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伯爵令嬢に転生して極悪最凶の変態を目指しましたが、結局は普通のお色気作家になりました。  作者: 砂礫零


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33/201

33.チョコレートは芸術です、仕事抜きでいただきましょう!でも悪女にも仕事の悩みはあるのです!

 さてそんなこんなで、初夏の花々が咲き誇る6月(ユーニウス)のある日。

 童話の原稿をジグムントさんに見て貰った後、ショコラティエ ″ヴェルベナエ・ドゥルシス″ で休憩中の私ことエリザベート。

 あーんど、困り顔フェチのシドさん、でございます。


 花の香を含んだ風が吹き込み、爽やかで心地良い空色のテントの下。

 私には若干高めになってしまうスタンドテーブルの上には、夏の新作フレーバー2種に加え、色も形も様々な10種、計12種のチョコレートがずらずらっと並んでいます。


「どうぞお好きなものを」


 と、コーヒーを飲みながらシド。


「別に残しても良いんですよ? 包み直してもらって奥様と旦那様にお土産にすれば良いんだし」


 そんなことして芋づる式に大衆向け文芸誌 ″月刊ムーサ″ にお色気小説書いてることがバレたら、どうするんですか!

 絶対ワザとだよねこれ。

 リジーちゃんを困らせるためにワザと4、5日分の給料注ぎ込んだんですね? バカですね!


 そう気付いても、悪女の韜晦(とうかい)術を発動させキラキラお目々でニッコリしてみましょう。

 シドにはこれが1番効くはず!


「シド……半分コしましょ?」


「俺、甘い物苦手なのでけっこうです」


 うわっ秒速で断られちゃいましたよ。キラキラお目々も本日2回目の発動となれば攻撃力が劣るのかもしれません。


 シドが基本、甘い物苦手なのは知ってます。

 知ってますけど、そもそもがチョコレートを食わず嫌いするのが許せんっ!

 かくなる上は絶対に今日中にはチョコを食わせ、その魅力の虜にして差し上げましょう!


 でもまずは、夏の新作フレーバー・レモンミントを楽しんでからですね。

 リーフの形のボンボンショコラを1口かじります。


 …………おおっ!

 …………これは!


 とろーん…………。

 リジーちゃんは、脳ミソが溶ける瞬間を味わいました。

 つまり、そういうことなのです!


 鼻腔を通り抜けるチョコミントに、レモングラスがバランス良くミックスされた、爽やかな薫り。

 コーティングのふわっと甘いホワイトチョコの中はレモンピール入りのガナッシュで、キュン甘とほろ苦の同時攻めですね。

 種類の違う甘みのハーモニーの中にほろっと紛れ込む苦みはまさに食べる芸術。


 もう惚れちゃう! 絶対、惚れちゃう!

 このガナッシュの中のレモンピールになってしまいたい勢いで、惚れちゃう!


「シド、これ美味しい!」


 チョコレートを皿に置き、できるだけ噛み後が残らないようにピックで削ります。

 ピックを紙で拭いて(本音は舐めたかったほどです!)半分になったブツに突き刺し、背伸びしてシドの口元へ。


 こんな美味しいものを1人で食べるのは、もったいないですからね!


「食べ()しで申し訳ないんだけど、一応削ったから食べてみて!」


 チョコレートで唇ツンツンしてやると、仕方なさそうにパクリと1口。

 なぜか口元を手で抑えつつモグモグしてます。

 ショコラパワーで急にオネエっぽい仕草に目覚めたんでしょうかね。


「どう? これなら甘い物苦手でも大丈夫でしょ?」


 買わせておいてニコニコ自慢、良いんです悪女だから。

 ともかくも、これでもうシドもチョコレートの虜ですよ!?

 絶対に、そうですよね!

 と、思ったら。


「甘い……」


 シド、ゴクンと飲み込んでひと言。

 えぇぇぇぇっ!?

 ガッカリですねぇっ!


 ″ヴェルベナエ・ドゥルシス″ 夏の新作フレーバーで、その美味しさが分からないなんて!

 味覚壊れてるんじゃないでしょうかっ……?

 悲しくなってきちゃいますよ、もうっ!


「やっぱり……ダメ?」


「いえ、甘いけど、割といけますね」


 コーヒーを1口含んでシド。

 甘みが消える最後まで味わわずコーヒーで流し込むなど、邪道!

 ……ま、でも。

 この際それはスルーです!


「じゃあ、半分食べてくれる?」


「いいですよ」


 やったぁ! これで親バレ回避。

 そしてそれより嬉しいのは、魅惑のチョコレート界へのシドさん引き込みに、どうやら成功しそうなことですね!


「微妙に味が違うから、今みたいに半分ずつ切れば全種類いけますね」


 しかもシドさん、意外にもやる気満々です。偉いぞ!

 さぁチョコ沼に首までドブンとハマるが良いのです!


「そうね」 とうなずくと、シドはもう1つの夏のフレーバー・レモンカモミールをピックで切りはじめました。


 が。

 ナイフがないと難しいんですよね、これ。

 ああっ……! このままではっ!

 せっかくの美しいコーティングが、ボロボロにひび割れてしまいます……っ!


 ハラハラ。ドキドキ。


 しばらくしてシドさん、どうやら諦めたもよう。

 花を象った白いボンボンをピックで刺し 「どうぞ」 とぶっきら棒に私の唇をツンツンしてきます。


「シドは?」


「先にかじって下さい。俺は後でいいです」


「うっ……」


 確かにさっきも食べ止しだったけどさぁ!

 基本はそんなものを人に上げるなんてどう考えても悪女失格ですよ?

 人心を蕩かし利用するためにはマナーは大事ですからね!


「そんなお行儀悪いことこれ以上できません!」


「大丈夫ですよ。今なら俺しかいませんから」


 気軽に請け合うシドさん。

 そういう問題じゃ……ん?

 そういう問題か。


 だって、そういえば、シドさん利用は別に契約済みでしたものね!

 今さら(タラ)かしも何もあったもんではないのです。


 でもねぇ……うっかり口車に乗ってかじったら。

「はい今のでオプション入りました」 とかいうことになりまんかね?


 そして 「追加料金分でもう少しイジメさせてくださいね?」 とニッコリわざとらしい笑みを……うん。

 ありそうだよね。

 この人時々黒いからね。


 よし、言質はとっておこう。


「嫌じゃないの?」


 確認すれば、おや。

 シドの笑みが……!

 すでに、黒く染まってるぅぅぅ!


「あれ? また困らせてほしいんですか?」


「イイエ、ケッコウデス。デハ、オサキニイタダカセテイタダキマス」


 今度からチョコレートは原稿料で買うことにしよう。

 そう思いつつ、爽やかなレモンの中に甘く香るカモミールのフレーバーチョコを半分かじるリジーちゃん。


 シドはその残りをパクリとくわえ、やっぱり口元を手で抑えてモグモグしたのでした。



 さて、こうして。

 チョコレートを半分コしつついただき、個々の奏でる芸術的なハーモニーに脳も心も痺れさせつつも、気になるのは。

 ジグムントさんからの宿題、すなわち童話の追加部分についてです。


 全体をボツにされなかったことはものすごく有難いですよ。

 子供たちに心温まるストーリーを読ませたいジグムントさんの意図もよく分かるのですよ。


 けれど。

 やり直しストーリー、ねぇ……?

 いえまぁ、それ自体は有り得ると思うのですよ!

 私だってルーナ王国に転生してるし。

 貴族でそこそこ金持ちでそこそこ美少女でしかも両親神レベルで優しいってどれだけ都合良い設定やねん、と、お釈迦様にツッコミ入れたいくらいですし、ね!


「童話のことで悩んでおられます?」


 シドが冷めかけたコーヒーを飲みつつ聞いてきます。

 鋭いですね!

 さすがシドさん。


「アルデローサ様は昔からハッピーエンドお嫌いですからね」


「嫌い、というか納得いかないのよね」


 ついブチブチと不満が出てしまいます。


「世の中には過ちと不幸が無数にあるのに、大多数がそうだと定義するたった1種類のお行儀良い幸福を 『いかにもそれが正義です』 みたいなノリで書くなんて、ツマらなくないのかしら」


 だってどこにあっても輝かしい幸福や正義と違って、不幸や過ちは妄想(おはなし)の中にしか生存権がないのですから!

 そして妄想(おはなし)の中でこそ、それらは万華鏡のようにクルクルとその姿を変えて時におぞましく時に美しく、観る者の胸を打つのでございます。


 妄想(おはなし)を書くなら、私はそっちの方が良い。

 そして、間違いだらけだった前世を断罪するのではなく、肯定してやりたい。


 前世は、もがいてももがいても、冷たい泥の中に沈んでいくしか無かったような人生でした。

 そして、ストーカー男に殺されるような末路を辿りました。

 でも!

 何らかの価値はあった、全く無駄では無かったのだと、そう思いたいのです……っ!


「今回は相手は子供ですからね?」


 シドさん。

 そうやって釘ささなくても、分かってますよ。

 ぷう、と頬を膨らませてみる、リジーちゃんです。


「書ける気がしない」


「できますよ」


「随分と気軽におっしゃいますこと」


「あれだけ優しいご両親に慈しまれて育てられたのに?」


 そうだよねぇ、と溜め息です。

 もし前世を引きずってたりしなければ、リジーちゃんめっちゃ幸せなハピエン好きに育ってるかもね。


 シドさんのコーヒーを1口もらって飲んでみます。苦いなぁ。


 顔をしかめるリジーちゃんに、シドは優しい目を向けて、もう1度言いました。


「アルデローサ様なら、できますよ」


 なにを、気軽に。ねぇ?

読んでいただきありがとうございます(^^)

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