3.転生2年後の私は、悪女の本領を発揮しつつあります。断じてイヤイヤ期ではないのです!
早速ブクマいただきありがとうございます(^^)
さて、突然ですが、乳児期は当然ながら、周囲の世話になりっぱなしの時期。
なのにやたらデレデレとほめていただける……そんなチートっぷりに奢ることもなく、割かし普通に2歳になった、私ことエリザベート。
しかし、もちろん!
前世のおかげで、普通の2歳よりは、賢いのでございますっ。
だって、離乳もオムツ外れもトイレトレーニングもばっちりですからね。
トイレには、時間は決めて行っておけば失敗しないのですよ、えっへん!
……と思ってたら、あれ?
なんだか急にもよおしてきましたよ。おかしいなぁ?
……あぁっ! そうでしたっ!
お昼に侍女の作ってくれたジュースが美味しすぎて、お代わりしたの忘れてましたよっ……やぁだぁ!
間に合わないっ!
淑女のたしなみは彼方へうっちゃって、ダッシュ! なのです!
「リジーちゃん?! お花を摘みに行くの?」
侍女のナターシャが、さっそうと駆け寄り、トイレに一緒に向かってくれます。
ちなみに。
お花を摘みに行く、はその昔、野外排泄が当たり前だった頃の名残の言葉。
ここルーナ王国では、こう言うのが上品だとされているのです。
「そんなことしてたら漏れるわ!」 と、つっこみたくなっちゃいますけどねっ
ナイスタイミングで扉を開けてもらってトイレに駆け込み、ドロワーズを……ううう。
なんということでしょうかっ……
つまり、すなわち、白状すれば。
間に合いませんでしたぁっ……!
この緩いお股が憎いっ!
でも泣きませんよっ!
悪女が泣くのはオトコの前オンリー。
無駄な涙は流しませんともっ!
立ち尽くす私に、ナターシャがお湯で絞った布と着替えを持ってきてくれます。
ニッコリと人心を蕩かす表情を作ってお礼です。
「ありがと、ナァチャ」
ここで、ちゃんと 「ありがとう」 と言わないのは可愛く見せるための策略ですねっ。
しかし、『ナターシャ』が『ナァチャ』になってしまうのは回らぬ舌のため……うぅ、情けないっ
人の名前はできるだけちゃんと呼びたいのに……!
そう、人を意のままにするには礼儀が大切。そういうことなのですっ
「リジがちゅるわ」
ナターシャから新しいドロワーズをもらおうと、両手を伸ばします。
何しろ、いつ革命が起こるか分からない世の中。
自分のことはなるべく自分で!
これ鉄則ですよね。
……それに、他人におしり拭かれるとか。
そろそろ恥ずかしいのですよ。
なのに、それなのに。
ナターシャときたらっ!
サササッと実に手際よく濡れた部分を拭いてくれちゃいましたよ! いやぁんっ!
ついで、あっという間に抱きかかえられ、ドロワーズまで無理やりはかされる始末。
「じんでちゅるっていったでちょ!」
「あら申し訳ございませんリジー様」
私の機嫌が悪くなる気配を感じ取りにこやかに謝ってくれますが……
はい。どうみても、マニュアル対応。
本心からの謝罪が感じられませんねっ!
これはガツンと言ってやらねば。
「リジ、じんでちゅるのに!ナァチャがぁ!」
言っているうちに、涙が出てきました。なにしろ2歳児。
感情コントロールがまだまだヘタなのです……!
あぁ悪女が泣くのはオトコの前だけなのに……うぇぇんっ(泣)
涙が止まりませんよ、あぁぁんっ!(泣)
このまま敗北、してしまうのでしょうかっ……!
と。
「どうしたんだい、リジー?」
父26歳、ご登場でございます。
父とはいえ、プラチナブロンドとスミレ色の瞳がチャーミングなノンケの美青年ですね。
この際ですから、もうこの人でもいいや。
一時的に男性にカウントしちゃいましょうっ!
「ご機嫌ナナメだね、お姫様?」
「おとぉたま!」
駆けよってその長い脚にヒシと取りつきます。
「うわぁぁぁぁん!」 思いっきり泣いちゃいますからねっ、もう!
「ナァチャがぁ!ちゃったの!リジ、じんでちゅるのに!」
「そうか、リジーは自分でできるもんね」
大きな手が頭をナデナデしてくれます。
「でもね、ナターシャだってリジーが風邪をひかないように、気を遣ってくれたんだよ?」
2歳児でもバカにせず目を合わせて真剣に話してくれる父。
イケメン度が3割増しですね!
こんなお方の心を煩わしてるなんて……リジーちゃんたら、なんて、悪女なのでしょうっ!
そうなのです!
今世の私はひと味もふた味も違うのですよっ!
「でもいや!」 うぁぁぁぁん!
「お父様も、リジーが風邪をひくのはいやだな」
「けどいやでちゅ!」 うわぁぁぁぁぁん!
「じゃあリジーは風邪をひきたいのかな?」
「いやでちゅ!」 うぁぁぁぁぁん!!
「そうだろう。だから、ナターシャは正しいことをしたんだよ。分かったね」
「…………?!」
ううっ?!
涙で騙すつもりが、いつの間にか騙されちゃってます……どうしてこうなったのかしら。
2歳児の脳ミソでは、さっぱりですね。
けれどもしかし。
ただ1つ、分かっていることといえばっ……
こんな時には、伝家の宝刀っ! 間違いないのです!
「おとぉたま、いやいやいやいやいやぁ!」
イヤさえ言っとけば、やがては思い通りになるのです!
そして、口ではイヤと言いつつも、なおヒシと抱きつくのが悪女的ポイント。
ほら、ご覧なさいませ。
父、思考停止状態ですねっ。
イヤと言われたショックで固まりつつも、尚も脚に縋りつくオンナの温もりに、どうすれば良いか分からない……そんなところでしょうか。
ふっっ。ザマヲミナサイマセ!
ニヤリとほくそ笑んだ時。
「あらあら、どうしたの?」
優しい声と笑顔で現れたのは、母22歳。
白い卵形の顔は柔らかそうな金の髪で縁取られ、くっきりとしたアメジストの瞳と通った鼻筋、口角の上がった珊瑚色の唇……と、まるで天使のような容貌です。
くぅっっ、眼福。
「あらリジーちゃんたら、お母様見ただけで泣き止まれましたね」
「やはりお母様にはかなわないね」
なんて、母をヨイショするナターシャと父。
「おかぁたまぁ、だっこ」
「どうぞ」
母が椅子に腰掛けて腕をひろげると、ナターシャが私を抱き上げてその膝の上に下ろします。
2歳ってけっこう重いですからね!母はもう私を抱き上げたりはできないのです。
さすが貴族女性ですねぇ。
でもお膝抱っこもまた良し、ですよ! 安定感と安心感があります。
向かい合わせで抱っこが母子標準スタイルなので、慈しみに溢れた天使様のスマイルも間近で堪能……ぅうヨダレ出そう。
え? 黒い心はどうした、ですって?
もちろん、保持しておりますともっ!
2年間も晒されていると、慈母スマイルにも耐性がつくものですね。しみじみ。
「リジーちゃんはお母様にはイヤイヤ仰らないんですねぇ」 にこにこと私たち母子を見るナターシャ。
父の方はとみれば、なんだかガックリしていますねぇ。
「お父様よりお母様が好きなんだよね……やっぱりね……」
あぁっと、お父様!
そこで競争心を持つのは円満な夫婦関係に差し障りますよ?
「ち、違いますよ! イヤイヤ言えるのは信頼があるからこそです」
あぁっと、ナターシャ!
そのフォローやばいですよ?
……と思う暇もあらばこそ。
今度は母ががっくりと肩を落としました。
「わたくし……やっぱりリジーちゃんに懐かれていないのかしら……」
いいえお母様! とんでもない!
無いのは信頼ではありません。イヤイヤ言うきっかけだけ、ですからっ!
(だってアナタ! ややこしいところはほぼノータッチでしょう?)
ですからリジーちゃんは、母のことは超絶素敵な座椅子と認識しているのですよっ
そんな素敵なお顔を曇らせることは本意ではありませんね!
しかたがないのです。
母にも、ヒシと抱きついて差し上げましょうっ。
「おかぁたま、だいちゅき」
「そう?おかぁたまもリジーちゃんが大好きでちゅよ」
母の顔にやっと笑顔が戻りました。
……ふぅぅぅ(タメイキ)
全く手の掛かるひとですこと。
一方で、父はまだ、微妙な顔をしておりますね。
こちらもまた、後でこっそり手懐けておかなければ。
「おとぉたまがいちばんだいちゅき」 とか、甘く囁いて差し上げれば、イチコロですわねっ。
……悪女もなかなか大変なのです。
でも、負けませんっ!
読んでいただいてありがとうございますm(_ _)m