47.コスプレ祭りはやっぱり眼福!目一杯に楽しみましょう!しかし待ち受ける羞恥プレイ?!
「遅れてごめんなさい!」
額ににじむ汗を抑えながら朗らかに謝るダーナちゃんことエルディアナ様。
5分ほどの遅刻はルーナ王国では誤差の範囲内なのです。
「馬車の車輪がミゾにハマってしまって!時間がかかりそうだから歩いてきたの」
きっと今 『それでも来るわたくしってエライわよね』 とか思いましたよね……?
と、つい邪推してしまう私ことエリザベート・クローディス、自称悪女歴16年。
だって何人でしったっけ?
馬車のトラブルとかで早々に休んだお嬢様方。ぷんぷん (怒)
それにしてもダーナちゃん。
全身から、すごい量の湯気が発生していますよ!?
その湯気の立ちっぷりで 『走って』 ではなく 『歩いて』 なんですね!?
普段もう少し運動した方が、いいのではないでしょうか……。
王女殿下が早速、ダーナちゃんをねぎらわれています。
「まぁ、わざわざ有難う! 大変だったでしょう?」
「いいえ! あとでいただくケーキが倍は美味しくなりそうですから」
「そうね」
リーゼロッテ様はクスクス笑っておられますが……ちょっとダーナちゃん、アナタ!
折角減らしたカロリーを、どうしてケーキで過剰補給しなければならいのでしょうか?
どうせなら、チョコレートでしょっ!?
「配布が終わったらお茶にしましょう?
ケーキと ″ヴェルベナエ・ドゥルシス″ のチョコレートを用意させているわ」
「さすがお姉様ですわ!」
″ヴェルベナエ・ドゥルシス″ はリジーちゃんたち行きつけのショコラティエ。
しかし!
残念なことに、12月に入り雪が積もるようになると路面のイートスペースはお休みなのです。
チョコレートは外でコッソリ食べるもの……今月は無理かと思っていたのに……嬉しいのです……っ!
「ぬかりはなくてよ」
ちょっとドヤ顔の、リーゼロッテ様。かわゆいですねぇ。
「新作フレーバーももちろんあるわよ」
「楽しみです!」 「嬉しいわ!」口々に言う、ダーナちゃんとリジーちゃん。
こんなオマケがあるなら、慈善活動もといコスプレ祭りもいっそう張り切れるというものですね!
「あ、あの。お話中のところ申し訳ないのですが」
きゃあきゃあと盛り上がる乙女たちの会話を遠慮がちに遮ったのは、まだ低くなりきらない少年の声でした。
声変わりが一応一段落、でももう少ししたらまた次があるかもね、という時期……っぽいな、うん。
「どうしたの、ルーク」
年の頃13、4歳といった感じのその少年は、どうやらエルディアナ様の従者のよう。
彼女と同じくちょっとコロンとした体型で2人並ぶと可愛らしい感じです。
柔らかそうな薄茶色の癖っ毛に、少し眠そうな感じの水色の瞳。
「これ、少し私には余りそうなんですが」
ルークくんの手にはメルクリウスの衣装。……少し?
いやいや、大いに余りそうですよ!
男の子らしい見栄なんでしょうねきっと。くすくす(忍び笑)
「大丈夫!」 その衣装をパシッと取り上げて箱にポイッと戻すのはリーゼロッテ様です。
湖の色の瞳が異様に輝いていますね!?
「あなたは、このわたくしが責任をもって! キュートに仕上げて差し上げるわ!」
ハァハァと息遣いも荒く、美しい王女殿下に迫られて引くにに引けないルークくんは、眠そうな瞳を精一杯に緊張させて、コクリ、と頷いたのでした。
※※※※※
かくしてコスプレは無事に完了。
王女殿下、ダーナちゃん、私は 『幸運の女神の使者』。
3人同じコスでも一等華やかで目立ってるのはやはりリーゼロッテ様です!
もともとスタイル良い上に、更に胸メガ盛り肉襦袢を着ているのでもう爆発寸前っ♡
このパイを見れば、老若男女問わず、顔を埋めて果ててみたいとチラッとは思ってしまうことでしょうっ!
メルクリウスのコスプレは、シドとヘルムフリート青年。
ルークくんはなんと、小さめの翼がキュートな愛の使者に変身!
コロンとした体型と色の薄い柔らかそうな癖っ毛がピッタリなのですっ(ハァハァ) !
グッジョブですねリーゼロッテ様!
あ、ちなみにルークくん、上は乳首を適当に誤魔化した肉襦袢で下はヒラヒラのキトンです。
イイところもイケナイところも隠しているので、ご安心を。
シドとヘルムフリート青年のメルクリウスも、意外と似合っていますねぇ。
どんだけ笑えるか、と楽しみにしていたのに、実際に見れば古風な衣装が美貌を強調し、額飾りが爽やかにアクセントを添えています。
乙女たちが 「アタクシのハートも盗んじゃって!」 と叫びそうなレベルに仕上がっているのですよ!
……あれですね、美人さんは何でも着こなせるというやつですよね。
ズルい。
と、さて、それはさておき。
そんなコスプレ集団一行は、まず病院を訪問いたしました。
「王女殿下! お嬢様方! 本日は誠にありがとうございます」 笑顔で迎えてくれるスタッフさん。
1人ずつに鈴を配ってくれます。
「集会室へどうぞ。歌が終わったタイミングで、この鈴鳴らしながら入ってくださいね!」
こちらでは比較的元気な子供だけ集めて、お祝いをしているのだそうです。
病室から出られない子は、後で1人ずつ廻る予定です。
集会室からは、フォルトゥナ祭の歌が漏れ聞こえてきます。
『雪はフォルトゥナ様のお恵み、
わたしたちの上に幸運を賜う。
顔を上げ、心澄ませば、いつも、
わたしたちの上には幸運が降る』
偽善的な歌詞だなぁ……でもなんだか心に響いてしまいますね!
これが清澄な音楽と子供たちの歌声の力なのです……やばい。
悪女としては、そんなものには毒されないよう気を付けねばっ
内心で盛大に 「けっ!」 と吐き捨ててみます。
そんな素晴らしい歌声が止めば、いよいよコスプレ団のご登場……っ!
「今日はぁ、なんと!
フォルトゥナの使者の皆さんが、プレゼントを持ってやってきて下さいましたぁ」
語尾にハートマーク付きで盛り上げる女性スタッフ、うまいですね!
……ここでシラッとしてしまったら寂しいだろうので乗ってあげざるを得ない、という気持ちになってしまう点が、特に。
「さぁ、皆で呼んでみましょう! せぇの!」
「しーしゃーさん……」
「あれぇ、声が小さいぞ? もう1度!」
入院してる子供に大声で叫ばせていいんでしょうか?
……いやいや、もちろん、大丈夫だからこそ、ですよね?
「しーしゃーさーん!」
げほげほげほっ。
無理やり大声を出して咳き込む子……やっぱりヤバかったのかな。
近くのスタッフさんが慌てて背中をさすっています。
鈴をシャンシャン振り、最大限に笑顔を作りながら室内へ。
順番は、先頭が男性陣、中が私とダーナちゃん、トリが王女殿下です。
「わぁー!」
子供たちからそれなりの歓声を受けつつぱっと見渡せば、多いのはケガをしている子。
前世では見た目は普通でも心臓に病気があったり、小児がんだったり、という子が多いのが入院している子のイメージだったのですが……
ルーナ王国の医療ではそうした病気はまず発見できませんからね!
って。
ちょっと待て!
せっかく医療技術の発達した世界から転生してきたのに、リジーちゃんたら、ノンビリお色気小説書いている場合なのでしょうか!?
前世の知識を活かして医療チートで人々を救うべきじゃないのでしょうか!?
……って、前世の知識総動員しても無理。
…………なんか、つくづくムダに生きてたのですねぇ、前世。
んで今世でも、結構ムダな人員だよなリジーちゃんったら…………
けれども、本日のリジーちゃんは 『幸運の使者』。
鬱、厳禁。ですのよ!
さぁ、気を取り直して、笑顔!
早速、プレゼント配布といきましょうっ!
メルクリウスとクピードーが山盛りの本を抱えてついてきてくれるので、ラクなものです!
配り終えると、王女殿下が先程の女性スタッフと同じノリで 「はぁい、皆さん!」 と子供たちに呼びかけました。
「今、わたくしたちが皆さんに差し上げたのは、色んなお話が詰まった 『本』 というものです」
知ってる! と声を上げた子にニコヤカに頷き、話を続ける王女殿下。
「『本』 は色々な世界へ行ける窓です。ぜひ、この 『本』 で知らない世界に冒険してみて下さいね!……この中で字が読める人は?」
はーい、と2/3程度の子が手を上げました。
勢いの良い子もいれば、おずおずモジモジしている子もいます。
「すごーい!」 とやや大げさに拍手してみせる王女殿下。
堂に入った 『みんなのお姉さん』 ぶりですね!
(それにしても院内の識字率高いなぁ)
「では、字が読める人は読めない人に、この本を読んであげて下さいね。
それから、読めない人も、いつかこの本が1人で読めるように、頑張ってみましょう。
字は知識を照らす光ですからね」
はーい、とバラバラ気味の返事に、王女殿下はニコニコと微笑まれました。
美しいロイヤルスマイル……はぅぅぅ眼福です!
「ではわたくしも皆さんに、1つだけお話を読んであげましょう」
赤い豪華な表紙を開け、しばらく頁をパラパラとめくっていた王女殿下は、やがて1つ頷き、朗読する姿勢になりました。
「マリエッタと迷子のツバメのお話……」
がーん!
なんでよりによって、それなんですか王女殿下!?
リジーちゃん、大ショックですっ
思わずよろけそうになっちゃいますよっ……わ
目の前で、自作を朗読されるなど……な、なんて羞恥プレイなのでしょうか!
うぅぎゃぁぁぁぁ!
内心で悶絶しつつ、思いっきり他人のフリをする、リジーちゃんなのでありました……
読んでいただきありがとうございます(^^)




