23.いざナマ視姦され体験?でも慎ましすぎて全然分かりません!もっとじっくりお願いします!
さて、そしてしばしの時が経ち。授賞式は、滞りなく終わりました。
特筆すべきところといえば……ホールの各テーブルに飲み物と軽食がセットされていたこと程度、かなぁ?
参加者はセルフサービスでゆったりオヤツしつつ、名前が呼ばれるのを待つのですねっ!
前世は日本の表彰式などと比べると、かなりゆるいイメージ、でございます。
でもですね。
基本は表彰されるような立派な方々ばかり。
なので、表向きジロジロと人を視姦したり妄想にふけったりするような者はいません、のですよっ!
ここ、問題。
ホールに差し込む午後の陽射しが似合いすぎる、ゆったりと穏やかな雰囲気がある意味、寂しい限り、なのです!
こうして授賞式の間、存分に外れ子ちゃんの気分を味わった、私ことエリザベート・クローディス。
名前を呼ばれて前へ出た時、例の王女様が壇上向かって左のお偉いさん席からにーっこり微笑みかけて下さったのが、この度いちばんの思い出になりそうですね!
新年のご挨拶でお見掛けした折にはそんなこと全く無かったのに……
リジーちゃんのケーキ泥棒、そんなにウケたんでしょうかねぇ?
くすくす(忍び笑)
数々の噂が本当だとすると、あのロイヤルスマイルの下には悪女顔負けの黒い心が隠されているワケですね!
いやそう考えると素敵ですっ!
晩餐会での面会が、普通の『おしゃべり』では終わらない可能性大になってきましたよっ!?
ワクワク♪
なんてことを考えつつも。
さて、授賞式は終わったことだし、いったん帰ろっ!
ちょっと休憩したら、今度は晩餐会ですからね!
かくして、父の御す馬車に、母・シド・執事のエデルベンノさんとともにガタガタと揺られて、お家に帰ったリジーちゃん。
お堅いデイドレスを脱ぎすぎて、ふぉぉぉっ、とベッドにダイビングします。
んー♡幸せ♡
そのまましばらくウトウトしていると。
「そろそろお支度しましょうね?」
「もっと寝るぅ……」
「しょうがないですねえ……目はつぶったままでいいですよ。とりあえず鏡台にどうぞ?」
優しく、けれども割かし強引に起こし、張り切ってお支度をしてくれるナターシャ。
そして、再び我が家の居間に集合です!
「やぁリジー!まるで物語から抜け出した妖精のようだよ」
デレデレと相好を崩す父の目に、胸元フリルに誤魔化されつつもきっちり露出されてる谷間や腰ギリギリまで開いた背中のくぼみは入っていないもよう。
シドがくれたネックレス、早速いい仕事してくれてますね!
もし、晩餐会ではその目眩ましをかいくぐった眼差しがじっと注がれちゃったりしたら……はぅぅ萌えます確実に。
ちなみに父は、モーニングコートからテールコートに衣装チェンジです。
白のタイには瞳と同じすみれ色のウォーターサファイアがついたタイピンがさり気なく留められております。注目しておりますと、気付いたかい?とぱっと顔を輝かせました。
「この前の結婚記念日でお母様から贈っていただいたんだよ」
「どおりで素敵ですわね」
「そうだろう?お母様はセンスがいいんだ。それにあんなに優しくて美しくて可愛らしい女性はほかに……」
「あら1番かわいいのはリジーちゃんでしょう」
蕩けきった顔で滔々と述べられるノロケをぶった切ったのは、母の穏やかな声でした。
振り向くと、そこには父とお揃いの濃紺のドレスの天使様。
今日はやはり私のデビューを意識して、地味めに抑えているようです。
しかし全体的になんだかキラキラと眩しい感じです!
夜空の色のドレスで金の髪の艶やかさがより強調され、ホルダーネックの首元とスカート切り替部とに散らされた極小粒のダイヤと相まって、まさに星のよう。
同じく濃紺の絹のストールをさらっと羽織った左手首には、繊細な金鎖でアメジストの粒を繋いだブレスレット。
……ん?これは。
もしかしなくてもっ……
「お父様からの結婚記念日の贈り物ですね! よくお似合いですわ」
「そうなの」
母の微笑みが最上級に輝きます。
「わたくしの瞳の色と全く同じアメジストは珍しいのに、お父様はわざわざ探して下さったのよ」
確かに一般のアメジストより、赤みがやや強い鮮やかな紫。
さすがはお父様ですっ!
「馬車の用意が調いましたよ」
シドが顔を出して告げます。
夜は執事がお留守番なので、シドが私と両親の世話を引き受けてくれているのですね。
さて、そんなシドさんも、モーニングコートからこれまたやや型古めのテールコートに衣装チェンジです。
ルーナ王国では、黒タイは従者のスタンダードなのですよね。
「テールコートも似合うわね、シド」 満面の笑みで近寄り、素早くシドに囁くリジーちゃん。
「夜もきっちりレポートよろしくね? 高貴な令嬢方をヌメヌメ視姦しまくりなさい。
視姦仲間がいたらそっちの観察も忘れずに。あと、わたくしを視姦している方がいたらすぐに知らせてね」
何しろ私はイケメン観察と王女様とのお話で忙しい予定ですからね!
残念ながら視姦の方までは手が回りません予定です。
それでもナマ視姦され体験は外せませんけどね、ふふふ……(妄想的笑)
「変態にならない程度に努力します」
ボソボソっとシドが囁き返しました。さすがは天然下僕体質、意に添わないお願いにもそこそこのお返事ですね。
私は満足して頷き、馬車に乗り込んだのでした。
晩餐会は昼に授賞式があったのと同じホールですが、その時の簡素でゆったりした感じとは一変し、なんとも豪華な雰囲気になっておりました。
花や神々の彫刻をあしらった有機的なフォルムのシャンデリアには何千本という蝋燭が灯り、真昼のような明るさです。
幅広の長テーブルがどんどんどんっ、と置かれ、座席がずらりと用意されているその様子は……
私の貧弱な前世の経験に照らし合わせるなら、ハ○ーポッターの映画の中にそんなシーンがあったような?
旗の紋章は全部王家のものですけれどね。
どこに座るかは一応、家族単位で決められているもよう。
リクエストも割と通ると聞きましたが、基本は王族の席に近い方から身分順、です。
我が家は慎ましく扉に近い端の席。父らしい希望ですね。もちろん、シドの席もちゃんとありますよ!
周囲は受賞者の中でも特に身分の無い者ばかりなので、末端でも貴族の我が家は若干浮き気味ですが……
お偉いさんの間よりはマシというもの。
「噂通りの美しいお嬢様ですね、クローディス伯爵様」
席についた父に早速話掛けてきたのは、年の頃28、9の紳士です。
黒髪を頭にべったりと貼り付けているところを見ると、もとは相当な癖っ毛。
きっとどうしようもなくてワックス塗りたくったんでしょうねぇっ!?
タイは白ですが燕尾服は既成の型落ち品という微妙なスタイルです。
しかし、その表情は生き生きとして水色の瞳は知性に溢れています。
最初の発言から「よっし早速視姦され体験キタ!」とつい誤解してしまった私ですが、彼の目線はこちらではなく父の方に注がれ続けております。
見られている父は久々に「伯爵様」呼ばわりされて若干居心地悪げ。
だからと言ってそっちの気、というわけでもなく、ごく普通に彼は活版印刷製の名刺を出して自己紹介を始めたのでした。
「私は科学研究者のヨハネスと申しまして、蒸気機関の実用化を研究しております。この度はそれで褒賞をいただきました」
「ほう!蒸気機関ですか」
食いつく父。
「ええ。なんとかかんとか、使用できるまでのレベルになったと自負しております」
「だからこそ褒賞もいただけたのでしょうね。素晴らしいことです」
うんうんと頷く父。
「もしよろしければ、伯爵様の工場でも試験的に使ってみられませんか」
なるほど、そのために我が家の隣を狙ったのですね!私をダシにするとは良い度胸ですこと。
「美しい」とか言うのならせめてチラッとくらい見たら良いのに。
父とヨハネスさんが、しかし従業員の雇用が安全性がと話し込むのを耳にしつつも前菜をいただきます。
季節の魚介と野菜のサラダ、ぷりっとしたイカの歯ごたえにシャキシャキしたレタスが良いマリアージュですね!
シドがぼそぼそと囁きます。
「早速視姦されて良かったですね」
「ウソ全然じゃないの。父と商談してるだけでしょ」
「……気付かないんですか?」
「全然。話はけっこう面白いと思うけれど」
「ほら、今また目がチラッと動きましたよ?」
「気のせいじゃない?」
「じゃないです」
ええええ!? 全っ然分からん!
思わずそっちをガン見したい衝動にかられつつも。
両親の手前、知らん顔して優雅にタコを口に入れます。
「ほら今度は口許に目が行ってますよ」 と無表情にリアルタイムで報告してくれるシドさん。
でも分かんない。
わかんない、のですっ!
ナマ視姦がこれだけ実感のないものだった、なんて……
逆に驚きだわ、これっ。
分からなさすぎて妄想も追っつきませんよ!?
「シド、後で詳細レポよろしく!」
万感の想いを込め、小声でそう頼むリジーちゃん、なのでした。
読んでいただきありがとうございます(^^)




