198. ついに運命の時を迎えた変態悪女!異世界でもあの呼吸は有効、のようです!?
「おおおお……」
急に左下腹にくる痛みに思わず身をかがめる、私ことリジーちゃんこと、エリザベート・クローディス。
さっと集まる、皆さんの目…… 旦那さまことシドさんに、両親ことクローディス伯爵夫妻、ナターシャやファルカを始めとした使用人の皆さんの視線が…… 実に、居たたまれません。
もう、痛みなんて10分に1度はあるのですから、放っといて夕食に集中してほしいものなのです……
え? 陣痛きてるのに夕食か、ですって?
それはオロオロする父やシドさんに、母やナターシャがキッパリと 「まだまだですから、今のうちに食事とお風呂!」 と言い渡したから。
(これでまだまだ、ってまじか、と思ったのは内緒です!)
「痛むのかい、リジー?」
「いいえ! こんなもの、大したことはございませんわ!」
心配顔の父に首を振ってみせますのを、ジトッと見てくるのは、シドさんです。
「痛いんですね」
「いいえ! こむら返りの方が、よほど痛いです」
そうなのです!
陣痛とは、物凄く痛いイメージだったのですが…… リジーちゃんの場合は、まだまだ大丈夫そう。
「この程度で痛がっていては、本番が耐えきれませんわ、きっと…… う」
そう、この、時にズギュンとくるのさえなければ……っ! 全然、大したことは、ないのですけどね!
「リジーちゃん、落ち着いてね。はい、カモミールティーよ」
「お母様、ありがとうございます」
「緊張しているとより、痛みますよ」
「はい、お母様」
リラックスしてちょうだいね、とニッコリする母…… 18年前にリジーちゃんを生んだ時のことなど、思い出しておられるのでしょうか。
「はいはい、食事が終わったらお風呂入ってしまいましょうね」
キビキビと仕切ってくれるのは、ナターシャです。
「ハンスに助産師さん呼びにやらせてますから、生むまでには到着しますよ」
「お風呂中に生まれちゃったら、どうしようかしら」
「ありえませんから大丈夫ですよ、リジー様…… この分だと、たぶん早くても夜中でしょう」
「ひぃっ……」
初産ですし、もうちょっとかかるかもしれませんが…… と、真面目な顔で言われると、もう引くしかありませんねぇ……。
と、そんなこんなで日付も変わり、9月は26日の真夜中現在。
母ことアメリアさんと、ナターシャにファルカ、そしてシドさんに囲まれ、助産師さんたちに励まされつつ、リジーちゃんは、ひっひっふー、と頑張り中でございます。
(ちなみに父は、産室の外でウロウロなさっているもようです。)
「ううううううっ……」
「大丈夫?」
「…… もちろん、です…… っ!」
「どうも、まだまだっぽいんだけど、頑張ってね?」
「………… は、い…… っ」
「ナターシャ、汗拭いてあげてくれる?」
「かしこまりました」
痛みのあまりか、コメカミから汗がつうっと流れて顎に伝うのを、拭き取ろうともせずに、リジーちゃんに手を握られているのは……
愛しの旦那さまこと、シドさん。
「お嬢様も、産む方に集中なさってくださいね。はい。ひっひっふー、ですよ」
助産師さんに言われて、慌てて呼吸を整えるのは、ただいま出産中の、私ことリジーちゃん。
どういうことなのか、と申しますならば……
「魔法薬の効果は、きっちり出ているようですね…… それにしても、痛みを移すとは、画期的な発想です」
眼鏡を光らせている、王室の魔法薬師さん (王女殿下が派遣してくださいました) の台詞が、全てを説明しているといえましょう。
すなわち。
―――― シドさんは、王女殿下を通して、『産みの痛みを肩代わりする薬』 を特別に作ってもらっていた、と、そういうことだったのです。
ブツはおそらく、キエルちゃんが 『ダブル不倫毒殺事件』 説を唱えたあの日に、受け渡ししたのでしょう。
やっぱりね、なのです…… けど。
いくらアレだからって、ほんと、アレですよねぇ、シドさんったら!
おかげでリジーちゃんは、産みながら逆に旦那さまを励ます、という、おかしなことになっております。
「ご立派ですわ。どうぞシドさん、痛みが和らぎますから。リジーさまは、こっちね」
シドの口にスプーンで濃いカモミールティーを流し込み、リジーちゃんの口には小さなクッキーを入れてくれるのは、ファルカです。
「ここまでなさる旦那さまは、滅多にいらっしゃいませんよ」
「…… ということは、商品化は無理ね」
「いえいえ、将来的には、無痛を目指しているのですが…… 痛み粒子を他の人にうつすのはギリギリできても、違うものに変換する技術はまだまだで」
魔法薬師によると、痛みは全て 『痛み粒子』 なるものが体内に発生するために、引き起こされるのだそうです。
…… ここに来て物凄くファンタジーな設定に出会っちゃった感、ありますねぇ。
「王女殿下に頼んで、夫婦は全て産みの痛みを分けあう法律でも作ってもらおうかしら?」
「「「いいですね!」」」
あら、魔法薬師さんの目の色が変わってますねぇ…… それに、ナターシャやファルカも…… って、よく見たら母までが、コクコクとうなずいています。
これは、本当にリーゼロッテ様にお願いしなければ、なりませんね!
と、それはさておき。
「…… ッ ……!」
「頭見えましたよ、もうすぐです!」
「シドさん、頑張って!」
「お嬢様も頑張ってください!」
「それなんだけど…… 頑張らない方が、シドさんが痛がってない気がするんだけど?」
「「「 な に を 今 さ ら 」」」
などと、ワイワイやっているうちに……
ズボッと、何かが抜けた感がありました。
「頭、出ましたよ!」
それからしばらくして……
産室に、元気な泣き声が響いたのでした。
読んでいただき、どうもありがとうございます!
…… 予想通りという方も多かったでしょうが、実は、そういうことだったのですよ(笑)
ちなみに最後、「いきまない方が痛みが少ない」 のは本当らしいです。調べてみると、最近は色んな出産方法があるのですねー。水中とか、四つ這いとか。
産みの痛みを前向きにとらえることで痛みを軽減する、ナントカロジー(なんだったか忘れました。笑)とか。
色々ありますが、欧米では無痛分娩が普通だそうです。日本は麻酔科医が少ないので、無痛分娩が普通になるのはまだまだでしょうか。
今さらですけど、お産って大変ですね!
ではー! 感想・ブクマ・応援★いつもありがとうございます!




