43.美人さんたちが揃った食卓は眼福すぎる?!ダイエットもしばし忘れて天国を味わいましょう!
さてかくして11月は15日。
「うちのエリザベートを幸運の女神の使者に?」
昼食の席でお持たせのパンを口に運びつつ王女殿下がなさった提案に、驚いたように眉を上げる、父ことユリアン・クローディス。
そして。
「ええ」 スープをコクンと1口飲んで軽やかにうなずかれる、王女殿下ことリーゼロッテ様。
「もっとも、リジーちゃんだけではないのよ。今年はプレゼントを本にしたものだから、重くなりそうで。
皆様にご協力いただけるよう、これはという方にはお声掛けしておりますの」
幸運の女神の使者、とは日本でいえば、サンタクロースみたいなものです。
ルーナ王国では12月の半ばから年末にかけての2週間はフォルトゥナ祭の期間。
雪に閉じ込められがちな冬の楽しみですね!
この間は誰もが 『幸運の女神の使者』 になって親しい人に贈り物をしたり、慈善活動に勤しんだりするのです。
『幸運の女神の使者』 は善いものを贈り、贈られた方は喜んでそれを受けねばなりません。
なので、リア充たちの間では女性が着飾り手首や足首に贈り物用のリボンを巻いて 『あたしをた・べ・て……?』 と迫るのも密かに流行っているとか。
ますます日本のクリスマスに似てますねぇ? ふふっ(含み笑)
それはさておき、そんな風習のため王家ではこの時期、先頭切って慈善活動をされるわけです。
孤児院や病院にいる子供たちへのプレゼントを、王女殿下と名門貴族の令嬢方が手ずから配るのもその一環。
余談ですが 『幸運の女神の使者』 のコスプレも好評だそうです。
今年のプレゼントは、なんとっ!
活版印刷所・バルシュミーデ兄弟社がフォルトナ祭需要を見込み12月は1日から発売する ″運命の女神たちの童話集″ に決まったのです!
童話集のアオリは 『本は魂の糧、人生の標。フォルトゥナからのプレゼントにはケーキよりも1冊の本を!』
売れるといいですねえ、ワクワク。
ちなみにコンセプトは 『運命の女神たちが見守る幸福の物語』 ―――その実 ″月刊ムーサ″ の作家たちによるひねくれた物語を全て 『運命の女神たちの気紛れでやり直し』 させた裏話つき―――。
もちろん最初からハピエンの物語もありますが、そうでないのも結構な数あったもようです。
(ユーベル先生のもかなり暗かったとか!)
さて、話を童話集の仕様に戻しましょう。
以前に見せてもらった見本では、表紙は艶やかな赤のシルク。
金銀の箔押し加工で運命の女神たちが描かれ、タイトルの飾り文字もオシャレな豪華特別版でした。
そして、けっこうな分厚さ。
ずっしりと重いので、確かに配布するには人数いりそう、なのです!
「しかし我が家はそんな大した家でもないですし……ほかの方々を差し置いては、ちょっと」
困っていますね、お父様!
何しろ、貴族の中でも末端を自認しているクローディス家、王族のお手伝いなんかしてヘンに目立つのは避けたいところなのですよ……
しかし王女殿下は、ニコニコとされています。
「あら! それなら心配ありませんわ。おそらくは人手不足になるでしょうから」
「え? 名誉ある行いを辞退などしないでしょうに」
「それがね」 ここだけの話、とばかりに声を潜める王女殿下。
「急病とかケガとか階段から落ちたとかで、当日に来られないお嬢様方もたくさんいらして。
なにしろ寒いし雪も積もるでしょう? トラブルが多いようよ」
嘘ですよね、それ。
絶 対 サ ボ り だ 。
……とか思っても、言わないのが上級悪女というもの、なのですねぇ。
おさすが。
「その点、慈善活動に関心が高いリジーちゃんに参加していただければ心強いわ」
「ひえっっ!?」
口の中に入れたばかりのスズキのポワレの切れ端を、噛まずに呑み込んじゃった私ことエリザベート。
慈善活動に関心? 誰が!?
そんな動揺をキレイに無視して、会話は続きます。
「なるほど!そういうことですか」
ぱっと表情を明るくさせる父。
「ええそういうことですわ」
ニコヤカにうなずかれる王女殿下。
2人とも、その認識オカシイのですわ……っ!
悪女なリジーちゃんは、慈善活動に関心など持ったことはございません!
ええ、本当ですとも……っ。
「人々のためを思いケーキを配るなど、なかなかできることではありませんから」
あれは残り物!
そして泥棒!
そして 『パンが無ければケーキをお食べー!』 と、言いたいだけ!
……でも。
褒賞受けてメジャーになっちゃったんですよねぇ。
(おかげで泥棒ならではのスリルが半減以下なのです!)
まぁ、それでポリー嬢の取材ができたのだから、良しとせねば……けれども、釈然としないのです、よねぇ……
「そういうことでしたら…………」
失礼、と断りを入れ、父が水で口をしめらせます。
そういえば、先程から父の前は水しか減っていたません。
緊張しているのかしら……可愛いですねぇ、イケメンパパ40歳なのにっ!
「でしたら、エリザベートさえ良ければ、親としても喜んでお受けします」
「わたくしはもちろん、喜んで!」
お目めをキラキラさせて、口を挟みます。
慈善活動好きに認定された居たたまれなさは、さておきましょうっ!
重要なのは、そこじゃありませんからね!
「良かったわ!」 とニッコリして下さる王女殿下。
作 戦 成 功 で す ね!
ありがとうリーゼロッテ様!
これで。
『幸運の女神の使者』 役さえ果たせば、関係者として堂々と、1月のバルシュミーデ兄弟社のパーティーに行けますぅぅぅ!
「プレゼントが本だなんて素敵ね」
母が天使様のお顔に心からの微笑みを浮かべました。
相変わらず眼福……はっ。
……もしや?!
改めて食卓を見回せば、王女殿下の大人っぽい美貌、鉄壁ノーブル美青年、若干苦みの加わった美中年な父、少し艶の加わった天使様な母、シド、と美人さん揃いです!
何この食卓!? ずっといたい。
最初に、料理なんかいらない、とか言ってスミマセンでしたご両親様。
いくら大量にパンがあっても料理必須だと、よく分かりました。
大好きな人たちが皆集っている食卓は幸せ天国なんですね。
『時よ止まれ』 と書字魔法かけたいレベルです。
「王宮は常に恵まれない方々のことを考えておりますの」
普段の変態ぶりは欠片も見えない態度で王女殿下が説明されます。
「特に子供たちには、どんな状況でも希望を持って生きる力を身に付けてほしいと願っております。
″運命の女神たちの童話集″ はそれにぴったりですわ」
「素晴らしいですね」
父が大きく頷き、やっとパンを1切れ、口に運びました。
私も同じものを1口。
ふすま入りの庶民パンでもかなり美味しく作ってしまうのが ″王様パン″ のすごいところ……とはいえ、どうしても残る雑味で、たくさんは食べられないのが常。
でも今日は、なんだかよく進みます!
なんといっても幸せ天国、やや貧しめなパンもなんのその。
ダイエットだって忘れちゃいますよ、もうっ!
「リジーちゃん、今日はよく食べるのね」
母が嬉しそうにニコニコしています。
最近ダイエットしてるリジーちゃんを、黙って心配して下さっていたのですね。ありがたや。
シドもヘルムフリート青年も、よく食べてくれています。
ビバ青少年の健全な胃袋。
うん、やっぱり幸せ。
「だって、リーゼロッテ様がいらっしゃっているんだもの!」
そう答えると、王女殿下は照れたように 「ふふっ」 とお笑いになったのでした。
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