5.心安い悪女人生を送るのにお友達は不要です!必要なモノは、といえばさて何でしょう?
さてかくして、前世の知識のおかげでチート気味に文字と文章力を獲得し、両親の心を蕩かして詩の手ほどきを受け始めた私ことエリザベート・クローディス。
4歳も無事に過ぎ、もうすぐで5歳の誕生日です。
この日はきっと、リジーちゃんの悪女人生の中でも節目の日となるはずっ!
なぜなら、この日のために特別なプレゼントをおねだりする予定だから。うふふ(企み笑)
スムーズにプレゼントをゲットするためには、策略が必要。
そんなわけで最近のリジーちゃん、毎日の父へのお手紙にちょっとした引っ掛かりをわざと入れているのですよ。
「どれどれ……」
いつも通り相好を崩してデレデレと手紙を読む父若干トウの立ってきたイケメン29歳。
よく見ているとその麗しいお顔に一瞬、女心をキュンと締め付けるような憂いが含まれる瞬間がっ!
そう、この瞬間こそが狙っていたその時!
ここで父が読んでいるのは、こんな文章であるはずです。
『お父様はリジーの1番のお友達です。お父様がいらっしゃれば、リジーはほかのお友達は要りません。ですから、大きくなったら結婚して下さいね♡』
母から詩の手ほどきを受けている今、リジーちゃんの書字能力と文章力は総合的にupしているのですよ!
5歳も目前にして、もってまわった言い回しもできるようになっているのです、えっへん!(いばり)
ほら、父が嬉しさ半分、心配半分、といったお顔ですよ。
「くぅぅっ、リジーは相変わらず可愛いなぁ!でもね、リジー。お友達は大事だよ」
あああ……父のことは好きだけど、そのお考えはいただけませんねっ……
大事かどうかはお友達にもよると思うのです!
それが悪女的思考ですって?
上 等 で す と も !
「リジーの1番のお友達はお父様なの。だからほかにお友達なんて要らないのよ」
用意しておいた台詞に、父の眉毛がカクッと下がり、同時にイケメン度も下がっちゃいましたね。
愛娘の『友達不要』宣言は、こうまで心を痛めてしまうものなのですね……
でも、負けません!
父が優しく問い掛けます。
「昨日来てくれたロリータちゃんは?」
いわずもがなですが、『ロリータ』はルーナ王国ではアブないコンプレックスの名ではなく普通に女の子の愛称ですよ。
ツン、と横向くリジーちゃん。
「ドロテア様はもっと身分の高い方でないとお気が合わないようですわ」
何かと女王様になりたがるタイプの子でしたね。
「一昨日伺ったセシーちゃんは」
「お人形遊びはもっと小さい子がするものですわ」
セシリア様は発想が幼すぎてお話になりません。
「ティナちゃんは」
「わたくしが風邪をひいた時に『あたくち熱など出たことなくってよ』とおっしゃってましたわ」
「マディーちゃんは」
「女の子は皆紅茶が大好きと思い込んでおられて、一緒にいるとお腹ちゃぽちゃぽですわ。しかも砂糖入りだし」
「レティちゃん」
「鬼ごっこや縄跳びがお好きな方とお友達になればよろしいわ」
「運動も大事だよ?」
「ではお父様が一緒にしてくださいな」
抱きついてお願いすれば、父またしても相好を崩してウンウン頷いてくれます。
ふっっ……ちょろいわ。
「エレンちゃん」
「嘘もアプリリス・ファトゥウスだけなら許せますけれど」
アプリリス・ファトゥウスは日本でいう『エイプリルフール』ですね。
ここルーナ王国では、主人と従者が服装を交換して遊んだりもしますよ!
と、それはさておき。
たかが5歳やそこらの幼女がつく嘘など、おバカで可愛らしいだけ!
この悪女リジーちゃんを差し置いて、嘘をつき可愛らしく人心を蕩かすなど……
許 せ ま せ ん ね !
「ダーナちゃん」
「ケーキの大きさを見比べるので、わたくしが必ず大きい方を差し上げるのですわ。そしたらにぱーっと笑って『リジーちゃん優しい!』などと」
「良いじゃないか」
「人に親切にされたら『有難うございます』が基本でしょう」
ちなみに悪女に親切にされたらお礼には『何でも言うこと聞きます』などがオススメ☆
と、問題はお礼の言い方ではなく。
「そして食べ終わったら『何か足りないなぁ』などととわたくしのお皿をチラチラ見るので、わたくしのケーキを半分差し上げるのですわ。
そうするとまた、にぱーっと笑って『リジーちゃん大好き!』ですわ」
「うん、なんだかダーナちゃんはいいお友達になれそうだね!」
ぱっと顔を輝かせて父は言いましたが、冗談ではありません。
ケーキを差し上げるのはまぁその実 「ふっわたくしの代わりに脂肪を溜め込み病気リスクをガン上げするがいいわ!」 とか思っているので別に構いませんがね。
「残念ですわね、お父様」
再びツン、と横を向きます。
「エルディアナ様には既に絶縁状をお送りしましたの。今頃は心を痛めて泣いておられるかもしれませんわね」
そしてきっと、その後お嬢様をお慰めするために料理人が焼いてくれた特製タルトをモリモリ頬張っていつしか笑顔が戻り、翌朝にはすっかり忘れているに違いありません!
「絶縁状まで送ることはないだろうに……」
「さもしい者は嫌いですの」
欲深いのは私のような悪女の特権ですのよ!
父の眉ががくっとハの字に下がりました。そんなに情けなさそうな顔をするほどのことでしょうか。
父は私の両肩に手を置き、まっすぐに目を合わせて諭します。
「リジー、あのね。人間には誰だって、欠点があるんだよ。欠点ではなく良い所を見た方が、お友達はたくさんできるよ」
いらねー!
正直言ってガキはすべからく付き合いづらいのですよ!
長所をはるかに超える己の欠点をカバーする術もまだ不十分クセに、こっちの欠点だけはバシバシついてきやがるからなぁっ!
たくさんのお友達とやらに囲まれた暁には、ウザすぎて窒息死するわ!
……と、無様なシャウト御免遊ばせ。まぁしかし、転生後の私はひと味もふた味も違いますからね。
つつかれれば3倍返し、つつかれなくても通常営業でつつきあげ(先手必勝)両親が私のために用意してくれた友達候補を跡形もなく蹴散らしているのです。
父が嘆くはずですね。でも負けませんっ!
「わたくしは完璧なお友達しか要りませんの!だからお父様だけでいいのです!」
「お父様だって欠点はあるんだよ」
「お父様の欠点は、お父様をお可愛らしく見せるから大丈夫なのです!」
完璧イケメンパパは完璧すぎるため知らない人からは、若干冷たく見られがちです。そこをカバーするのが欠点なのですよ!
油断すると左右で違う靴を履いちゃったりしている父は、母からも使用人からも愛されています。
「でもなぁ……やはり、お友達は必要だよ」
「ではお父様がプレゼントして下さいませ」
はぁぁ……前置き長すぎたけど、やっと本題を切りだせました。
「じゃあ今度はちょっと遠方だが、アーフェルディード子爵家の」
「そういうことではありませんわ」
「しかし友達は探さなければ」
「買ってくださいませ!」
父はきょとん、としてこっちを見ました。良識的な貴族様ですから、一瞬意味が分からなかったのでしょうね。
今こそは、悪女の腕の見せ所!
私は父の首に両腕をしっかりと回して頰にキスし、耳元に甘く囁きます。
ポイントは語尾を鼻に通すこと、ですねっ!
「わたくしの誕生日のお祝いに、ダフネス港の市場でお友達を買って下さいませ」
「………………?!」
父の美しい顔が、ぴきーんと音が出そうなほどに凍り付きました。
読んでいただき有難うございます(^^)