193. 変態悪女に、突如痛みが襲う朝!た、た、大したことではないのですっ……!?
かくしてまた、しばしの時を経た、8月は23日。
「はっぅぅぅうぅぅぅんっ!」
早朝の静寂に響くのは、私ことリジーちゃんことエリザベートの、イケない悲鳴、でございます。
イケない、にも色んな意味がありますが、今回は……。
「痛い痛い痛い、痛いぃぃぃ!」
こう叫んでいても別に、出産日はまだ、来ておりません。念のため。
「痛いったら、もう、らめぇぇぇっ……!」
そして別に、愛しの旦那様ことシドさんに無理やりイケないコトされてるわけでも、ないのです……!
「痛いぃぃぃ! もう二度と歩けないかもぉぉぉぉ!」
「…… そっちの方が俺としては有難いですが」
シドさんがしてくださってるのは、むしろイイこと…… すなわち。
ブツブツと恐ろしいことを言いながらも、リジーちゃんの脚を片手で支え、もう一方の手で丁寧に撫でさすってくださっているのです!
「残念ながら、すぐに治りますし治ったらまた、ケロリとして勝手にアチコチ行ってしまうことになるでしょう」
「…… っても、痛い痛い痛い痛いぃぃぃぃ!」
「とりあえず、今日から素足禁止です。残念ですが」
「……へ? どういうこと?」
キョトンとするリジーちゃんの耳に、重々しく響く衝撃の事実。それは。
「冷えも原因の1つですので。こむら返りの……」
ほかの原因としては、体重増加によって脚に負担がかかっているとか、睡眠不足ですとか、気分的なストレス…… は、お嬢様に限り無さそうですが ――― などと、冷静に分析してくださった後。
シドさんは、ニッコリとイイ笑顔を見せてくださったのでした。
「ご安心ください。これから毎晩、俺が風呂で念入りにマッサージした後、腕枕で寝かしつけてあげますから。徹夜原稿、ダメ、ゼッタイ」
◆♡◆♡◆♡
「…… そんな感じで、初体験でしたわ…… あんなにイタいものだなんて」
「あたしにとっては、シドさんの対応の方がイタいですぅぅ…… ていうか、そんなに大変だったのに工場まで来ていただいて」
「もう痛くないから、大丈夫。それに動けるうちに少しでも、動いておきたいし…… カフェもできるだけ開催したいわ」
クローディス家の工場は休憩室の、かなり膨らんできたお腹を撫でて、キエルちゃんに向かってニッコリしてみせます。
本日、久々に 『工場 de リジーちゃんcafe』 を開催している第一目的は、もちろん、キエルちゃんことキエリーラ・エル・カエーラ先生の "魔王子アムルガルト・入れ替わりネタ" 執筆状況を探るため…… ですが、しかし。
そればかりでは、ありません!
「楽しみにしてもらっているし、まだまだ読み書きを習いたい人もいるでしょうし」
「あ、それなら、聞いてください! 私たちで、学習サークルを作ろうかって話が出てるんですよ。皆で "月刊セレナ" や他の本も、読みあったりすれば楽しいかな、って」
「まぁ、素敵! 素晴らしいわ……っ!」
「ふふふ。リジーさま…… リジーちゃんなら、そう言って下さると思ってました」
「ええ。だって、本当に素敵だもの」
ええ。本当に。
とっても感動、なのですよ……!
だって、育てていた子たちが自分の足で歩き出した…… という、ことですからね。
いえ、『育てた』 なんて、おこがましいかもしれません。
正しくは、女性向け月刊誌発行のためにちょっと利用させてもらっただけ。
そしたら、元々あったはずの 『楽しいことをしたい、成長したい』 という皆の気持ちが、芽を出し成長しただけ……
だってリジーちゃん、悪女ですからね!
「ふっ…… 蒔いた種が真っ黒でも、緑の若葉が萌えるようなものよね」
「へ?」
「いえ、なんでもないの。それより、そういうことなら、補佐様か工場長様かに直接、お話通しておいてくださいな。きっと、賛同されますわ」
「はい!」
リジーちゃんからも、サークル活動費を出して下さるよう、父に頼んでおくことにしましょう。
さて、それは、さておき。
紅茶をコポコポと注ぎつつ、本題を切り出すことに、いたします。
まずは、遠回しに……
「ところで、"魔王子アムルガルト" もいよいよ、来月から連載開始ね?」
「はい! もう、あたしなんかが本当に "セレナ" にお話を載せていいのかと……」
「あら、当然よ。面白いもの」
「いえ、リジーさまに見ていただかなかったら、本当にグダグダのグズグズで……」
「こんな短期間でそれが分かるようになっただなんて、素晴らしいわ! 天才かしら」
「やだ、もうっ」
キエルちゃんの頬にサッと赤みが差します。照れてますねぇ…… ふふふふ。
「編集長みたいなこと、言わないでくださいぃぃ」
「ジグムントさんがおっしゃるなら、多分本当よ。ところで、今、どこまで書けてますの? 12月号分までは見せていただいたけど……」
「そうです! 今、2月まで行ってて…… また、見てくださいます?」
「もちろんよ。それにしても、すごいわ、キエルちゃん」
リジーちゃんが出産控えてるから急いでもらってるせいもありますが、工場の仕事の傍らでの執筆ですから、かなりなハイ・ペースには違いありませんね!
「無理してない?」
「いえ、今、何かすごく楽しくて! アムルガルト様もカッコいいですけど、敵のボスも素敵なんです! マフィアの親玉なんですけど、大人の魅力っていうか…… はぁぁう…… もう、キュンキュンするぅ……」
「まぁ、楽しみ! あ、そうだ。入れ替わりネタ、アムルガルト様とそのボスの方にすれば、いいんじゃないかしら。そうしたら、ボスが人気が出て読者から 『殺すな』 って嘆願が相次いだ時にも、対応しやすいですし」
ずっと "魔王子アムルガルト" のことを考えていたせいでしょうか。
つい、アイデアが口をついて出てきてしまいましたが…… すると。
立ち上る紅茶の湯気の向こうで、キエルちゃんが困ったようにお目めをパチパチさせるのが、見えました。
「入れ替わり…… やっぱり、書かなきゃダメですかぁぁ……?」
読んでくださり、ありがとうございます!
ついに来ました、こむら返り。
砂礫はリジーちゃんみたいに妊娠中じゃなくても、よく、こむら返りになりやすい方だったので、妊娠後期の人の苦労は他人事とは思えませんのです。
でも最近は、ある方法を試してからスッキリ!
それはですね、こむら返りになる場所を風呂の中でよくマッサージしてほぐしておくのですよ。
あと、足先もって足首をぐるぐる回すのも一緒にしておくのオススメです。
後は水分をたくさん取り、糖分は控える。と、先生には言われました。効果のほどはイマイチわかりませんでしたが(笑)
ではー!
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