58. 新年は家族とともに穏やかに過ごしたい変態悪女!されど一難去ってまた一難、な気配です!?
さて、こうして新年ドン始めの強烈な羞恥プレイも、ナターシャに身支度を手伝ってもらいつつウヤムヤにクリアし、これから王宮はじめアチコチにお出かけとあって、普段より若干オシャレな私ことエリザベート16歳。
フワフワしたモヘアのベレー帽に合わせた、新しい白のコートはベルトをバックでリボン結びにしています。広がる裾が可愛らしいですね!
足元は白なめし革のブーツ。
白一色のコーデに、来月にはついに41歳を迎える父もデレデレです。
「リジー、よく似合ってるね! 雪の精みたいだよ」
雪の精は、子供の姿で描かれる時は幸運の運び手ですが、大人の女性の姿で描かれる時は……。
さて、どっちの意味でおっしゃってるんですかね、お父様。くすくす(忍び笑)
それはさておき、せっかくこうしてナターシャがコーディネートしてくれたお出掛けスタイルを、ぶぁっさっぁ! と無情にも剥ぎ取り投げ捨てれば、その下に現れるのはやはりお出掛け用、コバルトブルーのシルクワンピースです。
これなんと、リーゼロッテ様からのフォルトゥナ祭の贈り物。
胸元と腰につけられた細い金鎖の飾りとふんわり広がる柔らかなスカートがポイントなのです。
そして、ドン、と優雅に脚をバルコニーの手摺に上げるリジーちゃん。
寒風がふとももを刺激します。
うぅぅさぶい。
美と萌を貫く変態の道は時としてハードなものですね……っ!
「ほーっほっほっほ!」
割かし久々な気がする高笑いも白い息を伴っています。
口許覆っていないと、高笑いの形のまま唇凍り付きそうですね。
でも、負けない。
「パンが無ければケーキをお食べー!」
よっしミッション終了!
早く着込まなきゃ寒すぎます!
慌ててブーツをはき、投げ捨てたコートと帽子を拾って急いで着けます。
そんな私の背後では、シドが無表情に、お馴染みケーキ召喚、もとい書字魔法の詠唱をしてくれており。
『……天より落ちる雪よりも、冷たく甘く溶けるもの……』
はーい、冬の甘味配布メニューにはアイスクリーム登場です!
しかも残り物ではなく、ちゃんとリジーちゃんとシドが、ファルカから指導を受けつつ作ったものですよ!
この寒いのに更に冷たいものって嫌がらせじゃあ……と前世の基準で思ってはいけません。
冷蔵・冷凍技術がさほど発達していないルーナ王国では、アイスクリームは庶民にとって、れっきとした冬の味覚なのですよ。
ヒイラギの葉の上に積もった雪を集めて、砂糖混ぜて食べたりなんかもします。
リジーちゃんのアイスクリームには、「愚民共よ去年はどうもありがとう今年も浅ましく残り物ケーキ処理ヨロシク☆」 との、感謝と期待の意が込められているのですよ、えっへん!
こうして、さほど飢えてない庶民に残り物ケーキとチョコとマカロンとアイスクリームを大盤振る舞いしておき、私たちは王宮へ向かいます。
普段忘れ去られているような末端貴族でも一応は貴族、新年のご挨拶は必須なのですね。
一家揃ってのお出掛けには大体馬車を使う我が家ですが、本日は御者のゲルハルトさんはお休み。
皆でゆっくり街歩きです。
きらびやかなフォルトゥナ祭のオーナメントに、新たに雪灯祭に向けての雪だるまがボチボチと加わり出しています。
(ルーナ王国には 『イベントが終われば即片付け』 という発想があまり無いのですよ!)
雪だるまさんたちは1体1体、それぞれの目鼻立ちに個性があふれています。
深夜に動き出してアレコレなさるという伝説も、納得。
どんなことを今夜はなさるおつもりかしら……と妄想してると止まりませんよ、くすくす(忍び笑)
さて、そんな住宅街を抜けるといよいよ目抜き通り。
こちらは本日は馬車禁止の歩行者天国です。
道の両脇にはタコヤキ、クレープ、シシカバブ、温麺といった多国籍B級グルメの屋台が立ち並び、その間にガラスのアクセサリーやら神々を象ったお守りやらを売る店も混ざっています。
「リジーちゃん、飴細工がほしいのかい?」
「いいえ、見ているだけですわ!」
精霊の炎に熱されて細く伸びる黄金色の糸が、クネクネと棒に絡みつき、折曲がりつつ花模様を象っていきます。
細かい部分に素早く切り込みを入れるハサミ捌きも鮮やか。
はぁぅぅぅ、と思わず感動のアニメ的タメイキが出ちゃいますね!
そしてできたのは、今にも香り立ちそうなリラの花冠。
完成した細工を専用の箱に刺し、職人さんは次を作り始めます。
箱には既に作られた大輪の薔薇や道化師、ペガサス、愛の使者などが並んでいます。
どうやら、気の向くままに色々な形を産み出しているよう。
次は何ができるのかな? とワクワクしながらその繊細な技を眺めるのは飽きません。
見ているだけで買わないジャマな客になっちゃってます。
けど、悪いのはそんな芸術的パフォーマンスを路上で披露する職人さんですよね!?
「気持ちはわかるけれど、そろそろ行こうね」 父が私を促します。
「飴細工は帰りに買おう」
これも毎年恒例のセリフですね!
本当だと思って期待したら、帰りは人が多すぎたり売り切れたりで大体買えないパターン。
―――いつだったかけっこうな昔に、それで大泣きしたら、10日後に我が家に飴細工の6頭立て馬車がやってきたことがありました。
甘やかされているのを実感して嬉しかったのですよねぇ。―――
……けど、あの巨大な飴、結局どうなったんだろう。謎です。
とまあ、それはさておき。
いつまでも動かない私を見て、シドが強硬手段に出ます。すなわち。
料金箱に銀貨をポポポイっと放り込み 「どれがいいんですか?」
「シド、去年も申しましたけど、そんな問題じゃないから!」
「買わずに見てるだけなんて、迷惑でしょう」
頷くしかない正論でございます。
両親の前なので 「悪女だからいいんだもん」 主張もできません。
もうっ。ぷんぷん、なのです!
「シド、あなたが買わなくてもいいのよ?」
後で代金払うからね、と裏で伝えている母の言に、シドさんがしれっと 「もう出しちゃいましたから」 などと応えてるのも去年のままですね。
リジーちゃんは、比較的シンプルなリボンの形の細工を選びます。
「それで良いんですか?」
「ええ。人や動物だといただきづらいもの」
すると、 「またリジーは優しいなぁ!」 と親バカ台詞を述べてくださるのは父。
けれど、実情は少し違います。
だって、だって……!
道化師や愛の使者をお口に含みウラもオモテも舐めまくってトロかすなんて……もう。
妄想しちゃうと、悶え死にしそうですよね……?
悪女で変態でも、年始めはもう少し穏やかに過ごしたいものなのです。
……と、あれ?
そういえば今年は既にそれ、失敗してたような。
年明け1番でシドに……あっダメ、勝手にフラッシュバックさせるのはダメですよ、リジーちゃんの脳ミソ!
思わず赤面して頬を抑えるリジーちゃんを、チラッと見るシドさん。
と思ったら。
やおら、足もとからすくい上げられる感覚。
いきなりの姫抱っこ強制回収スタイルです。
このタイミングで。何の拷問?
「ほら、買ったらさっさと行きますよ。邪魔なんだからもう」
……ああ、そういうことか。
一瞬 「拷問?」 とかドギマギしちゃったのをあざ笑うような、隠れ羞恥プレイですねっ!
本当にもうどうしてくれよう。
内心で歯噛みしつつもそのまま運ばれ (人が多すぎてなかなか降ろせないのです) 、王宮へ到着。
列に並んで1時間以上待ちます。
遠目に見える国王様も王妃様も、昨晩コスプレではっちゃけたカドリールを披露されたのがウソのような落ち着きぶり。
このロイヤルスマイルの裏にあのバカ笑いが隠されているのか、と思うと……ギャップ萌、ですねえ!
さすがはリーゼロッテ様のご両親。
さて、ひたすら辛抱強く並んで、やっと順番が回ってきました。
父が滔々と挨拶を述べます。
「新年おめでとうございます。
国王様、王妃様におかれましては本年もますますご健勝であられますよう……」
「うむ、今年もよく勤めるように。頼むぞ」
定型の挨拶もロイヤルスマイル仮面を添えれば畏れ多くも有難いものに大変身。
いやもうお疲れ様です。
1分弱の対面を経て退出すると、遠くのバルコニーにリーゼロッテ様のお姿が。
弟君と共に、こちらもロイヤルスマイルで大衆に手を振っておられます。
いやもう新年早々、本当に、お疲れ様ですねえ。
……なんていうことを考えつつ、美しいロイヤル姉弟を眺めつつ歩いているうちに。
いきなりですが、はぐれちゃいました。
ここどこ? 私は誰? お家どこ?
はい、全部わかります。リジーちゃんも大人になったなぁ。
そのうちにまた合流できるでしょ、と今世では割かし初めての 『お一人様』 状態に多少ワクワクしつつまた歩き出します。
もしイイ感じの屋台があったら、前世含めて記憶のある限りで初めての昼呑みにも挑戦してみたいものです!
しかし。ウキウキ・キョロキョロと屋台を物色していると……
不意に背後から声がしました。
「おや? こんなところでかわいい雪の精に出逢えるなんてね?
君だよキミ! そこの素敵なお嬢さん?」
幼女から老女まで、素敵なお嬢さん方を一斉に振り向かせる砂糖まみれクリームてんこ盛りなノーブルボイスは、記憶に新しいですね!
コイツ腐っても王族のクセになんで新年早々こんなところをブラブラしてるの!? との疑問が、頭をよぎります。
……でも。
リジーちゃん、知ぃらないっと。
お読みいただきありがとうございます(^^)




