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30.悪女の反省はなかなか分かってもらえない?!美青年下僕もといただのお友達に必死こいて解説中です!

 シドの嫌がらせプレイ炸裂から一夜明け、これまでの行いをそれなりに反省した私ことエリザベート16歳。

 ついては下僕からの自立を果たし、シドの立場を『お友達兼下僕』から『ただのお友達』に変更する所存です。


 が。初っ端からつまずいてしまいました!

 なんとシドさんったら、豹変したリジーちゃんの言動を『解雇通知』と受け取ったようなのです!

 一応、勘違いだとは分かってもらえたものの、これ以上どう説明したものか……


「あなたのこと下僕と思っていたけど、これからはただのお友達にするわ!」


 では下僕扱いしていたことがバレてしまいますし。

 それに、言いたいのは、そんなことじゃないのですよ!

 うーん……そうですねぇ。

 あ、そうだ! あれがありました!


「それはそうとシド、この前頼まれた童話の原案、見てくれる?」


 この前、というのは拙著 "ポリー嬢の優雅なる遍歴" 第7回 "なまめかピンクのポリー嬢" の原稿を活版印刷所・バルシュミーデ兄弟社に届けに行った時のことです。

 副所長兼 "月刊ムーサ" 編集長のジグムントさんは相変わらず似合わない銀縁メガネを中指でクイッと押し上げながら、こう仰ったのでした。


「子供向けの読み物がもっとあれば、識字率も上がるかもしれないでしょう?」


 そしたらもっと活版印刷所が儲かりますね!


「それで "月刊ムーサ" の作家の皆様で童話集を作れたらなぁ、と思っていまして」


 こうしてジグムントさんから、「いつでも良いけどエロはナシで」 的なノリで童話の執筆を依頼されたリジーちゃん。

 ヒマヒマにとりあえず原案を作ってみていたのです。


 題して "マリエッタと迷子の燕のお話" ―――偶然ですが、今、シドにリジーちゃんの考えを説明するにはもってこい、ですねぇっ!


 というわけで、シドさんと室内に移動。

 ソファに並んで座って、原稿スタンバイOKです!


 では、読んでいただきましょう。



『マリエッタは1人ぼっちの子供でした。お父様もお母様もおらず、大きいけれどボロボロの建物の片隅に暮らしていました。


 でもマリエッタは、全くの1人ぼっちではありません。

 ひんやりとして静かな朝は、お母様の残した手鏡を覗きます。ひび割れた鏡の向こうに住むもう1人の子とお話するために。

 森でフクロウが鳴く夜には、お月様に今日の出来事を報告します。それでもやはり、寂しくなる時はあるのでした。


 そんなある日のことです。それは夏バラやスズランやユリの花がいっせいに咲いて、空気が柔らかく香る6月(ユーニウス)の初めでした。

 マリエッタは家のそばで、1羽のツバメの子を拾いました。翼が折れて飛べなくなって、もがいていたのです。


 マリエッタは、一生懸命にツバメの世話をしました。

 服を破いて包帯を作り、折れた翼に巻きました。

 毎日、花壇の黒い土の中から、ミミズを探してきて食べさせました。寂しい子供とツバメは仲良くなり、毎日たくさんおしゃべりしました。


 マリエッタは幸せでした。朝はツバメと一緒に遊びました。夜はツバメのそばで眠りました。いつの間にか、手鏡のこともお月様のことも忘れました。


 でもある時、ツバメが言いました。


「今日でもうお別れです。もうすぐ冬がくるので、私は南の国へ行かなければなりません」


「いやよ」マリエッタは言いました。


「あなたがいなければ私は1人ぼっちになってしまうわ。寒くなっても大丈夫。私の服を着せてあげる。食べ物だって毎日とってきてあげる」


「でも私は寒いのです」


「ダメよ、あなたは私と一緒にいるの」


 マリエッタは部屋の窓をすっかり閉めて、ツバメが外に出られないようにしました。そして前よりいっそう、ツバメを大切にしました。


 寒さに震えながら、服を何枚も重ねてツバメを包み込みました。

 ツバメの食事が見つかるまで、何時間でも冷たい土を掘り返しました。


 でも、ツバメはもう前のようには、マリエッタと遊んだりおしゃべりをしたりしてくれません。


「どうして?前はもっと優しかったのに!」


 マリエッタがつい責めてしまう時、ツバメは痛む喉をあけて苦しそうに小さく歌うのでした。


 そして、別れがやってきました。それは、その冬初めての雪が降った11月(ディアナベル)のある朝のこと。

 重ねられた服の中でツバメの小さなからだはすっかり凍えて固くなり、もう2度と、飛ぶことはもちろん、歌うこともしゃべることもできなくなってしまったのです。


 マリエッタは亡くなったツバメを抱きしめて泣きました。それからこう言いました。


「私はあなたのためにあんなに頑張ったのに、勝手に死んでしまうなんて悪い子ね!」


<おしまい>』



 読み終えたシドさん、ボソボソと感想を述べて下さいます。


「……なんだか非常に寒々しくて、子供には読ませたくない感じの話ですね」


「もちろん!このお話のテーマは『愛は往々にして間違う』ですもの」


 胸を張るリジーちゃん。子供に現実のシビアさを教えるのも悪女の役目ですからね!


「ボツになると思いますけど」


 シドの判断ももっともですが、ボツになろうが何だろうが、いったん生まれた妄想(おはなし)は形にしてしまわないと前へは進めないのですよ。


 それはさておき。

 リジーちゃんが、今シドに言いたいのはこのお話の裏テーマの方、なのです。


「ツバメはどうして死んだと思う?」


「寒かったからでしょう」


「憎んで、絶望したからよ。そういうテーマもあるのわかる?」


「……分かるような分からないような」


 シドは考え込んでいます。

 うーん困りましたね!

 自分の作品を解説するのってこれまた結構な羞恥プレイなのですが。

 でも、これもシドのため!

 思い切って、もう少し詳しく説明して差し上げましょうっ


「ツバメはマリエちゃんを憎んでしまったからおしゃべりできなくなったの。絶望してしまったから、もう2度と南へ行けなかったの。そして凍えて死んだのよ」


 口に出すとツバメもマリエちゃんも可哀想で涙目ですよもう!

 いやもう半泣きですっ

 本気で泣いちゃう前に、結論を言ってしまわねば!


「だからね、シドがそうなったら大変だと思ったの。だからね、シドが嫌がることをお願いするのはやめようと思ったの」


 憎しみと絶望で閉ざされた心のままでは、生きていても死んでいるようなものなのです。

 というより、もう死んだ方が10倍マシですよ!

 リジーちゃんはそう思いますっ


 さて。

 顔あげられないレベルの小っ恥ずかしさを押して、頑張って説明したのですが。

 シドさん、分かってくれたかな?


 上目遣いで確認……ん?


 なんなんでしょうね?

 こっちを視姦、もといガン見してる漆黒のお目め。

 なんでこんな、よくわからない表情を……泣きそうなの?

 リジーちゃん、間違ったこと言ったかな?


「シド?」


 不安になって呼びかけると、いきなり2本の腕が伸びてきました。

 そのままリジーちゃんの肩をぎゅうっとするシドさん。これまた珍しいアクションですね!

 9年ぶりくらいでしょうか。


 そういえばいつの間にやら、そしてリジーちゃんが変態に目覚めてからはますます、抱っこといえば姫抱っこ強制回収スタイルばかりだったからなぁ……

 迷惑かけ続けですね、うん。

 そろそろイヤになられても仕方ないのかも。


 シドの声が耳元で囁きます。


「俺は昔、小さな可愛い女の子に助けてもらって以来、憎しみも絶望も棄てたんですよ」


 ええ? 昨夜あれだけ意地悪しといて!?

 それナイナイ! ないでしょう!

 というかさり気なく甘台詞を混ぜ込むあたり、また羞恥プレイ狙ってるとしか思えませんよ!?


 けど、そこ突くとヤブヘビな予感がめっちゃする……こういう時は、敢えてスルーですよね!


 本題いきましょうっ


「だってずっとイヤだったでしょ? なのに無理やり楽しい変態世界に引きずり込もうとしたりして……覗きレポとか……」 声が自然と小さくなっちゃいます。

 ついうっかり『楽しい変態』強調してしまいましたが、反省はしてるんですよ! 本当です!


「もう昨日の視姦レポでプッツンきたんじゃないの?」


「ああそう思われたんですね」


 確かに別の意味でプッツンきそうでしたが、と若干遠い目をしている気配のシドさん。

 別の意味がなんかよく分からないものの、つまりは。


「イヤじゃないの?」


「イヤだって言ったらほかの(ヤツ)に頼もうとするんでしょう?」


「まぁそうね」


 次はハンスさんかなぁエデルベンノさんは忙しそうだし。


(ウチの使用人の中に喜んで協力してくれる人がいたら良いんだけど!)


 瞬間的に頭を巡らせる私の背中に、シドの盛大な溜め息が触れました。


「そっちの方がイヤですから」


「そんな後ろ向きな姿勢じゃなく、できれば前向きに楽しんでほしいわ!」


「……努力します」


 シドのボソボソとした返事に、はっと我に返ります。

 しまったついいつものノリで!

 ああもうリジーちゃんったら、もうっ!


「ごめんなさい。別に前向きじゃなくても、楽しまなくてもいいから」


 反省した矢先からこれだから。ションボリしちゃいますよ、もうっ……


「ほら、そんなにションボリしてると薄幸な善女の顔になっちゃいますよ」


 シドが抱擁を解いて、私の頬を両側からむにゅー、と引っ張りました。


「ほうやっへあわやはすから、わはふひがずにねるねよ? (そうやって甘やかすからわたくしが図に乗るのよ)」


「わかりました、では取引ではいかがですか」


 意外なことを言い出すシドさん。

 でもさすが、ツボは心得ていますね!

 そう、悪女が最も信用するのは損得勘定なんですよ、間違いないっ


「どんな?」


「実は俺……」


 誰もいないのに、シドごにょごにょと耳打ちです。


 そして、囁くように言われたその内容に、しばし言葉を失った、リジーちゃんなのでした。

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