57.新年早々お寝坊さんな変態悪女!でもそれには超絶恥ずかしい理由があるのです?!
明けましておめでとうございます。
こちら、ルーナ王国で転生後17年目の新年を迎え、前世含めて記憶のある限り初めての午前様帰宅を体験した私ことエリザベート。
新年早々にして、ソコソコなお姫様ベッドの中で恥ずか死に中でございます。
いえ、今朝早くに寝る前までは良かったんですけどね。
―――カウントダウン後、王女殿下扮するフォルトゥナの使者様のメガパイに埋もれつつ 「今年も王女殿下と皆様に幸運が訪れますように!」 などとお祝いし、帰宅して両親や起きて待っていてくれたナターシャとカウントダウンをやり直してまたお祝い。
「今年も楽しい年にするゾ☆」 なんてことを思いながらホカホカと幸せな気分で就寝。―――
したはず、なのでございます。が。
どうして、ボンヤリ目覚めた時に急激にフラッシュバックするのかしら。
昨晩の記憶が!
……恥ずかし過ぎて、頭から被ったフカフカ羽根布団から出られないのです。
昨晩の記憶というのは、つまりこういう次第なのでございます。
―――王女殿下・ヘルムフリート青年公認の 『寂しがりさん』 ラズール青年から、ちょっとイイ視姦+めちゃめちゃ恐怖の言葉責めを受け、 「どうしようこのまま襲われても恐すぎて、急所膝蹴りなんてできないかも」 とパニクっていたリジーちゃん。
ナイスタイミングなシドさんの登場で何とか助かり、そのままワンワンと泣いているうちに、新年の鐘が鳴りました。
(しまったカウントダウン逃した!) と心の片隅でチラリと思ったものの、その時それどころでない事件が!―――
なんといいますか、その。
……やっぱり、ダメ。
その時は大したことだと思わなかったのに、改めて思い返すとめちゃくちゃ恥ずかしいのです……っ!
悪女なんですから、そんなコトの1つや2つ余裕でクリアして 「ほほほ。前菜にもならなかったわ!」 などと高笑いしなければいけないんですが。その。
やだ、もう涙出てきた、ダメだ。
耳も顔も熱くて全身悶絶状態です。
イクない方で。たぶん。
などと萌え萌え……違う、悶え悶えしているうちに、ナターシャが私を起こしに来ました。
「リジー様、そろそろ起きてくださいませ!」
「やだ起きられない」
爽やかには程遠い目覚めですからね! シドめ。
「今日は王宮に新年のご挨拶に行くんでしょう?
印刷屋さんで 『ありがとうカード』 も買うっておっしゃってたじゃないですか!」
「もういい。ナターシャ代わりに行って」
「なにおっしゃってるんですか!」
強行突破で布団を剥ぎにかかるナターシャと、必死の抵抗をするリジーちゃん。
しばしの攻防の後、ナターシャは 「ほんとにもう!」 とひと息ついて去って行きました。
やったぁ勝利! ……でなくて。
うぅぅぅうぅぅぅ!
また思い出した!
また振り出しです。
……本当にもう、シドのヤツぅ!
1年分の下僕使用料にカウントして差し上げますからね!
と、再び悶え悶えしているうちに、なんと当のご本人様が。
え? 淑女の寝起きに従者が立ち会いますかって?
そんなこともあります。
シドさんは即ち、我が家の認識では 『お兄ちゃん』 だから。
ベッドの傍でシドがかがむ気配がします。顔近い。たぶん。
「起きられないんですか? 腹でも壊しました?」
「……」
無視ですよ無視!
というか、胸がドキバクして返事なんかできませんよ。
なんでシドの方は普通なんですかね。
まさか隠れ遊び人……なるほどなるほど。
シドの手が布団の隙にするっと入ってきて、私の頭を撫でました。
「早く起きないと間に合いませんよ」
「……」
今日はもう一生起きませんからね!
涙目赤面顔なんて家の誰にも見せられません。
「アルデローサ様?」
シドの声が困ったような響きを帯びます。
ふん、もっと困るのです!
其の方だけが、無傷など、許しませんとも!
と思ってたら、今度はシドの口が頭頂部に当たりました。しまった!
……いつの間にか頭の先、出てました……っ!
「まさか……意識しておられるんですか?」
「なっ、なんのこと!?」
またまた、しまった……!
思わず返事しちゃったじゃないですか!
声、裏返ってます。
顔がますます熱いです。
(……ていうかシドさん、そのお口のけてください!)
もう感触までばっちり、フラッシュバックしちゃいましたから!
ところが。
リジーちゃんの願い虚しく、シドさんはお口のけるどころか、ドサンと枕元に上半身投げ出してしまったもよう。
「どうしよう……嬉しすぎて困る……」 などとニヘニヘと呟いておられます。
意味、分かりませんねぇ……っ!
ドッキリ大成功が、そんなに嬉しいんでしょうかっ!
「シードーさーんー?」
ねっとり気味の責め口調を繰り出せば 「ちょっとお顔見せていただけますか?」 と、全くコミュニケーションとれてる感じのしないお返事。
「い・や・で・す!」
「ということは、俺に見せたくないレベルで困り顔してるんですね」
さすがシドさん。
よく分かってますね。
ええ、リジーちゃんにも分かりますよ。
今、シドが超絶嬉しそうな顔になっているのが。ドSめ。
「見せて下さらないと、勝手に妄想してオカズにしますよ」
げふぅっ(吐血)。
負けた。
ブロックする手が緩んだのを見て取り、布団を開けるシドさん。
反射的にシーツに顔を埋めてガードです。
「ああほんとだ」
しかしなお、嬉しそうに呟いてますね。
顔見せてないのに、何がそんなに嬉しいんですかね?
「うなじも耳も……真っ赤ですね」
いーやー! そんなとこ見ちゃダメ!
慌てて両手で隠します。
「全然隠れてませんよ?」
あうううう。
もう、泣いちゃいますよ!
泣いちゃうもんね!
と思ったところで。
不意に昨夜の感触がまたフラッシュバック……んぎゃあああ!
ダメです、泣けません……っ!
なぜなら。
泣いたら、シドさんが涙を啜ってくるから、なのです……!
(妖怪涙ススリと呼んで差し上げましょう!)
本当に、もうっ!
どこまでも、意地悪ネタ、尽きませんね!
…………でも。あの時は。
―――「もう大丈夫だから、泣かないで下さい」
新年の鐘が響く中で、そう言ってくれる声も、頬を伝ってまぶたに触れる唇も、すごく優しくて安心して。―――
安心しただけ、だったはずなのに。
こうしてフラッシュバックすると強烈に恥ずかしいのはなぜなのでしょう……。
はい、回答。
前世でチラ読みして全身総毛立った濃いめの恋愛もので、そんなシーン見たからですね。
(はっ、もしや私!
実は、あの本の世界に転生しちゃってるのでは!?) くらいの衝撃ですよ。
あの本にルーナ王国なかったから違うけど。
「とりあえず、起きないと間に合いませんよ」
そんな衝撃ガン無視で、シドはサクサクと話題を切り替えます。
「やだ今日はもう起きない」
プイッと横を向くリジーちゃんに、力強く請け合いました。
「大丈夫です、起きられた後はナターシャに任せますし」
「シドは?」
「俺は今回はもういいですよ。無理やり顔見せろとか、もう言いませんから」
「ほんとにほんと?」
「本当です」
言われてのろのろと起き上がるリジーちゃん。
そしてシドは約束通り、お行儀良くアチラを向いてナターシャを呼びに行ってくれます。
……まだよほど嬉しいらしく、足取りが少々、弾んでおります。
悪い子ですね!
かくなる上は……どうしてくれよう。
ツラツラと考えているうちに 「まぁまぁお早うございます! リジー様にはやっぱりシドさんが1番ですね!」 などと言いつつ、ナターシャが洗面セットを持って現れたのでした。
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