20.美青年下僕が貢ぎ地獄に迷い込む?!悪女で変態でも困る時はあるのです!
ルーナ王国は王宮付近、目抜き通りの″ルミニスマーレ″は最近オープンしたばかりの宝飾店なんと王女殿下経営です。
そこで、只今おねだり中♡ の私ことエリザベート・クローディス、なかなかにして悪女っぽい16歳。
被害者は友達兼下僕の美青年シドさん、でございます。
『褒賞のお祝いして』と甘えてみせればあっさりとひっかかってくれちゃいましたよ。ふふ(ほくそ笑み)
しかし実情は覗きサボりんぼの罰、容赦はいたしませんことよ♡
しかしヤツは、状況がよほど気に食わないのか 「お嬢様センスなさ過ぎ」 と、私が選んだネックレスをバッサリ斬り捨ててきやがりました。
なにおぅっ、そこそこ控えめでオシャレでしょうが!
「どうして? 瞳と同じ色でしょう?」
「微妙に違うので石が安っぽく見えます。それにドレスが深めのVネックとはいえ襟元フリルのついたワインレッドのシフォンでネックレスがその色合いだと、首回りに主張が重なり過ぎてダサい」
ポイントを突いた指摘にグウの音も出ません。くそうっシドのくせに!
「いつの間にドレスのデザインまでチェックしたのよ」
「ナターシャに聞きました。最初は娼婦顔負けのセクシードレスにしたがったそうですね」
「セクシーってあの程度で」
唇を尖らせるリジーちゃん。
『さぁパーティーだ、視姦されよう!』 との目的を 「動きやすそうだから」 との言い訳に隠して選んだのは、身体にピッタリのボディコンに上からスケスケのオーガンジーを纏わせたデザインでした。
でも両親にもナターシャにも猛反対され、デザイナーでさえ物柔らかかつ遠回しに 「止めといた方が」 的な阻止に掛かかり (だったらなんでそのデザイン持ってきたんだ)……
極め付けは母の笑顔のひとこと。
「動きやすいドレスが良いなんて、リジーちゃんはまだお子様のようね?」
ああ……社交界デビュー見送られてしまうと、ポリーちゃんの出会いシチュにまた困る!
そんなわけで天使様の前に悪女は全面降伏し、イブニングドレスは華やかながらも清楚に見えるワインレッドのシフォンで落ち着いたのでした。
ま、胸元のフリルに誤魔化されて両親は気付かなかったようですけどね……
あのVネックが随分と深かったこととか、背中がスケスケどころか腰ぎりぎりまでガラ空きだったことには。ふっ(悪女的微笑)
「それは置いといて、ドレスがああいうのならネックレスはこれでしょう」
並べられたジュエリーの中から、シドがひょい、とぞんざいな仕草で取り上げたネックレスを見て、私はしばし言葉を失ったのでした。
いやもう、素手で掴むとかヤメテ!
そのネックレスはダイヤとプラチナがメインで、一見シンプルながらよく見るとなかなか豪華な造りだったのです。
小粒のダイヤが連なる軽やかな流線形のラインの中央に大きめのテーブルカットダイヤ。
厚みがあるのに台座のプラチナの色がそのまま映るほど透明度が高く、このセンターダイヤだけで 「シドの給料4年分っ」 とか思ってしまうリジーちゃん、前世は庶民です。
センターダイヤの周囲とチェーンには小粒のエメラルド、サファイア、アメジスト、ピンクダイヤが控えめにバランス良く配置されています。
総ダイヤにするよりギラギラしないところが若者向けで、しかも色とりどりなためにドレスカラー選ばず使えますね!
さらに 「実はリバーシブルになっていまして」 とドヤ顔の美形店員の言葉に従いネックレスをひっくり返せば、センターダイヤの裏側はなんと透き通るようなピジョンブラッドルビーでした。
さすが王女様デザイン。リーズナブルに見えつつ遊び心もシドの給料3年分……
「どうするの総額で給料8年分と見たけれど」
小声でシドに確認すると、しれっと返されたのが。
「給料は10年分あるから大丈夫ですよ」
あああっそんな大きな声で言ったらっ!
「それなら揃いでイヤリングはいかがですか。パーティーなどですと首元だけでは寂しいですし」
ほらね。ぱっと顔を輝かせ勧めてくる美形店員がいますよ。
こちらも同じく透明度高いテーブルカットダイヤで、周囲をネックレスと同配色の石が上品に彩っています。
大きすぎないところがいいですね!
「セット価格で少し割り引かせていただきますね! ポッキリこれでいかがでしょうか」
示された価格を見れば、給料10年分で少しお釣りが出そうです。
ああ良かった!……じゃなくて!
重 す ぎ る ん で す よ !
覗きサボりんぼの罰にしても、残り物ケーキ泥棒でホメられたご褒美にしてもっ……!
なんとか思い止まらせようと、シドの袖を引っ張ります。
「あのね、ダイヤがこんなに多いと、やはり首元が主張しすぎて良くないのではないかしら」
「何を仰ってるんですか、ダイヤは主張しつつも調和する。常識でしょうが」
「さようですね、やはり一点はダイヤを持っておかれると、何かと便利でございますよ」
シドが呆れ顔で常識を振りかざせば、美形店員が営業用の極上スマイルで乗っかります。
「特にこのデザインは華やかながらもぱっと見シンプルですので、パーティーシーンだけでなく日常でも違和感無く使っていただけます。ホラちょっと着けてみてください」
問答無用でネックレスを私の首に装着し、「おおっ、よく映えますね! 美しさがさらに増しますね!」 などとホメちぎる美形店員たち。
営業用マニュアルですね。
けど日常ってアナタ。
こんなの首にぶら下げつつ、お茶したりポリーちゃんが次にどんな視姦をされるか考えたりせよとおっしゃるんですか。
「でも、うぐっ」
さり気なくネックレスを外して返却しつつ、さらに言い募ろうとした私の口にシドが問答無用で何やら突っ込みました。
この丸さ、甘さ……アメ玉ですね!
常備してるってオバアチャンですか!
「ではこちらが内金、残りは銀行振込で」
アメ玉と格闘している私をきれいに放置して、美形店員と商談を進めるシド。
この暴走貢ぐクンめっ!
「フィーゴー(シードー)?」
睨んでやりましたが涼しい顔で明後日の方を見ていやがります。
天然下僕体質のクセに主人の言うこときかないつもりですね!
後でお仕置きですよ!
靴を脱いで肩を踏み付けてやろうかしら。
それとも服を脱がせて侍女全員で視姦の刑かしら。
それとも3日間完全無視……したら不便そうです。
でも負けません、悪女ですから!
けど。何か違うなあ、と内心首を傾げました。
どのお仕置きもどうもピン、ときませんね。
その間にも品物は包まれ、シドと私は 「有難うございました!」 という美形店員たちの丁寧なお辞儀に送られて店を出たのでした。
「あぁぁ、疲れたぁ」
自室のソファにお行儀悪くダイビングするリジーちゃん。
主に気疲れですね!
搾り取るのも相手によっては疲れるものだと学びましたよ、今日は。
まったくもうっ!
シドがやや不安そうに、私を見ます。
「気に入りませんか?」
「気に入ったわよ」
己の心に正直に生きるのが悪女です。
気に入らなかったら何が何でも購入阻止してるわ! でもねぇ……
「似合ってましたよ」
「あんなの店員のマニュアルトークじゃないの」
「ではもう一度着けてみて下さい」
シドが包みを器用に解き、ネックレスを取り出して着けてくれます。
髪を分け、留め金を掛けるシドの指の感触……
……? 気のせいか、なんだかいつもと違うようなっ……?
なんなんでしょうかコレ?
シド相手に警戒することなんて、何も無いはずなんですけど、ねぇ……?
鏡の前でシドが軽く髪を整えてくれます。
「ほら似合ってるでしょう?」
「そうねぇ」
ええ似合って無いなんていいませんよ? でもねぇ……
「あなたに買ってもらっても、どうすれば良いか分からないわ」
「あれ? いつも旦那様にしてるじゃないですか」
確かに、父になにか買ってもらったりすると飛び付いて頰にキスしてニコニコお礼言ってますね、リジーちゃんったら。
あれで良いのかしら。
シド相手じゃ、思い付きませんでしたね……っ。
「じゃ、いくわよ」
相手が父と違うと、お礼も緊張するものですね。シドなのに。
私は覚悟を決めて背伸びし、その首に両腕を回します。昔はこんなに体格差無かったのになぁ。
「ありがとう、シド。嬉しいわ。大切にするね」
どうしよう。ほっぺまでの距離が遠いのです。ほれ急げ私のアゴ!
悪女で変態なのですから、頬チューの1つや2つ余裕なはず!
ドキドキしてもう逃げ出したいなんて200%思っておりませんよ!
なんだか滅茶苦茶に時間がかかる気がしつつ、やっと唇が彼の頬をかすめた、と思った時。
「リジー様そろそろ夕食のお時間ですよ」
ナターシャが部屋の扉をノックして顔を覗かせました。
「きゃあっ」
黄色く可愛らしい悲鳴を上げる35歳既婚です。
「良いところをっ失礼しましたっ」
良いところってナニ誤解してるのかしら。
ナターシャにジト目を向ける私の横で、シドが 「全くだ」 と呟いたのが聞こえました。
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