46.ついに来ましたプレゼント配布の日!けれど断じて慈善活動ではありません!ただのコスプレ祭りです?!
そんなこんなで早くも半月が経った、12月は15日。
本日は雪のちらつく中、『幸運の女神の使者』 のコスプレをして王女殿下と共に王都の病院と孤児院を回る予定の、私ことエリザベート。
悪女歴16年でございます。
ちなみに、地方宛にはすでに1冊1冊にメッセージカードを添えて発送済み。
先日リジーちゃんも、王宮に呼ばれて王女殿下やほかのご令嬢方と一緒にせっせとカード作りをお手伝いしました!
ティーパーティー兼ねて慈善活動、優雅ですねぇ♡
けれどもしかし。
ご令嬢方の中には、かつて 「友達など不要!」 とばかりに駆逐した女の子たちの姿も混ざっていたんですよねぇ……(落ち込み)
―――ツン、としてますます気の強そうになったドロテア様。
相変わらずなんだかフワフワと幸せそうなセシリア様は、なんと婚約指輪付き!
そして、若干ふっくらとしたエルディアナ様―――
はい。なんというか。
強烈に気まずかったですよ、ええ。
5歳の頃のリジーちゃんったら、どうして彼女らを籠絡しなかったんでしょうね!?
きっと当時はまだ悪女として低レベルだったのね……反省ですっ
―――とりあえず、ひたすらその他大勢(といっても10名程でしたが) に紛れよう。うん。
というわけで、なるべく下を向いてせっせとカードにピンクのハートなんて描くリジーちゃんでした。が。
「あーっ、リジーちゃん、生きてたのね!」
見つかっちまいました。ちっ。
にこにことフレンドリーに声を掛けてきたのはダーナちゃんことエルディアナ様です。
「急に会えなくなって、お母様に 『リジーちゃんは遠くへ行った』 と伺ったから、すごく悲しかったの。まさか生きて会えるなんて!」
どうやらダーナちゃんのお母様は、リジーちゃんが叩きつけた絶縁状を握り潰したようですね!
その上、亡くなったことにまで……おおぅ、なかなかイイ悪女っぷり!
そして。
そう聞かされた立場から考えれば、確かにこれは、感動の再会っ
すなわち、まさに籠絡のチャンスです!
………………
………………けれども、しかし。
この子を籠絡したからといって、何のトクが?
分かりませんっ!
エルディアナ様はただの食いしん坊さんでしたしね!
籠絡……ニッコリ笑ってツマンナイ話をして (たぶんスイーツネタでOK) ……ああもう面倒くさい!
ここはもう 「失礼。どなただったかしら」 でバックレてしまいましょう。
最近ちっとばかしアイデンティティが揺らいでいるとはいえ、元々が悪女なリジーちゃん。
ストレス源にしかならないような人付き合いはゴメンですよぉだっ!
5歳児みたい? いいんですっ!
心のままに生きるために転生したんですものね! (たぶん)
そこで早速、口を開きます。
「しつ」
「あーっ、絵の具垂れてる!」
失礼、とも言い切らぬうちに、エルディアナ様からめちゃ慌てた台詞が放たれました。
はっとして見ると、カードに描かれたハートに絡み付くように垂れた絵の具の跡が!
……がぁぁん! しまったぁ!……
しかし何だろう、この形。
妙にそそるな。
ハートに拗くれ曲がった杭がぐっさり?
そして鎖でがんじがらめ?
いやそそるけど、顔も知らない子供に送るわけにもいきませんね。
「どうしようかしら。捨てるのももったいないし」
前世の庶民精神、ついつい発揮されちゃいますねぇ!
と、エルディアナ様がにぱーっとした笑顔を向けてきました。
昔ケーキを分けて差し上げた時と同じ、ですねぇ。
「かして?」
カードを取り上げ、杭の刺さったハートの部分を太めの指に握られたハサミでチョキチョキと器用に切り抜いています!
ほどなく。
「おおっ!」 思わず声を上げるリジーちゃん。
なんとカードが、『幸運の女神の使者』 の形に切り抜かれちゃいましたよ!
これは喜ばれますねっ♪
メッセージを書き込む余白もばっちり、なのです!
「ダーナちゃん、すごい!」
あ、名前まで呼んでしまった。
もう 「どなただったかしら」 て言えないやん……(落ち込み)
「こういうの得意なのよ」
と、ダーナちゃん。
なんとっ! いつの間にか、食べる以外にも特技ができていたんですね!
………
………
………なんだか。
目からウロコがすっぱーんと落ちた気がします。
そうだった、人って良い方向に変わることもあるんですよね!
自身が変態悪女なものだから、つい忘れていました……てへ(照れ笑)
と、そこで、ぴかーん、とひらめいちゃうリジーちゃんです。
すなわち。
これって創作的に美味しいよね!?
新連載にヒロイン食わない程度に個性的な善人脇キャラを登場させられるチャンスですよねっ♡
そう、取材だ取材!
盛り上がると同時に、前世の心がちょっぴり頭をもたげてきます。
(ニンゲンコワイ……ヒトリノホウガ、アンシンデキル……)
いやいやいや。
アナスタシア様のためにはそんなこと言ってられませんっ
大丈夫こわくない!
友達のフリして取材するだけ、こわくない。
何しろ今世の私はひと味もふた味も違いますからね!
(もし、ダーナちゃんが悪い方向に変わったら?)
(急に口きいてくれなくなったり、ほかのご令嬢方とこっちを見てクスクス笑いながらコソコソ話すようになったら?)
(もし、知らないうちに悪い噂が流されていたら?)
(もし……)
ええいうっとうしいわ!
こっちは悪女の上に変態!絶対に負けませんっ!
リジーちゃんがこの世で困るのは、大衆向けお色気小説書いてるのがバレること。
そして、シドのイジワルだけ、なのですよっ!
大体ですね、この目の前の食べるのが大好きで手先が器用で素直そうなぽっちゃりさんが、このリジーちゃんよりも、変態悪女ですって!?
そんな屈辱、ないないない、ですよ!
万一あったら、こっちがより変態悪女として研鑽を積めば良いだけ。
わ か り ま し た ね !
エリザベート・クローディス!!
………
………
………よし。
取材開始っ! なのです!
「どうやって切るの?」
親しさを意識してダーナちゃんの手元を覗き込みます。
「まず角を合わせて2つ折して、これが頭、これが翼……」
丁寧な説明。少しゆっくり切ってみせてくれます。優しいですね!
「いきなりこんなに上手には無理ね」
降参してみせると、ダーナちゃんはまた、にぱーっとヒマワリみたいな笑顔で 「ハートってもらうと嬉しいよね!」 と言ってくれたのでした。―――
とまぁ、こんな経緯もありつつ、さて。
本日は、病院・孤児院回りという運びでございます。
指定の集合場所はいつぞや授賞式や晩餐会の開かれた王宮ホール。
「確かにここに朝9時集合だったわよね」
シドに確認する声が、がらんとしたホールに響きます。
「その通りですお嬢様。ちなみに今は8時50分です」
ほかに誰もいないので、柱時計を確認するシドの声もよく響きますね!
つまり普通に考えれば、ルーナ王国には10分前行動は存在しない、のですね。たぶん。
ええ、前世にも 『遅れるのが当たり前』 みたいな国はありましたしね!
それから3分ほどが経ち。
「あら早いわね! おはよう、リジーちゃん!」
挨拶の声も華やかに、王女殿下もご登場です!
後ろにはコスプレ衣装を山と積んだ台車を運ぶヘルムフリート青年。
もう従者決定ですよね。
政治の中枢で番張ってるお偉い侯爵家令息でも、王女殿下だから良いんですよね?
「リーゼロッテ様! お早うございます」
手をポンポン合わせる、ルーナ王国式親しいご挨拶。
心が弾みますねぇっ!
今日は、世をひねたク○ガキとの対話シミュレーションを心の中で繰り返し、準備もばっちり。
かかってきなさい! ですよ。
王女殿下はにこやかにおっしゃいます。
「あとはエルディアナちゃんも来るから、もう少し待ってみましょうか」
え。あとダーナちゃんだけ。
「確かカード書く時にはほかに10数名いらっしゃったような……」
「いいえ? こんなものよ? 今日は雪が降っていますからね!」
えええ! 令嬢方は雪が降ったらお休み、まじだったのですか……。
「風邪3名、鼻水3名、ケガ2名、馬車のトラブル2名よ」
寒いと大変よね、とリーゼロッテ様。
サボり許せん、などの黒いオーラは一切出ないところがさすがです。
……けれど、ダーナちゃんも、なかなか来ませんねぇ?
「待つ間に着替えておきましょうか」
と、王女殿下から渡されたのは、お約束の 『フォルトゥナの使者』 の衣装です。
透け感を強調したヒラヒラフワフワな白のシフォンドレス (胸がメガ盛りの肉襦袢付き) と虹色のストレートウィッグ、それに純白の翼。
なかなか本格的ですね!
プラチナをダイヤと真珠で彩ったティアラとネックレスもお揃いで、コスプレ気分が盛り上がりそうですっ!
「男性はこっちね」
シドとヘルムフリート青年はメルクリウスのコスプレのよう。
筋肉プチ盛りの肉襦袢に肩で止めるタイプの古風なチュニック、片肌脱いでニセ胸筋半見せです!
翼を象った額飾りは銀製で中央にサファイア。
そしてメルクリウスの象徴、翼のついた靴と杖。なんだか可愛い、ですねぇ♡
衣装を受け取りながらシドさん、一瞬情け無さそうな顔です。
意外と真面目ですからね、この人。
一方。ヘルムフリート青年は相変わらず周囲が暖まらない程度の涼やかさです。
毎年のことで慣れているんでしょうか、ねぇ。
2人の仕上がりが楽しみ、なのです!
こうして、女性は鏡のある控え室に移動し、男性はその場で、という話がまとまった時。
「すみません、お待たせ、して、しまって!」
ダーナちゃんがやや息を切らし気味に、ふっくらした身体にほんのり湯気を立てて現れたのでした。
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