61.おめでたいパーティー前のおめでたい話題に変態悪女も盛り上がる!?でもそれだけで終わらない王女殿下なのです!
こうして鉄の事務員(兼庶務員)サラさんの 「2.45倍……2.50倍……」 という呟きに怯えつつも平積み本周囲の飾り付けは無事に終了し、料理も運び込まれました。
(宮廷風家庭料理店″ランクス・アウラトゥス″のケータリングです!)
そしてもちろん、食器もスタンバイOK、な状態になった王宮ホールはガーデン風パーティー会場。
後はお客様を待つばかり、って私もお客様ですけどね♡ と、少々浮かれ気味な私ことエリザベート・クローディス。
今年はもう17歳、でございます。
「そういえばヘルムフリート様は?」
先程の準備段階から気になっていたことを尋ねれば 「ちょっとおつかい頼んだの」 と、ケロリとお返事下さるリーゼロッテ様。
侯爵家ご子息をおつかい……いや王女殿下だから良いんですよね、うん。
と割かし通常になってきた質疑応答を内心で済ませたところに、両手に紙袋を下げて当のご本人様がやってきました。
「″ヴェルベナエ・ドゥルシス″ のチョコレート、買い占めて参りました」
「すみませんね……ダイヤ、様」
どう呼ぼうか迷って取りあえず 『聞いた呼び名+様』 にしてみたらしいジグムントさん。
「ヘルムフリート様ですわ」 とコソコソ教えれば、 「失礼、ヘルムフリート様」 と、慌てて言い直します。
「構いませんよ。王女殿下のご命令ですから」
相変わらずソツのない鉄壁ノーブルスマイルが振りまかれ、ジグムントさん 「いやホントすみません……」 と、かえって恐縮。
「あら本当に構わないのよ、ねえ?」
ヘルムフリート青年の腕にきゅっと取り付き、今日は盛ってないけどやはり素晴らしいパイをさりげなく押し付けつつリーゼロッテ様……ん?
その仕草があまりにナチュラルすぎて、うっかり見逃しそうでしたが、ん?
何気に増してますよね? 親密度。
これは訊かねばなるまい (にやり)
というわけで、冷やした銀の大皿にキレイにチョコレートを盛り付けてスイーツコーナーにセットし終えたタイミングで、ヘルムフリート青年に扇の陰でコッソリ耳打ち。
「で、リーゼロッテ様とはどこまで?」
「いえ一応、機密事項ですから……と言いたいところですが」
おやヘルムフリート青年、人目があるところにも関わらずお顔が大きめに崩れておられます。
デレてます。
コッソリ耳打ちを返してくれるお声も、少々弾んでおられますね。
「まだ内密にしていただきたいのですが、実は婚約が決まりまして」
ををををを! こ、婚約とな!?
「おめでとうございます!」
「いえまだまだですよ」 ふわりと若干緩んだノーブルスマイルを披露されるヘルムフリート青年。
「いつ 『やっぱりやーめた!』 と言われるかと思うと気が気でない」
「ああ、リーゼロッテ様ですからね」
「そう。殿下ですから」
ふうぅぅ、と思わせぶりな溜め息なんてつかれていますが、いやお幸せそうでご馳走様です。
これはこれは、王女殿下にもきいてみなくてはなりませんね。
「お姉様!」
なにやらお忙しげに四阿の最終確認などされているリーゼロッテ様に突撃インタビューです!
位置的にも周囲に人がおらず程良し。
念には念を入れ、扇の陰のヒソヒソ声にしておきましょう。
「ヘルムフリート様と、ご婚約なさるんですか?」
「そうなのよー」柳眉をきゅっとひそめる王女殿下です。
説明して下さったところによると、それは、新年の忙しいロイヤルスマイル振り撒き行事が落ち着いた、つい数日前のこと。
リーゼロッテ様は、国王に呼ばれてこう申し渡されたそうです。
『もうそなたも今年で25ぞ。世間では立派な嫁き遅れだ』
うわっ。なんか、めちゃくちゃイラッとするコメントですね!
「まぁ、何という差別発言!」
「でしょう!? 殿方なんて45で30の嫁もらっても 『不釣り合いなジジイ』 とか言われないのに!」
「本当にイイ気なものですわね!」
「全くよもうっ!」
ひとしきりぶーたれる王女殿下とリジーちゃん。それはさておき。
そして国王はこう宣ったそうです。
『マキナ王国との縁談を回復するか、ジンナ帝国の妃となるか、クラウゼヴィッツに降嫁するか。好きな道を選べ』
なんか、もう。またイラッときちゃいましたよ国王様!
「好きな道って。どれも結婚じゃないですか!」
「ねぇ? なに 『女の幸せは結婚』 とか思い込んじゃってるのかしらハゲろ」
確かに、その大人な美貌に似合い過ぎるブリザード視線ならハゲさせるくらいわけなさそうですが。
実は身内には辛口ですね、リーゼロッテ様!?
けれどもそこはさておいて。
リジーちゃんが聞きたいのは、もっとラブな事柄なのです……っ!
ワクワク。
「それで、ヘルムフリート様を選ばれたのは、どうしてですの!?」
やはり元逆ハーレムNo.1、それなりに情が移っていたのでしょうね。
満更でない感じは、かねてよりしてましたものね?
と、リーゼロッテ様、急に耳が真っ赤に!
心無しか頬も少し上気しておられます。おぉぉぉぉう。
ギャップ萌もここに窮まりましたね!
なんて、なんて、お可愛らしいのでしょうか……っ!
「そ、そうね。何となく、かしらっ」
「あ、ま、そうですね! ずっと一緒でしたものね!」
つられてリジーちゃんまで照れちゃいますよ、もうっ。
これはどう考えても、何かラブなことがあったと見ました!
……でもね、仰りたくないことは伺いませんよ。
だって聞かなくても妄想だけで1ヶ月はニヤけられますからね! くふふ(萌笑)
いただきますです、はい。
「ともかくも、おめでとうございます」
「別にお、おめでたくなんかっ……結婚なんて、人生の墓場よっ」
ダメだ……リーゼロッテ様かわいすぎる。
つつきまわして、もっと狼狽えさせてみたいとかつい思っちゃういますよ!
ヘルムフリート青年、よく長年ガマンしましたねぇ……?
と、内心ニマニマしつつも。
「ところで! かねてより伺いたかったのですが」
王女殿下のために少々わざとらしく話題をずらします。
「どうして候補の中に、ラズール様は入っていないのでしょう?」
従兄弟でかつ公爵家、血筋も家柄も年齢も、釣り合いバッチリなのに。
「「それはね」」
リーゼロッテ様のメゾソプラノの声に滑らかなテノールが重なり、背後から、肩にそっと固い腕が置かれました。
こ、これは。
どうやら、もうパーティー始まる時間なようですね。
そして、呼ばれてたんですね、ラズール青年も。
(きっと ″月刊ムーサ″ のユーベル先生の連載を、艦で回し読みしてハァハァしてるツテなんでしょうね!)
ラズール青年は私の肩に腕をそっと乗せたまま、胸の前で両手を組み、しかし胸に当たらないように少々浮かしてホールド。
鬼スズメの癖に意外と気遣いさんですね!
そこは感心して差し上げましょうっ!
リーゼロッテ様が、猛然と噛みついて下さいます。
「ちょっとまた! リジーちゃんに何するの!?」
「なにも?」
「ではその腕はナニ」
「逃げられないように閉じ込めてるだけだよ♡」
ラズール青年の鬼スズメなひと言でやっと 「ああそうだ逃げなきゃ」 と、シドのお小言と、トリセツbyヘルムフリート青年を思い出すリジーちゃん。
このポジションならば、逃げ道は下にしかありませんね。
頭を上げたまま膝で屈み、そっとラズール青年の腕から抜け出そうとします。が。
素早くホールドの位置を下げられてしまいました。
「それで逃げられると思ってるなんて、君って本当に面白いよね」
誰がどう聞いても、これ暗に 「バカ」 って言ってますよね?
「ますます興味が出てきちゃったな」
そうして浮かべられる笑みは、ヘルムフリート青年をも凌ぐ鉄壁ノーブルスマイルなのに……なんで今にも襲われそう、とか思っちゃうんだろう。
刷り込み? それともテレパシー?
「リジーちゃん、先程の話の続きなのだけれど」
王女殿下が魂までも凍らせるような冷え冷えとした目をなさっています。
「それはね」 ゆっくりとした口調もオソロシイのです……。
「わたくしとこの方、16歳で婚約破棄したからなのよ」
読んでいただきありがとうございます(^^)




