26.王女殿下は鉄壁ノーブル美青年をも振り回す!その正体は真性○○で○○趣味の変態でした?!
いつの間にやらガシッと固そうになっちゃいましたが、少年の頃のシドはどちらかというと線の細さが目立っていました。
儚げなアゴのライン、少女と見紛うばかりのなよやかな手足。
それでいてキチッと通った鼻筋と強い眼光が、彼を男の子に見せていたのです。
そうしたニュアンスがきっちり伝わる等身大ポートレートが、バーン、と王女殿下の寝室には飾られており。
「いつの間に画家にここまで視姦させてたんでしょうか!?」
「違うのよ! イメージ通りになるまで何回も描き直させたのよ!」
そう、それこそ何十回も……と遠い目をする王女殿下。
画家気の毒に、と思ったら。
「大きな仕事が無いときを見計らっては 『ねぇここもう少しこうしていただきたいの』 と繰り返して3年……努力と忍耐の日々だったわ!」
なるほど!
さすが王女殿下、と感動する、私ことエリザベート・クローディス。
だって3年もの間、地道に控えめに 「気に入らないわ」 を繰り返しておられたわけですからね!
周囲にそうと感じさせず悪を極めるそのお姿に、痺れちゃいますねぇっ♡
「ああ、あなたこそまさに真の悪女!」
思わずそのほっそりとした手をとり瞳をキラキラさせれば、にこやかに握り返して下さる王女殿下。
「お姉様と呼んでいただいて良くてよ」
「ありがとうございます! ぜひお姉様と呼ばせていただきますわ!」
ああなんだか、新しい扉が脳内で開きそうっ!
……ん? なんかこの感動には覚えがありますねえ? 何だったかな。
うーん、少年シドさん、ジェット……
あー!
「イケイケの美少年ハーレムお姉様!?」
思わず指さしそうになるのを抑えて確認すれば。
「やっと気付いてくれたのね、もうっ! 寂しかったわ!」
可愛らしく肯定される王女殿下。
よもや、と横目で隣を見れば、やはりヘルムフリート青年がヤニ下がったお顔をそちらに向けておられます。
お可哀想に。
だって、どんな顔を向けても、当のご本人は美少年趣味……寝室の壁には、少年シドさんの他にも4人の等身大ポートレートが掛けられているのですよ!
そして、ふと天井を見上げれば、そこには少年シドさん含めた5人の煌びやかな美少年天使たちがイイところもイケないところも丸出しにして舞い踊っております。
「ラベンダー色の頭と南国風衣装はいつおやめに!?」
「あーあれはお忍び用! ちなみにあなたを尾行した時はジンナ帝国のスパイスタイルよ!」
それって本物と間違われて御用とかならないんですよね?
「本物の仲間と間違われてジンナ帝国のスパイから機密を手渡された時は焦ったわ?」
うわー王女に渡しちゃうとか終わってますよ!?
ルーナ王国で捕まるか、ジンナ帝国で無能者のレッテルを貼られるか……
「仕方ないからちょちょっと書き換えて、何食わぬ顔で別のジンナ帝国スパイに渡したけれど、ちゃんとあちらに渡っているかしら」
「素晴らしい対応ですわ、お姉様!」
誤情報渡されたジンナ帝国以外は誰も損しないナイスな選択です。国を憎んで人を憎まず、素敵ですね!
それはさておき。
「美少年ハーレムはどうされたんですの?」
「ああ……あれは美しい夢幻だったわ」
物凄く遠い目をする王女殿下。
「美少年たちは皆、儚くも消え、わたくしに残されたのは今や夢の残骸とジュエリーへの愛だけ」
な、な、なんとっ!
美少年たちは皆お亡くなりになったもようです。
こんなに早く全員死亡だなんて、どれだけ劣悪な労働環境だったのでしょうか。
……もしや王女殿下には実はS趣味もあって、毎日毎日美少年たちを拘束したり緊縛したり鞭でブチブチしてたりとか?!
苦痛に歪む幼くも美しい顔、白く滑らかな肌に残る赤いミミズ腫れ、少年特有の天使ヴォイスが細く長い呻きを上げて……嗚呼。
カ・イ・カ・ン……じゃないわっ!
危うく妄想でSの世界に走るところでした。
いや私がいくら悪女でもそれ無理!
相手は生身の人間、できるとしても、せいぜい裸足で背中を踏みしめる程度ですよ。
あれは重いだけで意外と痛くないですからね。
「そうですか……で、亡くなった方々の祭壇はどちらに?」
極浅のご縁であっても権力者のS趣味に命を落とした方々です。
詣でて香の1つも焚き、来世の幸福を祈りたいところ。
しかし王女殿下はきょとん、とした顔で目をぱちくりさせました。
「え? 誰が亡くなったの?」
「あら今、少年たちは儚くも消えた、と仰ったでしょう?」
「そうよっ! 本当に儚い命だったわっ!」
天を仰ぐ王女殿下です。
「わたくしのデザインしたジュエリーを買ってくれているということは、あなたも見たでしょう? 夢の残骸を」
「いえ……素敵なジュエリーとやたらと煌びやかな店員さん方は……ええっあれですか?!」
やっと分かりましたよ!
美少年趣味の王女殿下には美青年はお呼びでなかったのですね。
「そう、あれよ! もうヒドいでしょう!?」
力説されるほどには、ヒドくないと思います、うん。
むしろタイプの違うイケメン3人、揃い踏みで視姦されたら萌えちゃうかも……おおっ!?
これもいつか、ポリー嬢のネタに使えそうですね!
それぞれに違う角度からじっくりと舐め回すように、ジュエリーを選ぶポリーちゃんを視姦できるではないですかっ!
そうですね、ポイントは……。
細くやや長い首やなだらかな鎖骨、プニプニと柔らかそうな可愛らしい耳たぶと、桜色に染まった花弁のような耳上部……あ。
それに、ブレスレットや指輪も選んでもらえば細い手首やしなやかな指先まで完璧に視姦できちゃいますねっ
ついでに、知り合ったばかりの鉄壁ノーブル美青年にお供をさせれば、夕陽の色の瞳を輝かせつつジュエリーを吟味する楽しげな表情に胸キュン……というオマケまでつけられちゃうじゃないですか♡
そんな妄想を巡らせている間も、王女殿下の嘆き節は続きます。
「皆、あんなに逞しく立派になっちゃってもうっ……いつの間にか萌えなくなっていることに気付いた時のわたくしのショックを分かって下さる?」
「それはよく分かりますわ!」
私だって、先程の初ナマ視姦され体験byヨハネスさんに丸っきり萌えなかった時にはショックでしたからね。
「やっぱり! あなたなら分かって下さると思っていたわ」
王女殿下はガッシと私の両手を掴みました。
「ジュエリー以外は空虚だったわたくしの日々に光を当てて下さったのは、あなたのポリー嬢だけ! 本当に今日はお会いできて良かったわっ! ぜひサインをお願いします!」
そんなわけで、庶民のための文芸誌 ″月刊ムーサ″ 初号~5号までにせっせとサインを入れていくことになりました。
それは良いけど、どうして2冊ずつ?
「1冊はダイヤの分なの」
その時です。またしても急に、ぴこーん! と思い出しちゃいましたよ!
そう、確か、美少年ハーレムの構成員……宝石名で呼ばれていたはず。
ということは、ですね、もしや!
そこの鉄壁ノーブル美青年も……!?きゃあっ (ナターシャよりまっ黄色の叫び)
うそーん! 事実は妄想より奇なり、ですね。
「まぁ侯爵家令息様までが!?」
「私は王女殿下に巻き込まれただけですけどね」
巻き込まれた、とか言いながら嬉しそうですねダイヤさん!?
ワクワクするリジーちゃんでしたが。
「大衆心理の参考にもなるので、毎号読ませていただいてますよ」
ああ、そっち。
いえまぁ確かに、この流れなら文芸誌の方の話かと思っちゃいますかね。
ええいいですよダイヤさん。あなたは私の中では王女殿下のハーレム要員確定ですからねっ(にやり)
「もうっ普通に『面白い』って言えばいいのに素直じゃないんだから!」
王女殿下がまた唇を少し尖らせます。
もう本っ当かわゆいですねぇ!
そんなだから、ハーレム構成員とかいうヒドい扱い受けてもダイヤ青年がメロメロなんですよ。
せっかくですから、その辺の事情をちょっと聞いてみましょう。
私は珍しく扇なんか使ってコソコソとヘルムフリート青年に耳打ちします。
「それで、2人きりの時は王女殿下のことはなんとお呼びに?」
「殿下、とお呼びしていますが」
「リーズ、やロッテ、あるいはロティなどと呼び捨てにしてみたいとは思われませんの? あるいは 『我が姫』 など」
王女殿下のお名前は確かリーゼロッテ。 思い当たる呼び方を次々と挙げると、ヘルムフリート青年はふわりと微笑みました。
「いいえ? そのような不敬なことは」
ふっ……一般の善人はそのノーブルスマイルに誤魔化されるかもしれませんが、リジーちゃんは違いますよ?
ダイヤ君! アナタは『我が姫』で一瞬、口許がキュッと震えましたね?
そうかそうかぁ、と内心ニマニマしちゃちますよ、うふ。
表向きはノーブルを貫きつつ、裏では独占欲剥き出しにしてるとか……もうっ!
これに萌えずして何に萌えよというのでしょうかっ
きっとハーレム構成員時代には、他のメンバーをそのノーブルスマイルとソツの無い親切さで手懐けつつNo.1の地位を維持していたのでしょうね。ふふふ(妄想的笑)
「なーにーをーコソコソ言ってるのかなぁ」
王女殿下がジト目でこちらを見ておられます。
「ヘルムフリート様がお姉様をいかに愛しておられるか、伺っておりましたの」
暴露してやったぜ、ふっ!
さぁダイヤ君、キミはどう出る?
ワクワクしつつ様子を伺うと、不動のノーブルスマイルが王女殿下に向けられておりました。
「いつ結婚するのかと問われましたので、殿下のご意向が固まるまでいつまでもお待ちする所存です、とお答えしておきましたよ」
きゃあっ! さり気なく乗っかってきましたね、やりますね!
ドキドキして思わずナターシャばりの悲鳴を上げたくなっちゃいましたよ、もうっ!
しかし王女殿下の方はカラカラと笑って 「そうしてくれる?ヨロシクッ」 と答えただけでした。さすが。
「それでね」
あっさり話題を変えてキラキラ目線をこっちに送ってくる王女殿下。
「お願いがあるんだけど、いいかしら?」
「何でございましょう」
「ポリー嬢に美少年を出してほしいのっ! 天使のような、繊細で儚げなのに時にキラッと強い光を放つジュエリーのような美少年を……!」
王女殿下。
あからさまに、ハァハァ言っておられますね?
……どうやらヘルムフリート青年はまだ、待ちぼうけ確定のようです。
読んでいただき有難うございます(^^)




