズメ。
そして 『やだぁこの人ヘンタイ!』 などと敬遠されるがいいのですよ、ぷぷぷ (嘲笑)
「踊りの種類によると思います」
「じゃあ軍人さんらしく、戦闘舞踊にでもしておくわ」
本当は前世は日本の伝統芸能、安来節あたりが楽しいと思うのですが、本人が知らない踊りについては手順をイチから解説しないといけないのです。
あの奥深い手つき腰つきを再現するにはリジーちゃん、知識も経験も不足しています。残念。
「剣舞ならきっと良くご存知よね」
「……そうでしょうね」
なぜそこで重たいタメイキが出るんですかシドさん!?
「無難に鼻血とかの方が良いと思います」
「そう?」
「ええ。シーンを想像しても、鼻血の方がオカシイですね」
そうかな、と首をかしげます。
裸踊りの方が絶対恥ずかしいと思うんだけどな。
まぁ、読み手がそう言うならそれでも良いか。
ゲルハルトさんに頼んで馬車を道脇に止めてもらい、サラサラサラっと書き直してシドに手渡します。
ザッと目を通して頷き、読み始めるシド。
『……これより月の一巡りする間、欲望を以て乙女らを口説く時、かの高慢な鼻より紅玉より赤き血潮が垂れんことを……』
よっし!
これで向こう1ヶ月はラズール青年は幼女から老女まで、とにかく女性を口説けば鼻血タラリの刑なのです。
フッ、ザマヲミナサイマセ!
と、腐った王族様に対し、人様には言えぬ仕打ちをコッソリ済ませて何食わぬ顔で帰宅。
「まぁまぁお帰りなさいませ! 楽しまれましたか?」
出迎えてくれたナターシャに 「ええとっても!」 と笑顔を振りまき、母にも挨拶をし、ついでに 「今日は夕食要らないわ!」 と宣言して自室に籠もります。
「まぁまたお父様がガッカリされるわ」 と天使様なお顔を曇らせても、リジーちゃんには確かめてみたいことがあるのです!
まずは、シドに手伝ってもらい、書棚にお行儀良く並んだ詩集や刺繍図案集や、視姦1つしない王子様がいきなり愛を語り出すシンデレラ的ラブストーリー (女子の蔵書の鉄板ですよね!) を退けます。
その裏にはなんと。
ズラリと並ぶ ″月刊ムーサ″ が!
ふふふ。思春期以上の青少年・定番の隠し場所ですよね、クスクス(忍び笑)
前世の実母は何度断っても必ず部屋を掃除してくれる人だったので隠し事などできませんでしたが、今世では隠し放題なのです!
敢えて工夫せず、定番に隠すのが楽しいのですよ♪
それはさておき、これからリジーちゃんが致したいのは。
「なんでいきなり 『ネーニア・リィラティヌス』 を開くんですか」
シドのツッコミ。
格調高く古語なんてつかってますが意味的には 『リラの花の子守歌』 程度でしょうか。
ユーベル先生の連載です。
「しかも第1話から」
「だって興味が出たんですもの」
「作者ご本人に会って口説かれてですか」
シドの声が若干トゲトゲしいですね!
まぁこれまで散々 『穴棒アーン』 とバカにしてきたのだから仕方ないでしょう。
急に手のひら返すとこのような反応がくるものです。
「そうそう、部屋の鍵」
施錠OK!
エロ小説読んでるところを侍女に見つかるとヤバいですからね。
しかしリジーちゃん、決して穴棒アーンにニヤついたりハァハァしたりするつもりはございません。
これは真・剣! な探究なのでございます。
さて、それでは。
果たしてこのお話のどの辺に、ユーベル ″鬼スズメ″ ラズール先生の職人根性が現れているのでしょうか。
レッツ・スタート!
…………ふむふむ…………なるほど………うん………
「わかったわ!」
3話ほどじっくり丁寧に読み込んでみると、確かに人形師としての心意気を感じますね。
ヒロインのキャラ統一感を損なわない程度に、控えめで微妙な変化ですが 「あっこの回新しいパーツが増えた!」 (つまりリアルでナンパ成功) というのが分かるのです。
面白いっ!
ご本人は 『人形師』 認定で満足げでしたが、理想のヒロインをさらに理想的に育て上げる、という点ではリジーちゃんには的には 『光源氏』 の称号も差し上げたいと思います。
浮気者でぴったりですね!
「なんだかすごく面白そうに読んでますね」
これまで嫌悪感あらわだったのに、と不本意そうなシドに、ページを指し示します。
「よく読めば、ここの表現はかなりエロいと思うわ?」
穴棒アーンなシーンも細かく読み分けると、いつも同じではないんですね。
虫ケラよりは脳ミソ使ってたと認めて差し上げてもいいでしょう!
「どれ」 シドが覗き込み、小声で読み始めました。
『熱い……熱いわ……
ロティーナの濡れた唇から漏れる微かな吐息に、耳朶がやわらかく染まり、溶けていく……』
おおぅ。
普段から廚2文章のケーキ召喚その他で鍛えたバリトンボイス、小声でもなかなかの破壊力ですね!
エロさが増し増しです。
「次、これ読んでみて!」
『……蜜を絡ませた指先が誘うように揺れるのを捕らえ舐め回せば、なんともいえぬ香りが鼻腔の奥から頭を支配する。
あっ、と思わず漏れ出たロティーナの声が引き金となってネフトを猛らせる。
徐々に高まる女の息遣いは彼を天へと突き上げる。そして肉体は下へ下へと引きずり込まれ、終わりない深淵へと沈んでいく……』
おおう。
シドが読むと、実感が掴めない後半の文章すらなんだかエロい気がしますね! さすが朗読のプロ。
「ちょっと全部読んでみて下さらない? 小声でいいから!」
大声だと侍女バレ親バレ恐いのです。
こうして読んでもらっているうちに、つい引き込まれて本を覗き込むリジーちゃん。
シドと額がくっつかんばかりですが、そんなの気にしてられません!
そして、いつの間にか夜が更け、ロティーナちゃんの可愛らしさがだいぶ分かってきた頃。
シドが不意に読むのをやめてしまいました。
「そろそろ、この辺で、おしまいにしましょう」
「えええ! イイ所だったのに!」
不 満 で す !
不 足 で す !
ここは、がっちりホールドでお願いしてみましょう!
「ねぇ? も・っ・と……お・ね・が・い♡」
ロティーナちゃんを意識した口調で頼み込んでみます。
どうだっ
と、無言で私を引き剥がしにかかるシド。
かなり強引です。
「えええ? じゃあ、明日またお願いね?」
「いや明日はちょっと」
「じゃあ明後日」
「すみませんが用事が」
「えーっ! じゃあ、次はいつしてくれるの!?」
「……そのうち」
うーん、どうも反応が芳しくないですねえ。
ここはお顔を覗き込んで念押し、しておきましょう。
「待ってるから、できるだけ早くね♡」
できるだけ可愛くお願いしたつもりだったのですが、シドさん、プイッと顔を背けて逃げるように部屋を出ていってしまいました。
がーん!
せっかく新しい境地が分かりかけてきたところだったのに!
そう、ユーベル先生の連載が人気があったのは、何も穴棒アーンのお陰だけではなかった、と認めざるを得ません。
ジャンルは微妙に違えど、確かに彼も探求者だったのでございます。
負けてはいられませんね!
(アナスタシア様、わたくしも全力でいかせていただきます!)
新たにそう誓うリジーちゃん、今年はもう17歳、なのでした。
読んでいただきありがとうございます(^^)
ユーベル先生のどこが「あからさまにイヤラシイ」のかと思った方へ。ルーナ王国ではこんなものなのです。作者の嗜好も軽エロなので、すみません(笑)
では、本日もお疲れ様でした~




