54.仮装舞踏会もといコスプレ祭り中の新たな出会い!顔の見えない貴方は嗚呼いったい誰?!そしてそんな貴方よりもっと気になるあのひとは……?!
さてかくして、カウントダウンパーティーのコスプレに挑戦することになった、私ことエリザベート。
「あら、誰よりも幸運の女神様らしくなったわね、リジーちゃん!?」
リーゼロッテ様誉めすぎですっ(テれっ)
ドレスやアクセサリーはそのままに、踵に羽のついた靴を履き小さな金の車輪を連ねた帯飾りをつけただけ、ですよ!?
ドレスの下には、背中に小さめの純白の羽がついたパイメガ盛・肉襦袢。(母のストールは預けちゃいましたっ)
胸元フリルの清楚なオーラとダイヤのネックレスの輝きとを押しのける勢いで、ニセ胸の谷間が 「視姦しろやオラ」 と主張されています。
もう少し慎ましやかなのを 「ん? よく見たら割とあるんじゃね?」 とご覧いただく方が、実は萌えるリジーちゃん……
けど、この際ですからね。
贅沢は申しませんとも……!
仮面をつければ別人、ですしね!
さて、いよいよシドです。
今度こそ面白いはず! とワクワクして仕上がりを見れば。
「……着こなしてるわね」
ガッカリです。美人さんずるい。
「有難うございます」
ぼそぼそと返すシド。
その不満顔さえ、まんま 『王子殿下はご機嫌ナナメ』 的な挿絵になれるほど、似合っています。
今や王族でも着ず、ただの衣装部屋の飾りになっているという、宝石とフリルとレース盛すぎのいかにもな『王子』コスがっ!
中央に大粒ダイヤのついた小ぶりの金冠がっ!
合体技で 『いかにもロイヤル』 な雰囲気を作り上げているというのにっ……
全く違和感なく、ハマっているのです!
ほら、王女殿下も美しい湖の瞳を丸くして驚かれていますよ?
「あらー! 弟より断然似合っているわね」
そんな王女殿下から仮面を受け取り、装着するシドさん。
目の周辺が隠れることによってますます醸し出されておりますよ?
「笑えるはずの衣装までが素敵に見えてしまうこの高貴なお方は誰!?」 と乙女がトキめきそうなオーラが……
ずるい。超ずるい。
私のジト目をどう誤解されたのか。
「じゃあ楽しんでね?」
リーゼロッテ様は当然のように、私の手をシドの肘に置いてニッコリ笑ったのでした。
パーティー会場は "王宮ホール (大ホール)"。 すなわち、夏の褒賞式と同じホールです。
中央に大きなテーブルが置かれ、その上には飲み物各種に軽食。
軽いオツマミやクラッカー、サンドイッチ、カットフルーツなどの定番ですね!
そしてそして。
ケーキやチョコレート、マカロン、クッキーなど、大量の甘みが乗っているのですっ!
甘辛の比率おかしくないか、ですって?
いやいやいや、それは前世の価値観っ!
ルーナ王国のパーティーでは意外と普通の光景なのです。
甘い物てんこもりは、おもてなしのしるし。
明日はまた新年早々、リジーちゃんのケーキ配布祭り (ガーターベルト一瞬見せ付き) かな。
椅子やソファもまた壁際にひっそりと並べられ、完全セルフサービスかつ立食形式のもよう。
ルーナ王国の王族は、王女殿下に限らず、フランクなのが実はお好きなんでしょうかねぇ?
そして立食パーティー、というと 『食事は並べてあるだけで手付かず』 なイメージがありますが、今回は皆さんきっちり食べておられるのも、気持ちが良いのです!
「そういえばダイヤさんは?」
ヘルムフリート青年が、珍しく王女殿下の傍におられませんね?
「あそこ」
リーゼロッテ様が顔で指し示された方向を見ると、おおぅっ!
遠目にも煌びやかな太陽神様ではないですかっ♡
竪琴を弾きつつ歌っておられます。
なかなかの腕前と声でいらっしゃいます。
……本当に何させてもソツが無いな。
音楽に合わせて踊っているカップルもいますね!
舞踏会では見られない、キッチリしていないダンスが微笑ましいのです。
その場で揺れたり回ったり……肩肘張らず楽しんでいるのがよく分かりますねぇ♡
社交はお呼びじゃないリジーちゃんまで、なんだか参加したくなってきちゃいましたよ?
「踊りましょう?」
リーゼロッテ様とシドの手を取り、なるべく可愛らしくお願いしちゃいます!
王女殿下がぱっと顔を輝かせ 「3人ね?」 とシドの手を取りました。
なんと素敵な理解力っ♡
舞踏会だからこそできるのは……
回ったり閉じたり開いたり、子供の遊びみたいな、単純なトライアングルダンス!
最初はお互いの様子を見つつですが、次第に速くなっていきます。
楽しいっ。
「『春の女神の来訪』の三美神みたいね」
「俺は男ですが」
王宮入り口のホールに飾られている有名な絵画をたとえに出せば、すかさずツッコむシドさん。
「では芸術三神の方ね」 クスクス笑いつつリーゼロッテ様がまたグイッと速度を上げます。
芸術三神は美の神、愛の神、芸術の神のお三方。
ルーナ王国ではよくセットで描かれたりしているのですね!
で、そちらだとすると。
「シドは愛の神なのねっ」
「イヤです」
不満そうにしておられますが、この三人の中で男性は愛の神だけですからね?
覚悟してくださいシドさん。
王子に化けた愛の神、国中の乙女が目をハートにして殺到するかもよ?
萌えますねえ (ニヤリ)
そんな話をしているうちにも、グルグル回るスピードはどんどんと上がり、もう手を離すと飛んでいっちゃいそう!
……となった時、曲が終わりました。
慌てて止まってこけそうになり同時にしゃがむ私たち。
「きゃあっ」
リーゼロッテ様と私の口から、悲鳴とも歓声ともつかない声が上がり、顔を見合わせて同時に笑います。
仮面をつけていても、その口元から王女殿下のザ・ギャップ萌 『幼い少女のような笑顔』 が想像できちゃいますよ、もうっ!
胸キュン、ですねぇ♡
と、いきなり背後から。
「失礼。お飲みものなどいかがですか?」
ヘルムフリート青年顔負けのノーブルな声が!? そして。
……何やってんの誰これ?
なんだか頭に固いお胸? らしきものがあたっております。
両肩にそっと当てられた腕も、無駄なお肉の一切ついていなさそうな固さです。
で、目の前には日焼けした手に支えられた、銀のお盆に載った人数分のグラス。
「ただの炭酸水ですが。運動後に急にお酒を飲むのはよろしくないですからね」
王女殿下の顔がぱっと輝きました。
「ラズール! 来てくれたのね!」
ラズール (推定) 青年は私の頭上でニコヤカに頷いている様子です。
「ロティの新しいお友達に会ってみたくてね。年末年始をシフトから外して貰えるように頼んだんだ」
「そう! 良かったわね! 本当にいい子なのよ。可愛くて素直で賢いわ」
うううっ。リーゼロッテ様、それオカシイ……あ、そうか!
きっと、私のことじゃないんだよね、うん。
そうよっ!
リジーちゃんったらいつの間に、王女殿下のお友達だなんて、自認しかけてるのかしらっ!
そんな筈ナイナイ。
薄暗い前世と黒い心を持つ末端貴族令嬢ほぼ庶民の私なんかが、ねぇ!?
……よし、クールダウン終了。ふぅ危なかった。
(きっとルーナ王国では 『自認』 と書いて 『うぬぼれ』 と読むのですよね。)
ラズール青年、滑らかな低音で問いかけています。
「で、紹介してくれるのか?」
「あなたにはもう、女性のお友達は紹介しないことにしててよラズール」
プイッと横を向く王女殿下。
「ひっどいなぁ。わざわざ見に来たのに」
「わたくしの交友関係を摘み取り自由のお花畑と勘違いされてる方に、見せる花などございませんわ」
おおぅ、珍しいっ!
リーゼロッテ様が、思い出し怒りをなさっていますよ!?
ラズール青年とは、かなり親しい仲なご様子ですが……もしやヘルムフリート青年にライバル登場!?
その怒りは実は嫉妬!?
いやまさか。でも。
もしかして今、ついウッカリと王女殿下の恋愛事情を覗いちゃってる?
どうしようっ!?
おぉい太陽神さん!
そんなところで 『フォルトゥナの使者』 やら 『月と狩の女神』 やら 『暁の女神』 やらに鉄壁ノーブルスマイル振りまいてる場合じゃないですよっ!?
顔は見てないけれど、何やら硬派なナンパ男がリーゼロッテ様の隣を狙っているかもしれませんのですよっ!
私の心の叫びも虚しく、ヘルムフリート青年は相変わらず女神様たちに囲まれております。
一部の隙もない鉄壁ノーブルスマイル全く崩れません。
きっとソツのない彼のこと、こちらの様子も把握してると思うのですが……
あの落ち着きぶりはラズールさんは安全圏、ということなのでしょうか?
内心首を傾げていると、頭上の声も不思議そうなものに変わりました。
「なに君。クラウゼヴィッツが好きなの?」
そうですよ!
王女殿下はああ見えて、ヘルムフリート青年にまんざらでもないのです!
急に現れた日焼け筋肉ナンパ男などお呼びではございませんとも!
「君。君だよ! 私に抱かれてるのに顔色1つ変えないお嬢さん」
抱かれてる?
王族メインの無礼講パーティーとはいえ大胆なお嬢様もいたものですね!
そして顔色1つ変えないとは、すごくないですか?
きっとそのお方は……
ナンパ青年に向かって 『ふっあなたごとき……食前酒にもなりませんわ。もっと修業を積んでおいでになって』 などと言い放つフェロモン美女様に違いありませんっ!
おっなんだかアナスタシア様の脇キャラに良さそうだな。
清楚な美貌を誇る未亡人との対比がソソりますよねぇ?
これは是非とも取材しておかねばっ! と、くりんくりんと頭を廻らせますリジーちゃん。
……見えませんね。
相変わらず肩にそっと当てられたままの、ラズール青年の両腕と目の前の盆が、思いっ切り、邪・魔! でございます。
ええと。こういう時はなんて言うんだったっけ。
そうそう。
「せっかくですから、皆様でお水をいただきましょう?」
王女殿下や母を思い出しつつ、なるべくイイ角度で小首を傾げニッコリしてみますと。
肩にそっと当てられた腕が一瞬ぐらりと傾き、今にも噴き出しそうになっているシドとリーゼロッテ様の顔が見えたのでした。
読んでいただきありがとうございます(^^)