34.王女殿下の魅力に美青年下僕もとい友達もメロメロ!?2人で何か企んだもようです!
さて、ジグムントさんから頼まれた童話の行く末に悩みつつも、″ヴェルベナエ・ドゥルシス″ のチョコレートを堪能した私ことエリザベート、そしてお友達兼従者のシドさん。
お次は約束していたサンドイッチ……って。
シド、まだお腹いっぱいじゃないのかな。
何しろチョコレート12コ、きっちり半分コでしたからね! しかしシドさん、全然平気そうです。
「からいものは別腹です!」
なるほど。
ではお隣のカフェへ、と思ったら。
「パン屋の方が美味いです!」
シドさん、急な主張ですね!
そして、いきなり身をかがめて足もとすくってこられましたね!
すなわち、姫抱っこ強制回収スタイルの完成。
ちょっと待て、リジーちゃん何かした!?
……ああそうか、無理やりチョコ沼に誘おうとしましたっけ……ん?
あれ無理やり? あの程度で、無理やり?
いや『あの程度』とか言っちゃ、ダメ……?
わかりませんっ!
今世でも前世でも、普通の友達付き合いしてないしっ!
いや前世風・ホドホド当たり障りの無い、友達っぽい付き合い方ならわかるけど……
シド相手に、そんなこと?
しませんって。
「馬車道危ないですから」
シドが解説してくれました。
なるほど。
パン屋は馬車道渡って向かいですからね! ……って、いや。
ちょっと待ってください?
「わたくし自分で歩けます」
商店街は、馬車道でも歩行者ファースト。
ホラそこにも看板あるでしょ?
『馬車はスピードを落として!』
『急に道を渡る歩行者に注意!』
シドさんも看板をチラッと見ます。
が、降ろしてくれる気配はありません。
「それは分かっていますが 『あの男何やってるんだ』 って人の目がイヤなんで、協力して下さい」
確かにね。
基本は身分高そうな女性が1人で馬車道渡ったりしないのが、ルーナ王国ですからね。
でもリジーちゃんは、末端の方ですよ?
そして今日のワンピースは、普通にプレタポルテですよ?
絶対に貴族には見えない自信があるんですけど!
しかも。
「シドが?人目を気にするの?」
チラッと上目遣いに見上げてやると、黒い瞳が優しく微笑みました。
「そんな時もありますよ」
嘘だな。
「帰りは自分で渡りますから!」
「そもそも帰りは渡らなくてもいいでしょうが」
がーんっ……そうだった!
渡らなくても、家に帰れるんですよね……!
渡りたかったのにぃぃぃぃっ!
渡るときのスリル!
渡りきった後の充足感っ!
それらが、ああ……
抱っこされてるうちに、逃げていくぅぅぅっ!
と、そうこう言っている間にも、馬車道を渡りきってしまいました……残念。
けれどこれでやっと、姫抱っこ強制回収スタイルも解除です。
ふぅぅぅ、やれやれ。
さて、商店街で人気のパン屋は、道を渡ってしまえばすぐそこ。
なんと一角まるまる、工場まで備えたお店なのですよ。
″王さまパン″ という安直な店名もダテではありません。
なにしろ本当に王家御用達。王族用から奴隷用まで、王宮のパンは全て ″王さまパン″ で賄っているのです。
奴隷用でさえ実は庶民用より美味しいとの噂まで……真相は分かりませんけどね!
(奴隷用は固め雑穀パン、フカフカの白パンしか食べない王族より奴隷の方が長生きするかもね、と密かに思っているのは内緒です)
″王さまパン″ の店内に入ると、芳ばしいパンの香が一気に濃くなります。
「サンドイッチ2人分お願いします」
シドが店員さんに頼みました。
2人分って、シドさん……別腹デカいなぁ。
サンドイッチは注文してから作るスタイル。
てことで、出来るのを待っている間は、店内をゆっくり見てみましょう。
壁際に設えられた棚には麦わらを編んだカゴが並べられています。
プレッツェルやライ麦パン、バケット、食パン、ラスク、揚げパンなどなかなか多国籍で、種類も豊富。
王族・貴族はじめ金持ちには主に配達なので、店にあるのは庶民用。
ふすま入りのパンです。
(こうして見ると身分別早死にランキング第1位はやっぱり貴族かもっ)
もちろん、精白された小麦粉で作られたより不健康そうなパンもありますよ?
隅の方に置かれた食パン(その名も ″王さまパン″)とクグロフがそれ。
たまにはリッチな気分を味わいたい人用でしょう。
と、こうして順々にパンを見ているうちに。
ふと、何だか見覚えのある人影が。
んん?
もう1度視線を戻して……
「あぁっ!」思わず声が上がっちゃいますねぇっ。
リジーちゃんの目の前にいらしたのは、特徴的なラベンダー色の髪に露出の大きい南国風衣装。
「お姉さま!」
庶民用ベーグルの前でめちゃ真剣なお顔で悩んでおられたのは、なんとっ!
リーゼロッテ王女殿下その人だったのです!
「あら、リジーちゃん!」 振り返り、ぱっと見せて下さる笑顔はまさに初夏の太陽のよう。
「お久しぶり!会いたかったわ!」
「社交辞令でも嬉しゅうございますわお姉さま」
手を取りいかにも親しげにピョンピョン跳ねて下さってますが、実は一昨日が初対面……いやいや、6年ぶり2回目の対面ですからね。
しかし 「本当に会いたかったのよ?」 とおっしゃる王女殿下。
そ、そんなのでリジーちゃんの心を捕らえようったって、そうは……っ!
……フルフルと首を横に振る仕草だと、イケイケなスタイルもなぜだか可愛らしい……っ!
ダイヤ青年のために、動画を残して上げたいレベルですぅっ!
ううう……王女殿下、悪女力すごすぎ。
「だってね、今プレーンかラズベリーかレーズンかで20分も悩んでいたのよ? ベーグルだけでなくて、クイニーアマンも食べたいし! 貴女はまさにあたしの救い主ね!」
リーゼロッテ様のお言葉に、ずざざざっ、と内心でだけ音を立てて後ずさるリジーちゃん。
まさか、でなくてもシェアを持ちかけられていますよね、この状況。
「お姉さまごめんなさい、わたくし今チョコレートをいただいてきたばかりなの」
「いくつ?」
「12種類です」
「まだまだ余裕ではないの!それともあなたの胃袋は小鳥並み?」
「俺の主はダイエット中なんですよ、お嬢様。それにこれからサンドイッチを食べる予定で」
シドが助け船を出してくれました。けど、サンドイッチ食べる予定?
聞いてませんよ?
……もしや2人分て。
思わず、じとっ、と送ってしまった目線をシドは涼しい顔で受け流します。
「お昼がチョコレートだけとか、不健康ですからね?」
「そうよ、不健康よ! ベーグルもお食べ!」
助け船に乗り込むのは、リジーちゃんじゃなく王女殿下の方。
ううう。2人、6年ぶりの対面のくせに……結託するとかありなんでしょうかっ!?
とりあえず、頬をぷくっと膨らませて対抗ですっ
「チョコレートは完全食だもん!」
「あれ? 先程は『罪深い』と仰ってましたよね? それで俺に食べ止しを悉く下さったんですよね?」
「ちょっと!」 人の前でそれ言う!?
恥ずかしいですよ、もうっ……!
「だってシドが、それでOKって言ったんでしょ!」
別にリジーちゃん 『これ下僕、妾は太りたくないが全種類制覇もしたい故、残り物を食せ』 なんて言ってませんからね!
ホラ、シドが変なこと言うから……!
王女殿下が、何とも言えないお顔でこっちを見ておられますよ。
誤解されないように、ちゃんと言っておかなければ!
「お姉様、わたくしシドを下僕扱いしたわけではございませんのよ」
けれども、あああ……弁解無効な、この感じ!
無言のまま、なんか企んでる笑み返されてしまっております……っ!
そして。
「…………」
何やらゴニョゴニョとシドに耳打ちする、リーゼロッテ様。
「…………」
ちょっと赤くなって、何やらゴニョゴニョと耳打ち仕返しす、シドさん。
デジャヴですね……!
6年前にも、こんな光景見ましたね……!
しかし、6年前の密談と違うのは。
さらにリーゼロッテ様がシドにゴニョゴニョして、シドが大きく頷いたこと、ですっ!
……2人で何の密談が成立したのでしょうか?
じっとりとした上にも湿り気を加えた目線を送ってしまうリジーちゃんに。
「お嬢様、サンドウィッチできたら行きましょう!」 シドは、キレイなお顔に満面の笑みを浮かべて手を差し出してきたのでした。
「今、王女殿下から招待受けましたよ!」




