35.王女殿下は○○で○○趣味でも真に高貴なお方です?!その魅力に変態悪女もメロメロです!
さてかくして、ただいま王女殿下のお庭を突撃訪問中の、シドさん、そして私ことエリザベート・クローディス。
「はぅぅぅぅっ! 美しいわっ」
まんまアニメキャラのような歓声を上げております。
頭上には、淡く柔らかな青がかった紫色の雲。
甘さの中にも高貴さを含んだ香りが、はぁぅぅぅ……幸せ……
そこに出入りしては小さなお尻をフリフリするミツバチ君もキュートなこの光景は、なんとなんと。
転生後初の、藤棚でございます!
日本では珍しくなかったけれど、ここ亜寒帯のルーナ王国では無理なのだと勝手に思っていました。
はぁぁ……美しいっ
何度も言うけど、美しいのです!
王宮の庭師グッジョブ!
久々に見るだけに、懐かしさもひとしお。
ほぉぉぉう……なんなのこの天国。
ずっといたい。
「喜んでいただけて良かったわ」とにこやかな王女殿下。
「ここはわたくし専用のお庭なの。くつろいでちょうだいね?」
おっしゃってからラベンダー色のウィッグを脱ぎ、見事なストロベリーブロンドのお髪をふぁさぁっとひと振りされます。
すかさず整えて差し上げるのは、クラウゼヴィッツ侯爵家令息すなわちヘルムフリート青年。
(従者扱い?) ……てことで、いいですか?
器用にハーフアップを作ったヘルムフリート青年の指先が、名残惜しげにストロベリーブロンドをするっとなぞりつつ離れていきます。
萌えますね!
ごちそうさまです……っ。
「あらありがとう、ダイヤ」
「いいえ? リーゼロッテ様は私にとって最優先ですから」
いかにも当然、といった爽やかさを装いながら口説いてらっしゃいます。
美少年趣味が美青年趣味に変わるのが中年になる前であることを祈っておりますよ、ダイヤ青年。
そんなわけで、私とシドは、王女殿下+ヘルムフリート青年と、藤棚の下でピクニック中。
造り付けの大理石のテーブルの上には青い絹のマットが敷かれ、その上に紅茶のセットと ″王さまパン″ のパンが並んでおります。
サンドイッチ2人前とベーグル3種類、結局は全て王女殿下に買っていただいちゃいました。
(ごちそうさまです、リーゼロッテ様!)
ベーグルには王宮御用達のクリームチーズを挟み、とっても美味しそうに仕上がっております。
シドが「どうぞ」とベーグルを差し出してきました。
「かじって下さい。残りは俺が食べますから」
「そんなお行儀悪いこと、できません!」 こそこそと言えば、「でも全種類制覇したいんでしょう?」 とのお返事。鋭いですね……。
「2人とも今、見てませんから」
リーゼロッテ様とヘルムフリート青年は″月刊ムーサ″第6号(つい先程サイン入りになりました)を熱心に読んでおられます。
この度のお忍びは、どうやらこちら購入の目的もあったようですね。
じゃあお言葉に甘えて、と1口だけベーグルを囓ります。
「むむ……クリームチーズ最高!」
さすがは王宮御用達。
庶民用パンの雑味を打ち消して庶民用とは思えぬ味わいに仕上げるこの底力!
素晴らしいですねっ。
シドも続いてベーグルをかじります。
やっぱり美味しそうな表情ですね!
漆黒の瞳も若干蕩け気味。
2人しばらく無言でモグモグやっていると、不意にリーゼロッテ様が 「はぁぅぅぅぅ」 と、実に可愛らしく乙女な溜め息をつかれました。
王女殿下は長身で、出てるとこ出て引っ込むとこ引っ込んで、黙っていると冷たささえ感じさせる大人な美貌の持ち主。
なのに。それなのに……!
こんな風に、湖の色の瞳をキラキラさせて、乙女な溜め息だなんて。
ギャップ萌ハンパないですよね、ダイヤさん?
さり気なく前方確認すれば、ヘルムフリート青年の整っているはずの顔面が崩壊しかかっています。
どれだけヤニ下がってるんでしょうかね!
お気持ちは分かりますけどね?
さて、ダイヤ青年のご様子にはお気付きになられないまま。
「今回もポリー嬢は素晴らしいわっ! 覗き見する従者の憐れさがタマラナイぃぃ♡」 王女殿下は身悶えしつつ、感想を述べてくださいます。
ああっ……誉めて貰うために書いてるんじゃないけど! でも!
やっぱり、嬉しいぃぃぃっ!
次も頑張ろうっ♡
ありがたすぎて、小躍りしちゃいますよ、もうっ♡
そんなリジーちゃんの様子も気に留めず、続けるリーゼロッテ様。
「わたくしも今夜の下着はローズピンクのレースにしましょう」
ここで、ダイヤ青年の方をチラッと見れば……明らかに。
今、密かに想像しましたよね、鉄壁ノーブル様?
″月刊ムーサ″ 読んでるフリしててもダメですよ、ええ。
ここは、さり気なくダメ押しして差し上げましょうっ(にやり)
「では、ヘルムフリート様に覗いていただくんですの?」
なまめかピンクの王女殿下を誘惑に負けて覗き視姦する鉄壁崩れたノーブル美青年!
萌えますよねっ♡
しかし現実には。
「………………」
沈黙を保ち、雑誌を読むフリを続ける、当の青年ご本人。
リジーちゃんごとき小娘の攻撃ではやはり崩れないもよう、なのです。
ここは、リーゼロッテ様!
お願いしますよ!
ガツンとおっしゃって下さいませっ!
「ねぇ覗いて?」 などと可愛らしく頼めば、さしもの鉄壁ノーブル要塞も一瞬で崩壊!
間違いありませんともっ!
しかし、次の王女殿下のひと言に、凍り付いてしまったのは……
「そうねぇ、では今晩のお相手はダイヤにしようかしら」
凍りついてしまったのは、リジーちゃんの方でした。
えええ!
覗くとかじゃなく『お相手』ですか? まじですか!?
いや実は、王女殿下も満更じゃないのよね、とは思ってましたけど、まさか!?
ごめんなさい!
″令嬢ポリーの華麗なる遍歴″ の著者が、この程度で固まって、口をパクパクさせるとか……無いですよね!無い、とは思うんですけれど!
リジーちゃん、今世はもちろん、前世でも経験無いまま死んだからぁぁっ!
ああ……こんなことならあのク○兄貴に本番までお願いしとけば良かった……っ!
(イヤ待て。やっぱり嫌ですね地獄に5万回堕ちろク○兄貴)
と、存分に混乱したリジーちゃん。
あーんど、聞こえないフリをしてベーグルモグモグしているシドさん。
それにひきかえ、当のダイヤ青年は冷静そのものです。
「そのシーツは昨夜使いましたので洗濯中かと」
「そう? じゃあジェットで良いわ!ハンナに伝えておいて?」
リーゼロッテ様もあっさりと予定変更。
……て、シーツだったんですね!?
つまり。シーツに美少年ポートレートを描き込ませているわけですね!?
きっと等身大の全身像で、もしかしたら、イイところもイケナイところも丸出しなんですよね?
なるほど。
「さすがお姉さま! 痺れる変態ぶりですわ」
「パンツははかせてるわよ?」 リジーちゃんの考えを読み取ったかのように、注釈をつけてくださる王女殿下。
「妄想の中でうっかり踏み付けて、痛がられたくないもの!」
妄想の中でどんなプレイをされているのか、気になるところですねぇ……っ。
と、ここで急に。
「ところで、次のポリー嬢は少年が登場すると伺ったのですが」
ヘルムフリート青年が、話題を変えてこられました。
これ以上プレイについて聞かれたくなかったんでしょうね、きっと。
「そうよ!」リーゼロッテ様が、瞳をキラキラさせて喰いついてくださいます。
「このようなこと聞いたら失礼かもしれないけれど、どんな感じ?」
失礼ではありませんが、今聞かれたくないかも、ちょっと……。
でも、なるべく涼やかに答えましょうっ!
「構想は一応、できておりますわ」
「そう、嬉しいわ! でも執筆は? 無理なことお願いしたので書きにくいとか? 大丈夫かしら?」
さすが王女殿下。
ワガママを言いつつも気遣いするところが、レベル上の悪女っぽいのです!
そして、小首をかしげるその角度も完璧ですね!
「いえ?」 マネをして小首をかしげてみるリジーちゃん。
ワザとらしい? いいえ!
きっと、慣れれば大丈夫、なのです!
「今後ポリー嬢に集中するためにも、別の仕事を先に済ませておこうと思って」
「そうだったの!」
ぱぁっとお顔を輝かせるリーゼロッテ様、眩しいですっ。
「それはなに? また新しい月刊誌? それとも書き下ろしなのかしら?」
ちょっとハァハァ気味に言っていただけるのが光栄の極みですね!
でも残念ながら。
「童話ですわ。今度、″月刊ムーサ″の書き手から集めて刊行する予定だそうです」
「そう!」 予想に反し、王女殿下のお顔はますます輝きました。
「それなら予約をたくさん取っておきましょう!孤児院や病院に配るのにちょうどいいわ」
「…………!」
ちょっとびっくり、です。
王女殿下は、少年趣味とジュエリー愛だけではなかったのですね!
「いつ刊行するの?」
「予定はまだ……ぼちぼち、と伺っております」
だって、未だ書けてないしね。
ていうか書ける気がしないもんね。
ご都合主義のやり直しストーリーでありきたりな幸せ結末。
仕事としてはできるけど……こんなこというのは、おこがましいってわかってるけど。
ちっとも、萌えないんだもんっ!
はぁぁぁぁあ。
ついつい暗い溜め息が出ちゃいますよ、もうっ
王女殿下の前なのにっ!
せっかくの高貴な美貌を曇らせちゃうなんて、もうっ!
「悩んでいるのね」 リーゼロッテ様はがっしと私の手を握りしめました。
「力になりたいわ。話してみて?」
「お姉さま!」
ううううっ、感動です!
なんて真っ直ぐに己の心を語れる方なんでしょうかっ!
……リジーちゃんならまず、自分が本当に力になれるかどうか、考えてしまいそう。
もし力になれなかった場合を考慮して 「何もできないかもしれないけれど」 なんて逃げ道を作ったり、しちゃいそう。
だって困っている人に何もしてあげられないなんて、恥ずかしくて辛いから。
でも、もしかしたら人を励ますのは 「なにかできること」 じゃなくて 「力になりたい」 というその気持ちだったのかもしれませんね!
そういう気持ちで、精一杯、頑張ってみることだったのかもしれませんっ!
そんなことを思いつつ。
「実は……」
王女殿下に悩みを打ち明けた、リジーちゃんなのでした。
読んでいただきありがとうございます(^^)




