52.担当さんも髪フェチだった?!意外な追加注文にしがない変態悪女もお疲れ気味です!
さてこうして12月は25日。
今日も今日とて雪ニモ負ケスにバルシュミーデ兄弟社の印刷室にお邪魔している私こと筆名ルーナ・シー、先生と呼んじゃイヤ! な16歳でございます。
目の前ではジグムントさんが1月1日から発売用の通称 『ありがとうカード』 印刷の手を止め、熱心に新しい原稿を読んで下さっています。
『ありがとうカード』 とはフォルトゥナ祭の贈り物のお礼用カード。
大事な商品作りよりも、拙著 "若き未亡人アナスタシアの優雅なるお遊戯" 第2回目原稿を優先して下さるなんてっ!
密かに感動しつつ、ジグムントさんの様子を上目遣いにうかがうリジーちゃんです。
だってね、この第2回すなわち髪フェチ回はかなり四苦八苦しましたからねっ!
それだけに、反応が気になるのですっ……と。おお!
……すー、はー……
ジグムントさん、いきなり目を閉じて深呼吸なさっておられますよ?
微かに身悶えもっ……良い傾向ですねぇっ♡
きっとジグムントさんの妄想中では、アナスタシア様の髪は印刷されたばかりの本の、心落ち着く甘い香りなのでしょうね?
ついつい一緒に目を閉じ、すーはーと深呼吸してみるリジーちゃんです。
ふーむ、たまらん。
そうこうしているうちに、原稿を読み終えたジグムントさんが口を開きました。
「いいですねえ!」 お、安定のホメリストさん!
有難うございますっ!
「こう、なんというか、アナスタシア様の長い髪の、毛先までサラツヤな質感と特有の香が見事に再現されていて、さらには煌びやかな美少年と清楚な美女という視覚的にもオイシイ取り合わせがソソリます!」
「あら、それほどでもありますわ」
ああ良かった。とりあえずウケてるみたいで良かった。
「毛先が指を刺激するなんとも言えない感覚もイイですね! それにこの!
髪を撫でる指先が首筋にかすかに当たり、その感触に思わず吐息を漏らすアナスタシア様が可愛すぎて……
なんだかこう、髪を愛でつつももっとアレコレとつついて感じさせてみたくなるというか……ああ!」
うん、なんか後半よく理解できない表現が入ってますね!
でも、とりあえず気に入って下さったことだけは分かりました。
てことで、良かった。
ジグムントさんがコソコソと尋ねます。
「取材されたんですか?」
「い、いえ? 全て妄想の産物ですわ!」
瞬間的に、頭にかかったシドの息遣いなどを思い出してしまい、ついつい嘘をつくリジーちゃん。
いやだって何だか恥ずかしいんだもん。
「さすが! これで妄想だなんてやはりあなたは真性のド変態ですね」
「あらいやだオホホホー」
嘘をついたせいか、いつもの賞賛があまり嬉しくなくて誤魔化し笑いです。ふぅ。
「ではこれでOKですの?」
確認すると珍しく 「ああこれだけでも良いんですが……」 と、ジグムントさん言い淀んでおられます。
「何か問題が?」
「せっかくだから、洗髪シーンを入れませんか?」
「はぁ!?」
思わず聞き返すと、物凄くマジメな顔でこう力説されました。
「美女の洗髪は男のロマンです!」
……はぁさようで。
数時間後。
「お疲れ様でした」
労りの言葉などかけてくれつつ、手を引いてくれるのは、シドさんです。
お家まで連れ帰ってくれるもよう。
そうね、ええぜひそうして下さいっ……ふぅぅ (タメイキ)……
急にアナスタシア様の洗髪シーンを脳ミソ振り絞って妄想しつつ書きとめたものだから、リジーちゃん結構クタクタなのですよっ
……ま、楽しかったですけどねっ!
さて、それで、なぜこんなに急に追加分を書くことになったかといえば。
それは今が年末だからっ!
つまり、これから1月にかけてはジグムントさんはもちろん超絶お忙しいし、私も割かし忙しいですからね!
「もうここでパパッと書いちゃって下さい!」 というのは自然の流れというものっ。
ジグムントさんがガチャンガチャンと印刷機を動かしている横でリジーちゃん、追加分を執筆させていただいたのですよ……!
ティアラ擬人化美少年に会う前。
アナスタシア様は薔薇のツボミを浮かべた風呂に入り、侍女に髪を丁寧に丁寧に洗ってもらうのです。
(ちなみにこちらの世界の洗髪剤は前世のシャンプーとは違いさほど泡立ちません)
アナスタシア様の緑がかった黒髪はしとどに濡れつつ、侍女の少々頑丈で長めな指によって何度も何度も梳かれ揉みしだかれ……
するだけ、なのです……けど?
ねえ本当に、これロマンなんですかジグムントさん?
「いいですねえ完璧ですよ!」
またしてもとりあえずホメて下さいました。
「洗髪中だけでなく、洗髪後のシーンもきっちり描けているところが神ですね!
このタオルで包み込むように髪を拭いた後、一房一房にしっかりと香油を付け、解いたままの髪を暖炉で乾かすという一連の流れが……
そして暖炉の炎を映しつつ更に香り立つ髪とかが……もうこの後の期待感を煽りまくっていてああもう!」
またうっとりと微かに身悶えするジグムントさん。
もしかして真性の髪フェチ様なのでしょうか? 頼りになります。
こうして、アナスタシア様の第2回もどうにか無事に脱稿し、後には少々抜け殻化しているリジーちゃんと、何でだか優しいシドが残っているのでした。
「歩けますか?」
「……歩けるけど歩きたくない」
しゃあないなー、とばかりにタメイキをつくシドさん。
ついでに膝もついてよっこらせ、とリジーちゃんの脚をすくい上げてます。
割かし久々の、姫抱っこ強制回収スタイルですね!
「いやそういう意味じゃなくてね」ジタバタともがきますが、この程度では姫抱っこ解除は無理っぽい。
「そこのカフェで、お茶でもしていきたいなぁって」
「カフェ? チョコレートじゃなく?」
「だって ″ヴェルベナエ・ドゥルシス″ のイートスペースお休みだから」
「そんなの店内で食べれば良いでしょう」
「テーブルが無いところで食べたくない」
ぷいっと横を向いてやります……あらこの位置、頭頂がシドの口に当たりそうヤバい。
というわけで、やっぱり前を向きます。
「じゃあたまには、お土産にして皆で食べましょう」
「ならやっぱりケーキが良いわ!」
チョコレートは隠れてコッソリいただくのがイイのですから。
家族で和気あいあいと食べるチョコなど、健全すぎて意味合いが半減。
ですよねっ!?
そんなわけで、私とシドは、やはりカフェへ向かうことに。
ルーナ王国ではケーキを売っているのはカフェかパン屋なのです。
そして、いかな ″王様パン″ といえどもケーキだけはカフェ ″アクア・フローリス″ に敵わない、のですよっ!
「シドさんそろそろ降ろして下さらない?」
「イヤです」
何なんですかその堂々とした態度は。
しかしここで 「無理にでも降ろせ」とか言っちゃうと。
「はい追加で命令入りました」 からの 「追加料金分でイジめさせてね?」 といった流れになりそうっ……
けどね。
そうは言っても、よく考えれば、この姫抱っこ状態からしてが。
「シドのイジワル」
ぷくーっと頬を膨らませてやります。
「あれ? いつからこれイジワルにカウントされるようになったんですかね?」
シドさん何だかめちゃくちゃ嬉しそうですね!?
んん? と考え込むリジーちゃん。
そういえば前は割かし平気だったのにな。
なんで今これだけ居たたまれない気がするんだろう?
もしや恵まれない子たちへのプレゼント配布で妙な善意が芽生えてしまった?
歩けるのに抱っこさせるなんて、申し訳ない、的な?
「シドどうしよう! また黒い心が崩壊しかかっているっぽい!」
シドさん、私を抱っこしたままがっくぅ、と肩を落とします。
あ、シドの髪が目の前にきちゃいましたっ……どうしよう。
やっぱり、居たたまれない、のでございますっ!
シドさんの髪なんて、髪なんてっ……!
なんで今さら、触ってみたいとか思うんでしょうかっ
立ち直ったらしいシドがぼそぼそと助け船を出してくれます。
「…… ″月刊ムーサ″ の1周年記念パーティーをコケにする人は?」
「マジ凍死3分前の刑だわよ」
「黒い心が健在みたいで良かったですね」
そうね、と仕方なく頷きます。
黒い心は確認できたけど居たたまれなさは消えないのですよっ!
どういうことなのでしょうか……うーんわからん。
けれども、なんとなくシドには言えなくて、落ち着かない気持ちのまま、姫抱っこスタイルでカフェまで運ばれたリジーちゃんなのでした。
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