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伯爵令嬢に転生して極悪最凶の変態を目指しましたが、結局は普通のお色気作家になりました。  作者: 砂礫零


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42/201

42.王女殿下のお忍び訪問!テンヤワンヤなご両親様と普通スタイルの王女殿下とあまり変態してない私なのです?!

 王女殿下&ヘルムフリート青年とショコラティエ ″ヴェルベナエ・ドゥルシス″ でお遭いしてから早、10日が経ちました。

 本日、すなわち11月(ディアナベル)の15日は、我らが大衆向け文芸誌 ″月刊ムーサ″ 第11号発売日でございます。


 しかし。

 私ことエリザベート・クローディス16歳の優美なる両親、ユリアン・クローディス (一応) 伯爵とその妻アメリアさんにとって、そんなことの千倍は重要なのが。


「本当に普通に客間で良いのかしら?」


「ええお母様」


「本当にお茶だけで構わないのかい?

 サロンで昼餐会もすぐできるように手配してあるよ」


「ただのお忍びですもの、本当の本当にお茶だけですわ、お父様」


 答えると、父いつの間にやら40歳は苦み走ってきた美貌を情け無さそうにしょぼんとさせました。


 あら、残念なのでしょうか?

 王女殿下とランチしたかった?


 そう、なんとっ!

 本日。

 王女殿下が、お忍びで、我が家においでになるのですっ!


 お忍びなのに、わざわざ前もってご連絡下さったがために、両親も使用人たちもそれからハリケーンの中のような日々を過ごしておられました。

 玄関ホールに客間の調度まで全部新調する気合の入れようです。


「やり過ぎじゃない?」 とリジーちゃん、3回程は控えめに聞いてみたのですが。


「本当にウチで良いのか? 何なら目抜き通りの ″ランクス・アウラトゥス″ で1フロア借り切った方が」

 などと、トンチンカンなお返事しかいただけなかった、のでございます。


 ほんと意外でしたよ、ええ。

 両親なら王女殿下のお忍び程度、笑って受けてくれるか、と思っていましたからね。

 正直なところ、もっと格好よく権力から身を引いているのかと、信じ込んでいたのですよ。

 それがただの政治的引きこもりだったとは……たまに権力との接触があると異常に緊張する手合いです。


 ちなみに ″ランクス・アウラトゥス″ は、

 元王宮の料理人が開いている目抜き通りのレストラン。

 宮廷料理を家庭風にアレンジしたメニューは庶民にも、意外なことに貴族の皆さんにも人気なのです。

 1階は庶民も入れるフロアで、2階・3階は宴会と貴族王族のお忍び用。


 でも、わざわざお忍びで家に来られるのにですね。

 王宮近所のレストランでもてなす、というのも、ちょっと。


 というわけでリジーちゃん、両親にやはり3度ほどは、こう説明いたしましたとも。


「わたくし、リーゼロッテ様にお庭のハーブでお茶を淹れて差し上げる約束をしたのですわ。

 だからお茶だけで構いませんの。後はお持たせで」


()()()()……」


 一般には失礼こきまくってると取られかねないおもてなし方法に、目頭を押さえつつ呟く母。


 でもね、お母様。


「リーゼロッテ様のご意向なのよ!」


 たまたま ″月刊ムーサ″ の発売日にスケジュールが空いていた王女殿下はこう計画を立てられたのです。


「″ムーサ″ 第11号を買って、王様パンで色々買い込んでからリジーちゃんのお家に伺うわね。ヨロシクっ」


 王女殿下の 『色々』 はおそらく全種類制覇くらいの勢いなはずです。

 従って、もし要るとしてもスープ程度でじゅうぶんっ!


 そう言うと、父も珍しくコメカミなんか押さえて椅子にドサンと腰を下ろしたのでした。


 まぁ、ともかく。

 そんなこんななやりとりが随分あって、いよいよ今日がその当日、なのでございますが……。

 やはり、リジーちゃんよりもテンヤワンヤな感じなのは、両親なのですね。

 父なんて、わざわざお仕事休んでます。


 立派な臣民なら、せっせと働いて税金稼いだ方が良いんじゃないでしょうかね?

 ……など、夏の表彰式以来のモーニングコートを着込み、しかしその時より明らかにガチガチになっている父には、とても申し上げられませんよね!


 ―――お父様、19年前の胆力はどこに消えたんでしょうか?

 革命勃発寸前であまり上手じゃない詩を朗々と読み上げ書字魔法で貴族社会を延命させたという、あの伝説はっ……!?―――


 ……もしや、人違い……

 でも証言者が他ならぬ王女殿下と母ですしねぇ……

 きっと、火事場のバカ力、の種類だったのでしょうね、うん。


 そして母はといえば、王女殿下を立てるつもりでしょうか、地味めを意識した枯葉色のロングワンピースに瞳に合わせたアメジストのブローチです。


 金の髪に赤みがかった紫色の瞳とよく合ってまるで秋の女神(カルポー)のよう。

 はぁぅぅ(溜め息)

 視姦する方にも半覚醒しているリジーちゃんにとっては、相変わらず以上に眼福なのです。


 が、そんなノンキな娘の感想はさておいて、両親は忙しそうに確認を続けています。


「掃除は」 「済んでいますわ」

「料理の準備は」 「大丈夫ですわ」


 だから料理は要りませんって。

「お手拭き」 「準備しています」

 ラベンダーの香のお湯で煮沸中です。


「お茶」 「OKです!」 と、これはリジーちゃん。


 とはいっても、用意しているのは水だけ、ですけどね。

 ハーブは王女殿下が 「摘みたいわ!」 とキラキラお目めでおっしゃったので、後ほど一緒に用意する予定です。


「おやつ」 「バッチリですわ」 母付きの侍女のファルカが、得意のプディングを作ってくれています。

 リンゴとレーズン入り、ラム酒がほんのり香る大人な味わい……楽しみですねぇ……っ!



 こうして大方の準備が整い、ちょっと落ち着いてしばらく経ったところで、ドア鈴が鳴らされました。


「いらっしゃいませ」

 侍女・使用人まで総出で玄関ホールでお出迎えです!


「こんにちは! 皆様でお出迎えいただけるなんて恐れ入りますわ」


 実に気さくにニコヤカな挨拶をされる、王女殿下。


 おっ……侍女のナターシャが胸を押さえて、今にも 「きゃあっ♡」 と叫びたそうな顔をしております。

 どうやら、心臓が一気に撃ち抜かれちゃったようですね!


 後ろでは、ヘルムフリート青年が従者よろしくパン屋の紙袋を抱えて静かに頭を下げています。

(もう従者ってことでよろしいでしょうか、ダイヤさん?)


 さて、そして。

 そんな王女殿下の本日の服装は。


「今日は、ものすごい普通ですのね」


 最近お気に入りの暁の女神(アウローラ)ではありませんよ!?

 水色の着心地の良さそうな膝下丈のワンピースに、長いライトグレーの靴下。

 靴は青く染めた柔らかな裏革のショートブーツです。

 ウィッグも被っておられず、本来の艶やかなストロベリーブロンドの髪を緩く編んでハーフアップにされています。


『いいとこ過ぎないいいとこの令嬢』 風……つまり、リジーちゃんに合わせてくれたようですね。

 さすがは上級悪女様。お気遣いも、完璧なのですっ!


「今日はお宅訪問だから」


 扇を使ってコッソリ私に耳打ちされます。


「それに、ご両親にお願い事もするでしょう?」


 そう、実は今日。

 来年1月予定の ″月刊ムーサ″ 刊行1周年&童話集発行記念パーティーにリジーちゃんが問題なく参加できるよう、王女殿下があることを両親に頼んで下さることになっているのです。


 ちなみに、王女殿下は童話集の大口購入先(スポンサー)という立場でパーティーの招待を受けているのですね。


「だからあまりヘンなスタイルは避けようと思って」


 おお?ヘンなスタイルご自覚あったのか!


「まぁお気遣いありがとうございます」


「大したことではないわ」


 深い湖の色の瞳を和らげて、ニコリとされる王女殿下です。

 あぁもう周囲の人が皆眼福すぎて幸せ。


「ランチの準備が整うまでにお庭をお見せしますわ!」


 私は嬉しくなって、王女殿下の袖を軽く引っ張りました。


「お約束通り、お庭でハーブを摘みましょう?」


「ええ」


 王女殿下はまたニッコリと頷いてくださったのでした。



 かくして、庭師のお陰で美しく整っていますがその殆どはハーブばかり、という見た目より5倍増しで実用的な我が家の庭に出るリジーちゃんと王女殿下。


 これまで淑やかに 『摘む』 などと表現して参りましたが、2人の手には武骨な花バサミがガッシリと握られております。

 現実の収穫作業は淑やかさより合理性重視。


「良い香ね」


 何度目かの賞賛を嬉しそうに口にしながら、王女殿下が花の終わったアニスヒソップの葉を摘まれています。

 甘さと爽やかさを併せ持つ香がお茶にぴったり。


「もっとスッキリさせたければミント、甘くしたければ乾燥させたカモミールをブレンドします」


 提案すると 「ではカモミールにしましょう」 とのお返事。


 張り切った割に摘むのがアニスヒソップ1種類というのも寂しいので、まだ薄紫の花が残っているローズマリーと細やかな黄緑の葉が可愛らしいタイムを切り取ります。


「少し地味ですけど、後で香りのブーケを作りませんか?」


 お誘いすれば、「うんしたいしたい!」 と湖の色の瞳がキラキラ輝きます。


 ヘルムフリート青年、と内心で呼び掛けるリジーちゃん。

 今、視姦もとい拝見し時でしたよ!?

 隅の方で遠慮深く待機している場合じゃ無かったですよ?


 こうして和やかにハーブを摘むうち、ナターシャが 「ランチの準備が整いましたよ」 と呼びに来てくれたのでした。

読んでいただきありがとうございます、(^^)

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― 新着の感想 ―
[一言] >ただの政治的引きこもりだったとは…… ここから頑張って宮廷闘争を (`・ω・´)シ
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