25.鉄壁ノーブル美青年に連行されいよいよ王女殿下とご対面です!裏のお顔に目一杯ドキワクしてみましょう♪
さてかくして、社交会デビューのダンス2曲を無難に済ませた、私ことエリザベート。ナマ視姦され体験が不発気味でちょっとばかし不完全燃焼な16歳。
現在、お話はいよいよクライマックスへ!? という流れの上を、ぷかぷか漂っている状況です。
何しろ名門貴族クラウゼヴィッツ侯爵家令息のヘルムフリートさんにエスコートされ、当たり障りなさすぎて息が詰まりそうなダンスと会話をしたばかりか 「この後2人きりで……」 などと囁かれているのですからね!
大抵の令嬢は舞い上がって 「喜んで!」 とニッコリするものと思われます。
が、残念ながら舞い上がれません。
なぜならば、リジーちゃんの行く手にはこれから王女殿下の元へ連行される予定、という、そっちの方がさらに有り得なさそうな現実が待ち受けているわけで。
おそらく王女殿下がダンスホールへの顔出しを堂々サボっておられるがためにお名前を出せず 「2人きり」 という胸キュンワードが登場したのでしょう。
まぁ、王女殿下とのお話自体は、さほどイヤではありませんけどね!
お昼の授賞式で披露されていた、あの美しいロイヤルスマイルの下にどんな素顔が隠されているのか……そう思うとワクワクしちゃいますよもうっ♡
本来のお仕事はシドがばっちりしてくれているはずですし、心配なく楽しめそうです。
そんなワケでヘルムフリート青年に連行されつつ、王女殿下のもとへ。
何でも王女殿下は自室でお待ちだそうですが、こんな末端貴族の娘をいきなり自室に入れようとは、本当にかなりぶっ飛んだお方である予感がしますよ、ええ。
それにしても。
目下のところ、問題は『ダンスホールから王族のプライベートエリアまでの距離長過ぎ!』ってことでしょうか。
廊下、さっきからもう30分は歩いてますよね?
「あちらのウェヌスは肌の表現が素晴らしいですわね」
「確かに。肌にそこはかとなく青みを差すことで、上手く聖性が表現されていますね」
退屈しのぎに、ところどころにさり気なく配置された彫刻や絵画をネタに無難にヘルムフリート青年と会話中のリジーちゃん。
実は、ちょっと嬉しくなっちゃってます。
なんとなんと、この方、完璧にソツなく見えつつ実はけっこう素質あり、ですよ!
30分も美術品談義をしていると相手の嗜好も分かってくるものなのです、ふふふっ(満足笑い)
肌とか際どいところを振っても動じずしっかり応えてくれる人って、立派な視姦仲間になれそうですよね!
もしやこっちの世界に引き込めるかも、と、先程から美術品談義なフリをしつつちょくちょく変態要素を混ぜ込んでみるリジーちゃん。
絶賛悪の道邁進中でございますっ!
「それに肌と背景の境界をわざとぼかして柔らかさを強調しているところなど、蠱惑的な眼差しと相まって怪しくも甘美な雰囲気を作り上げていますわね。絵画の中に誘い込まれてしまいそう」
うまく聖性で上品にまとめようとしたのにスミマセンわね、お坊ちゃま!
見込みがある方は攻めてみないと気が済まないものですから、ふふっ(悪女的笑)
そんな私の考えを読んだのか、ヘルムフリート青年の口許にノーブルスマイルとは少し種類の違う苦笑が浮かびます。
おっ、やっと少し崩せたわ!
内心ガッツポーズしちゃいますよ、もうっ!
「女性でもそんな風に絵を見られるのですか」
「あら美しいものを鑑賞するのに男性も女性もありませんことよ。そうしたものを超越して人を引き寄せるのが愛の神の力ですわ」
「ええ全く、芸術の神は偉大ですね」
「その通りですわ」
ほほほ、と上品に笑って誤魔化しておきます。
やはり鉄壁ノーブル青年、この程度の攻撃ではバリアは破れないというわけですね。
めっさナチュラルに愛の神を芸術変換してこられましたよ?……でも負けませんっ
「愛の神と芸術の神は仲がよろしいですものね」
「ええ、2人はよく手を取り踊る姿で表現されていますね」
ソツのない応答はさすがです。
そして、急にピコーン! とひらめくリジーちゃん。
インスピレーションといつやつですね!
すなわち。
次回のポリー嬢のお相手、こんな方でもいいかも!?
心の内側まで完璧に整えられすぎて、自身がそれをやらかしてるとも気付かず視姦するイケメン青年貴族です……!
ウン、イイね!
心底から無難で上品に振る舞えるのも今のうち。その夜は夢で欲望のままに2度目の視姦をさせて上げましょう!
見えてなかったはずのアレコレを見てしまい、目が覚めてから大いに戸惑うがいいのですよ!
ザマヲミナサイマセ!
ほーほっほ……はっ、しまった。
一瞬、妄想と現実を入れ違え、目の前のヘルムフリート青年に向かって高笑いしそうになっちゃいました。危ない危ない。
ともかくも、こうした艶めかしい作品も現れるようになると王族のプライベートエリアです。
「こちらです」
案内されたのは柔らかな淡いピンクが基調の、実に可愛らしいイメージのお部屋でした。
侍女の後にヘルムフリート青年、私と続いて中に入ります。
「ダイヤ、連れてきてくれたのね!ありがとう!」
立ち上がって私たちを出迎えて下さる王女殿下。見事なストロベリーブロンドのお髪とお胸でいらっしゃいます。
ヘルムフリート青年とは軽く抱き合って頰を寄せる、かなり親しげな挨拶をされていますね!
でもニックネームが『ダイヤ』って……まぁいいか。
そう呼ばれるダイヤ青年のお顔が、一瞬ダラッと崩れたのを、リジーちゃん確かに見ちゃいましたから。くすくす(忍び笑)
「あなたも来てくれてありがとう!とっても会いたかったのよ!」
王女殿下の方は全く気にせず、今度はリジーちゃんに両手を差し出します。
「王女様、これは向きを変えていただかないとご挨拶できませんわ」
ルーナ王国で手を併す挨拶は、身分が低い方が下。なのに王女殿下は手のひらを上に向けてきているのですよ。
「いいのいいの!」
王女殿下は気さくにリジーちゃんの手を取ると、ポンポン、と併せてにっこりしました。
「これはわたくしの敬意の表れよ、ルーナ・シー先生」
「はうっ!?」
ええ!? 突然何なんでしょうかっ!?
驚きすぎてヘンな声、でちゃいましたよっ!
いきなりのペンネームもろバレと羞恥ワード『先生』の併せ技!
思わず冷や汗かいて口をパクパクさせちゃいますよ、もうっ!
王女殿下ったら、まさかの″月刊ムーサ″愛読者なんですか!?
ええとでも。
あれにお色気小説書いてるなんて知ってる人は、私とシドとジグムントさん程度のはずなんですけど!
そんなリジーちゃんの慌てっぷりガン無視で滔々と語って下さる王女殿下。
「ポリー嬢は素晴らしいわ! この、とかく女性にだけ貞操が求められる時代に、毎回次々と男を変えるなんて! 時代の革命者と呼んで差し支えないわね! 実は女性が書いてると知って、どんな方なのか調べましたのよ」
「アアソウダッタノデスネ、ナルホド」
「そうよ! お忍びの度に印刷所周辺を徘徊したわたくしの努力を分かって下さる?」
「エエ、トテモタイヘンダッタデショウネ」
「そう! この人かと思っては副所長を問い詰め外すこと5回! やっと 『いえいえ身元を明かすことは事情があってできません』 と言われた時は嬉しさで小躍りしたわ!」
今度から原稿が早く上がっても自分で届けに行くことはやめよう、と思う私。
でもよく考えたら、副所長を尾行したらそのうち分かりますよね。
「そして後を尾行したら、なんと! 以前にわたくしからジェットを奪った小娘の家ではないの!」
もう運命を感じたわ、と身悶えする王女殿下。へ?
黒玉?
リジーちゃん、泥棒は残り物ケーキしかしてませんよ?
顔に大きな『?』を描いて黙っていると、王女殿下は拗ねたように口を少し尖らせました。
大人っぽい美貌に突如現れる幼い表情には、老若男女がギャップ萌えすること確実ですね!
これはもしや、と横目でヘルムフリート青年を確認すると、やっぱり。
目許を優しく和ませて王女殿下を視姦……もとい見詰めておられます。
きゃあっ、ワクワクしちゃいますねぇっ!
しかし。
そんなトキメキ目線をガン無視して、可愛らしく拗ね続ける王女殿下。
「もしかして忘れておられるの?」
「ええ。大変申し訳のう存じますが」
「仕方ないわね」
溜め息をつきつつも、お許し下さるようです。
ではこれなら分かるかしら、と奥の間へ自らご案内。
……え、そこ。寝室じゃないですか?
しかし、王女殿下は全く気にされていないご様子です!
「さぁ、ご覧になって!」
思い切りよくサアッと開けられた寝室のカーテンの陰には、なんと。
今は懐かしい少年の頃のシドがいたのでした。
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