48.羞恥プレイを上回る居たたまれなさに脳も沸く?!変態悪女にも苦手なものはあるのです!
さて、時は12月は15日のフォルトゥナ祭開始日 (お祭りは細々と年末まで続くのです)。
外では雪がチラつき、孤児院の集会室では暖炉があかあかとも燃え、王女殿下の柔らかく透き通るようなメゾソプラノの声が響いています。
『……マリエッタはまた1人になってしまったのでしょうか?
いいえ、違います。最初はそう思ってとっても寂しくなり、泣いたり怒ったりしていたマリエッタでしたが、ある時にふと、お月様のことを思い出しました。
森にフクロウが鳴く夜に、マリエッタはお月様に一生懸命、ツバメがいなくなってどれだけ寂しいかをお話しました。
お月様は黙って聞いてくれました。
マリエッタの話はいつの間にか、ツバメと遊んだりおしゃべりした楽しい想い出になっていました。
そしてまたある時、マリエッタはお母様の形見の手鏡を見つけました。
汚れをきれいにふいて、鏡を見ると、その向こうには昔より少し大きくなった、もう1人の女の子がいました。
マリエッタは女の子に、勝手に旅に出てしまったツバメが、どれだけ自分を心配させているかを一生懸命にお話しました。
もう1人の女の子も黙ってその話を聞いてくれました。
話はいつの間にか、ツバメの無事を祈るものになっていました。
ケガも病気もせずに南の国に着いていたらいいな、時々マリエッタのことをちょっと思い出してくれるかな。
そんな風に考えると、マリエッタの心は温かいものでいっぱいになるようでした。
ツバメがいなくなった時は、マリエッタは昔よりもずっと、1人でいることが寂しくて辛くて、こんな風に思うならツバメを助けなければ良かった、とまで思ったのでしたね。
けれど、本当にそうでしょうか?
私はきっと、これから先どんなに1人ぼっちでも、マリエッタはいつか 「ツバメを助けてやっぱり良かったなぁ」 と思えるようになると考えていますよ。
そして、またこうも願っています。
「マリエッタとツバメが、また仲良く遊んだり歌ったりできる日が来ますように!」 と。
<おしまい>』
ぱちぱちぱち……スタッフさんに先導された拍手。なんかまばらな気がします。
いや拍手の大きさなんかどーでもいいです。とりあえず恥ずか死……グッタリ。
先程の病院で1回、この孤児院では集会室に全員が入りきらず2回。
つまりは本日もう計3度目なのですが、ちっとも慣れませんね!
帰宅後は思い出し身悶え瀕死確実な、私ことエリザベートことリジーちゃん。
作者の身バレしてないことだけが、唯一の救いなのです!
「なんだぁ! 結局はひとりじゃん!」
そしてどの回にも、いるんですよね。
こういう正直な感想を大声で叫ぶ子って。
―――ザ・ホメリスト・ジグムントさんは激誉めOK下さったのになぁ……
「いいですね!
間違いを犯しそうになりながらも、ギリギリ踏み止まって正しい道を模索して成長していくという!まさに人生ですね!
そして末の語り手の願いが泣かせます!」 とか。―――
でも、子供たちってジグムントさんほど甘くないんですよね、はぁぁぁ(タメイキ)
甘々に見せかけつつピリッと辛いものを秘めたスパイシーチョコレートなのですよ。
でも孤児院育ちでもハピエン願う気持ちが強いってすごいな。
スタッフさんの力と、正しい方向に伸びていこうとする人間の力強さを感じます。
将来世の中を動かすのはこんな子なのかもしれませんね!
……うん。生まれた時に既に爛れていたリジーちゃんには無理ですよ!
ここはイロイロなことをスッパリ諦め、清く正しく変態悪女の道を邁進することにしましょうっ!
改めてそう心に決めるのも、本日もう3度目です。
それはさておき。
「本当にそう思う? みんなでちょっと話し合ってみましょうか」
子どものツッコミに王女殿下、実に可愛らしく小首をかしげてグループディスカッションをけしかけます。
何か、前世の学校を思い出しますね!
内心で果てしなく鬱入っちゃいますよ、もうっ。
(イエ王女殿下は正しいのですが)
イカンイカン、のです。
楽しいコスプレ祭りの筈なのですから、暗くなっちゃダメダメ! ですよね。
ここはちょっと、気分を盛り上げておきましょう……っ!
「シドもヘルムフリート様も、メルクリウス本当に良く似合ってるわね!
ダーナちゃんもルークさんもとっても可愛いわ!」
皆さんほかの方の意見をよく聞いて下さいね、と王女殿下がロイヤルスマイルでとりしきるディスカッションの邪魔にならないよう、小声でほめ上げます。
「ありがとう」 と鉄壁ノーブルスマイルのヘルムフリート青年。
「リジーちゃんもすごく可愛いわ!」 とヒマワリみたいな笑顔のダーナちゃんと、コクンと頷くルーク君。
「大丈夫ですか? ウィッグが暑くて脳ミソ蒸れてるんですか?」 と私の虹色ストレートウィッグをとろうとする……シドさん?
観客の前で何してるんですか?
「3回同じこと言われたから頭が沸いたのかと」
「大丈夫です! 全然平気です!」
「やっぱりオカシイ」
小声でやりあっていると 「あーっ」 という子供の声。
「メルクリウスが使者様さらおうとしてるーっ!」
ほんとだ、ほんとだ、と子供たちが総立ちになりました。
あぁぁぁぁ! せっかくのディスカッションがめちゃくちゃになってしまうっ
リーゼロッテ様ごめんなさいぃぃ!
シドは私の手を取ると 「逃げますよ!」 と小さく囁き、強く引っ張りつつ集会室の外へ走り出します。
雪が一枚の白い布のように全てを覆った中庭まできて、やっと立ち止まるシドさん。
いきなり走るから、リジーちゃん息切れしちゃってるんですけど。
「一体、どうなさったの」
「逃げるのが正しい道かと思ったので」 しれっとした返事ですね、もうっ!
「あの場面で 『そんなことないよ』 などと誤魔化して何事もなかったようにするのも興醒めでしょう?」
「なるほど」
それはそうかも、ですね確かに。
せっかく子供たちが盛り上がってくれているところを無難に取り繕おうとするのは大人のエゴというものです。
一瞬でそこまで計算するとは、さすが……でも何だか納得いかないわ。
「それに」 大きな手が私の頬にそっと触れます。
「あなたが何だか辛そうだったから」
ぎくっ。何かバレてた。
「あ、あらー? 何のことかしら?」
夏の晩餐会で対・鉄壁ノーブル美青年用に装着して以来久々の、当たり障りの無い笑顔仮面にヒビが入る程の衝撃です!
ちなみに笑顔仮面、今回はイヤイヤでなく本当に子供たちや王女殿下に楽しんでもらいたくて、敢えてつけたもの。
前世とも前回とも、全く意味が違うのですよ。
「それはね、自作を目の前で3回も朗読されるなんて、タルカプス・アムフォイトマン先生やサルウス・プロスペル・エッケバッハ大先生のような方でもなければ、拷問でないの」
説明する私の声、微妙に裏返っています。気付かれませんように。
―――周囲が賑やかであればあるほど、そこに私が居る場所が無い気がして、魂が半離脱状態になってしまう、なんてことは。―――
王女殿下に協力して子供たちを楽しませようと来ているはずなのに、結局は自分のことばかり考えているだなんて……まだまだ小物過ぎて恥ずかしい、のですっ。
人心を蕩かし意のままに操る真の悪女であるならば、大勢でのワイガヤ程度に怯えるべからずっ!
周囲の喧騒くらい難なくクリアしようよリジーちゃん! なのです。
「大丈夫ですよ、みんな楽しんでいたじゃないですか」
ほぅ(安堵)どうやらシドさんは誤魔化せたみたいですね!
そしてこの人が誤魔化せるならば後はOKです!
やはり小さい時から兄妹同然に育ったせいか、けっこう見抜かれるので。
そして 「もっと困って♡」 的にそこを言葉責めでつつきまくるS気質が本当に困るので、ね。
さて、うまく韜晦できたら後は念押しなのです。
「あれは王女殿下効果でしょう」
これは本当です。
何しろリーゼロッテ様の朗読は、シドに勝るとも劣らない上手さなのですよ!
声も息継ぎも強弱も、とにかく完・璧!
あんな読み方されたら、どんな駄文でも輝きますって。
しかしシドはコテン、と首を傾げました。
「そればかりじゃないと思いますけどね、先生?」
「はぅわっ」
久々の 『先生』 攻撃キタ!しかも奇襲!
「俺は先生の話けっこう好きですよ、先生」
「だからそれヤメテ」
「あれ、何がですか先生?」
「うぅぅぅ……」
シドったら今日で1番楽しそうな顔してるぅ!
そういえば、今日も当然一緒に行くものだと思って意思確認してないんだった!
それどころかコスプレ姿を笑いまくってやろうとかそんな下心さえ持ってたんだった。
つまりこれはアレですね。
『下僕使用でオプション入りました』 ということになり 『追加料金分』 のイジワルなんですよね。
よし負けないぞ!
既に若干涙目のリジーちゃんですが、これ以上は泣きませんとも!
「お世辞はけっこうよ」
「お世辞じゃないですよ」 漆黒の瞳が私の顔を覗き込みます。
人の困り顔が好物なんて、悪い子ですね!
あれ。でもなんだか意外と真剣な顔してますよ?
「本当に、すごく、好きなんです」
ゆっくりと囁く声もまた。
シドさん? 何企んでるか知らないけど、絶対負けないもんね!
ニラメッコなら任せなさい!
涙目のままシドの目を睨み付けていると 「あっ、あの!」 という何だか焦ったような少年の声が聞こえました。
ルーク君です。
「そろそろお戻り下さいと王女殿下が」
どうやら呼びに来てくれたようですが、顔が真っ赤。 寒いのかな。
「分かりました。すぐ戻ります」
シドが落ち着いて頷き、私の手を優しく握りました。
使者様を強引にさらったメルクリウスが愛の使者によって改心、的な仕上がりにするつもりなんでしょうね。
役者やのう。
こうして私たちは手を繋いだまま、ディスカッションの熱気の残る集会室に再び戻ったのでした。
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