24.正統派ノーブル美青年のエスコートが悪女的には残念すぎる?!ここは妄想で乗り切りましょう!
「大体ね、噂通りの美しい、っていうのがヘンじゃない?噂が立つとしたらガーターベルトもろ見せの変態だとかそっちの方でしょうに」
晩餐が終わり、ダンスホールに移動中。
私ことエリザベート16歳、シドと並んで歩きつつ、ブツブツと不満を述べている最中でございます。
そう! シドによるとせっかくの初・間近からナマ視姦され体験だったのに!
それがなんとも、不毛な結果にっ!
分からなさすぎて妄想で補うことすらできず、萌萌する代わりにモヤモヤしているのです!
こんな不完全燃焼では蒸気機関だって動きませんよ、ヨハネスさん!?
ですが当のヨハネスさんは 「あいにく無調法者でダンスまではちょっと」 と父と握手して帰って行きました。
そんなだから独身なんですよ、もうっ!
……まぁ、でも。そのうちきっと良い人も見つかるでしょう。
さて、ダンスホールに入る直前。エスコートが父に代わりました。
ルーナ王国の慣習では社交界デビューのエスコートはまず父親です。母親が一緒の時はそのエスコートも一緒にするので、まさに両手に花状態。
父も私と母に挟まれて、ハタ目からもはっきり分かるくらいにご満悦です。
「一生に1度だからね!」
「初めは社交界デビューなんて、と思ったのですけれど、良かったですわね」
母も嬉しそうに微笑んでいます。
後ろからはシド。もしかしたら私のガラ空き背中を視姦してるかもしれませんが、兄妹同然なシドでは正直、これまたちっとも萌萌しませんね。
シドにはやっぱり私と一緒に萌萌する方向で行ってほしいものです!
どうやったら目覚めるのかしら。
ホールでは既にカドリールが流れております。
ルーナ王国ではこの陽気なスクエアダンスを楽しめるのは、主に平民以下の身分。
ギャロップなどの活発なステップを貴族令嬢が踏むのはあまり好まれないのです。
あ、でも侍女と服装を交換したポリーちゃんが白いふくらはぎを露わにしつつ踊るシーンとかはありですよね! いつかまた使うことにしましょう。
それに、さっきの不完全燃焼視姦だって使いようによっては美味しいネタなはず。シドのレポートが楽しみです!
ほんと、取材ってアイデアの宝庫ですねぇ。
陽気な音楽が続く中。
「シドも踊ってきて良いよ」
父が勧めますが、シドは「はい有難うございます」と返事をしつつその場を動きません。
どうやら私がお願いした任務を優先させるようですね! なかなかよろしい。
「後でわたくしと踊りましょう」
ニコニコして誘えば、ちょっと苦笑して「はいできましたら」との返事。
ああそういえば父と踊った後は侯爵家のイケメンに連行されるんでしたっけ。一瞬忘れてました。
曲がワルツに変わりました。
「お嬢様、1曲お願いできますか」
父がおどけて私の手を取り、顔を近付けて挨拶します。
「喜んで、お父様!」
私もにこやかに応じます。
が! 社交界デビューでの父と娘のダンスは伝統。微笑ましい光景として会場の注目をけっこう集めるので油断はできません。
父娘ともに「こんなの慣れてます」という顔で踊りますが、実はこの表情まで含めて短期間で詰め込みレッスンしましたとも!
あぁでも、付け焼き刃すぎて実際にどの程度視姦されているのか確かめる余裕が無いのです、残念な限り。
「上手だね」
軽やかにリードしつつホメてくれる父はまだ余裕そうです。
この後は20年ぶりに公の場で母と踊る予定なのでしょう。きっと眼福でしょうねぇ……シドなんかはガン見できるんでしょうね羨ましい。
こっちは、すぐに侯爵家令息に引き渡され連行される予定だというのに!
くそうっ侯爵家令息、急にトイレに行きたくなったりしないかな。
書字魔法でちょろっと呪っておけば良かったのです……!
『急に大いなる暗黒が腸内に蠢き……』とか。
そう思っているうちにも曲が変わり、相手も父から当の侯爵家令息に代わりました。
年の頃はシドと同じか少し下、と言ったところ。
「よろしくお願いします」
挨拶をしてかがんだ時に見えた髪は、金色がかった茶。柔らかそうでややクセがあり可愛らしい感じですね。
穏やかに微笑む瞳は澄んだ青。さすがイケメンの触れ込みだけあってノーブルな雰囲気がなかなか素敵です!
……でも。
「こちらこそ」
前世以来の表面当たり障りなく取り繕ったスマイルを返しつつ、期待したほどじゃないなぁ、と内心で首を傾げます。
……はっ! そういえばっ……!
見慣れて忘れておりましたが、リジーちゃんは、両親も下僕も標準を大幅上回る美形!
「何ソレ羨マシイ!」 って環境にいたんでしたね! しまったわ。
「お父様はお幸せそうでしたね」
「ええ。多少の親孝行になったようで、よろしゅうございましたわ」
曲のテンポは無難なアンダンテ。踊りながら交わされる会話も無難です。
面白くないぃっ!
イイ子ちゃんでやってきた前世の反動でしょうか、無難なものはひたすら突き崩したくなるのですよね。
色んな立場上、表面だけ取り繕いつつ内面崩壊させられないかしら……と考えます。
「この度は、事前にご挨拶もせずに失礼しましたわ」
普通ならキャヴァリエは顔見知りに頼み、もし初対面なら事前に挨拶くらいはしますからね。
「えーお断りしたいくらいなのに!」 と挨拶を父だけに任せたリジーちゃんは、かなり失礼こいているのですよ。
なんだこのムカつく小娘、ときっと思っているはず、という路線で会話に妄想を添えてみましょう。
「いえこちらこそ、急に押し掛けてすみませんね」
(王女殿下命令じゃなければ視界をかすりもしない末端貴族のくせに)
「とんでもないですわ。女性なら皆憧れるようなお方にエスコートしていただけるなんて光栄の極みでございます」
「そう思っていただけるなら嬉しいです。それにしても恥ずかしがり屋さんだと聞いていましたが、ずいぶん堂々としていらっしゃいますね」
(その態度見たら単に面倒がっただけだっつーのが丸分かりだぜ)
「まぁ!そのような。今だって緊張してうっかりおみ足を踏んでしまわないかとヒヤヒヤしておりますのよ」
「おや奇遇ですね、僕もですよ」
(ふっダンスもロクにできない小娘は社交界デビューなどせず引っ込んでな)
さすが筋金入り。
どんな会話も相手に恥をかかさぬよう、ソツなくフォローして下さいますね。素晴らしいです!
そしてそのソツのなさが私は苦手というか……
でも、そんなノーブル鉄仮面も(妄想)を添えるとがぜん親しみが湧きますね!
妄想バンザイ♡
実りのない上っ面会話を妄想で乗り切り、曲も終盤に近付いた頃、彼は結局のところ1度も崩れなかったノーブルスマイルで囁いてきました。
「この後、少しお時間いただけませんか。2人きりでお話したいことが」
おぉっ! ついに!
王女殿下とのお話キタ! ですよっ。
悪女的には少々残念だった正統派ノーブル青年とのお喋りよりも、楽しいといいなぁ。
「ええ喜んで!」
期待を胸に秘め、ニッコリ頷く、リジーちゃんなのでした。
読んでいただき有難うございます(^^)
カドリールはどうしようかなーと迷いつつ四拍子といったん書いた後、やはり「陽気な」と修正しました。ワルツとの違いを出したかったのですがやはり四拍子限定は変えすぎですね。ちなみに「平民以下が楽しむ」云々はルーナ王国事情ですので悪しからずご了承下さいm(_ _)m




